―外伝―
TEAM ROSE
[ 26 ]
リディに続き、オニキスもまた薄暗い樹海へと足を踏み入れていた。
冷静に、一定の距離を保ちつつ、追跡・・・その最中のことだった。
「コハク?何故お前がここにいる」
分身Jr.を探すコハクと偶然出会った。
先を行くリディは気が付いていないようだ。
「攫われたヒスイを追っていたんですけどね、まあ、色々ありまして」と、コハク。
これまでの経緯を掻い摘んで話し。
「――と、いう訳で、今は分身を探してるんです」
するとオニキスは、溜息混じりにこう言った。
「ヒスイをひとり残してか?」
「!!」
言われたコハクはハッとしたらしく、ツリーハウスの方角を見た。
ヒスイをひとりにすることが、どれだけ危険で、どれだけ本末転倒か、今更気付いたのだ。
「・・・お前、馬鹿か?」
「ははは、僕も今、そう思っていたところです」
言葉を交わした二人が同時に動く。
向かう先は、当然、ヒスイがいるであろうツリーハウスだ。
「ついてこないで下さい」
場所を知るコハクに並び、オニキスが走る。
「お前には任せておけん」
その頃――ヒスイはというと。
リアルガーとイオスの間で選択を迫られていた。
「・・・・・・」(どうする!?)
ヴィジュアルはともかく。どちらも、どことなく気持ちが悪い。ヒスイの苦手なタイプだ。
できることなら、横方向へ走り抜けたいところだが・・・二人に追われたら、厄介だ。
「・・・・・・」(私はヴァンパイアプリンセス設定だから・・・)
ヴァンパイアハンターは、明らかに敵だ。
「・・・・・・」(そういえば、お兄ちゃんが“力を誇示する”って言ってたっけ。私、任務の役に立ってない気もするし・・・ここら辺で頑張っておこうかな)
「――決めたっ!」
思案の末、そう口にすると。
ヒスイは前方のリアルガー側へと走り込み。
「あなたは逃げて!!」と、声高らかに告げた。
イオスを足止めすべく振り返り、呪文の詠唱に入るが・・・
「あ!」(魔法のステッキがない!?そうだ、男の娘エッチしたとき・・・)
どうやら、リアルガーの館に置いてきてしまったようだ。
迫力ある魔法で牽制する予定が早くも崩れ去る・・・
「っ!!」(でもやるしかない!!)
ヒスイは木の枝を拾うと、それをステッキに見立て、一振り。
「いくわよ!」(古代闇魔法――)
『ヤマタノオロチ――!!』
「!!」
イオスの足元に、ひとつ、ふたつ、みっつ・・・と展開する黒い渦。
そこから次々と大蛇の影が現れ、禍々しく黒炎を吐き、行く手を阻む――はずが。
「え?あれ???」(おかしいわね)
自分の目を疑うヒスイ。
呪文は成功したように思えたが、スケールが異様に小さい。
大蛇が・・・ミミズレベルだ。
これでは何の効果もなく。イオスにあっさり踏み潰された。
“今は魔法が上手く使えない”
そう悟ったヒスイは、逃げに転じた。
しかし・・・そこにはリアルガーが立っていた。
「!?ちょっ・・・なんでまだいるのよ!!逃げてって言ったでしょ!?」
「この先はまずいのだ」
「まずい!?何が!?」
切羽詰ったやりとりがなされる中。
「隣にいるのは吸血鬼か。天使を奪おうなどとは、愚かな。死を以って償うがいい」
大分勘違いをしているイオスが武器を構えた。
銃ではなく、細身のナイフだ。
投擲用らしく、リアルガーを標的に連続攻撃を仕掛けてきた。
「!!」「―――!!」
咄嗟にヒスイが氷の壁を創り出し※今回はそこそこ成功※一度は防いだものの。
極厚仕様だったにも関わらず、砕け散ってしまった。
「・・・・・・」(あのヒト、もしかして結構強いんじゃ・・・)←ヒスイ、心の声。
次も防御魔法が成功するとは限らないし、重要人物であるリアルガーに死なれても困る。
ヒスイはリアルガーの腕を引っ張った。
「!!嫁!!どこへいくのだ!!」と、リアルガー。
「嫁じゃない!!」
ヒスイは思いっきり否定してから。
「とにかく逃げるしかないんだってば!!」
「だめなのだ!!そっちは吾輩が――」
リアルガーの言葉に耳を貸さず、ひたすら走るヒスイ。
「はぁっ、はぁっ、あなた、この森に棲んでるなら、少しは逃げ道に詳し――!?」
その時だった。
草と草を結んだ輪に、爪先を引っ掻け転ぶヒスイの上に、捕獲用の網が被さった。※リアルガーも道連れ※
「何よ!!これっ!!」
「吾輩が仕掛けた罠なのだ・・・」
「はぁ!?なんでこんなところに・・・」
「それは・・・話せば長くなるのだ・・・」
それなりの理由があるのだが。今はそれどころではない。
絡まる網に足止めされ。
(このままじゃ、ヴァンパイアハンターに捕まっちゃう!!)
ヒスイ、再び絶体絶命・・・!?
――かと、思いきや。次の瞬間。
スパッと網が切られ。ヒスイ達は解放された。
「え?え?」(何が起こったの!?)
着実に距離を詰めていたイオスも何故か倒れている。
「ヒスイ、怪我はない?」
「!!お兄ちゃん」(しかも小さい方!!)
コハクJr.再登場。そして一言。
「オリジナルって、ホント使えないね」