番外編（お題No.10）
ラブ・ヴァルキリーⅠ
なぜかモテない天才美青年召喚士のサブキャラ“ラピスがコハクを召喚・・・”かなりお題からズレ気味です。
軍事国家グロッシュラー。
戦好きの野心溢れる王が統治する国だ。
そこで４年に一度開催される武道会。
優優勝者はどんな望みでもひとつ叶えられるという。
各国の猛者達が集い、時には死者さえ出るこの大会にエントリーしたラピス。
彼女イナイ歴２４年。
童貞街道まっしぐらの天才召喚士。
「問題は“何”を召喚するかだよな～・・・」
ラピスの師であるメノウもセコンド役として大会に参加していた。
大会で召喚が認められているのは一体のみ。
審査員の目前で召喚し、登録しなくてはならなかった。
「どうしても優勝したいんだろ？」
「は・・・はい！」
大会への参加を決めたのはラピス自身だった。
「じゃあ、アイツしかいないな」
「え？アイツ？」
「コハク」
「ひぃぃ～っ！！怖いです・・・ぼくあの人苦手で・・・」
恐怖のあまりラピスが奇声をあげる。
「けど、アイツ最強だし。熾天使っていえば召喚できる異種族生態系でも頂点だよ。わかる？一番上なの」
メノウはラピスをなだめて言い聞かせた。
「熾天使なんて普通は喚べないけど、お互い面識あるじゃん？そうすると成功率が飛躍的に伸びるからさ。使わない手はない。コネだよ、コネ」
「で、でも・・・」
「コハクさえ喚べれば、後は寝てても優勝だ。ほら、やってみろって！」
「・・・いい？」
「うん・・・ぁ・・・」
コハクとヒスイ。えっちの時間。
今日もベッドの上で一つになる。
「う゛ぅっ・・・ん」
緩急強弱をつけて動くコハクの腰。
ヒスイを喘がせて心酔。
「あっ・・・あぁ・・・ん・・・おにい・・・ちゃんっ」
「・・・うん・・・イイよ・・・ヒスイ・・・すごくイイ」
（その顔！その声！最高に可愛い！！）
「はっ・・・はぁ・・・」
「う゛っ・・・う゛ぅ・・・ん」
「ヒスイ・・・」
「おにい・・・ちゃん！」
二人に絶頂が訪れた瞬間・・・発動する召喚魔法。
「え・・・？」
光ったのは・・・ヒスイの体だった。
「ヒスイ！？」
「え・・・？ええ～っ！？」
ベッドの上に突如として現れた魔法陣へ吸い込まれていくヒスイ。
無防備・・・そして不測の事態。
コハクの対応は遅れた。
召喚魔法を断ち切ることができない。
「ヒスイ・・っ！あ・・・」
魔法陣と共にヒスイが消えた。
行き場を無くしたコハクのモノはシーツの上に虚しく散った。
「・・・・・・」
（あの魔法陣は・・・ラピス）
コハクは剣を手に取った。
それを床に突き立てる。
「・・・殺ス！！」
ブハァッ！！
ラピスの鼻血。
コハクを召喚したはずの魔法陣から現れたのは全裸で開脚中のヒスイだった。
「あ・・・れ？ここ・・・どこ？」
ヒスイは脚を閉じるのも忘れて茫然としている。
「おとう・・・さん？」
「よっ！久しぶり。悪いね、取り込み中に」
メノウはヒスイに自分の上着を渡し、それからラピスに向かって言った。
「・・・遺書かいとけ。アイツ今頃、怒り狂ってるよ。ヒスイを追ってすぐここに来る」
「うあぁぁ～っ・・・」
杖を握り締めてラピスが涙ぐむ。
「ぼく・・・まだデートもしたことないのに・・・」
コホン！
大会審査員の咳払い。
女性なのがせめてもの救いだった。
「召喚契約の登録は・・・“淫魔”でよろしいですね？」
「なんで私があんなヤツの為に戦わなきゃいけないの！？」
ヒスイの猛抗議。
その相手はメノウだ。
「お父さんがラピスに変なこと吹き込むからっ！」
「ごめん。ごめん。まさか失敗するなんて思わなくてさ」
「ラピスにお兄ちゃんを召喚できるわけないじゃない！」
「実力はあるんだけど本番に弱いんだよな～・・・ラピスは。忘れてた」
「私、インドア派なの！文化系なの！普段あんまり体動かしてないから戦えなんて言われても無理だよ」
「う～ん・・・まいったな。ヒスイで登録しちゃったんだよね・・・」
メノウが腕を組む。
（俺としてもヒスイは戦わせたくない。けど・・・）
「ラピスのヤツ、人一倍臆病で内気なくせに自分からこの大会に出るって言ったんだ。よっぽど叶えたい願いがあるみたいでさ」
「・・・どうせ彼女が欲しいとか、鼻血体質を治したいとか、その程度でしょっ！」
「さぁ、それは俺にもわからないけど・・・聞いてみなよ、本人に」
大会参加者専用の宿舎から出てラピスの姿を探す。
ヒスイはパーカーとミニスカート、“召喚契約～淫魔”という不名誉な札を首から下げている。
「モルダバイトでちょっと騒がれてるからっていい気にならないでよ」
ラピスは町はずれの高台にいた。
ヒスイは隣に立ってラピスを見上げた。
（初めて会った時は私とそんなに身長変わらなかったのに・・・）
７年で驚くほど背が伸びた。
優しい顔立ちは変わらないが女性的な感じはいつの間にかなくなっていた。
すっかり男前だ。
「す、すいません・・・」
しかし、立派になったのは外見だけで気弱な性格は相変わらずだった。
“モルダバイト一の天才美青年召喚士”の肩書きでラピスの名前は時折耳にしていた。
お互い苦手意識があったため顔を会わせる機会がなく、最後に会ったのは６年前・・・ラブラドライトで行われたローズとシンジュの結婚式以来だった。
「まだ恋人できないの？」
「はい・・・ぼく、女性に全然モテないんで・・・」
ヒスイの質問にラピスがガックリと肩を落とす。
今や地位も名誉もそれなりにあるラピス。
背も高く、顔もいい。
（問題は性格よね・・・。よっぽどの変わり者でなきゃラピスとは付き合えないでしょ・・・あんなに鼻血出されたら・・・）
「まぁ、関係のないことだけど。で、優勝したい理由って何なの？私には聞く権利あるわよね？」
「・・・ぼく、この世界が好きなんです」
ラピスは顔を上げて夕焼け空を仰いだ。
「失敗ばかりで何一つうまくいかなくて、自分で自分が嫌になる・・・そんな日でも、変わらず空は綺麗だし、吹く風は優しい。だからまた頑張ろうって思えるんです」
「・・・・・・」
「この国は今臨戦態勢で・・・噂では隣国に戦争を仕掛けるのも時間の問題とか・・・ぼくは・・・世界を守りたい」
「・・・それって戦争を止めさせるってこと？」
「はい。モルダバイトで働くメイドさん達の中にはこの国出身の方も多くいて・・・家族のことを心配していました。ぼくにいつも元気をくれるこの美しい世界とモルダバイトで暮らす人達の笑顔を守りたいから・・・優勝したい。どうしても」
「・・・ふぅ～ん・・・大層な思想ね」
ヒスイも空を見上げた。
そこに柔らかい風が吹く・・・
「まぁ・・・いいわ。協力しても」
「ヒスイ様・・・ありがとうございます～・・・」
その夜。
グロッシュラーに到着。
宿舎に殴り込みをかける天使・・・コハク。
（ヒスイにバレないように消す！あいつは前から気にくわなかった）
建物の外を旋回し窓からラピスの部屋を探す。
「・・・いた」
運良く窓は開いていた。
ラピスは窓に背を向けるカタチでベッドに腰掛けている。
コハクは窓からラピスの部屋へ入った。
そこで・・・
ボトッ、
とコハクが剣を落とした。
あまりの驚きに、だ。
「・・・何、やってるの・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・あ・・・？うわぁっ！！コ、コハクさん！？」
ベッドの上にボックステッシュ。
ラピスは自慰行為の真っ只中だった。
「・・・ひとりで・・・してるの・・・？」
「は、はい～・・・。彼女いないし、自分だと鼻血も出ないんで・・・」
ラピスは赤面の至りという表情でズボンを上げた。
（うっわ～・・・可哀相っていうか、悲惨・・・思春期もコレで乗り切ったのか・・・なんか殺す気失せた・・・）
押し寄せる同情。
「まぁ何というか・・・うん、頑張って」
コハクはラピスの肩を叩いて激励した。
かぁぁ～っ・・・ラピスが赤面する。
「大丈夫。このことは男同士の秘密ってことで」
コハクが片目をつぶって笑った。
「あ・・・ありがとうございます～・・・」
ラピスから大会についての詳細を聞き出し、コハクがまず向かったのはメノウのところだった。
「ヒスイは絶対に戦わせない」
「うん。俺も今それを考えてたトコ」
男同士の内緒話。
「・・・メノウ様、あの呪文教えてくださいよ・・・ホラ、体が入れ替わるヤツ。僕ならヒスイの体に傷ひとつつけることなく戦える」
「優勝できる？結構な強者揃いだよ」
「できます」
「まぁそれはいいんだけどさ・・・お前に教えると悪用しそうだし」
渋るメノウ。
しかし、いつもこの流れでコハクに聞き出されてしまうのだった。
「ふっふっふっ・・・」
秘技“入れ替わり”を早速悪用。
鏡の前で微笑むのはヒスイの体を手に入れたコハクだった。
（あぁ・・・可愛い・・・）
鏡に頬ずりして、キス。
（そうそう、こんな顔とか。こんなポーズとか）
ヒスイの体で試しては大興奮・・・鏡から離れられない。
（はぁ、はぁ・・・堪らない・・・）
ぐちゅ。ぐちゅ。
終いには服を脱ぎ、気が付けば股の間に指を入れていた。
「んふっ・・・ヒスイはこのへんが一番・・・」
容赦なく指を奥まで突っ込んで、中を勝手にいじりまくる。
そして開拓。
「どれどれ・・・他には・・・んっ・・・お・・・ここもなかなか・・・」
（ぅ・・・気持ちいい・・・）
「あ・・・はぁっ・・・んんっ・・・」
自分が出したヒスイの声で更に興奮が増す。
熱中して、没頭して、時間を忘れる。
（ヒスイの指だとここまでしか届かないのか・・・僕の指ならもっと・・・）
「あっ・・・はぁ・・・んっ！あっああぁ！」
大袈裟に声を出してみる。
「お・・・にいちゃん・・・もっとしてぇっ！！・・・なんちゃって」
はぁ。はぁ。くちゃ。くちゃ。
（ちょっとやりすぎな気もするけど・・・やめられない・・・ごめんね、ヒスイ・・・愛してるよ・・・）
いい加減時間も経っているのに指が止まらない。
「・・・っ・・・う・・・あ・・・あぁ・・・ん！」
はぁ～っ・・・。
（・・・イッちゃった・・・ヒスイの体で・・・）
鏡を見てまたうっとり。
「イッた直後はいつにも増して綺麗なんだよなぁ・・・」
「お・・・お兄ちゃん！？」
コハクの声・・・ヒスイだ。
同じ部屋で眠っていたヒスイが目を覚ましたのだった。
優勝の為に入れ替わりを承諾したヒスイがコハクの顔で愕然としている。
「うわっ！？ヒ・・・ヒスイ！！？あの・・・これはその・・・」
「・・・・・・」
「試合前の身体チェックを・・・」
「・・・どこまでチェックする気？」
「・・・ごめん・・・ね？怒ってる？」
「怒ってるわよ！お兄ちゃんは私の体だけあればいいんでしょ！馬鹿っ！！最低！もう知らないっ！！」
「あっ！待って！ヒスイ・・・っ！」
そう言われて待つ筈もなくヒスイは部屋を飛び出していった。
「・・・・・・」
コハクは少し赤い顔で頭を掻いた。
今更恥ずかしくなっても遅い。
「さっさと優勝して汚名返上しないとなぁ・・・」
ワァァ～ッ！！
ラピスに召喚された淫魔が会場を沸かせる。
地面に円を描いて、その枠の中から一歩も出ずに相手を倒すというパフォーマンスで難なく決勝まで勝ち抜いた。
淫魔とは思えぬ清楚で可憐な姿から戦乙女・ヴァルキリーと称され、ラピスとヒスイの美形コンビは大会でも有名だった。
「もうっ！お兄ちゃんはぁっ！目立つことしないでいって言ったのにっ！！」
犬も食わない夫婦喧嘩・・・結局ヒスイの機嫌はすぐに直り、入れ替わった姿のまま愛し合って試合に送り出す日々が続いた。
「あれでも控えてるつもりらしいよ」
ヒスイとメノウは並んで一番前の座席から試合を観戦していた。
「でもなぁ・・・さすがに今回は無理だろ」
「相手・・・強いの？」
「竜使いだってさ」
「竜・・・それで会場の結界を強化してるのね」
結界師の数が倍に増えている。
その分だけヒスイの心配も増す。
「お兄ちゃん・・・大丈夫かな・・・」
試合開始。
ズシンと地響き。
竜が前進する度に会場が大きく揺れる。
グワワーッ！！！
人間の２０倍はある巨体が繰り出す一撃・・・くらえば即死だ。
「とにかく避けて！」
コハクがラピスに指示を出す。
おっとり者のラピス・・・しかし逃げ足は速い。
「ど、どうしましょう～・・・ぼくドラゴンなんて初めてです～・・・」
「う～ん・・・そうだねぇ・・・」
（殺す気で戦えばすぐ倒せるけど・・・ヒスイの体で殺しは・・・）
ヴァァァ～ッ！！
火炎放射。
魔法で創り出すものとは規模が違う。
「あちち！！」
ラピスは逃げまどっている。
（さて・・・どうするか・・・）
コハクは竜を見上げた。
（・・・幻竜族か・・・しかもまだ子供だ・・・）
幻竜族。
擬人化する能力を生まれ持った種族だ。
竜としての能力も非常に高く、それに加え高い知能、人間以上に賢く理性的な生物であるが、人の世にその存在は殆ど知られていない。
会場中の誰もが“竜”であることを疑わなかった。
「竜であって竜でないもの・・・それが幻の竜・・・幻竜と呼ばれる由縁だ」
（本来は争いを好まない種族なんだけど・・・たぶんこれは・・・）
目を凝らして竜の額を見据える。
「やっぱり・・・操られてる」
そこで勝利を確信。
「相手が悪かったね。優勝はいただくよ」
コハクが細く長い槍を構えた。
ヒスイの体で戦うに際して、あえて射程の長い武器を選んだのだ。
「うん。これで正解だった」
「わぁっ！！一体何を・・・っ！？危ないですよっ！！」
幻竜の体を一気に駆け上がるコハクにラピスが下から呼び掛ける。
「今、自由にしてあげる」
頭部まで登り詰め、額に描かれた紋章を軽くひと突き。
ギャァァアッ！！！
みるみる縮む幻竜の体・・・
コハクは羽根を広げて離れた。
ヒスイの小さな羽根・・・飛行は無理でもほんの数秒空中に留まることができれば充分だった。
「しっかり受け止めて」
「え？わぁぁ～っ！！」
下にいたラピスは慌てた。
空から少女が降ってくる。
小さく丸い塊。
見るからに幼い。
背中には羽根があり、お尻には尻尾が生えている。
３歳にも満たないと思われる少女をラピスはなんとか腕に捉えた。
（わ・・・かわいい・・・）
パチッ！
幻竜の少女が瞳を開けた。
「・・・・・・」
じっとラピスを見つめる・・・そして
「・・・パ・パ」
「え？」
ぎゅっ・・・
少女がラピスにしがみつく。
その力は竜だけあって強い。
「ぅ・・・く・・・苦しい・・・」
「ああ、思った通りだ」
くすくすと笑いながらコハクが着地した。
「刷り込み・・・ってやつだよ。君のこと“親”だと思ってる」
「お・・・親ぁ～！？」
「その子ね、生まれてすぐ人間に捕まってずっと操られてたから、本当の親を覚えてないんだ。自我に目覚めて、まず目に入った君を親だと思うのは仕方のないことだ」
「僕が・・・親・・・」
「しっかり守ってあげてね。その子はいずれモルダバイトの守護竜になるだろう。竜の守る国は千年安泰って言うし、まぁ、頑張って・・・」
「は・・・はぁ・・・」
「ひとりえっちに精を出すよりずっと健康的でしょ？」
ヒスイの顔でコハクがにやりと笑う。
ラピスは真っ赤な顔で俯いた。
「えっと・・・ソレはしばらく自粛して・・・子育て頑張ります～・・・」
ワァァァ～ッ！！
大歓声。
ラピスの優勝が決定した。
ラピスはまずコハクに礼を述べ、それから応援してくれた観客に向かって何度も頭を下げた。
「ありがとうございましたっ！」
２４年間、彼女すらできなかったぼくに突然娘ができた。
一番に守るべきもの。
この子はきっと・・・ぼくの宝物になる。
そんな気がした。
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