World Joker

番外編 ※シリーズ外伝TEAM ROSE11]まで読破された方向け

プロポーズ、その前に。

メノウ一族

[前編]

コクヨウとアクアの結婚。

メノウに提示された条件は、教会の重要な任務を成功させること。

その後のある日――

「話が違うじゃねぇか!!」
コクヨウがメノウに食ってかかる。
「ま、そう言うなって。一応話はついてんだからさ。コハクに殴り飛ばされるよかいいだろ?」
森の中に、二人を含め10人。親族が集まっている。
「だからって、なんでこうなんだよ!!」
メノウ主催の、ちょっとしたサバイバルゲーム・・・当然そこは結婚を賭けて、だ。
表向きは親睦会。真実を知る者は、メノウとコクヨウ、そしてコハクだけである。

コクヨウを筆頭とした、メノウ、アクア、オニキス、スピネルの“A”チームと。
コハク率いる、ヒスイ、トパーズ、ジスト、サルファーの“B”チーム。
5vs5の戦いとなる。

チームごとにデザインの異なる迷彩服を身に纏い、手にしている銃のサイズも様々だが、すべてペイント弾となっている。
120分という時間内に命中した回数で得点が加算され、配点は、リーダーが10点、副リーダーが8点、以下4点・・・最終的に獲得点数の多い方が勝利となる。
ただし、誰がどの役職に就くかは、互いに伏せる決まりだ。


チームAとチームBに分かれ、それぞれの拠点へ。
戦闘開始時刻はAM10:00。只今AM9:45。
準備と作戦会議の時間だ。

こちら、チームA。

「そんじゃ、リーダーはコクヨウで」
メノウがスムーズに場を仕切る。
「副リーダーは誰でもいいんだけどさ」
一番狙われにくいだろうという理由で、スピネルの名を挙げ。スピネルもまた、快く引き受けた。
配置に就くべく、皆が動き出す中。
「急に呼び出して悪かったな」
メノウがオニキスに声をかけた。
「いや、構わん。今日は休日だ」と、オニキス。
するとメノウが、「ところでさー」と、話を切り出し。
白々しい会話で、結婚の話題へと繋げた。
「ここだけの話、お前的にはどうなの?」
「どう、とは?」
「コクヨウとアクアの結婚。心から祝福できんの?間接的ではあるけどさ、あいつのせいで死んだワケじゃん」
対するオニキスは、苦笑いでこう答えた。
「オレは、オレの判断で死を選んだまでだが・・・そうだな、強いて言うなら」
「強いて言うなら?」
「眷属になったからこそ、今、こうしてヒスイと共にある。家族を持つこともできた。何より――」



「愛する女に置いて逝かれる心配がない。それだけでも、オレは恵まれている」



「死の代償として、充分すぎるほどだ」
「――だってさ。良かったな」
次にメノウが話を振ったのは、背後にいるコクヨウだった。
「聞いてたろ?」
「たまたま聞こえただけだ!!」
「ならばついでに言っておこう」
メノウの意図を察したオニキスは笑いを堪えながら。
「もうお前に罪や罰はない。安心して幸せな家庭を築くといい」
「・・・・・・」
オニキスとは、日頃接点がないため、長いことわだかまりとして残っていたが、それも消えた。
コクヨウが決意を新たにしたところで。
メノウがチームBの拠点を仰ぎ見て言った。
「ま、問題はコハクだな」




AM10:00。サバイバルゲームが開始された。

こちら、チームB。

「お兄ちゃんは私が守るってば!!」
「ふん。お前の実力なんか、たかが知れてる。父さんは僕が守る」
コハクをリーダーに据え、ヒスイとサルファーが早速揉めていた。
「だったら、30分でどっちが多く点数稼ぐかで決めようぜ」
「望むところよ!!」
「ヒスイっ!?サルファー!?」
ジストが呼び止めるのも聞かず、方々へ散る二人。
トパーズはトパーズで単独行動・・・チームワークどころの話ではない。
拠点に残ったのは、ジストとコハクのみ、だ。
「・・・・・・」
(せめてヒスイには傍にいて欲しかった・・・)←コハク、心の声。
しかしそこで。
(考えようによっては、これで良かったのか)と、笑う。
「父ちゃんはオレが守るから!」と、意気込むジストに、自分よりヒスイを守るよう指示し。


「さて、それじゃあ、コクヨウでも集中攻撃しに行こうかな」




メンバーが点在する森の中。戦闘開始から10分が経った頃・・・
サルファーの銃口が、アクアを捕らえた。
ゲームと割り切り、パンッ!迷いなく発砲する。
ところが。ほぼ同時に撃ち返された。
アクアの身体能力は、今や兄達にも引けを取らないのだ。
互いにターゲットとみなし、激しい撃ち合いが始まった。


「サルファーに負けてられないわ」
狙撃銃を抱えたヒスイが呟く。
それから、心の声で敵軍のオニキスに呼びかけた。
(オニキス!)
「ヒスイか、どうした?」※心の声と兼ねて※
(今、どこ?)
「――――」
オニキスが場所を告げると。
(わかった!そこでじっとしてて!)
そして間もなく・・・パンッ!銃声が木魂する。
「!!」
オニキスは反射的に手のひらで受けたが、早くもヒスイに得点を与えてしまう。
「・・・・・・」
「あはは!我が娘ながら、酷いよなぁ」
隣にいたメノウが笑い。目を細めて先を見る。
「俺、視力は結構いい方なんだけど」
ヒスイを見つけることはできなかった。相当離れた場所から狙い撃ちしたようだ。
「スナイパーの才能、あるよ。特にお前は絶好のマト」
「・・・だな」
「でも、ま、ヒスイはお前しか撃たないだろうから、ここでヒスイと遊んでてよ」
「何点獲られても、結果は変わらない、と?」
「ま、そゆこと」

[後編]

「ヒスイ、どこ行っちゃったんだろ?」
ヒスイを探し、森の中を彷徨うジスト。
今回、魔法の使用は禁止されているため、例の特技も使えない。
「――ジスト?」
「スピネルっ!?」
木漏れ日の下、出会った二人。
敵同士ではあるが、お互い銃を構えることはせず。
「ママを探してるんだ」と、スピネル。
「ちょっと伝えたいことがあって」
「伝えたいこと?」
「うん、もしかしたらの話なんだけど――このゲーム、アクアの結婚が賭けられてるんじゃないかと思うんだ」
「!!そういえば・・・」
メノウ主催のイベントにつきものの、賞品の話が一切出ていない。
そもそも、コクヨウが積極的に参加している時点で不自然だ。
「皆、薄々気付いてるんじゃないかな」
気付いていないのは、ヒスイとサルファーくらいで。
恐らく今、その二人がムキになって点数を稼いでいる。
「だったら早く止めないとっ!」
「そうだね」
二人は銃声を頼りに、森の奥へと走っていった。




一方、こちら、森の広場では。
コハクとコクヨウ、リーダー同士の対決となっていた。
「手加減はしないでおくよ」
コハクの発言に。
「チッ!!死ぬ気でやってやらぁ!!」
そう言い返したものの・・・
両手に拳銃を持ち微笑む姿に、圧され気味のコクヨウ。
「久々だね、こうして闘り合うのは」
「一方的だろーが!!この極悪天使!!」
「でも、その娘が欲しいんでしょ?君は」
「そーだよ!!文句あっか!!」
「文句?ないよ。君がこの勝負に勝てば、ね」


「じゃあ、始めようか」


剣を銃に持ち変えても、コハクの動きが鈍ることはなかった。
無駄撃ちはせず、一発、二発と、恐ろしいほど正確にコクヨウを撃ち抜く。
ペイント弾のため、当たったところで怪我をする訳ではないのだが、なぜか寿命が縮む気がする。
「クソ・・・っ!!」
コクヨウは茂みに身を隠し、別れ際、メノウが言っていたことを思い出した。


『コハクとまともに闘り合ったって、勝てるワケないじゃん。とにかく時間さえ稼いどきゃ何とかなるから、死ぬ気で逃げろ』


メノウ曰く、これが必勝法らしいが・・・
「畜生!!騙されたとしか思えねぇ!!」




場面は代わり。森の高台――そこにはトパーズがいた。
片手で構えた銃の先にはコクヨウがいる。
敵軍のリーダーであることは容易に推測できた。
けれども、トパーズがトリガーを引くことはなかった。
そこに・・・
「よっ!」
「ジジイ、何の用だ」
微動だにせず、横目で睨むトパーズ。
「撃たないの?」
「・・・・・・」
「何、お前も結婚賛成派なワケ?」
「・・・・・・」
横を向いたまま、トパーズが黙っていると。
頭の後ろで両手を組み、メノウが言った。


「“銀”の男ってさ、何だかんだで情が深いよな」


「知るか」
そう吐き捨て、トパーズが銃を下ろす。
「――に、しても、コハクの奴、荒れてんなぁ・・・」
「双子の世話で、ここ数日、ヒスイとヤッてないからな」
いい気味だ、と、トパーズ。
「あー・・・それはマズいわー・・・」

ヒスイロス×日数=コハクの凶暴度

コクヨウの苦戦は必至・・・
「頑張れよー」届かぬ声援を送るメノウ。
広場を見下ろし。
「でも、ま、もうちょいで・・・お、きたきた」





リーダー同士の決闘場に現れたのは――ヒスイだった。
「コクヨウ!!私を撃てばいいわ!!」


「私、副リーダーだから!!配点高いよ!!」


狙撃銃を投げ捨て、広場の中心で両手を広げる。
スピネルとジストから話を聞いたヒスイは、チームAの勝利に協力することにしたのだ。
早く!と、コクヨウを急かす。
「私を撃って――」


「アクアと結婚式挙げて!!」


「撃てるワケねぇだろ!!」
草木の間から、コクヨウの声が返ってくる。
「なによ!お兄ちゃんが、怖いの!?」
「そうじゃねぇよ!!」


「テメーにゃ、もう手ぇ出さねぇ!!絶対に、だ!!」


「え・・・でもこれペイント弾・・・」
「うるせぇ!!」
コクヨウは広場に立ち、「何であろうと同じだ!」と、言い切った。
「はぁ???」
「成程、そういうこと」
ヒスイを抱きしめ、コハクが笑う。
「お兄ちゃん?どういうこと?」
コハクの腕の中、ヒスイはきょとんとしている。
「これを僕に見せたかったんですよね?メノウ様」
「そういうこと」
木陰の魔法陣が光を放ち、メノウが姿を現わす。
「コクヨウの“覚悟”、これでわかったろ?」
「!!ハメやがったな!!」
恥かしさから、真っ赤になったコクヨウが、メノウに掴みかかる中。
「それでどうよ?」と、コハクを見るメノウ。
「まあ、そうですね――合格、かな」
コハクはそう答え、チームBの敗北を宣言した。
勝利をチームAに譲ったのだ。
「お兄ちゃん!」歓喜に沸くヒスイ。
驚き半分、喜び半分で固まっているコクヨウを、メノウが覗き込み、得意気に片目をつぶった。
「言ったろ?コハクは何とかしてやる、って」





サバイバルゲームという名の演目は大団円を迎え。
閉会式――プロポーズタイムがやってきた。
チームメンバーに見守られ。
コクヨウから、アクアへ、一言。


「結婚、すんぞ」
「はぁ〜い」

+++END+++

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