World Joker

―外伝―

願わくば、世界の終わり。[9]



 

 

 
気が付くと、ヒスイの上に乗っていた。

下のヒスイと手のひらを重ね、きつく指を絡めて動きを封じ。

貝のように硬く閉じているヒスイの肉の合わせ目に、オニキスは迷いなく亀頭を捻じ込んだ。

「なにす・・・やめ・・・あ、あぁぁッ!!」

濡れているのは自分の先端だけだが、それを使って、ヒスイの膣を無理矢理こじ開ける。

「やッ・・・!!あくッ・・・!!!」

鋭いペニスでゆっくりと膣肉を裂く・・・

ブチブチブチ・・・ちぎれるような音をたてて拡がる膣。ヒスイは髪を振り乱し。

「ひッ・・・あぁッ・・・!!おにいちゃ・・・たすけ・・・」

「・・・・・・」

ヒスイにとっては拷問だと思う。泣いているのはわかっていた。

「いたいっ・・・い・・・いや・・・いやぁ・・・おにいっ・・・」

足をバタつかせ、抵抗するヒスイ。

蹴られても、どうということはなかった。

ヒスイの体はいつものサイズに戻っていて、何もかもが、小さく。

これだけの体格差があれば、行為の妨げにもならない。

「いやあぁぁ・・・ッ!!」

「・・・・・・」

ヒスイの悲痛な叫びを聞きながら、膣内にペニスを押し進めるオニキス。

「ひぅッ・・・!!あ、あぁッ!!」

グググッ・・・グッグッグッ・・・奥までがやたらと遠く感じた。

ミリ単位の前進にも、ヒスイが悲鳴をあげたからだ。

 

「うっ、うっ・・・は・・・ぁっ・・・」

ペニスをすべて納めると、ヒスイは幾分おとなしくなった。

膣を完全に占拠され、抗う術をなくしている。

(これがヒスイの・・・)

膣奥にコリコリとした場所を見つけ、オニキスが亀頭で擦る・・・と。

「いやぁ・・・ッ!!おねが・・・やめ・・・ああッ・・・」

ヒスイは激しく嫌がり。泣き叫んだ。

そんなに嫌ならば、と、オニキスは子宮への愛撫をやめ。

ペニスを浅く前後に動かした。

「うッ・・・ふ・・・うぅん・・・!!」

ヌチュ。ヌチュ。ヌチュ。ヒスイの膣壁が濡れてきた。自衛のために、だ。

滑りを良くし、なんとかペニスの摩擦に耐えようとしているのだ。

そのヌメリに、ヒスイの愛はない。

「ひっく・・・ぅぅん・・・っ・・・」

いつしか蹴りも止んで。ヒスイの両脚は開きっ放しになった。

「はッ・・・あッ・・・あッ・・・んく・・・」

ペニスを押し込む度、力なく爪先が跳ね上がる。

「・・・・・・」

(愚かだな・・・)

 

 

欲しいのは体ではなく、心。そう、思うのに。

傍にいれば、触れたくなる。

 

罪だと、知っていても。

 

 

「ん・・・うぅぅッ!!」

ヒスイの肉ヒダと絡んだペニスは興奮し、更に大きくなって、ヒスイを苦しめた。

ギチッ、グチッ・・・痛々しく拡がる膣口。

ペニスを動かす度、小陰唇がベロベロ捲れる。

ヒスイは諦めたのか、声も出さなくなって。

結合部からは、愛液がドロドロと垂れてきた。

けれどもそれは、“ヒスイ”としてではなく、雌として。

雄のペニスを受け入れ、それなりに感じているだけのこと。

グチュリ。グチュリ。ズッ、ズッ、ズッ・・・

深い闇の中、愛に狂ったペニスが、膣を蹂躙する音しか聞こえない。

 

すっかり弛んだ膣が、巨根を難なく飲み込むようになった頃には、ヒスイの瞳も輝きを失い。何度、唇にキスをしても、無反応だ。

(ついに・・・壊してしまったか)

これが、陵辱の結末なのだと理解する。

穴を提供するだけの愛玩人形・・・ヒスイをそんな風にしたのは自分だ。

「・・・・・・」

夢でも現実でも、どちらでも構わない筈だったのに。

身勝手もいいところだと思いながらも、これが夢であるよう、切に願う。

すると、その時。

 

 

「ヒスイ・・・か?」

 

 

遙か頭上から聞こえる歌声・・・紛れもなくヒスイのもので。

オニキスは上を向き、その歌声に耳を傾けた。

「ずっと・・・歌っていてくれたのか?」

闇の中で、愛欲に溺れ、淫蕩に耽っている間も、ずっと。

 

 

帰る場所を、見失わないように。

 

 

「・・・・・・」

(後悔は後だ。今、ヒスイを守らなくてどうする)

オニキスが、そう、心を決めた瞬間。闇が・・・晴れる。

 

 

 

「オニキス・・・っ!!」

「すまん。遅くなった」

「よ、よかったぁ〜・・・」

ふにゃっと、ヒスイの表情が弛む。が、安心は束の間で。

「ママ!!」

フェナスと奮闘していたスピネルが叫ぶ。

オニキスの生還に喜び、一瞬隙ができたのだ。

フェナスの銃口が再度ヒスイへと向けられ・・・バンッ!!

ヒスイに代わり、二発目もオニキスが受けた。

「オニキス!!」今度はヒスイが叫ぶ。

「・・・心配するな。たいして殺傷力はない」

心術が込められた弾はオニキスの肩に命中したが、オニキスが倒れることはなく。

再生した細胞が、弾丸を体外へ押し出した。

「そんな馬鹿な・・・」

地面に落ちる弾を見て、驚愕するフェナス。

これまで無敗だった心術を二度も破られたのだ。

さすがにショックが大きく、次の動作に移れない。

それを目の当たりにした罪人達の中にも、戦意を喪失する者が出て。

間もなく、形勢は逆転した。

 

 

「ところでこのヒト、誰???」

 

 

ヒスイが真顔で言った。

あれだけ追い詰められながらも、フェナスの職務に気付いていなかったのだ。

フェナスにとっては屈辱で。顔を上げ、ヒスイを見ると・・・

「ぼくは、ヴァ・・・ふぐッ!!!」

口上半ばで、フェナスの姿が消えた。一陣の風と共に、横っ跳び、だ。

「ふぐ?あっ!!お兄ちゃん・・・っ!?」

次の瞬間、コハクが横切る・・・フェナスに飛び蹴りを入れたのだ。

 

そのまま、森の茂みで対峙する男二人・・・熾天使コハクvsヴァンパイアハンターフェナス。

「余計なこと、言ってもらっちゃ困るんだよね」と、コハク。

「自分を狩ろうとしている者がいるって、気分良くないでしょ?君がヒスイを狩るというなら、僕が、君達ヴァンパイアハンターを狩る」

見せしめとばかりに。フェナスの目の前で、バラバラとエンブレムを落とす。

その数だけ、狩ってきたということだ。

「天使のくせに・・・!!なんてことすんですか!!」

古来から、ヴァンパイアハンターは天使の代理として吸血鬼と戦ってきた。縁ある関係だ、が。

「天使が皆、君達の味方だと思ったら大間違いだよ」

ヒスイを傷つける者は、何人たりとも許さない。

昔も、今も、これからも、変わらぬコハクの信念だ。

 

いくらフェナスが才能に恵まれた男だったとしても、戦闘向けの天使であるコハクに敵う筈もなく。

銃を構えた瞬間、それが粉々に砕けた。

「!!?」(何が起こった!?)

大剣を手にしているコハクを見て、あれにやられたんだろうか、と。

それすらも半信半疑で。更に、次の瞬間・・・ブチッ!!

右肩に縫い付けてあったうさぎのぬいぐるみを、コハクに引き剥がされた。

「返せ・・・っ!!!」

逆上したフェナスは声を張り上げ。

 

 

「妹から貰った、お守りなんだ!!」

 

 

その咆哮で、場のムードが一転した。

「え?妹?じゃあ君、“お兄ちゃん”?」

コハクがそう言ったそばから、「おにいちゃん〜!?どこ〜!?」と、ヒスイの声。

それを聞いたフェナスも。

「え?あなたも、“お兄ちゃん”?」

“兄同士”という共通点が発覚し、いきなり和む二人。もはやそこに戦意はない。

「血は繋がってないんだけどね、母親を早くに亡くして・・・ずっと僕が育ててきたんだ」

コハクの場合は兄であり、夫でもあるが。その言葉はフェナスの心を打って。

(ぼくは、なんて酷いことを・・・)

妹を大切に思う気持ちは、痛いほど、わかる。

ヴァンパイアハンター狩りも、すべて妹を守るためにしたことなら・・・責める気にはなれない。

対するコハクも、うさぎのぬいぐるみをフェナスに返却し。

「妹って・・・可愛いよね」と、いきなりシスコン発言。

「もう可愛くて可愛くて・・・」強く頷きながら、続くフェナス。

出稼ぎで上京を決めた時、「おまもり」と言って、妹が自分の宝物をくれた。そう、話すと。

「それは・・・悪いことをしたね。僕も妹のお守りを持ち歩いているから」

妹から貰ったものがどれだけ大切か、痛いほど、わかる。

 

「吸血鬼にも、家族がいるんなら・・・」

そう言って、フェナスは一旦口を噤み。それから、思い切った発言をした。

「辞めます。ぼくはこの仕事に向いてないみたいだ」

「だったら、代わりの仕事を紹介しよう」と、コハクが斡旋するのは、言わずと知れたエクソシスト教会。

「ここからかなり離れた国の勤務になるけど、その分、お給料はいいから」

「ありがとうございます!」

そこでガッチリ握手を交わす二人。“妹萌え”で、見事和解だ。

 

 

 

その後。ヴァンパイアハンターフェナスを仲介として、村の監視役と、オニキス、コハクで話し合いの場が設けられ、誤解は解けた。

これ以上の戦いはせずに済みそうだ。

ヒスイ、スピネル、カーネリアンが待機する空家に戻るなり、オニキスが言った。

「モルダバイトと繋がっている棺桶だけ壊すということで、話はついた」

つまり、他の棺桶は残すということで・・・カーネリアンが露骨に眉をひそめた。

「吸血鬼との戦いを罪の償いとする・・・あまり感心できる制度ではないが、この村の存在が国の平和を守っているのもまた事実だ」
と、オニキスはあくまで冷静な判断を下した。

吸血鬼が人間の血液を主食とする限り、共存は難しい。

モルダバイトでさえ、完全には成し得ていないのだ。

「これ以上は、他国の者が口出しする問題ではない」

「気にくわないねぇ」吸血鬼のカーネリアンが反論する。

同じく吸血鬼のヒスイは・・・隣の席で眠そうに目を擦っていた。

「吸血鬼が、人間の罪滅ぼしの道具にされたんじゃ、たまったもんじゃないよ」

仲間意識の強いカーネリアンらしい解釈だ。が、国というものが簡単に変わるものではないこともわかっていた。

そこで、溜息ひとつ。

「アタシゃ、しばらくここに残るよ。吸血鬼をおかしくすんのは、なにもこの地だけじゃないんだ。“孤独”が、アタシら闇のモンを狂わせるんだよ」

カーネリアンは、残りの棺桶を使って国内を巡り、吸血鬼同士を引き合わせたいと言った。

その左肩には、居眠りするヒスイの頭がのっている。

「ああ、寝ちゃいましたね」

コハクは、カーネリアンの肩に今にもヨダレを垂らしそうなヒスイを引き取り、抱き上げて。

「吸血鬼が集団化すれば、いずれ国に目を付けられますよ?確実に敵は増える」

「それでもさ、ひとりでいるよかずっとマシだよ。一緒に戦える仲間がいるってのはいいもんさ」

吉と出るか、凶と出るか、それはわからない。この国に潜む吸血鬼次第だ。

「やれるだけ、やってみるよ」

「そうですか」カーネリアンの心意気にコハクも笑顔で頷いた。その隣で。

「ならば、オレも残ろう」と、オニキスが名乗りを上げ。

「コハク、しばらくスピネルを頼む」

すると、すかさずスピネルが。

「ボクはひとりで大丈夫だよ。もう子供じゃないんだから」と、笑った。

「本当はボクも残りたいんだけど・・・」

学校を何週間も休むわけにはいかない。

「ごめんね」そう、オニキスとカーネリアンに謝罪する。

「いいんだよ。アタシのはただの自己満足なんだからさ」と、カーネリアン。

「それに付き合うだけだ」と、オニキス。

 

結果、オニキスとカーネリアンが残り。

コハクとヒスイは空路で帰宅予定。

棺桶はスピネルを転送してすぐ、破壊された。

 

 

 

そして、ホーンブレンドでの別れ際。

 

「あ、ありがと!」

オニキスへ向け、思い出したようにヒスイが言った。それからコハクに。

「オニキスがね、私の代わりに二回も撃たれちゃったの」と、説明する。

「へぇ・・・それはそれは。ヒスイがお世話になりました」

その後のオニキスの苦悩も、何もかもお見通しという笑みで、コハクは丁寧に頭を下げた。

「いや、こちらの方が救われた」

「救われ?なんで???」ヒスイが不思議そうな顔で聞き返す。

「・・・いい歌だった」

「あ、あれね」

オニキスの好きな曲をほんの少し口ずさんだだけ、と、ヒスイは照れ臭そうに笑って。

「ちゃんと届いて良かった」

 

「じゃあ、またね!」

コハクの腕の中から手を振るヒスイ。

「ああ、また」オニキスは頷き。二組は別れた。

 

 

 
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