World Joker/Side-B

41話 キス責め




「オニキスっ!!」

結界の壁の前で待っていたヒスイ。

「どうして閉じ込めたりなんかするのよ!」
と、戻ってきたオニキスに突っかかる。

「・・・・・・」

オニキスは無言のまま、ヒスイを担ぎ上げ、家の中へと連れていった。

入って早々の玄関で。

「!!ちょっ・・・なに・・・私はお兄ちゃんのところに帰・・・」

顎を掴まれた、次の瞬間。オニキスと唇が重なる。

「!!」強引なキスは記憶に遠く。

「っ・・・ふ・・・」抵抗のタイミングを逃してしまう。

(お兄ちゃんのキスじゃないのに・・・なんで・・・)

口の中いっぱいにオニキスの味が広がり。

触れ合う唇の間から、力が抜けてゆく。

立っているのもやっとの状態・・・残った僅かな力で肩口を叩いても、オニキスは退かなかった。

「・・・見くびって貰っては困る。愛情にかけては、コハクに負けていないつもりだ」

言葉を挟み、ふたたびヒスイの唇を塞ぐオニキス。

「な・・・んで、今そんなこと言うの?」

キス責めの合間、ヒスイはやっとの思いで声を出した。

「返すつもりがないからだ。お前は・・・騙されていたんだぞ」

「違うもん!お兄ちゃんは、金髪の男の子が欲しかっただけで・・・」

「それこそ、親の都合を子供に押し付けているだけだ。アイボリーの立場はどうなる」

「そ・・・それは・・・あっ!!」

そこで、アイボリーがいない事を思い出す。

スピネルと2人、家の中を探し回ったが、見つけることができなかったのだ。

「あーくんが・・・あーくんが、どこにもいないの!!」

「何だと?」オニキスが眉を顰める。

恐らくアイボリー本人は、何が起こっているかわからない状況で。

(オレが結界を発動させる前に抜け出したというのか?)

 

 

 

コスモクロア、3階建ての家。

 

「鍵、開いてねぇ・・・」と、青ざめるアイボリー。

11月の寒空の下、トランクス一丁にビニールケープという薄着。

それもこれも・・・汚れるといけないから、と、ヒスイに脱がされてしまったからだ。

へくしょん!へくしょん!へくしょん!腕を組み、くしゃみ連発。

コスモクロアは、モルダバイトに比べ、冬場の気温が低い。それでも。

「トパーズ早く帰って来いよ〜・・・」

アイボリーが頼るのは、何だかんだで長男のトパーズなのだ。

「おっ!!トパーズ!!!」

らしき影を発見し、大手を振る。が。

「・・・・・・」

トパーズは、アイボリーの姿を見るなり、携帯を耳にあてた。

「・・・何してんだよ」

「通報」

「すんな!!弟だ!!」

「・・・・・・」

月夜に映える銀色のつむじは見て見ぬふりで、煙草を咥えるトパーズ。

「緊急事態なんだよ!!ヒスイがオニキスに捕まって・・・へくしっ!!」

「・・・入れ」

 

 

 

それから小一時間が過ぎたが・・・コハクはまだ外灯の下にいた。

「・・・・・・」

(責められるより、庇われる方がこたえるなぁ・・・)

柱に寄りかかり、溜息。

被害者であるはずのヒスイを加害者にしてしまった。

(“ヒスイは返さん”とか言ってたっけ・・・)

「半分は脅しだろうけど・・・」

(・・・半分は本気だ)

今回は自分に非があるだけに、殴り返すこともできなかった。

「とにかく一度家に帰って、夕飯作らないと・・・まーくん待ってるだろうし・・・」

しかし、ヒスイがいないと思うと、脱力して動けない。

コハクはずるずると滑り落ち。

「例えばここにトパーズが来て、後ろから蹴りを入れられても避けられ・・・」

その時、ドカッ!背中に土足の感触。

「望み通り、イビリに来てやったぞ」

 

 

 

「アホガキが、こっちに転がり込んで来た」

「・・・じゃあ、説明はいらないよね」と、コハクが立ち上がる。

「あーくんは、抜け出すの得意だから。今頃、オニキスが面喰ってるんじゃないかな」

「どうした、お前にしては随分詰めが甘いな」と、トパーズ。

「うん、そうかもしれないね」コハクは瞳を伏せ。

「そろそろ潮時かな、とも思ってたし」と、言った。

それから、エクソシストの試験中に起きたトラブルについてトパーズに話し。

「現場に居合わせた数名が、あーくんの“金髪”に疑問を持ち始めた。中でもサルファーは間違いないと直感したみたいで、僕のところへ確かめに来たよ」

「それで?真実を話したのか」

「話してないよ」

「・・・あいつなら、喜んでお前の味方をするだろう」

「あーくんの件に関与するのは、僕と君だけで充分でしょ?わざわざ巻き込む必要はない。賢い子だから、察してくれていると思うよ。まーくんもね」

「・・・実験終了か、結果はどうだ」

「まーくんよりあーくんの方が先にヒスイに興味を示してたからね」と、コハクは苦笑。

「感情に、髪の色は関係ないみたいだ。これからはちゃんと向き合うことにするよ」

フン、と。トパーズは鼻で笑ったが。

“銀”の同族に対する執着心を見せつけられたようで。良い気分ではなかった。

 

 

 

「自分の愛が若干歪んでいるのは自覚してるんだ」と、コハク。

「若干じゃない、相当だ」容赦なくトパーズが断言する。

「君に言われたくないね」

きっちり言い返してしてから、コハクはこう続けた。

「僕は、ヒスイを失うことを恐れてる・・・でも」

 

 

「ヒスイを奪われたとしても、息子ばかりは殺せないから」

 

 

「・・・・・・」

「できればライバルにしたくない。分が悪いからね」

「・・・・・・」

「あーくんとまーくんの幸せを願うと言っておきながら、結局は僕のエゴだ。オニキスが怒るのもわかる気がするよ」

「・・・・・・」

「とにかく。僕は今、ヒスイに合せる顔がない」

「・・・・・・」

本音を語る・・・このパターン。

言い包められかけていることに気付いた時には、もう遅い。

「という訳で―」

コハクはにっこり微笑んで、トパーズの肩に手を置いた。

「僕の代わりに、ヒスイの様子、見てきてくれる?」

 
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