World Joker

114話 寵 愛


コスモクロア、学園理事長室。
トパーズが泊まることもしばしばあるため、仮眠室諸々、生活に必要なものは一通り設置されている。
そう、トパーズが仕事で自宅に帰らないのは、特に珍しいことではない。
けれども。今やいい大人であるジストが寂しがるくらいだ。
かなりの日数、顔を見せていないと思われる。

「トパーズっ!!」

ヒスイが勢いよく飛び込む・・・と、そこには。
トパーズともうひとり、物理教師のクラスター・・・ヒスイとは初対面だ。
身長はトパーズとそう変わらない。
奥二重ではあるが、凛々しい顔立ちで、程良い男らしさがあった。
クラスターもまた、トパーズに次ぐイケメン人気教師なのだが、ヒスイにとっては関係のない話で。
美形慣れしているため、目を惹く存在でもなかった。
しかし当然・・・

「・・・誰?」

持ち前の人見知りが発動し、トパーズの後ろに隠れた。

「・・・新任教師のクラスターだ」
「初めまして」

そう挨拶したクラスターもまた、ヒスイの登場に驚いているようだった。
男物のシャツ一枚で・・・裸足では尚更だ。

「トパーズ先生、この方は?」

クラスターは自分からトパーズに尋ねた。
トパーズは、ヒスイを小脇に抱え。
その口が余計なことを言わないよう、しっかり手で覆ってから。

「“妻”だ」
「そうですか、この方がトパーズ先生の・・・」

真剣な顔でヒスイを見つめるクラスター。

「そうだ」

と、トパーズが返答する。
それからすぐ、ヒスイを仮眠室へと放り込んだ。

「もう少しで片付く。ここで待ってろ」
「え・・・ちょっ・・・」

バタンッ!扉を閉められ。

「・・・・・・」

ヒスイはムスッとした顔で扉を睨んだ。
家に帰れないほど、何がそんなに忙しいのか・・・気になる。
クラスターのことは全くといっていいほど知らないが、二人きりでいたのも・・・気になる。

(私にできることがあれば・・・手伝うべきよね)

そっと扉を開け、隙間から顔を覗かせるヒスイ。

(あの新人に指導してるの?一体何の?)

・・・と、クラスターを凝視。
するとトパーズが。

「少し席を外す」

クラスターにそう言ったあと、ヒスイの方へ向かってきた。
「!!」
(トパーズ!?こっちくる!?)

慌てて顔を引っ込めるヒスイだったが、あえなくトパーズに捕獲され。
ベッド脇まで連れていかれた。
立ったまま、顎・・・というより頬を掴まれ。
角度によってはキスをしているように見えるほど、トパーズが顔を近付ける。

「・・・なんできた」
「なんで・・・って、ジストが心配してたし、私も・・・あ・・・」

会話の最中にシャツのボタンが全て外され、パサリ、脱げ落ちた。
露わになるヒスイの裸体・・・トパーズにとっては魅力あるものだが、今は目もくれず。

「いいか」

真っ直ぐヒスイと視線を交え。

「クラスターの前では、死ぬ気で話を合わせろ」

「あいつを守りたかったら――な」
「え?」
「とにかく今は、ベッドに入って大人しくしてろ」

と、トパーズ。
ヒスイのシャツを拾いあげ、没収。

「・・・・・・」
(さむい・・・)

ヒスイは仕方なくベッドへ。

「・・・今日は帰る」

そう言い残し、トパーズは仮眠室を出ていった。

「???」
(あいつ・・・ってお兄ちゃんのことよね?)

“守る?”
“話を合わせる?”

(そもそも、どういう関係???)

謎のワードだらけで・・・眠くなる。
4日間、ほとんど寝ていないのだ。強烈な睡魔が襲ってきた。

(あ・・・だめかも・・・)

ZZZZZzzzz・・・

「・・・・・・」

間もなく、トパーズが仮眠室へと戻ってきた。
ヒスイの乱入により、訳ありの仕事を早々に切り上げるしかなくなったのだ。

「・・・・・・」
(ホントにどこででも寝る女だな)
「・・・・・・」

上からヒスイを眺める。
素肌に浮いたキスマークには当然気付いていた。
コハクのシャツを着ていた時点で、エッチ済だ。
いい気がしないのは相変わらずだが・・・
愛しいものは、愛しい。

「・・・・・・」

横向きで眠っているヒスイの肩先に口づけるトパーズ。
それから耳朶を甘噛みして。

「ここで寝てたら――」

「犯すぞ?」

そう囁くも。ヒスイは目を覚まさなかった。
それどころか、幸せそうに笑って。

「むにゃむにゃ・・・おに〜・・・ちゃぁ・・・」
「・・・馬鹿」



こちら、赤い屋根の屋敷裏。コハクとメノウ。

「そういやさっき、ヒスイが出てったよ」

メノウが下から覗き込む。
コハクはまだ貧血状態のようだ。
外傷よりも、回復に時間がかかるのだ。
羽根の枚数を減らしたせいもあるのだが、お互いその件には触れずに。

「感覚もだいぶ鈍くなってる?いつもなら気付くだろ」
「・・・・・・」
「ありゃ、トパーズんとこだな」
「・・・・・・」
「何だかんだで、寵愛してるもんなぁ、トパーズのこと」

男として受け入れることはできなくても。
愛しいものは、愛しい。
血を分けた親子だから、どんなに離れていても繋がっている。

「手強いよなぁ、トパーズは」
「・・・そのくらいわかってますよ」

ここで初めて言葉を返すコハク。

「迎えに行ってきます」

しんどそうに動いた、その時。

「この勝負、貰ったぜ!!」

と、アイボリー。
分身のコハクにボロボロにされながら逃げ回った末、偶然見つけた、弱った本体。
ここぞとばかりに、切り込んでくる。

「!?」

不意を突かれながらも、コハクはアイボリーの太刀筋を見切り、降り下りされた竹刀を手で掴んだ・・・が。
それだけで、視界がグラつき、意識が遠のく。

(あれ?これってもしかして・・・僕が負け・・・る?)

ドサリ、アイボリーの目の前で、コハクはついに倒れた。

(ああ・・・ヒスイの脱ぎたてパンツが・・・それより早く迎えに行かないと・・・)



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