世界に咲く花

短編(No.09)

オニキス×サファイア

※「世界に咲く花」完結後のお話です。なおかつ「世界に春がやってくる」第3話まで読んでいないとネタバレします(汗)



「トパーズサンには、色々トお世話になりマシタ〜。お給料もガッポリいただいてマス〜♪」
風に流れる黒髪。
眼鏡美人のサファイア。


「・・・子供を育てると聞いて、協力したくなったのだろう」
(あいつらしい。懸命に子育てをする母親の味方ということか)
逆にヒスイの顔を思い浮かべて苦笑いするオニキス。


それは、偶然の出会いだった。


王となったジンに泣き付かれ、渋々教育機関の総括役に戻ったトパーズ。
真っ先にサファイアを教職に就かせ、教師不足の穴を埋める為、自らも教鞭を執っている。

多忙なトパーズの代理としてオニキスが教育機関の視察に訪れた時のこと。
一通り視察を終え、息抜きに屋上へ・・・そこにサファイアがいた。

放課後。生徒の姿はもう殆どない。

「・・・子供は元気か」
「エエ。お陰様デ♪小学部ノ特殊クラスに入りましタ〜。ヒスイサンのお子サン達ト仲良くさせて貰ってマスヨ〜。よく家ヘ遊びニ行ったりシテ♪」
「そうか」

堕天使のサファイアと世界を賭けて戦ったのは、もう10年も前の話だ。

「自分が“世界蛇”だということは・・・」
「綺麗サッパリ忘れてイマス〜。ほんの少シ舌がヒトより長いのヲ、気にしているみたいデスガ〜」
フフフフフ・・・
サファイアが自分の言葉にウケて笑う。


「・・・共に生きた過去を失って・・・寂しくはないか」
「すべてヲ忘れテしまってモ、“死”に怯えて暮らしていたあの頃ヨリずっト幸せデス」
オニキスの問いかけにそう答え、サファイアは静かに微笑んだ。
「傍ニ居られれバ、関係ナドどうでモイイ。アナタと同ジですヨ。ワタシに出来るのハ、タダ、愛することダケ」


屋上に広がる夕刻の空。


「素晴らしい夕焼けデス」
「ああ」
「世界ハ、美シイ。ケレド、この世界を引き替えにしてモ、あの子を守りたいト今デモ思いマス」
「・・・・・・」
幼い今はともかく、“世界蛇”を人間界で育てることは、容易ではない。
「あの子ハ、世界ト等シク・・・イエ、ソレ以上に、大切デス」

微笑みと共に紡ぎ出された言葉。

それは、いつかまた訪れるかもしれない戦いを示唆するようにも思えた。



「ママぁ〜」
建物の下から少年の声が響いた。
フェンス越しに見下ろすと、サファイアの愛息子が手を振っている。
“世界蛇”とは思えぬ小柄な体型。それでも元気いっぱいに。
「・・・生きまショウ。お互イ、愛する者の為ニ」
「・・・そうだな」
「それでハ。皆サンにヨロシク〜♪」
サファイアは黒い翼を解放し、軽々とフェンスを乗り越えた。


「ママ〜。今日の晩ご飯なぁに?」
「カエルの丸焼きデ〜ス♪」
「え〜・・・またそれぇ?」
「今夜はタルタルソースで食べまショウ♪」
「何でウチだけいつもカエルなの?」



ひもじそうに指を咥え“もっと普通のものが食べたい”という息子の訴えを
サファイアは豪快に笑い飛ばした。
「カエルが嫌ナラ、ネズミデモ食べますカ?」
「ネズミっ!?やだぁ〜!!!」


(蛇だけに、蛙か)
くっくっくっ。
「上出来だ」
仲良く手を繋いで歩くサファイアと少年を、オニキスは屋上から見送った。


「迎えにきたよ」
背後にスピネルの気配。
振り向けば、ヒスイと同じ、愛しい笑顔。
「行こう。ボクらも」



スピネルの指がオニキスの手に触れる・・・二人は指を絡めた。
それはとても自然な仕草で。
手を繋ぎ、同じ歩調で歩き出す。
「綺麗な夕焼けだね」
「ああ、そうだな」
同じ角度で茜色の空を仰いで。
「やっぱり自分の目で見る夕日は格別」
「そうか。良かったな」
「うん」



世界と等しく愛しい者、か。
それがたったひとつであれば、迷うこともないだろうが。

ヒスイ、スピネル、トパーズ、シトリン・・・

世界に生きる愛しい者達を選び取ることなど、できない。


それならば・・・世界ごと、すべてを守る。


ひょっとしたらオレは、コハクやサファイアよりずっと無謀で・・・欲張りなのかもしれないな。


+++END+++


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