World Joker

10話 眠れない夜



 

 

 
メノウ&アクア。過去。満月まであと6日の夜。

 

 

 

「あっ・・・」

 

ベッドの上で胸を掴まれ、驚いたサンゴが声を洩らした。

掴んでいるのは、アクアだ。しかも両手で、左右の胸を。

「おば〜ちゃん、おっぱい大きい〜・・・ママはペッタンコなんだよ〜」

むにょむにょ・・・サンゴの豊満な胸に埋まる、アクアの指。

「そ・・・う」

アクアを膝に乗せたサンゴは少し恥じらいながらも、それを許していた。

「・・・・・・」

(子供はいいよな〜・・・)

アクアが羨ましいメノウ。

(俺がやったら変態だもんな)

生前愛し尽くした巨乳に顔を埋めたくないといえば嘘になる。

しかし、いくら未来の夫婦とはいえ、サンゴにしてみれば初対面だ。

それはあまりにも無謀な希望・・・ところが。

「ほら〜、おじ〜ちゃんも〜」

そこでいきなりアクアに話を振られる。

 

「「え?」」

 

サンゴはきょとん。

メノウはぎょっ。

 

「あ〜・・・気にしなくていいからさ」

「いえ・・・あの・・・どうぞ」

助けていただいたお礼も兼ねて・・・惚けた理屈でサンゴは言った。

「そう言われてもなぁ。アクア見てるし、今はいいよ」

「後でね」と、冗談半分にメノウが言うと、サンゴは頬を染めて頷いた。

 

そして。

 

ここでも・・・眠れない夜。

 

アクアが寝付き、“おじいちゃん”は一時休業。

ここから先は夫として、男として、サンゴに接する時間だ。

真祖吸血鬼のサンゴは太陽の光が苦手な為、外出は夜に限られる。

メノウはサンゴを散歩に誘った。

「んじゃ、行くか!」

「きゃ・・・」

月夜へ向けて、サンゴを連れ出すメノウの手。

「いつもこうやってさ、散歩してたんだ」

「走って・・・ですか?」

「そ!走って!」

夜のデートに、はしゃぐメノウ。

サンゴと過ごす時間は貴重で、気持ちが逸り、じっとしていられない。

(俺もまだまだガキだな)

自嘲と照れ笑いが混在した表情で、繋いだ手の温もりを感じながら、走る。

 

今夜は、海へ。

 

「はぁ。はぁ。私、こんなに走ったの、初めてです」

メノウに手を引かれ、サンゴは途中何度も躓きそうになりながらここまできた。

胸と息を弾ませ。

「メノウさま・・・」

「んっ?」

「走るって・・・気持ちがいいですね」

「だろ?」

「はい。とても」

楽しいと笑うサンゴの無垢な笑顔にキュンとする。

そんなメノウが見守る中、サンゴはペタリと座り込み・・・そこに海風が吹いて。

目前に海辺の景色が広がった。

月には薄く雲がかかっているが、それはそれで趣があり。

メノウはなびくサンゴの髪に指を絡めた。

ふわふわと柔らかい銀の髪は、ヒスイとは少し質感が違う。

サンゴの優しい横顔・・・懐かしく、愛おしい匂いがする。

「やっばいな〜」

サンゴの耳には届かない小声で呟く。

(ムラムラしてきた・・・)

何十年ぶり・・・ずっと忘れていた肉体的恋愛感情。

(もうダメかと思ってたけど、まだヤレそ・・・)

夢でしか逢えなかったサンゴが手の届く距離にいる。

何もしないのは勿体ない。

本当に久しぶりにそんな気分になって。

男性器もすっかりその気になっていた。

 

 

(・・・けど、ヤッてどうすんだ?)

 

 

先には、別れしかないのに。

「・・・・・・」

この時代のサンゴを混乱させるだけだ、と。

早くも情熱に歯止めがかかる。その時。

「メノウさま」

「ん?なに?」

「宜しければ、娘の話を聞かせていただけませんか?」

母親ならば当然なのかもしれないが、サンゴは娘ヒスイに興味があるらしかった。

「ヒスイかぁ・・・顔が俺そっくり」

「くすっ・・・そうなんですか」

「うん、でも声はキミに似てるよ」

「声が?」

「そ。目つぶってるとわかんないくらい」

「そう・・・ですか」

「“吸血鬼の何が悪いの?”って、しょっちゅう血飲んでるし。やることなすこと目茶苦茶なんだけど、元気にやってる」

ちなみに、孫は6人。ひ孫が1人いると話した。

「そんなに・・・」

サンゴが微笑んだ。

それは美しく・・・儚くメノウの瞳に映り込む。

「・・・あのさぁ」

「はい」

「ホントに信じてる?疑問に思わないの?」

「何をでしょう?」

「夫婦っても、俺、子供だし?」

そんな自分をサンゴがどう見ているのか少し、気になって。

メノウはからかうような口調で尋ねた。すると。

「見た目はそうかもしれませんが・・・悪魔と取引をしたのですね?」

驚くことにサンゴは見抜いた。紅い両目でじっとメノウを見つめ・・・

「強い・・・魔力の拘束を感じます。姿がお若いのはそのためなのでしょう」

「へ〜・・・わかっちゃうもんなの?」

「はい」

それがきっかけで、お互いちょっとした身の上話に至り、サンゴは・・・

紅い瞳が忌まれていること。

長く生きられないと言われていて、自分でもそう思うのだと、静かに語った。

夢のように、幸せな未来。

「・・・嬉しかったんです」

だから信じた。信じたかった。

「こんな私でも・・・命を繋げる事ができたのですね」

未来の世界に自分はいないであろう事を知っているような口ぶりだった。

「・・・・・・」

メノウはそれを否定する事ができずに。

 

 

「・・・戻ろっか」

「はい」

 

 

眠れない夜が明けた。

 

アクアが目覚め、サンゴが眠りについた朝。

欠伸のメノウ、朝日が徹夜明けの目に染みる。

「・・・よしっ!」

メノウの場合、睡魔との戦いは勝率が低いが、冷たい水で顔を洗い、眠気を払って。

「おじ〜ちゃん、どこいくの〜??」

「金、稼ぎに」

「お金〜??なんで??」

「ここでしか叶えられない夢があってさ」

その為にお金が必要なのだとメノウはアクアに説明した。

「アクアはどうする?サンゴといる?」

眠っている祖母の元に残るか。

アクアは随分迷ったが・・・

「やっぱ、おじ〜ちゃんと一緒に行く〜」

 

 

ここは、島国コランダム。

 

大陸からは少々離れているが、未来の世界でも健在の国だ。

悪魔発祥の地と言われる程、魔界との接点が多いのが特徴で、人間は悪魔を恐れ、それ故に弾圧した。

「魔女狩りもそのひとつでさ・・・」

目的地に到着するまで、メノウは魔女狩りの忌まわしき歴史についてアクアに話して聞かせた。

 

そして二人が訪れたのは、例の村から3〜ほど離れた中枢都市だった。

 

「おじ〜ちゃん、ここで何するのぉ〜?」

「そうだなぁ・・・」

(手っ取り早く稼ぐんだったら懸賞金狙いか)

警備隊では太刀打ちできない魔界生物や凶悪犯には懸賞金が掛けられる。

過去のコランダムは特に魔界生物・・・悪魔による被害が多かったと聞く。

都市ギルドに行けば、いくらでも依頼はあると踏んで、行き先決定。

賞金首をサクッと狩って、ガッポリ儲ける予定だった。

ところがそこで二人はとんでもないものを目にする事になるのだった。

 

「あ、おば〜ちゃ・・・モゴモゴ」

 

メノウが慌ててアクアの口を塞ぐ。

ギルド内の掲示板に張りだされた最高額の賞金首。

ポスターの似顔絵は・・・灰色に塗られた髪、紅い瞳、耳は尖っていて。

種族“吸血鬼”と。ハッキリ記されていた。

 

 

殺人犯。指名手配。上級悪魔につき要注意。

美しい容姿に惑わされることなかれ。

 

 

「んな、馬鹿な・・・」

メノウと出会った頃のサンゴは人助けに尽力し、“白銀の聖母”と呼ばれていた。

それが、過去の世界では罪人扱い・・・

「サンゴが殺しなんかする訳ないじゃん」

とんだ笑い話だ。が、このままではサンゴが賞金稼ぎに狙われてしまう。

放ってはおけない。

「こんなのウソ〜」口を尖らせアクアが言った。

「だな」メノウも相槌を打つ。

魔女狩りに遭った理由を語らなかったサンゴ。

「たぶん・・・庇ってるんだ」

「かばってる〜?だれを〜?」

 

 

「・・・弟」

 

 

 

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