世界に春がやってくる

番外編

恋物語+

3月14日。ホワイトデー
サファイア、天使の花嫁他

[前編]

「本日ハ、お忙しい中お集まりいただき、アリガトウゴザイマス」


「それでハ、百物語ならヌ、恋物語ヲ始めマス♪」


外国語教師らしく、ハキハキとした口調で、サファイアが言った。
ここは、理事長室。
普段はトパーズが使用しているが、女子会のため、本日は貸し切りだ。
集まった女子メンバーは、ヒスイ、ルチル、ジョールの花嫁組と、シトリン※人型※、タンジェ母娘。
そして司会のサファイア、計6名だ。
女子会向けの大人可愛いテーブルセットが用意され、アロマキャンドルが6つ。
それぞれに火が灯っている。
百物語の雰囲気に似せつつ、怪談の代わりに恋バナをする場なのだ。
皆、さほど深く考えずに集合したが・・・
これからひとりずつ、赤裸々トークをする羽目になるのだった。


「さて、では、どなたカラ発表して貰いましょうカネー」
「・・・・・・」×5
立候補者は誰もいなかった。
「仕方ナイですネー」
こういう時は、くじ引きだ。すると必然的に・・・
「・・・・・・」←ヒスイ。
くじ運が悪いヒスイが一番手となった。
「話すことなんて・・・」と、ヒスイは困った顔をしていたが。
「初めてノ、エッチのお話でイイデスヨ」
サファイアに仕切られる。
「お話しないト、終わりませんヨ?」
「・・・・・・」
ヒスイは渋々、状況を受け入れ、サファイアにナビゲートされながら、語り出した。
「痛かッタですカ?」
「ううん」
「血ハ出ましたカ?」
「よく覚えてない」と、ヒスイ。
それほど夢中だったのだと話す。
「頭ではわかってたつもりだったんだけど、お兄ちゃんが急に男のヒトになって、びっくりしちゃって・・・ちょっとパニックだったかも」
懐かしそうに、肩を竦めて笑う。
「ヒスイさんでも、そういうことあるんですね」
ジョール、感動の眼差し。
「誰だって、初めてはあるわけだし・・・」と、ヒスイは照れながらキャンドルを吹き消し。
二番手のルチルに、恋バナのバトンを渡した。
「え・・・あの・・・」
職業柄、人前で話すことには慣れているが、内容が内容のため、すらすらとは出てこない。
俯き、ハンカチで汗を拭っているルチルに、サファイアが言った。
「お悩みなどデモ、イイデスヨー」
「悩み・・・ですか」
実は――あるのだ。
ルチルは覚悟を決め、自身の記憶の蓋を開けた。




「ルチル――ルチル」
「は・・・はい」
ベッドの上、ラリマーと二人。
控え目に拡げたルチルの両脚の間から、ラリマーが顔を上げている。
その唇は愛液で濡れていた。
「どうしたのです?」
「いえ・・・あの・・・」
“智”の天使に、口で尽くされることの畏れ多さといったらない。
感じてしまうのも申し訳なく、声を抑えるルチル・・・
「快感はないのですか?」と、ラリマー。
真剣な顔で、続けて言った。


「女性はこうすると悦ぶのではないのですか?」



「――嫌ではないんです。嫌ではないんですが・・・」
天使は、彼は、美しすぎる。不安になるほどに。
皆の前で、複雑な女心を明かすルチル。
「わかります」
ジョールが賛同するなか、ヒスイが言った。
「ラリマーって、真面目すぎて、時々変な方向にいっちゃうのよね。何でも理詰めにしたがるから、大変でしょ」
「そうなんです」
ラリマーは学びに熱心で。
ルチル曰く、保健体育の教科書からセックスのハウツー本まで、徹底的に読み込んでいるのだという。
「でもそれって全部ルチルのためだよね」と、何気なくヒスイが口にする。
一方で、タンジェが。
「尽くされるのに気が引けるのでしたら、ご自分から、尽くすべきですわ」
「尽くす?あの・・・どうやって・・・」と、ルチル。
性の知識はそれなりに持ってはいるが、咄嗟に思い浮かばない。
純情乙女ジョールに至っては、全くわかっていない様子・・・
対するタンジェは不思議そうに。
「どうやって、って・・・お口でですわよ?」
「!!」
思い当たったルチルは一気に赤面。
「ルチルさん?」
完全に遅れを取ってしまったジョールはオロオロ・・・そして先輩花嫁のヒスイを見る。
若干上擦り気味の声で・・・
「ヒスイさんは、されているんですか!?」
「えっ!?あ、うん。覚えたての頃はよくしてたよ」
とはいえ、何もしなくてもコハクが気持ち良くしてくれるため、近年ではその機会もめっきり減ったが。
「男性によろこんでいただけるものなのですか?」
ルチルを差し置き、ジョールが迫る。
フェラチオの何たるかがわからぬまま、ぐるぐる、目を回す勢いだ。
見兼ねたシトリンが、ジョールの肩に手を置き。
「あのな、ジョール。ゴニョゴニョ・・・」
包み隠さず、フェラチオの説明をした。
「ちなみに私は得意だ!なにせ猫だからな!」
耳打ちのつもりが、地声が大きいため、周囲にダダ漏れである。


再び俯き、ハンカチで汗を拭うルチルに、今度はヒスイが声をかけた。
「恥かしいこともあるけど、どれもみんな愛情表現でしょ?嫌じゃないなら、素直に受け入れた方が、お互い幸せだと思うよ」
・・・ヒスイは、自分以外の恋愛事にはマトモなのだ。
「流石、年の功デスネー」と、サファイアが拍手。
ルチルに代わり、2本目のキャンドルを吹き消し、言った。
「クフフ・・・まずハ、正直なお気持ちヲ、彼に伝えてみてハ?」
「は、はい。そうします」


「さて、お次ハ――」

[後編]

サファイアの視線が向く先は、混乱中のジョール。
くじ引きで三番手に決定していた。
「さあ、話せ!遠慮はいらん!」と、他でもないシトリンに背中を叩かれ。
立場上・・・断れない。
「・・・・・・」(でもこれで良かったのかもしれないわ)
ジョールにもまた、悩みがあった。

以下、回想と告白。

「あっ、あっ・・・イズさ・・・あ・・・っ、あっ」
ジョールの上で、腰を振り続けるイズ。
「あっ、あっ、あっ・・・けほっ、けほっ」
その間、喘ぎ続けていたジョールが咳き込む。
「ジョール・・・だいじょう・・・ぶ?」
「平気です、イズさん・・・」
そう答えたジョールの声は、少し枯れていて。かなり息も切れている。
イズが心配そうに覗き込む・・・それもいつものことだった。
「続けて・・・ください」
イズの頬に触れ、ジョールが淡く微笑む。
「ジョール・・・気持ち・・・いい?」
「はい、気持ちいいです。ですから、どうか、やめないで・・・」
ジョールの願いに応えるように、イズの腰が動き出した。
「あっ・・・あっあっ・・・あ・・・イズさ・・・けほっ」




「――という訳でして」
ジョールは、赤く染まった顔を両手で隠し。
「なかなかその・・・お出しにならなくて」
「あー・・・」と、シトリン。
イズが遅漏気味であることを察するが、それ以上に、タンジェが強い反応を示した。
いきなりジョールの手を握り。
「大丈夫ですわ!わたくしにお任せなさい!」
「タ・・・タンジェ様?」
サルファーとのセックスに苦労してきただけのことはある。
性の知識はかなり豊富で、しかも先進的だった。
タンジェは、早漏でも遅漏でも問題ないと力強く言い切り。
「方法はいくらでもありますわ」
「タンジェ様・・・」
早漏、遅漏の意味はなんとなく理解できた。
ジョールはタンジェの手を握り返し、続く言葉に真摯に耳を傾けた。
「前戯は男性がするものと思いがちですけれど、そうではないのですわ。先程もお話した通り、女性から、というものありですの」
それから改めて、フェラチオについて、更にはパイズリについて説明する。
「挿入以外の行為で、お相手の興奮を高めて差し上げれば良いのですわ」
それは、男性側にも言えることだが、あえて省略し。
「ええ、ええ、わかりました。タンジェ様、ありがとうございます」
ジョール、ここでも感動。
(ジョールさん・・・良かった・・・)
我が事のように、胸を撫で下ろすルチルの傍ら、サファイアが3本目のキャンドルを吹き消した。




四番手は、タンジェだ。
タンジェはこれまでの勢いのまま。
「わたくし、アナルセックスに興味があるのですけれど」と、恥かしがりながらも言った。
「どなたカ、ご経験のアル方――」と、サファイアが切り出した、その瞬間。
「「!!」」
ヒスイとシトリンが硬直した。そして・・・
「は・・・母上を見るなぁぁぁ!!」
突如叫んだシトリンが、ヒスイを抱き隠す。
シトリンは知っていた。というか、実際に見たことがある。
ヒスイがアナルセックスをしているところを。
「っ〜・・・!!」
ヒスイは、シトリンの腕の中で真っ赤になっていた。
シトリンは周囲に“見るな”と言ったが、見るに決まっている。
シトリンのその行動こそが、ヒスイが経験者であることを露骨に裏付けているのだ。
サファイアはそれが面白くて仕方がないらしく、「いつカラですカ?」と、尋ねた。
「私の番はもう終わってるでしょ!?」
正論を口にしたヒスイだったが・・・
1本目のキャンドルに再び着火されそうになり、慌てて答えた。
「子供産む前からしてたわよっ!!」
「そ・・・そうなのか?」
これにはシトリンも驚く。
「まあ、あいつなら、やりそうではあるが・・・」
最近はどうなんだ?と。
味方であったはずのシトリンまで質問を飛ばしてきた。
「時々してるけど・・・」
「母上・・・それは・・・き、気持ちいいのか?」
・・・どうやら興味があるのは、タンジェだけではないらしい。
結局ヒスイは、皆の視線を一身に浴びることになった。
「では、ヒスイサン、アドバイスヲ、お願いシマスー」
「・・・アクアに伝授したから、興味があるなら聞いてみて」⇒オトナのストセラS系セックス参照。
「――だ、そうデス」
サファイアがまとめ、タンジェの、4本目のキャンドルを吹き消した。
これで残るはあと2本・・・だが。




五番手――シトリン。
「最近めっきりご無沙汰だからな!ネタが何もない!」
なぜか堂々と、自ら火を吹き消し。
六番手のサファイアは・・・
「ワタシは、処女ですのデー」と、話した。
大人の色気漂うサファイアの、意外な発言に、皆、目を丸くする。
「え?あれ?アレキは?」と、ヒスイ。
この場合、大人ver.のことを指している。
「残念ながラ」
「そっか、じゃあ、もうすぐだね」
「だと、イイんですケドネー。まだまだコドモなのデ」
アレキは三つ子兄弟と同じ歳だが、種族故の定めで、成長が非常に遅いのだ。
サファイアは苦笑いで、最後のキャンドルを吹き消した。


「!?」×5←サファイアを除く5名。


室内は一瞬真っ暗になったが、すぐに照明の灯りが戻った。すると。
「わ!?お兄ちゃん!?」
ヒスイが歓喜の声を上げる。
「ラリマー!?」
「イズさん!?」
「サルファー・・・」
「おお!ジン!」
それぞれのパートナーが隣に立っていた。
「ご協力、感謝します」
サファイアに向け、コハクが言った。
「イエイエ、コチラも楽しませて貰いマシタ♪」


今日は、3月14日。ホワイトデー。


男性陣がサプライズプレゼントの準備をしている間、サファイアが女性陣を引き受けたのだ。
男性陣のサプライズプレゼント・・・それは、手作りのアクセサリー。
合同で、二週間前から、工房を借りていた。
各自のこだわりが強いあまり、当日までズレ込んでしまったが、全員何とか間に合った。
「バレンタインのお礼、受け取ってくれる?」
「ありがと!お兄ちゃん!」
ヒスイをはじめ、大喜びしている女性陣を、サファイアが笑顔で見守る。
「ママ!」
そこに、アレキが駆けてきた。
「ぼくも、サルファーと一緒に作ったんだ!」
そう言って、木彫りのブレスレットを差し出す。
「あまり難しいのはできなかったけど・・・ママ?」
「・・・・・・」
まだまだ子供と思っていたアレキから、こんなに素敵なプレゼントが貰えるとは予想もしていなかった。
「・・・アリガトウゴザイマス」
嬉しそうに、瞳を伏せるサファイア。
低く屈んで、アレキを抱き締める・・・と。
「ママ、大好きだよ」
耳元で、幼いアレキの声がした。
「・・・・・・」(大好き、の意味が違うのでしょうガ・・・」



(私にとってハ――)



これもひとつの、恋物語。

+++END+++

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