―外伝―
願わくば、世界の終わり。[10]
数週間後・・・
スピネルと暮らす国境の家へ戻ったオニキスの目前に、驚くべき光景が広がった。
「おかえり、オニキス」
家の前で、オニキスを迎えるスピネル。
「これは・・・」
庭に、シロツメクサが咲いている。
「言ったでしょ?咲く場所を選ばないって」
ジンという影の協力者がいるのだが。
それも、種を蒔いたあと、オニキスの帰還に間に合うように、ほんの少し手を貸してもらっただけだ。
「この花は・・・」
これからもずっと、咲き続けるよ。オニキスの傍で。
「だから、諦めないで」
「まったく・・・お前には慰められてばかりだな」
お礼の気持ちを込めて、頭を撫でる・・・スピネルは嬉しそうに目を細め。
「うん。そのためにボクがいるんだ」と、笑った。
「オニキス、中で大事なお客さんが待ってるよ」
国境の家、室内。
「あ!オニキス!おかえりっ!」
ヒスイが待ちかねたように席を立ち、駆け寄ってきた。
数週間ぶり・・・などということは、まるで気にしていない様子で。
「なぞなぞの答え、考えてきたよ!」
「なぞなぞ、だと?」
「ほら、あれ。すっごい真面目な顔して、出題したじゃない」
『その時、オレがまだ“生きたい”と言ったら。
お前は・・・どうする?』
「・・・・・・」
あれは、なぞなぞではない。切なる問いかけだったのだ・・・が。
どうやらヒスイはなぞなぞと解釈したらしく。
「あれから考えたんだけど・・・」と、続けて回答を述べた。
「例えば、オニキスが100年生きたいって言ったら・・・
その半分の50年、でどう?」
死にたい自分と、生きたいオニキスの間を取るというのだ。
「それだったら、公平かなって。答え、あってる???」
正解も不正解もない。
「確かに、公平だ」と、笑うオニキス。
それ以上は、言葉にならなかった。
オニキスにとっては、とても深い意味を持つ“公平”なのだ。
(オレが100年望んだら、その半分の50年)
生きてくれるというのか。
コハクの・・・いない世界で。
予想もしていなかったヒスイの回答に、胸が甘く締め付けられ。
益々、ヒスイが愛おしくなる。
「・・・ついでにもうひとつ、お前に聞きたいことがある」
「ん?なになに?」
『いいか?愛し続けても』
「え・・・っと、それ、次のなぞなぞ?」
「ではないぞ」
早くも脱線しかかるヒスイに苦笑しつつ、軌道修正。
「すまんな、諦めが悪くて」と、付け加え、ヒスイの答えを待つ。
「ん〜と・・・いつまで?」
「そうだな。願わくば・・・」
世界の・・・終わりまで。