World Joker/Side-B

76話 めちゃくちゃ愛してる




一行は、モルダバイト西の砂漠へと帰還した。

氷漬けにされたイフリートは依然そのままだったが、オニキスにより復旧作業が再開された。

「ご機嫌だね、ヒスイ」

腕の中にいるヒスイの顎に指を添え、笑いながら、唇を重ねるコハク。

「お尻、大丈夫?」「ん!」

元気のいいヒスイの返事。

「じゃあそろそろ、えっちな下着で、えっちしようね」
「えっ・・・ちょっ・・・おにいちゃ・・・!?」

手際よくコハクがポケットから種を取り出し、砂地に向けて投げる・・・と。
たちまち草木が生え、水が湧き。
砂漠に、二人のためのオアシスが出現した。

「さ〜、行こうね。ヒスイちゃん」

できたての木陰へと、強引に連れ込む。
そこでは・・・
ヒスイがコハクのシャツを掴み、抵抗している様子だったが。
髪を撫でられながら、ちゅっ。ちゅっ。額や頬、目元にキスを受けて。

「も・・・おにいちゃ・・・てばぁ・・・あ・・・んぅ」

コハクの舌を口に入れ、そのまま体を許していく・・・
その首筋にマーキュリーの噛み跡を残したまま―

「・・・・・・」
「どうだ?気分は」

マーキュリーの隣に立つトパーズ。
二人の視線の先には当然ヒスイがいる。

「・・・・・・」

嫉妬の初期症状を軽く通り越して。
焼けつくような感情。
煉獄にいるようだと、マーキュリーが告げる。すると。
クク・・・トパーズは笑って言った。

「安心しろ。煉獄は―」

地獄の一歩手前だ。

「・・・・・・」
(地獄の一歩手前・・・兄さん達より、まだいいってことか)

マーキュリーは瞳を伏せ。
本来の柔和な微笑みを浮かべた。

「だったらこれはお返しします」

そう言ってトパーズに差し出したのは、3階建ての家の鍵だ。

「お父さんや兄さん達は無理でも・・・」

「お母さんひとりぐらいなら、騙せますから」

「口の減らないガキだ」軽く嘲笑して。

「それは預けておく」と、トパーズ。

それから、トパーズにしては珍しく冗談めいた口ぶりで。

「地獄に堕ちたら来い」
「はい」

「兄ちゃん、これで良かったの???」

後ろに控えていたジストが言った。
マーキュリーの男の事情を考慮し、3階建ての一室に、急遽、家具一式揃えたのだが。

「まあいい」

トパーズは咥えた煙草に火をつけ。

「しばらくは空き部屋だ」

「なー、俺思うんだけどさ」
と、メノウ。
いつの間にか会話に混じっている。

「コスモクロアのあの家、ヒスイを連れ込むために作ったにしちゃ、広すぎんだろ。部屋数も多いし」
「・・・・・・」
「お前のことだから、最初から考えてたんじゃないの?あの家が―」

ヒスイと一緒に暮らせなくなった弟達の避難所になるように。

「そうなのかよ」
と、アイボリー。
話は一部始終聞いていた。
トパーズは答えなかったが、代わりにメノウが。

「何でだと思う?」

ヒスイが安心して“銀”の子供を産めるように。

「―だろ?めちゃくちゃ愛してんじゃん」

それは、トパーズにしかできない愛し方。

「うるさい、ジジイ」

そう言いながらも、トパーズは否定しなかった。

「俺はずっと屋敷に残るぜ」

移住の誘いすら受けなかったというのに、構わず話を進めるアイボリー。

「“こちら側に、来るな”って、トパーズが言ったんだからな」

「俺はヒスイの一番近くで―」

「フラれ記録No.1を目指す!!」

「トパーズもオニキスもジストも、結構いってそうだけど、すぐに追いついてやるぜ!見てろよ!」

何を言い出すかと思えば。
自虐に前向き。
これには兄弟一同笑ってしまう。
苦笑いに大笑い・・・それぞれの口許から白い牙が覗いた。
幻獣界に行っている間に丸一日が過ぎ、次の太陽が昇ってきていた。

(不思議だな・・・あーくんは)
マーキュリー、心の声。
笑いの中心にいるアイボリーは、“銀”のはずなのに、“金”のようで。
月の光より、太陽の光が似合うのだ。

「・・・・・・」
(ぴったりじゃないか)

アイボリーが“金”で、自分が“銀”。
トパーズから預かった鍵を握り締め、やっぱりこれで良かったのだと思う。

(恋愛確率100%の“銀”なら、あのひとに「好き」と言う手間が省けるし)

楽でいい―と、自嘲。

そしてこちら、ジスト。

(まー、なんで笑ってんだろ???)

そんなマーキュリーの隣に並ぶアイボリーは暢気に欠伸をしている。
見た目も性格も全然違うが、ジストにとっては、どちらも可愛い弟だ。
ジストは、双子の間に立ち、双方の肩を力いっぱい抱き寄せた。

「ジスト?」「ジスト兄さん?」

(ヒスイはオレ達のものにはならないけど―)

愛する喜びも、痛みも、分け合うことができるから。
強く生きような!兄弟!



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