World Joker

番外編(お題No.37)

初恋デイズ

監禁ラブアピール」後日談



オニキスに降って湧いた、幸運。

“会いたいんだけど”

めずらしく、ヒスイの方からデートの誘い。
急ではあったが、都合をつけて、約束の場所へと急ぐ。
そこにはもう、ヒスイが来ていた。

「あ、オニキス!」
「すまん、待ったか?」
「ううん、今きたとこ」
「そうか・・・」

後の会話が続かない・・・逆転シチュエーションに、オニキスは戸惑いを覚えていた。

「・・・何か、あったのか?」

只事ではないような気がして。
ついそう尋ねてしまう。
すると。

「うん、あのね」

ヒスイは数日前の出来事を話し出した。
暗闇の中で、得体の知れないものと戦ったこと―

「でね、食べちゃったの」

最後にあっさりそう言って、右の手首を指した。

「何を・・・食べただと?」
「だから、ブレスレット」
「・・・・・・」

呼び出された理由はこれか、と、オニキスは悟り。

「わかった。買ってやる」
「ん!!」

二人でグロッシュラーの高級店街へ出向き、ブレスレットを購入。

「右手を出せ」と、オニキス。

「うん」ヒスイが応じる。

銀はグロッシュラーでも決して安くはないが、オニキスは一番良いものを選び、ヒスイの手首に巻いた。

「ありがと!」
「いや・・・」

ブレスレットはもとより、お守りのつもりで渡した。
こうなる可能性も、考えていない訳ではなかったが、思った以上に早かった。

「オニキス?」
「・・・・・・」
(買うのは構わんが・・・)

危険な目に遭ってもらっては、困る。

「・・・もう、食うな」
「うん、ごめんね」
「そういう意味ではない」

オニキスはヒスイの手の甲に口づけ。

「・・・食う前に、オレを呼べ。何のための眷属だ」
「あ・・・うん」
「だがもし、オレが間に合わないようだったら、その時は迷わず食え。また買ってやる」
「うんっ!」

PM2:45 モルダバイトにて。

「じゃあ私、帰るね」
「ああ」
「あ、これ、今日のお礼」
と、ヒスイ。
バッグから何かを取り出し、オニキスに握らせ。走って離れた。

「おい、ヒスイ。礼など・・・」

握った手を開いて、驚く。
そこには・・・銀のブレスレット。

(なぜオレに?)

どういうことか、理解に苦しむ。

「それね―」

ヒスイが立ち止まり、振り返った。

「自分で買ってみたんだけど、なんか違うっていうか。やっぱり―」


「オニキスがくれたものがいいな、って!」


天真爛漫。右手のブレスレットを掲げて笑う。

「ヒスイ・・・」

男心を擽られ、自然と走り出すオニキス。

「わ!?なに?オニキス???」

追いかけて、抱きしめる、と。
今度はヒスイが驚いたようだった。だがそれも一瞬で。
オニキスの腕の中、ヒスイは得意気な顔をして言った。

「ご利益、ありそうだもん!これ」
「ふ・・・ご利益、か。あるだろう。愛がこもっているからな」

ヒスイらしい解釈に、オニキスは笑い。そして、一言。

「好きだ」

抱擁を深くして、積もり積もった想いを告げる。
同じ言葉が返ってこないのは百も承知だが。

「うん」

と、ヒスイが頷く―それだけで、嬉しい。

「私、そろそろ帰らないと、おやつが・・・」
「ああ、わかっている」

わかっているが、ギリギリまで離さないつもりでいる。

(何をやっているんだ、オレは)

いくつになっても、ヒスイの前では冷静でいられない。
気持ちは出逢ったあの頃のまま。

(まったく・・・甘酸っぱい)

けれど。

こんな初恋の日々が続くのも、悪くない。

 
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