World Joker/Side-B

75話 最善の結末




「そう急かすなって。余裕なくなったの、お前のせいじゃん」

メノウが言うと。
コハクは“あくまで事故”であることを誇張した。

「・・・な、あれでさ、セレのヤツ、喰うと思う?」

命のタイムリミットが近づいているリヴァイアサンを見ながら、メノウが指差す。

「思いませんねぇ」と、コハクが答えた。

「ベヒモスに喰わせていた意識から、彼の本心を引き摺り出してみたんですよ」

調教中の話だ。

「ふ〜ん。で、どうだった?」

メノウの、その質問は軽くスルーし。

「ところでメノウ様はご存知ですよね?ベヒモスとリヴァイアサンは―」

同じ条件下で封印してしまえば、“対”となる。

「彼が二重喰いする必要もない訳です」

セレのように。悪魔を…リヴァイアサンを喰える人間がいれば。

対でなかったが故の苦しみから解放される。

ベヒモスを所有するセレの異常空腹などがそれであり、対の存在を得ることで、調教の必要もなくなるのだ。

「メノウ様」
「ん〜?」
「わざわざそんな格好で身を隠していたくらいですから、化かされるのは癪でしょうけど―」

「いってらっしゃい」


『私がうーんと長生きして、思い知らせてあげるわ!セレは普通の人間なんだってこと!』

ヒスイは、オニキスと手を繋いだまま、セレと向き合っていた。
視線をオニキスへと流し、セレが口を開く・・・

「長い刻を恐れることなく生きられるのは、ヒスイのおかげかね?」
「ああ」

オニキスは即答し。

「世界に愛する者がいる限り、生きることに迷いはしない。眷属でも―人間でもだ」

「私も早く見つけなければね」そう言って、苦々しく笑うセレに。

「だから、いるじゃない!!」勘違いをしたままのヒスイが吠える。

「お母さん!!リヴァイアサンが!!」

割り込むマーキュリーの声。
その間にも、リヴァイアサンの灰化は進行し。
魔界の風に消えてゆく。
鞭での仮縫いが解け、首と胴体がバラバラになりかけた、その時。

「・・・ったく、ヒスイもオニキスもいいこと言うじゃん」

頭を掻きながら、メノウが姿を現した。

「!?お父さん!?」

どうしてここにいるの!?と謂わんばかりに、ヒスイは目を丸くしている。

「よっ!」

メノウは、お馴染みの挨拶をセレに。
それから言った。

「ま、“人間同士”助け合わなきゃな」
「恩に着るよ」

セレのその言葉を合図に、メノウが動く。
リヴァイアサンを見据え、ニヤリと笑った後、虚空を掴む仕草。

そして、もぐもぐ・・・口へと運ぶ。

同時に、眩い光が弱ったリヴァイアサンの肉体を包み。次の瞬間。
跡形もなく、その姿は消えていた。まるで手品だ。

「俺天才だから、悪魔喰うぐらい、楽勝だし」

セレの代わりに喰ってやった、と、メノウ。
何年寿命が延びたかは、定かではないが。

「え?え?何がどうなってるの???」

混乱しているヒスイの隣にコハクが舞い降り、囁く。

「もうしばらく、一緒にいられるってことだよ、メノウ様と」
「!!ホント!?」
「うん」
「お父さんっ・・・!!」

ヒスイは嬉しそうにメノウの元へと駆けていった。


一方で。

「一体これは・・・」

マーキュリーもまた、驚きを隠せない。
ある意味一番翻弄された人物なのだ。

「総帥は何を考えて・・・」

するとコハクが。

「本当に死ぬつもりだった訳じゃない。けど、何が何でも生きようとしていた訳でもない・・・ってところかな」
と、説明。
相槌を打ったセレがこう続けた。

「人生は選択の連続、などという言葉をどこかで聞いたことはないかね」

長い刻を生きる中で。
それに疲れて。
“答え”を誰かに託したくなった。

「特定の誰かひとりではないよ。自分を取り巻くあらゆるものに、身を委ねてみるのも一興かと思ってね」
「こういう大人になっちゃだめだよ」

そうコハクが耳打ちすると。
セレはすかさず。

「君も経験があるだろう?コハク」
「僕の場合は、ただ単に考えるのが面倒だっただけですけどね」

それもヒスイに出会うまでの話、と、しっかり付け加える。

「・・・・・・」
(成り行き任せ・・・そういうことだったのか・・・)

マーキュリーが疲労の溜息を漏らす中。

「とはいえ結果的に、最善の結末となった訳だ」

レムの声と笑いが響く。

「おい!待てよ!レム!」
アイボリーが呼び止めるも。

「“選択をしないという選択”には、お手上げさ」
と言い残し、闇へと溶けていった―
指名手配犯だが・・・

「追わなくていいよ」と、コハク。

「彼も被害者みたいなものだし。元々、無茶をするタイプの悪魔じゃない。あーくんの友達のようだしね」

また会う機会もあるだろう、と締め括る。

「まーくん、すまなかったね」
「いえ・・・」

拍子抜けといえば、拍子抜け。
諸悪の根源は・・・セレ本人だったのだ。
ただ・・・

「・・・母が喜んでいるようなので。僕は構いません」

見ればヒスイはメノウに抱き付いて笑っている。
コハクも笑顔で見守り・・・そのままセレに言った。

「対になるのは、ベヒモスとリヴァイアサンだけじゃない」

「貴方が人間であり続ける限り、メノウ様も人間で―」

「逆もまた然り・・・かね?」
「そういうことです」
「・・・メノウには感謝しなくてはね」
「くすっ。それがいいと思いますよ」



ページのトップへ戻る