World Joker

120話 エンジェルキラー


ヒスイとそっくりの顔立ちをしたメノウが、過去にヒスイの代役を務めたという話は聞いたことがある。
「それで?条件は何だ?」と、トパーズ。
ヒスイ絡みで発生する取引。
この二人の間では、もはや当たり前のこととなっている。
情報――そうメノウが答え。続けて言った。

「“神守りの一族”の」

「・・・ジジイ、そのネタはどこから仕入れた」
トパーズが睨む。
メノウはニヤリと笑い。
「コハクの同僚の智天使から」
「・・・ラリマーか」
「そ、“コハクの耳に入れない”約束でさ、教えてくれたよ」
そもそも、メノウがラリマーの元へ足を運んだのには理由があった。
シトリンの傷の治療を済ませてすぐ、森の入口へ調査に向かったメノウ。
そこで、シトリンの体を貫通したものと思われる弾丸を見つけた・・・見つけ出したのだ。
分析に少々時間が掛かってしまったが、“それ”は、天使に対し、異常なまでに殺傷能力が高いことが判明した。
種族としては猫又だが、外見や魂のレベルで熾天使でもあるシトリンに使われたことを鑑みて、犯人は天使の敵と推測したのだ。
天界の事情に詳しい者、と、考えた末、智天使のラリマーに行き着いたという訳だ。
「ラリマーが言うにはさ、あくまで“噂”らしいんだけど――神守りの一族ってのは、神が己の身を守るために、人間を使って作ったらしい」
「神が何から身を守るっていうんだ?」
トパーズが皮肉な口調で笑う。
その件は、昨晩、酒の席でクラスターから聞いていた。
従って、メノウの次の言葉も容易に想像できた。
「どうせお前も知ってんだろ?」
察したメノウは肩を竦め。

「熾天使――つまり、コハクだよ」

「ま、コハクって、ああいう性格だからさ、命令には従うかもしんないけど、忠誠心とか、全く期待できないじゃん」
前神の気持ちもわかるよ、と、笑い話にしてしまうあたりがメノウらしい。
そこでトパーズがこう付け加えた。
「創造主の神でさえ、畏れていたという訳だ。あいつを」
「ま、そーゆことだろうな。わざわざコハクの天敵を作るぐらいだから」

『セラフィムは、神が望む以上に優秀だったのです。神は彼を天使の中で最も寵愛していましたが・・・晩年、妙な“噂”が立ち始めました――』

ラリマーの言葉だ。
そして、ここから再びメノウが。
「神守りの一族に関する噂はさ、ラリマーの奴が、コハクに知られないように相当気ぃ遣ってたみたいだけど、どうだかなぁ」
と、苦笑いだ。
「でもって――」
メノウが話を繋ぐ。
「神守りの一族が実在してたとして。どこの誰か、今どうしてるのか、そーゆとこ一切不明なワケ」
「・・・・・・」
「とはいえさ、神守りの一族って言うくらいだから、現神のお前に接触してくる可能性は高いだろ?んで、どうなの?」
「そういうことだ、ジジイ」
メノウの推理と、トパーズが酒の席でクラスターから聞いた話は、ほぼ一致していた。

クラスターが“神守りの一族”であること。
神守りの一族は、熾天使から神を守るために存在していること。
熾天使を一撃で殺せる武器を持っていること。

そして・・・
神が滅びたあかつきには、熾天使も共に滅ぼすという最終使命を負っていること。

「へー・・・それがホントだったらヤバイじゃん。コハクの居場所、知られる訳にはいかないし。俺等で何とかしないとなぁ」
「神守りの一族も黙示録同様、前神の遺産だ。オレは直接介入できない」
「けど、放ってはおけないだろ?昔のコハクなら、神守りの一族だろうが何だろうが、皆殺しにするだろうけどさ、今のコハクにそれができるとは思えないんだよな、俺は」
「・・・・・・」
トパーズはしばしの沈黙の後、神守りの一族の名をメノウに明かした。
「クラスターは今、コスモクロアのマンションで独り暮らしをしている」
つまり、上京中なのだ。
「“故郷”は?」
すぐさまメノウが切り返す。
神守りの一族の故郷に鍵があると考えたからだ。
トパーズも同様・・・しかし。
「口を割らない」
「とにかく聞き出すしかないよな。んで?そのクラスターは今どこにいんの?」
「さっき別れた」
そこで、先を読んだメノウが。
「家族連れて遊びに来い、って?」
「マンションの方だがな」
と、トパーズ。
そこで何としてもクラスターの故郷を突き止めるつもりだという。
「そんなら、“アマデウス”は、やっぱ俺のが適任じゃん」
「・・・・・・」
トパーズも否定はしなかった。
「んじゃ、準備できたら、お前んとこ行くよ」

それから30分後・・・三階建ての家にて。

「クク・・・やるな、ジジイ」
「そーだろ?ヒスイの魅力120%引き出してやったよ」
圧倒的美少女ヒスイの姿に変装※女装※したメノウは、ノースリーブのナチュラルロングワンピースで。
髪には小さな花飾り。アマデウスの名に恥じない、清純な仕上がりだ。
「そういや、ジストはどうすんの?」
「あいつは・・・育ちすぎた」
「あはは!そうかもなぁ」
メノウは明るく笑ってから。
「瞳の色がコハクの遺伝だもんな、連れてくのは無理か」
「・・・・・・」
「さて、っと、そんじゃ・・・」

いっちょ乗り込むとするか。

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