World Joker

―外伝―

TEAM ROSE



[ 27 ]



その頃、オリジナルのコハクは――
オニキスと共に、ツリーハウスへと引き返したところだった。


「ヒスイ・・・っ!!」


室内にヒスイの気配はない。

「・・・・・・」(遅かった・・・)

それみろ、とでもいうような、オニキスの視線。
ヒスイをひとりにすると、ロクなことにならないのは、コハクもわかっていた筈なのだが・・・
Jr.の存在に感情を乱され、判断を誤った。

「・・・・・・」(最近どうもうまくいかない気がする・・・)

前髪を掻き上げ、溜息、だ。その時。

「――コハク、ちょっと来い」

オニキスが、コハクを窓辺へ呼び寄せた。

「下に落ちている、あれはお前の羽根か?」
「!!」

コハクは窓から飛び降り、その羽根を拾い上げた。

「これは・・・ヒスイの・・・」

オニキスも続けて飛び降り。

「・・・窓から転落したな」
「・・・ですね」

ヒスイには羽根があるので、着地に関しては心配していない。
しかしここは、見知らぬ土地の、見知らぬ森だ。
危険であることに変わりはなかった。

「とにかく、一刻も早く見つけないと・・・」
「ああ、そうだな」

ヒスイのことになると、冷静さを欠く二人が、森の奥へ進もうとした時だった。

「――父ちゃんっ!!」

空から、ジストが降ってきた。
動揺を隠せない表情と声で、二人にこう告げる。

「あーとまーが、いなくなっちゃったんだ・・・っ!!」

「探したんだけど見つかんなくて・・・どうしよう、オレっ・・・」
「落ち着け。お前だけの責任ではない」

取り乱すジストを、オニキスが宥める。
コハクもまた、ジストの肩に手を置き、呼吸が整うのを待ってから。
努めて急かさずに言った。

「とりあえず、事情を説明してくれる?」

事の起こりは二時間ほど前・・・

シンナバーの町に再び吸血鬼が現れたと聞き、船で待機していたトパーズとセレナイトが対応にあたった。
ジストは双子と共に船で留守番をしていたが、港の方で助ける求める女の声がして。
急いで船を降りた。
ところがそこには誰もおらず。
不思議に思いながら、ジストが船に戻った時には、双子の姿が消えていたという――

「・・・・・・」(ああ・・・)←コハク。

ヒスイと、双子。このタイミングで、この事件。軽く眩暈を覚える。
コハクの心中を察してか、そこでオニキスが言った。

「あーとまーはオレが探す。お前はヒスイを探せ」

本来ならば、ヒスイの心の声を受信できるオニキスが、引き続き捜索を続けるべきなのだが。
(コハクがそれで納得するとは思えん)

「恩にきります」と、コハク。
「ヒスイを見つけたら、すぐに合流しますね」

そう言い残し、忙しなく飛び立った。



一方、こちら。森を駆ける狼、カーネリアン。
ツリーハウスから出てきたリヒターの後を追い、だいぶ奥地まで来ていた。

(ヒスイには、あの分身が付いてる)

何があってもヒスイのことは守る――オリジナルがそう言うだけあって。

(見たとこ、優秀じゃないか。これで安心してアイツを追えるってもんさ!)

リヒターのことが、妙に気にかかる。
ツリーハウスから出てきた後、城に戻るかと思いきや、反対の方角へ。
何らかの意思を持って走り出したように見えたのだ。
気付かれぬよう、距離を開け、リヒターの様子を探るカーネリアン。
そしてついに、リヒターが足を止めた。
そこには、吸血鬼の女が二人。
その佇まいから、相当な実力者であることが感じ取れた。

ひとりは、巨乳のゆるふわセミロング。豊潤な髪が片目を覆っている。
妖艶で、どことなく不気味な雰囲気だ。

もうひとりは、スレンダー体型で、さっぱりとしたベリーショート。
顔立ちは涼やかで、クールな印象を受ける。

どちらも灰色の髪に薄桃色の瞳・・・

(血縁者だね、こりゃ)

カーネリアンは身を隠し、静かに様子を窺った。

「あの子は元気にしている?ふふ」

セミロングの女が笑う。

「相変わらずっす」と、リヒター。
「あらそう、残念ねぇ・・・ふふふ」
「ご機嫌っすね、何かあったんすか?」
「ご馳走が手に入ったの」
「ご馳走・・・っすか」
「そう、双子の赤ちゃん」

同族のようで。天敵のよう。

「よくわからない生き物だから、食べてみようかと思って。ふふふ。リヒター、貴方もいかが?」
「遠慮しとくっす」

それからしばらく会話が続いていたが、カーネリアンは気が気でなかった。

(なんてこった・・・)

それは確信に近い予感。“双子の赤ちゃん”とは、アイボリーとマーキュリーのことだろう。
今は無事のようだが。

(まったく、どうなってんだい!!)



同じ森の中――。

ヒスイ、コハクJr.そして、リアルガー。
三人は城へ戻るべく移動していた。
ちなみに気絶しているイオスは放置してきた。
拘束し、人質にするという手もあったが、あえてそうしなかった。

「ところで――」と、コハクJr.が切り出す。
「何であんなところに罠を仕掛けていたのかな?君は」

リアルガーに対し、牽制の意味を込めて、笑顔で凄むコハクJr.

「吾輩、食糧を獲るつもりで・・・」
「食糧?それって動物のこと?」と、ヒスイ。
「そうなのだ」
「吸血鬼なのに、人間の血を飲まないの?」

リアルガーの言葉に、ヒスイが首を傾げる。
すると、リアルガーはこう言った。

「吾輩は・・・人間の文化が好きなのだ」

イラストや漫画、小説、ありとあらゆる創作物・・・
それらを作り出すのは、想像力豊かな人間であり。

「“食糧”とは思えぬのだ」

そのため、一族に馴染めず。

「吾輩には姉が二人いるのだが・・・」

人間を家畜のように思っていて、殺すことに何の躊躇いもない。
そんな姉達の下から逃げ出し。
いくつか所有する古城のひとつに引き籠ったという。
世話係のリディが定期的に連れてくる人間も、手を付けずにこっそり帰していたのだ。

「叶わぬ願いだということは、わかっているのだ。しかし吾輩は・・・人間と共に生きたいのである」

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