World Joker

104話 リトライ


 

 

 

「クク・・・」

 

 

この、邪悪めいた笑い声・・・トパーズだ。

「ずいぶんな歓迎ぶりだな」

「あ・・・えっと・・・その・・・」

(どうしよ・・・お兄ちゃん以外から血吸っちゃった・・・)

我慢が裏目に出てしまった。“お仕置き追加”が脳裏をよぎる。

「どうだ、悪くないだろう?オレの血も」

親指でヒスイの唇をなぞるトパーズ。

吸いかけの血が滲み、紅のようにヒスイの唇を染めた。

「ごめん、お兄ちゃんと間違えちゃった」と、ヒスイ。

「そんなことはわかってる」トパーズが鼻で笑う。

わかっていて・・・あえて、コハクのフリをしたのだ。

「献血してやった。感謝しろ」

むにーっと、ヒスイの頬を引っ張る。よく、伸びる。

「ふへー・・・ひかふへほ」

ヒスイは何か喋っているようだ。トパーズが手を離すと。

 

 

「なんでトパーズがここにいるの?」

 

 

心ない一言が炸裂する。

「・・・・・・」

何故ここにいるか・・・ヒスイを探しに来たからに決まっている。

ヒスイにとっては偶然でも、トパーズにとっては必然の出会いなのだ。

「・・・来い」

「え、ちょ・・・」

トパーズに手を引かれ、路地から連れ出されるヒスイ。

「ここで待っててって、お兄ちゃ・・・」

抗議の途中でトパーズが振り向き。

「口、開けろ」

「?」

命令通り口を開けると、そこに大粒の赤玉が放り込まれた。

「何これ・・・血の飴???」

「正解、だ」

ヒスイの餌付け用に・・・まだ試作のものだが、血液を原料としたキャンディである。

渇きの応急処置にはもってこいだ。

「・・・・・・」(結構おいしいかも・・・)

飴を舌で転がし、ヒスイはご満悦。すっかり大人しくなり、トパーズに引き摺られていった。

 

 

この島の管理者でもあるトパーズは、すべての家の鍵を所有していた。

一番近くの新築住宅の鍵を開け、ヒスイを連れ込む。

「トパーズ??何?どうしたの???」

「・・・・・・」

ヒスイの体から、精液の匂いがする。

トパーズはそのままヒスイをバスルームに連れていき、そこへ放り込んだ。

「まずはその体を洗ってこい。話はそれからだ」

「何なの???ま、いっか」

相次ぐセックスで、ずいぶん汗をかいていたので、ここへきての入浴タイムは嬉しかった。

シャワーの蛇口を捻ると、ちゃんとお湯が出てきた。なかなか快適だ。

「ついでにパンツ洗っとこ。お兄ちゃんが手入れたりするから、ベタベタになっちゃったし・・・」

せっせとパンツを洗濯するヒスイ。

「早くあの路地に戻らなきゃ、お兄ちゃんとすれ違いになっちゃう」

それから・・・バスルームを出てすぐの廊下で。

「早く乾かないかな〜・・・」

窓から手を出し、パタパタ、洗いたてのパンツに風を通す。

無人の街は、とても静かで。気が抜ける。

「はぁ・・・お兄ちゃん・・・」

シャワーでリセットされた体・・・こうしていると乱交の時間が嘘のようだ。

パタパタ、パタパタ、パンツを旗のようにして。

(やっぱり、本物のお兄ちゃんとえっちしたかったな・・・)

 

 

 

こちら、トパーズ。

「・・・・・・」

ヒスイにシャワーを浴びさせたはいいが、なかなか戻ってこない。

待ち兼ねたトパーズがバスルームに踏み込むべく動く・・・お馴染みの展開。すると。

「あ」

バスルーム前の廊下で、ヒスイがパンツを振り回していた。

「・・・・・・」

いちいち追及するのも面倒なので、ここは一旦スルーで。

「来い」と、トパーズは部屋の扉を開け、入室を指示した。

「あ、うん」

ヒスイは半渇きのパンツを制服のポケットにしまい、部屋の中へ。

「・・・・・・」(どういう神経してる・・・この女)

フッた男の前で、平然とノーパン。

動く度、スカートの裾からチラチラ生尻が覗く・・・当然、勃起する。

欲情させるだけさせて、知らんぷり。

男を舐めているとしか思えない。

「・・・・・・」

こんな風に。ヒスイとは感情が全く噛み合わない。

だからこそ、その溝を体で埋めてしまいたくなる。

親子でも、男と女である限り、凸と凹・・・組み合わせることができるのだ。

ヒスイは窓辺に寄り、外を見ていた。

コハクのことを気に掛けているのが一目瞭然だ。

「・・・・・・」

隙だらけのヒスイを捕らえるのは簡単で。

トパーズは、ヒスイの腰からお腹にかけて腕を回し、ぐいっと抱き寄せた。

「わ!?ちょっ・・・」

カーテンに掴まり、慌てるヒスイ。

割れ目にトパーズの勃起がフィットしたのだ。

「ひぁ・・・っ」

ビクン!反射的に腰が反る。

「ちょっ・・・あたってるってばぁっ!!」

当たっているというより、嵌っているに近い。

「わざとそうしてる」と、開き直るトパーズ。

ヒスイの腰を抱きかかえ、マーキングでもするかのように擦りつける。

「やっ・・・あ・・・!!」

逃げようとするヒスイの二の腕を掴み、引き寄せ、更にぐりぐりぐり・・・

「や・・・やめ・・・んくっ・・・!!」

力を入れ過ぎたのか、ヒスイの股間が軋む。

「あッあー・・・おにぃ・・・」

喘ぎ、涙するヒスイ。そこでトパーズが。

「・・・いいか、オレの前で丸出しにしたら、前も後ろも犯されると思え」

そう言って、手を離した。ヒスイは一目散に逃げ、い〜っ!!と牙で威嚇。

 

それから。

 

ヒスイは部屋の隅でパンツを穿き、戻ってきた。

「ちゃんと穿いたよ!これでいいんでしょ!」

両手を腰にあて、トパーズの前に立つ。

「・・・・・・」

親子だからなのか、どんな事をしても、ヒスイは怖がらずに寄ってくる。

トパーズは表情を変えず、堂々とスカートを捲って確認した。

「よし」

「でしょ?」

パンツを穿いただけなのに、ヒスイは何故か得意気で。

もっと褒めてと謂わんばかりだ。

「それで?話って何?」と、トパーズを見上げる。

「お前を追ってきた」

トパーズはヒスイの目を見てハッキリ言った。

ヒスイに遠回しな物言いは通用しない。ストレートに攻めるに限る。

「何か忘れ物でもしたっけ?私」と、ヒスイ。

「お前の、じゃない。オレの忘れ物だ」

ヒスイのボケをクールに切り返すトパーズ。

「もう一度、賭けをしに来た」

そう言って、トパーズがヒスイに見せたのは一枚のコイン・・・の表側。

草の冠を載せた青年の横顔が彫刻されている。

「投げたコインが裏か表か当てる。簡単なゲームだ。お前が賭けに勝ったら・・・」

 

 

 

「10年、身の安全を保障してやる」

 

 

 

「え?身の安全???」

ヒスイの問いかけには答えず、コインを投げる。

左手の甲に落ちてきたところを右手で隠し。

「・・・選べ」

ヒスイは人差し指を顎にあて、少し考えてから。

「ん〜と・・・う」

「オレは“裏”だ」

ヒスイの発言を遮るトパーズ。

「じゃあ、“表”でいい」と、ヒスイ。

トパーズが右手を退けると・・・

「あ、表・・・なんだかよくわからないけど、私の勝ちってこと?」

「・・・・・・」

表しかないコインだ。始めから結果はわかっていた。

10年の誓いを立てるための、口実にすぎないのだ。

この瞬間から、檻に入ったようなもので。ヒスイを自由に愛せない。

「・・・・・・」(我ながら、馬鹿げてる)

理性の枷と鎖で繋ぎ、牙を隠して、男を殺す・・・

 

 

ヒスイの、傍にいるために。

 

 

(・・・だが、オレだけじゃない)

オニキスもジストも、そうやってヒスイを愛する道を選んだ。そして。

当のヒスイは・・・いつの間にか、ソファーで寝ていた。

両脚を投げ出し、今にもずり落ちそうだ。

「・・・・・・」(この女・・・)

シリアスでいるのが、アホらしくなる。

悔しい事に、その寝顔は愛しいばかりで。

ヒスイに愛されるには、どうすればいいか考える。

「・・・・・・」

愛されるには・・・愛し続けること。それが絶対条件だ。

トパーズは再びコインを高く投げ、右手でキャッチした。

「・・・・・・」

あと何回、このコインを使うことになるわからない。

それでも・・・愛し続ける。愛されたいから。

「・・・早くオレに惚れろ、馬鹿め」

ヒスイの鼻先を指で押す。美少女のブタ顔は見応えがあった。

 

 

「・・・こうなったら、とことん愛してやる。覚悟しとけ」

 

 

ヒスイの前髪を掻き分け、額にキスをする。

唇にするキスだけが愛を伝える訳じゃない、と。今は、そう思うしかない。

 

 

2度目の10年宣言をした、この日。

(オレは・・・)

 

 

報われないなら、報われないなりの・・・意地と愛し方を知った。

 

 

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