World Joker

98話 拘束ネクタイ



 

 

 
「やられた」コハクが呟く。

そこは、理事長室。
セレから話を聞いた後、ヒスイと同じルートを辿り、やってきたが・・・もぬけの殻で。
行き先が全くわからない。

「くそ・・・完全に気配を断たれた・・・」

(神の力を使われたら、探り出すのに時間がかかる)

とにかく屋敷に戻り、ヒスイの居場所を突き止めるための、術の準備をしなければならない。

「油断した・・・いや・・・」

オニキスとの会話を思い出す。

(“嫌な予感がする”と、自分で言っておきながら、手を打たなかったのは何故だ?)

「10年、約束を守ったトパーズを信用・・・してた?まさか・・・そんなことはないと思うけど・・・」

認めたくはないが、対策を怠っていたのも真実で。悔やんでも悔やみきれない。

「しっかりしろ」

コハクはいつになく厳しい表情で自身に喝を入れた。

「僕は、そんなに甘くない筈だ」

 

 

 

モルダバイト城下、中央広場。噴水前。

 

「ヒスイ・・・どこいっちゃったんだろ・・・?」

コハクと入れ違いで、屋敷を出てきたジスト。
ヒスイが帰らないとあらば、じっとしてなどいられない。
ヒスイを探し、あちこち走り回っていた。そこで・・・

「ジスト?」

居酒屋帰りのスピネルと出会う。カーネリアンも一緒だ。

「あっ!スピネル!!ヒスイ見なかったっ!?」

「ママがどうかしたの?」

「ヒスイが帰ってこないんだ!父ちゃんは教会のほう探しに行って・・・」

「トパーズは帰ってるかい?」
と、話に割り込むカーネリアン。
その表情はどこか緊迫している。

「兄ちゃん?まだだけど」

トパーズの帰りが遅いのはいつもの事なので、ジストはあまり気にしていなかったが。

それを聞いたカーネリアンは「まったく、世話の妬ける子だよ!」
と、ヒールを鳴らし、走り出した。

「カーネリアン?どこいくの?」スピネルが呼び止める。

「コハクを止めるんだよ!」

「パパを?」さすがのスピネルも状況を理解できず、首を傾げた。

「ヒスイはトパーズが連れてったんだ!アタシはあの子の力になりたい!」

「だから、ママを連れ戻そうとするパパを止めるの?」

スピネルは、誰の味方をすべきか、決めかねているようだ。

「へっ?なに?兄ちゃんがヒスイを???」ジストも然りだ。

そんな二人を尻目に、カーネリアンは言った。

「とにかくオニキスに伝えとくれ!」

 

 

 

赤い屋根の屋敷。一室。

 

呪術用の砂で魔法陣を描き、中心に水晶を置くコハク。

気配を追うのではなく、気配を断つ魔法がどこで使われているか探るのだ。

長々と呪文を唱え、水晶に映し出された風景を覗き込む・・・

「ここが、第二のモルダバイトか」

地図にも、記憶にもない、新しい土地。そこは開拓が進み、立派な街が出来ていた。

家、道路、街灯・・・何もかもが新しい。が、無人だ。

水晶に映る夜景を注意深く観察すると、一軒だけ明かりの灯っている家を見つけた。

3階建ての大きな家だ。庭も広い。神魔法に遮られ、中の様子はわからないが。

「間違いない。ヒスイは、ここにいる」

コハクは屋敷を飛び出した。しかし、その先には・・・

カーネリアンとオニキスが顔を揃えて立っていた。

「・・・何か用ですか?今、忙しいんですけど」

「ちょっと待っとくれよ」カーネリアンが引き止める。

「ヒスイならさ、何があったってケロッとした顔で帰ってくるよ」

「何かあっちゃ困るんですよ」コハクは即答し、カーネリアンの脇を抜けた。

「待て」今度はオニキスがコハクの進路を塞ぐ。

「トパーズも考えあっての事だろう。何もヒスイをくれてやれと言う訳ではない、時間を与えてやってくれ。頼む」

「・・・“はい、そうですか”と、僕が引き下がるとでも?」

説得に応じないコハク・・・カーネリアンとオニキスが並んで構える。

 

 

「「力づくでも止める」」

 

 

 

 

一方こちら、ロフトのヒスイ。

 

いくつか小窓はあったが、すべて鉄格子が張られていた。しかも、耐魔法構造だ。

「ええと・・・何て言うんだっけ、こういうの。監禁?そうそう、監禁!」

閃いて、手を叩く。ヒスイは割合暢気だ。

「あ、そっか・・・」

(私・・・ご招待された訳じゃなくて・・・閉じ込められたんだ、この家に)

改めて、そう気付く。

「早くお兄ちゃんのとこ帰らなきゃ。きっと今頃心配してる」

出口と呼べるものは、螺旋階段しかない。しかし、3階にはトパーズがいる。

豪華なテーブルセットの上に資料を広げ、テスト問題を作成していた。

「こんな時間まで仕事してるなんて・・・ホントによく働くわね」

ネクタイを緩め、軽く腕まくりをして集中している。

ヒスイはしばらくの間、トパーズの働きぶりを見て感心していたが・・・

「ハッ!そうじゃなくてっ!!」

ここから脱出しなくては!と、自身を奮い立たせた。その反面。

「でも・・・」(なんとなく・・・)

逃げるのは、卑怯な気がして。

「ちゃんと向き合って話を・・・話?あれ??何の話???」

勉強は得意だが、色事で頭を使うのは苦手なヒスイ。その時。

不意にトパーズがロフトを見上げ。

 

 

「あ・・・」

 

 

同じ色の目と目が合う。ヒスイは制服のまま、慌ててベッドに潜り込んだ。

螺旋階段を上るトパーズの足音を聞きながら、寝たフリ、だ。

「・・・・・・」(寝てる、寝てる、私は寝てるのよ)と、自己催眠。

バレやしないかと内心ドキドキしながら、寝顔を作るヒスイだったが・・・かなりわざとらしく。

「・・・・・・」

あっさりバレた。トパーズはベッドに腰掛け、上からヒスイを覗き込み。

「往生際の悪い奴だ。目を開けろ」

「無理。だって、寝てるんだもん」

「ほう・・・これならどうだ?」

シュルッ!ネクタイをほどく音がして。それで両手を縛られるヒスイ。

「べつにっ!寝てるから関係ないし!」

そう言ったものの・・・監禁に続き、拘束までされてしまった。

「・・・・・・」(どうなっちゃうんだろ、これから)

しかし引くに引けず、ヒスイは意地になって寝たフリをし続けた。

「なら、そのまま寝てろ」と、トパーズ。

次の瞬間、唇を舐められ。

「!!なにす・・・」

目を開けたと同時に口を塞がれる。本日、二度目のキスだ。

両手を拘束されていて、思うように抵抗できない。

「ん・・・」ヒスイの眉間に皺が寄った。

「ん・・・んぅ・・・」

唇を割って入ろうとする舌を必死に拒む。

(キスが上手いのは・・・知ってるけど・・・)

トパーズは、クールな風貌に似合わず、情熱的なキスをする男だ。

明らかに、煙草の煙混じりの一度目とは違う。

(このキスは・・・本気・・・)

恋愛音痴なヒスイは、こんな時、どう対応していいかわからない。

(どうしよう・・・おにいちゃぁんっ!!)

 

 

ベッドの上。息子×母にして、教師×生徒という構図。

 

 

「・・・・・・」愛に溺れる教師、トパーズ。

一度目は味わう余裕もなかったが、二度目は違う。

ヒスイの新鮮な唇に触れるのは十数年ぶりで。

無理矢理吸っても、痺れるほどに、甘く。舌が・・・蕩けそうだ。

猛毒と知りつつ、ヒスイの唇を貪り。

(もうとっくに・・・中毒だ)

毒を中和するものがあるとすれば・・・それは、ヒスイの愛。

得られなければ、いつか死ぬ。わかっているのに、やめられない。

「なんで・・・こんなことするの?」

二度目のキスの後、しかめっつらでヒスイが尋ねた。

「聞きたいか?なら言ってやる」

トパーズはシャツのボタンを外しながら、ハッキリと口にした。

 

 

「お前が、好きだからだ」

 

 

「っ・・・!!」

容赦のない告白が、ヒスイの心に鋭く切り込んでくる。

今回ばかりは、誤解の余地もなく。
聞かなければ良かったと後悔しても遅い。

「帰る」と、ヒスイ。

「帰さない」と、トパーズ。

ヒスイの肩を掴み、ベッドに押し付け。
唇の次は、耳の後ろ、顎、首筋・・・舐めて、キス、舐めて、キスを繰り返した。

制服のスカートに手を入れ、ヒスイの脚を撫で。

「させろ」

「だめっ!!」

牙を剥き、ヒスイが怒る。トパーズはお構いなしに・・・

「する」

今度はそう言い切って、ヒスイのショーツに手をかけた。

ヒスイはますます声を荒げ。

「だめだって・・・言ってるでしょっ!!!」

すると・・・

 

 

「・・・したい」

 

 

「え?」いつになく甘えた言い回しに、耳を疑う。

トパーズとは思えない申し出に調子を狂わされ、ヒスイは拒絶しそびれてしまった。

「お前と、したい」

命令でも断定でもなく、切なる希望をぶつけてくるトパーズ。

本気か演技か、それすらもわからない。ヒスイはパニックに陥った。

(なに???母性本能に訴えかける作戦なのっ!?)

動揺しながらも、一丁前にそんなことを考える。

(だって・・・私が産んだんだもん・・・可愛いに決まってるじゃない。でも・・・)

 

 

「やっぱりだめだよ」

 

 

ヒスイは一息に言った。それから。

「親子はエッチしないと思う」と、真顔で述べた。

「そんなことはわかってる」

トパーズはキスをやめなかった。そればかりか、制服の上からヒスイの胸を揉み。

親子の関係を壊したいから、セックスをするのだ、と、ショーツを引き摺り下ろした。

「ちょっ・・・まって!まって!まって・・・っ!!」

ヒスイは余裕をなくし、本音で叫んだ。

 

 

 

「私、お兄ちゃんが好きなの!!兄ちゃんとしかしたくないっ!!!」

 

 

 

そう告げたことで、かえって気持ちが落ち着いたのか・・・

「そのままでもいいから・・・お願い、話聞いて」

引き続き、トパーズのキスを受けながら、ヒスイはゆっくり話し始めた。

「産まれた時からずっとお兄ちゃんと一緒で・・・生きるために必要なものは、ぜんぶお兄ちゃんがくれた」

「・・・・・・」

トパーズはヒスイの首筋に唇を押しあてたまま、黙って聞いていた。

「こうして話す言葉も、愛しいと思う気持ちも、お兄ちゃんが教えてくれたんだよ?」

「・・・・・・」

「一緒に生きてきた時間が・・・思い出が・・・ぜんぶ愛になるの。だから・・・お兄ちゃんより好きなヒトなんて、絶対にできない。ごめんね」

 

 

 
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