World Joker

11話 わたしの奇跡


 

 

 

弟が犯した罪をサンゴ自ら被っているのではないか。

 

 

それについてサンゴには何も言わないよう、メノウはアクアに言い聞かせた。

(どうせ何言ったってサンゴは口割らないだろうし)

ああ見えて頑固な一面もあるのだ。

サンゴ本人の口から真実を聞き出すのは諦め、隠れ家に戻る。

 

「おかえりなさい」

「ん!ただいま!」

 

サンゴが笑顔で迎えてくれた事に感激したメノウは満面の笑みで応えた。

更にサンゴは微笑んで。

「お腹、空いてませんか?」

メノウとアクアの為に食事を用意したのだと言って、二人をテーブルへと案内した。

「あるもので作ってみたのですが」

「・・・・・・」

愛妻の手料理・・・普通なら飛び付くが、この場合そうもいかなかった。

(サンゴの料理って見た目は美味そうなんだけど・・・)

味付けが独特なのだ。

決して料理が下手な訳ではなく、味覚の問題なのでどうしようもない。

血液を主食とする純血のヴァンパイアだからなのか、サンゴの味覚は人間と大きく違っていた。

サンゴの二の舞にならないよう、ヒスイには人間的な食生活を・・・と心掛けてきた。

(けど、ヒスイは味覚の問題じゃないな)

度々男達をドン底に突き落とす、あの料理の味を思い出すと今以上にうぷっとくる。

(とにかくコレ食わなきゃ)

不味いとわかっていても。

男には、食わねばならぬ時がある。

「お口に合うかわかりませんけど・・・」と、善意のサンゴ。

ゴクリ・・・メノウは覚悟を決め、唾を飲んだ。

(ヒスイの料理に比べりゃマシだろ)

そう自分を奮い立たせ。

メノウは妙な味の前菜を食べた。

続くアクアも初めての味を何とも形容し難く、子供なりに考えた末、一言。

 

「ママのお料理より美味しい」

 

「まあ・・・そんなこと・・・」

サンゴはヒスイの料理の腕を知らないので、褒められたと思ったようだ。

睫毛を伏せて、謙遜。

確かにヒスイの料理に比べれば、健康を損なわないだけいい方だ。

それに・・・今のメノウ達にとっては、サンゴの笑顔が何よりのご馳走だった。

他はなんとか飲み込んで、お食事タイムは終了。

それからはのんびりと、屋敷で過ごすのと同じように、絨毯の上で寛ぐ。

アクアは大の字に寝転び、一足先に夢の世界だ。

「な、サンゴはさ、昼間外に出られたら何がしたい?」

会話の流れでふとメノウが尋ねた。

「働きたいです。太陽の下で畑仕事とか・・・」

「畑仕事?」

「はい。懸命に畑を耕して」

 

 

生きる糧を他者から奪うのではなく。

自分で作ったものを食べてみたい。

 

 

月光の下でしか生きられないサンゴはそう語った。

「・・・・・・」

(サンゴは血飲むの苦手だからなぁ)

言葉の意味にも頷ける。

結婚生活に於いてもサンゴに血を飲ませるのは一苦労だった・・・懐かしく思い返して。

奪う事を嫌がるサンゴが殺しなどする筈がないのだ。

世間の大きな誤解・・・

(早いトコ、手打たないと・・・んでも・・・)

 

・・・・眠い。

 

天才でも駆逐不可能な魔物、凶悪な睡魔が襲ってきた。

サンゴと過ごせる時間は限られていて、寝ている場合じゃないと思っても、人間の生理現象には逆らえず・・・

「メノウ・・・さま?」

アクアをベッドに運び、戻ってきたサンゴは、床で伸びているメノウの頭を持ち上げ、膝に乗せた。

近くに寝具が何もなかったので、とりあえず膝枕。すると・・・

「ん〜・・・サンゴぉ・・・」

メノウは寝惚けたまま頬を寄せ、サンゴの膝に甘えた。

数多の魔法を使いこなす聡明な賢者。

しかし、寝顔は幼く、あどけなく。

 

 

「・・・不思議なひと」

 

 

出会ったばかりなのに・・・惹かれる。

サンゴの指がメノウの髪に触れた。

明るい栗色の髪は外の空気を含んでいて。

「お日様の匂いって・・・こんな感じなのかしら。いい・・・匂い」

メノウの傍にいると、胸の奥がくすぐったくなり、自然と顔が綻ぶ。

メノウとの会話は楽しくて、こんな時間がいつまでも続けばいいと思う。

 

 

これは・・・恋?

 

 

「そんな・・・まさか・・・」

否定的な言葉を口ずさんでも、心の何処かで認めていた。

一滴でも、波紋は広がる。

落とされた一滴・・・それは恋も同じで。

俺達の娘、俺達の孫、・・・そんな風にメノウが話をするので、いつの間にか自分が母であり、祖母であり、そして妻である気になっていたのだ。

メノウとの出会いは・・・突然訪れた、奇跡。

(このひとは・・・奇跡そのもの)

サンゴは、メノウの頬にキスをした。

眠りを妨げないよう、そっと。

「私・・・何してるのかしら・・・」

唇を押さえ、ひとり照れる。

自分でも信じられない行動だった。

「・・・きっと、魔法にかかってしまったのね」

永遠に解ける事のない、恋の魔法。

「おやすみなさい」

 

 

わたしの・・・奇跡。

 

 

 

翌朝。太陽の見えない曇り空の日。

「んじゃ、行ってくるわ」

用事があると言って、メノウとアクアは外出した。

「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」

メノウ達の姿が見えなくなってからも、サンゴは戸口に立ち、長らく見送っていた。

 

そこでひとつ、サンゴはメノウの言い付けを破ってしまった。

 

隠れ家に施された目眩ましの魔法は、扉が開いている間無効になる。

早々に扉を閉め、室内へ戻らなければならないというのに。

二人を送り出した外の景色からなかなか目が離せず。

そして・・・見つかってしまった。

「こんなとこにいたのかよ」

荒々しい口調。

銀髪長身の男がサンゴの目の前に立った。

弟の迎えに、サンゴの声が震える。

「コ・・・クヨウ」

 

 

 

歩行中のメノウ&アクア。

 

「あ〜・・・ちくしょ〜・・・寝ちゃったよ」

メノウは昨晩を悔いていた。

朝、目を覚ました時にはアクアと仲良くベッドの上だったのだ。

「アクアも〜・・・おば〜ちゃんと遊ぼうと思ったのに〜」

メノウに負けず劣らず、アクアにとっても不服の夜だったようだ。

「おじ〜ちゃん、今日はどうするの〜?」

「昨日の続き」

夢を叶える為の金策と、もうひとつ。

「コクヨウを捕まえる」

「こくよ〜・・・って、あの?」

「そ、あのコクヨウ」

アクアの生きる世界では、エクソシストのメノウとコンビを組んでいる銀色の獣の名だった。

「おば〜ちゃんの弟だったの?」

「ん〜・・・まぁね」

「へぇ〜っ・・・アクア知らなかったよ。おば〜ちゃんと全然似てないね〜」

「そりゃそうだろ」

サンゴの実弟コクヨウ・・・過去と未来では全く異なった姿をしているのだ。

「アクアね〜、こくよ〜のフサフサ好きなんだ〜」

 

 

帰ったら、また毟りにいこ〜。

 

 

 

 

「コクヨウ・・・あの・・・ね」

「あんだよ」

 

弟コクヨウに手首を掴まれ、本来の住処、魔界へ。

銀の姉弟には課せられた使命があった。

それは純血の子供を残すこと。

一族最後の男と女。

例えそれが、弟と姉という間柄でも。

コクヨウとサンゴは一族の掟に従い、その為に与えられた城で、性交を繰り返していた。

弟の前でただ足を開いているだけの日々に少し疲れて。

城を抜け出したサンゴ。そこでメノウと出会った。

「・・・・・・」

 

 

純血の子供ではないけれど。

そんな事はどうでもいい。

 

 

“ヒスイ”が産まれる未来に繋がっているとすれば、弟と関係を持つ事に何の意味があるのか。

サンゴの心が揺れる。しかし。

魔界の城に到着するとすぐ寝室に連れてゆかれ・・・

「やるぞ」

「・・・・・・」

男として愛した事はなくても。

コクヨウは大切な弟で、同じく掟の被害者なのだ。

今更突き放す事もできず、これまでと同じように、サンゴは服を脱いだ。

ベッドの上・・・サンゴの白い太股に、コクヨウの爪が食い込む。

「・・・っ」

今まで何も考えずに受け入れていたモノが初めて嫌だと思った。

間近に迫る弟の陰茎・・・急に怖くなって。

サンゴは頭を振って訴えた。

「待って、コクヨウ、話を・・・」

けれども、コクヨウの機嫌は悪く。

「・・・何、泣きそうな顔してんだよ」

 

 

「濡らす場所が違うだろーが」

 

 

「っ・・・!!」

サンゴの乾いた穴に容赦なく熱い肉棒が打ち込まれた。

「うっ・・・ぅん」

コクヨウが腰を動かす度、削られてゆく心と体。

これまで幾度となく交わって、慣れている筈なのに・・・痛くて。

 

 

(メノウ・・・さま)

 

 

 

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