World Joker/Side-B

34話 暴いてはいけない秘密




小柄な体型はそのまま。胸の膨らみだけが、やたらと大きくなっている。

所謂、童顔巨乳の状態だった。

「とにかく入って」と、スピネル。

仕事から帰ったばかりのオニキスも、ヒスイの姿を見るなり、ネクタイを緩める手を止め。

「・・・何があった」

 

発端は、アイボリーとえっちな本を買いに行ったこと。

 

改めて、巨乳の人気を知ったヒスイは、マーキュリーと別れた直後に・・・

(晩ごはんまで時間あるし、アクアのおっぱい見に行こ!)

・・・という考えに至った。

雑誌モデルをしているアクアは、当然、美容にこだわりがある。

相談と見学を兼ねて、まずヒスイは、エクソシストの寮へと向かった。

405号室に滞在した時間は約20分。

「アクアみたいな体型になりたい、って言ったら、いきなりおっぱいに注射打たれて」

こうなっちゃったの。と、ヒスイは重そうに自身の乳房を持ち上げた。

「おっぱいだけ大きいのって、変じゃない?」

身長もそれなりに。ヒスイ的には、もっとバランスのとれた巨乳に憧れていたのだ。

ところが。たまたまアクアが持っていた試供品・・・アダルト向けの魔法薬を両胸に注入されてしまった。
搾乳プレイ用のもので、豊胸作用があるという。

確かに効果は出ているが・・・突如、巨乳化したヒスイの姿に、違和感がないといえば嘘になる。

「それでママ、アクアのところから逃げてきたの?」

こくり、ヒスイが頷く。

「こんなおっぱい、お兄ちゃんに見られたくないから、今夜泊めて欲しいんだけど」

カウンターテーブルの定位置で突っ伏し、オニキスに願い出るヒスイ。

「それは構わんが・・・」

 

 

「迎えにくるぞ」

 

 

オニキスがそう言った、次の瞬間。チャイムが鳴り。

「!!」ヒスイは慌てて2階へと駆け上った。

ドアの閉まる音を聞いてから、スピネルが客人を出迎える。

「パパ、いらっしゃい」

「ヒスイがお邪魔してると思うんだけど」

国境の家は、ヒスイの避難先である。

コハクに言えない困ったことがある場合、大抵ここにいるのだ。

「うん、でもちょっと今は・・・」

言葉を濁すスピネルに。

「もしかして、胸が大きくなっちゃった・・・とか?」

コハクが耳打ちする。ヒスイの行動パターンはさすがにお見通しだ。

「パパに見られたくないって」

「そう」(しばらくここで様子を見るか)

 

「夕食、まだでしたら、ご一緒しませんか?」と、オニキスに語りかけるコハク。

「ああ」オニキスが返事をすると、早速。

アイボリーがカレー鍋を持ってやってきた。直通魔法陣があるので、行き来は楽々だ。

「奇遇だね、実はうちも・・・」と、笑うスピネル。

「ついさっき、サフランライスが炊けたところ」

「お!俺はナン焼いてみたぜ!」

サラダやスープを持ち寄り、豪華なカレーバイキングが始まった。

しかし、紅一点のヒスイは現れず・・・メンバーは男5人。無駄に美形ばかりが並ぶ。

「・・・・・・」

その輪の中で、マーキュリーは思案を巡らせていた。

(オニキスおじさんだって、あの場にいたんだ)

思い出すのは、ミノタウロスの迷宮。ブラッド・ダイナマイトの不発。

(異変には、気付いている筈なのに)

アイボリーの手前、だろう。

オニキスもコハクも、至っていつも通り。互いに抱く不信を、おくびにも出さない。

「まー?食ってる?」と、そこで。アイボリーが見回りに。

「食べてるよ」咄嗟に答えたものの、マーキュリーの手は止まっていた。

(あーくんも“銀”だとしたら・・・)

幼い頃からヒスイに執着していたことも。

パンツを盗んだことも。自慰の相手に選んだことも。

すべて、辻褄が合う。

(でも、きっとこれは・・・)

 

 

暴いてはいけない秘密。

 

 

(・・・なんだろうな。今日は少し・・・疲れた)

ヒスイの顔が見たい―疲労感と同時に胸に沸く想い。

(まったくあのひとは何をしているんだか。いちいち面倒臭い・・・)

恋愛初期症状を、苛立ちで誤魔化して。

気を取り直したマーキュリーは、行儀良くカレーを口に運んだ。

そして・・・

食後に用意されていたのは、アイスカフェオレ。

「これすげぇ旨いじゃんか!」

アイボリーが絶賛すると、スピネルは朗らかに笑って言った。

 

 

「ママから絞ったミルクを使ってるからね」

 

 

「!!」×4

げほっ!ごほっ!一斉に、男達が咽る。

オニキスもコハクもマーキュリーもアイボリーも、揃って狼狽。こんな光景は滅多にない。

「くすくす、冗談だよ」と。

意外に小悪魔な一面を覗かせるスピネルだった。

 

 

 

「胸の大きさなんて関係ないですよねぇ」

天井を見つつ、コハクが呟く。

「まあ、そうだが・・・連れて帰る気か?」と、オニキス。

「そのつもりなんですけど・・・」

「女の子にとっては、重大な問題なんだと思うよ」

元・男の娘スピネルが会話に加わり。

「だろうね」コハクは肩を竦め、苦笑い。

と、その時。グラスを置く音がして。

「僕が行きます」

マーキュリーが立ち上がる。

それからなんと、数分も経たないうちに、ヒスイを連れ、階段を下りてきた。

「ヒスイ!!」

両手で胸を隠し、俯いているヒスイを、すかさずコハクが抱きしめる。

「おにいちゃ・・・おっぱい、失敗しちゃった・・・」

「大丈夫だから・・・一緒に帰ろう、ね?」

「ん・・・」

途端にイチャつき出した両親を尻目に。

「どんな裏ワザ使ったんだよ」

アイボリーが小声で尋ねる。

「呼び方を変えてみただけ」と、マーキュリー。

王子様的笑顔を浮かべ、こう続けた。

 

 

「“お母さん”が“ヒスイ”になるのは、嫌みたいだよ」

 

 

「・・・・・・」

(まー、怖ぇぇぇ!!!)

 
ページのトップへ戻る