World Joker

番外編 三部作/二作目

スパイシーチョコレートパニック

男性キャラ全般×ヒスイ

2月14日――

エクソシスト教会、司令室。
打ち合わせのため、コハクとセレが居た。
そこにヒスイが顔を出す。
「お待たせ!はい!お兄ちゃん!」
「ありがとう、ヒスイ」
チョコレートとキスをコハクにプレゼントするヒスイ。
「はい、ついでにセレにも」
「おや、これは嬉しいね」
「・・・・・・」
セレの存在は、この際無視で。
「じゃあ、いただこうかな」と、コハク。
本命は他と違い、豪華なBOX仕様だ。
「ちょっと待って!」ヒスイが止める。
「目の前で開けられるの、なんか恥ずかしいから」
私がいなくなってから食べて――と。
ヒスイはこれから義理チョコ配りで忙しいのだ。
「じゃあ、またね!お兄ちゃん!」
「うん、あとで迎えに行くから、アクアのところで待ってて」
「うんっ!」
ちゅっ。コハクとキスを交わし。
ぱたぱたぱた・・・ヒスイの足音が遠くなる。
「さて、っと」
ヒスイの手作りチョコレートを堪能する気満々のコハク。
今年はどうしても都合が悪く、次女アクアにヒスイの付き添いを頼んだのだ。
(出来はどうかな?)
見た目は、いつもと変わらず、う○こだが。楽しみでもある。
監修を任せたアクアの料理の腕を信用しているからだ。
従って、疑いもしなかった。
今年のチョコレートが、とんでもないことになっているのを。
「♪」
リボンを解き、丁寧に包みを開け、う○こチョコを一粒取り出す。
(それじゃあ、いただくよ、ヒスイ。今日も愛し――)


――辛!!!!!


(なんだ、コレ・・・)
口に入れたチョコレートが、とにかく辛い。
(舌が痺れる・・・)
“口から火を噴く”というのがぴったりの状態だった。
(油断した・・・これ配っちゃ駄目なやつ・・・)
あまりの辛さに、軽く意識まで遠のきかけた・・・が。
セレの手前、表には出さない。
一方・・・
「大丈夫かね?」
コハクを気遣う余裕を見せるセレ。対するコハクも。
「僕は辛党ですから。これくらい何とも」
「おや?少々声が掠れているようだか?」
「そういうあなたも、口から煙が出てますよ?」

「・・・・・・」「・・・・・・」

互いに笑顔を見せつけ合うが、コハクもセレも動けなかった。
「飼っている悪魔に喰わせたのだがね、あまりの美味さにノックアウトされたようだ」と、セレ。
口から煙が出ているのは、そのせいだ。
「実にスパイシーなチョコレートだよ」
「はは、そうですね」

「・・・・・・」「・・・・・・」

二人とも“まずい”とは言わない。
張り合うように、二個目のチョコレートを口にして。
「しかし何だね」セレがこう締め括る。


「流石に少々、胃が痛む」





こちら、ヒスイ。

教会内で、サルファーとスピネルにチョコレートを渡し。
その後、順序良くジストにも渡すことができた。
次の行き先は、オニキスの職場だ。
心の声でオニキスを呼び出し。
「はい、これ」
「ああ」
義理感は否めないが、ヒスイからのチョコレートはやはり嬉しい。
「ホワイトデーに欲しいものはあるか?」
限りなく優しい口調でオニキスが尋ねる、と。
「考えとく!」
そう言って、ヒスイが笑った。
無邪気な姿が今日も愛おしい。
後の惨劇を知らないオニキスも自然と笑顔になった。
「オレが最後か?」
「ううん、これからトパーズのとこ!じゃ、またね!」
こうしてヒスイは最後の被害者・・・もとい、トパーズにチョコレートを渡すべく、三階建ての家を目指した。


オニキスは職場に戻り、そこでヒスイのチョコレートをひとつ、摘んだ。
「――!?」(何だ、これは・・・辛い・・・のか?)
味覚がおかしくなるほど、辛い。
内臓が焼け爛れるようで、呼吸さえままならないまま、激しく咳込むオニキス。
この調子で仕事ができる訳もなく、早退する羽目になった。
(一体・・・何が起きた?)
帰路に就くも、意識が朦朧とする。
真冬といってもいい時期なのに、汗が止まらず、喉が異様に渇く。
建物の壁に寄り掛かり、ネクタイを弛めても、少しも楽にならなかった。


「オニキス?大丈夫?」


そんなオニキスを心配そうに覗き込む者がいた。
「・・・スピネル・・・か?」
「うん、迎えにきたよ。ママのチョコを食べたジストが気絶したんだ。もしかしたら、オニキスも同じ目に遭ってるんじゃないかと思って」
「・・・・・・」
「肩、貸すよ」
「・・・すまんな」
それにしても――と、スピネル。


「どうしちゃったんだろうね、ママ」


――これは、あとで明らかになる話だが。
『甘さのなか、ほのかにピリッとする、大人のチョコレート』をコンセプトにした、う○こチョコを大量生産するにあたり、失敗作と成功作※五分五分※を、それぞれ大皿に取り分けておいた。
しかし、柄が同じだったこともあり、それを皿ごと間違えて、ラッピングしてしまったのだ。
う○こチョコの見た目がどれも大差ないため、監督のアクアもそれが失敗作だと気付かなかった。
1/2の確率の凡ミスだが・・・致命的である。





そして、三階建ての家。

ヒスイと入れ違いで、トパーズが帰宅した。
「・・・・・・」
自室の机の上に置かれた、ヒスイのメッセージメモとチョコレート。
どんなに見た目が、う○こでも。
ここ十数年、味は安定していた。※コハクと作っていたため※
迷いなくそれを口へと運ぶトパーズだった、が。
「・・・・・・」(何を入れたらこんなに辛くなる・・・あのバカ)
体が熱い。全身に汗が滲んだ。
トパーズはネクタイを解き、シャツのボタンをいくつか外した。
ベッドに横たわり、灼けそうな喉で浅い呼吸を繰り返す様は、妙に色っぽく。
「あ・・・兄上ぇぇ!!一体どうしたというのだ!?」
猫シトリンが慌てる。
チョコレートのおこぼれを貰いにきたところだった。
「ヒスイのチョコを食っただけだ」
苦しげに息を吐くトパーズ・・・その唇が艶めかしく色づいている。
「・・・なんだかエロいぞ、兄上。媚薬でも入っていたのか?」
「知るか。ヒスイを連れてこい。責任取らせる」
「わ・・・わかった」





「どうしたの???」
猫シトリンに連れられ、ヒスイは再び三階建ての家へやってきた。
ヒスイ本人は、自分が配ったチョコレートが、大惨事を引き起こしたことに気付いていない。
「トパーズ!?風邪でもひいたの?」
トパーズの姿を見るなり、ベッドに駆け寄り・・・
「ひぁ・・・っ!?」
引き摺り込まれる。
「トパ?熱あるんじゃない?顔すごく赤いよ?あ、もしかしてリンゴ病とか・・・」
組み敷かれ、下になったヒスイが、トパーズの頬に触れる。
「誰のせいだと思ってる」と、トパーズ。
そこで、猫シトリンに出ていくよう横目で指示した。

二人きりの室内。

「あ・・・」
ポタリ、トパーズの首筋を伝った汗がヒスイの上に落ちる。
「トパーズ・・・」
ヒスイがトパーズの唇に細い指先を乗せた。
そのまま輪郭をなぞるように滑らせる。
「・・・・・・」
いつもの“キスを拒む”ものとは違う気がした。
「・・・・・・」
黙ってトパーズが唇を寄せる・・・と。
ヒスイは一言。


「唇、腫れてるよ?」


「・・・・・・」
言われてみれば、唇がヒリヒリする。
激辛チョコレートのせいだ。ただし。
「・・・バカ」
熱を持っているのは、辛さのせいだけではなかった。
トパーズは、火照った唇をヒスイの肌に押し当て。しばらく動こうとしなかった。
「トパー・・・ズ?」(もしかして、重症?)




翌日――赤い屋根の屋敷。

「お兄ちゃん!?どうしたの!?」
スパイシーチョコレートの二次被害。
男達は皆、唇が腫れていた。
それを隠すために、マスクをしている。
コハクをはじめ、チョコレートを食べた男達全員がマスク着用を余儀無くされたのだ。
(アクアに任せっきりにした僕が悪いんだけど)←コハク、反省の心の声。
「・・・ね、ヒスイ」
「うん?」
「やっぱり、バレンタインのチョコレートは、僕と一緒に作ろうね」
「うんっ!」

+++END+++

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