World Joker/Side-B

17話 恋したいオトコ



例えばこの場にサルファーがいたら。

「あいつ馬鹿だよな」と、毒を吐くところだが。

今の面子ではそうはならず・・・同情一色だ。

ジストは涙目で鼻を啜り。

「なんとかしてやりたいけど・・・今回オレ達が試験官だから・・・」

規定により、これ以上の干渉はできないと、悔しそうに語る。

「ごめんな、あー・・・」

俯き、酷く落ち込んでいた。続けてヒスイが。

 

 

「あーくん、貯金全部使っちゃったんだって」

 

 

その発言で、場の空気が益々重くなる。

そうまでして購入した“竜騎士セット”が使い物にならないと知ったら・・・多大なショックを受けるに決まっている。

スピネルも、弟を気の毒に思い。

「オニキス、何とかならないの?」

相談を持ちかけるが・・・

「・・・命は授かりものだ。こちらの都合でどうこうできるものではない」

「・・・よね」

オニキスの回答に肩を竦める。

「もう申請しちゃっから、変更もできないし・・・う〜ん・・・」

ヒスイはテーブルに突っ伏し、しばらく足をブラブラさせていたが・・・10分後。

「・・・あっ!!私いいこと思いついた!!」

そう言って、椅子から飛び降りた。

「帰るね!紅茶、ごちそうさま!!」

来た時と同じように、廊下を走って去ってゆく・・・

「ヒスイっ!待っ・・・うわっ!!」

ジストもまたヒスイを追って。来た時と同じような転倒を見せるが。

「・・・・・・」

卵が孵らないダメージで、起き上がる気力もなかった。

「・・・ママ、何かやっちゃいそうだよね」と、懸念するスピネル。

昔から、ヒスイの思いつきはロクなものではない。オニキスは深く頷き。

「ああ、そうだな・・・」

 

 

 

その頃、コスモクロアでは。

 

天使の一団を率い、地獄より帰還したコハクとシトリン、そしてサルファー。

「任務成功、だな」

行方不明者リストのチェックを終え、全員無事連れ帰ったことを告げる。

「騒動の後、オカルト研究会の部長が姿消したって話だけど」

「そう、部長が・・・ね」

コハクは思うところがあるようだったが。

「まあ、今はそれより・・・」

「・・・だな」

シトリンと顔を見合わせる。

アンデット商会の力を借りたおかげで、これ以上ない好成果・・・しかし、その代償は当然支払わなければならない。

「まったく・・・厄介な条件を出されたものだな」

シトリンは珍しく意気消沈した様子で言った。

 

 

以下、甘味処での回想である。

 

 

「そういうことでしたら、安全なルートをご提供させていただきます」

 

・・・と、スモーキの快い返事。

だが、商売人を相手にする以上、無料で・・・という訳にはいかない。

それはコハクもシトリンも覚悟していたことだ。

「とにかく謝っておけ」と、コハクに耳打ちするシトリン。

確かに、話し合いを円滑に進めるには、過去の因縁など邪魔になるだけだ。

「・・・・・・」

どちらが正義でどちらが悪かといえば、前者がコハクで後者がスモーキー。

けれども。同じ世界で社会生活を営むにあたり、納得がいこうがいくまいが、頭を下げなければならない時もある。その辺りは、コハクも充分理解していた。そこで。

「何て言ったらいいのかな・・・あの頃、僕、ちょっと病んでたっていうか・・・君に不当な乱暴をしたことは、すまないと思ってる」

「フフ・・・」

スモーキは口元を歪めて笑い、こう語り出した。

「血も涙もなく、地上の罪人を片っ端から始末した・・・そんな貴方が、今やお子様の悪戯の尻拭いとは・・・実に傑作です」

 

 

「なんと見事なビフォアーアフター」

 

 

スポットライトを一身に浴びる舞台役者のようなポーズを決め、語調を強めるスモーキー。

「・・・おい、この男、おかしくないか?」と、シトリン。

「うん・・・おかしいね」と、コハク。

そんな2人をよそに、スモーキーは言った。

「セラフィム。僕は、貴方のように・・・」

 

 

人格が変わるほど、恋したい。

 

 

「のです・・・フフフフ・・・」

「ああ・・・そう。うん・・・気持ちはわかるけどね」

(こういうタイプは捌きにくいんだよなぁ・・・)

コハクの口から、思わず溜息が漏れる。

スモーキーは、片脚を軸にクルクルと回り始めた・・・恐らく、お花畑にトリップしている。

その姿を見たシトリンが、変態だ!変態だ!と騒ぐ。すると、ピタリ。

シトリンの前で、スモーキーの動きが止まり。

「条件はそれに致しましょう」

「ど・・・どういう意味だ?」

「簡単にご説明申し上げますと・・・この僕に・・・」

 

 

素敵な女性を見繕って戴きたい。

 

 

「ということです」

まさに、とんでもない要求だ。

できるか!と、怒鳴りたいところだが・・・力の弱い天使達を地獄から引き上げるのは並大抵のことではなく。

アンデット商会の技術を使えば即日。そうでなければ、1ヶ月・・・。

無理難題は承知で、条件を呑むしかなかった。

 

 

 

こうして・・・

コハクとシトリンは大きな問題を抱えることになった。

 

「とにかく僕はヒスイのところへ帰るから」

「ああ、そうしてやれ。後は頼んだぞ、サルファー」

「父さん!?姉さん!?」

またあとで―と。父と娘は、疲れた顔で別れた。

 

 

 

こちら、シトリン。

 

踵を鳴らし、勇ましく歩く。

(女・・・女・・・どこかにいい女はいないのか!?)

変態と釣り合う、いい女。そうそういる訳がない。

「城のメイドをあやつの餌食にはできんし・・・うぬぅ・・・かくなる上は、身内を集め、知恵を絞るしかあるまい」

 

 

「よし!緊急会議だ!!」
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