World Joker

―外伝―

TEAM ROSE



[ 11 ]

こちら、ヴァンパイアハンター組。メノウとコクヨウ。
吸血鬼組から遅れること半日。
コハクのデザインを元にした教団服が仕上がり、それに着替えたところだった。
正規の手続きを踏むつもりはない。適当に紛れることにした。
従って、階級を示すバッチは新人のものだ。
これならば、多少不審な点があっても誤魔化しがきく。
大がかりなこの任務を、メノウは楽しんでいる様子・・・だが、コクヨウは不機嫌顔だ。
「なんでオレが、人間の味方しなきゃなんねぇんだよ」
獣と融合してしまっているが、本来は真祖吸血鬼のコクヨウ。
ヴァンパイアハンターとして、吸血鬼の前に立つ・・・この矛盾に抵抗があるのも頷ける。
「人間が、どんだけ吸血鬼を敵視してるか、わかんだろ。無駄なんだよ、何やっても」
吸血鬼が人間を食糧とする以上、対立は避けられないのだと吐き捨てた。
「ま、そうかもしんないけどさ」と、メノウ。
続けて、作戦の一端を明かす。
「俺達はヴァンパイアハンターとして、吸血鬼を狩るんじゃない。その逆だよ。吸血鬼を――助ける」
「なんだそりゃ」
「そのうちわかるって!」
メノウはコクヨウの背中を叩き、笑った。
「当然、悪い奴にはお仕置きも必要だけど、吸血鬼にだって、いい奴もいるだろ?サンゴみたいに、さ」
「・・・・・・」
そこで押し黙るコクヨウを尻目に、メノウが言った。
「この任務が上手くいったら――」


「アクアとの結婚、俺が許す」


「コハクは何とかしてやるから」
「・・・ホントか?」
口調は控え目だが、ガッツリとコクヨウが食い付く。
こうしてひとつ約束が交わされ。
「んじゃ、これ」と、メノウがカプセル薬を渡す。
「?なんだこりゃ」
「その銀髪銀眼じゃ、目立つだろ。俺達はあくまで人間のヴァンパイアハンター設定だしな」
メノウ曰く、髪や瞳の色を変える魔法薬で、一族間ではよく使われているという。※開発者はトパーズ※
「俺の遺伝子情報を元に作ったやつだから――」
服用すれば、髪は亜麻色、瞳は翡翠色に変化する。
「兄弟ってことでいいじゃん。実際そうだしな」
「・・・・・・」
いろいろと思うところはあるが、これもアクアとの結婚のため、と。
覚悟を決め、コクヨウはカプセル薬を飲んだ。
「・・・・・・」
説明通りの、亜麻色の髪、翡翠色の瞳・・・牙も、耳の尖りもなくなり、人間の美青年となる。
「んじゃ、行くか!」
「チッ!さっさと終わらせてやらぁ!」




船上では――

「・・・・・・」×4

コハク、オニキス、ジスト、カーネリアン・・・吸血鬼組のメンバーが難しい顔をしていた。
ヒスイからオニキスへの連絡は、ない。
携帯電話も部屋に置きっ放し・・・セレも然りだ。
ヒスイの元へ“飛ぶ”ことができるジストの特技は成功率100%ではなく。
仮に、違う場所へ到着してしまった場合、帰還にどれだけかかるかわからない。
ヒスイのように、すいすいと移動魔法が使える訳ではないのだ。
「あっ!でも兄ちゃんなら、オレがどこにいても連れ戻せるから!携帯持って飛べば何とかなるかもっ!」
ジストの追跡能力と、トパーズの回収能力で、ヒスイの居場所を特定する。
悪くない案だが・・・
「兄ちゃん、今何してんだろ???」
ジストが電話をかけても、繋がらない。
痺れを切らしたコハクは。
「・・・トパーズを連れてきます」
引き摺ってでも、と。甲板から飛び立った。




更に場面は変わり・・・海底都市ルルイエ。

セレと連れ立って歩いていたヒスイが足を止める。
「・・・なんか生臭い匂いがするわね」
中枢の石版まで、あと少しというところだった。
「!!」(半魚人!?)
二足歩行で、シルエットは人間に近いが、鱗やエラ、水掻きがある。
顔面に至っては・・・ほぼ魚だ。
髪が生えている者、いない者。服を着ている者、いない者。
身なりは様々だが、石版の前をかなりの数がうろついている。
「セレ!こっちっ!」
ヒスイはセレを引っ張り、建物に隠れた。
「さて、どうする気かね?」と、セレ。
どことなく、ヒスイ任せの口調だ。
「石版の前から、どいてもらえばいいのよね。だったら――」


『ハーメルン』


ヒスイは一言そう口にして。魔法のステッキを一振り。
すると、音楽家らしきものの影が、半魚人の往来する石版前広場に現れた。
影といっても、黒霧の集合体のようなもので、立体感がある。
その影が、笛を吹きながら歩き始めると・・・
笛の音に釣られて、なのか、半魚人達も並んで後に続いた。
影が半魚人達を引き連れ、石版とは反対方向の大通りを闊歩する。
しばらくすると、石版の前には誰も何もいなくなった。
「面白い魔法だ」と、セレ。
あらゆる特性を持った影を創り出し、使役する。
ヒスイはそれを古代魔法のひとつだと言った。
「傷付けたり、殺したり、そういう戦い方はしちゃ駄目って・・・」
「・・・コハクの教えかね」
「うん。だから今は守ってるの」
「“今は”かね?」セレが聞き返す。
「そう。だってもし、お兄ちゃんがピンチになったりしたら、そんなこと言ってられないじゃない。だから、攻撃魔法も覚えてるよ。あ、これ、お兄ちゃんには内緒ね」
バレたらまたお仕置きされちゃうから、と、ヒスイが笑う。
コハクに限って、それはないと思うがね――という言葉をセレはあえて口にせず、ヒスイと共に笑った。


二人は、石版の前まで来ていた。


彫刻と碑文が施された石版に触れ、解読を始めるヒスイ。
その時だった。
白く、巨大な何かが、石版の裏にいることに気付く。


「え――?」(あれは・・・)


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