世界に春がやってくる

短編(No.23-1)

メノウ一族

※こちらの作品は『世界に咲く花』と『世界に春がやってくる』を読破された方向けです。


この夏最後のイベント。
一家で繰り出す、夏祭り。

[前編]

グループ、壱。

「ははは!ヒスイはわたあめに夢中だね」

わたあめに顔を埋めるヒスイを見守るコハク&オニキス。
お馴染みの三人組だ。

「ヒスイ」
「うん」

前を呼ばれたヒスイがわたあめから口を離す。
代わりにコハクが顔を寄せ、わたあめを齧った。
その行動には見せしめの意味もあったが、コハクの予想に
反してわたあめはヒスイの元へ戻らず、オニキスに順番が回る。

(えっ!?そうなの!?)

「はい、オニキス」
「・・・・・・」

ヒスイからわたあめを差し出されたのは嬉しいが、コハクの直後というのが喜び半減だ。

「食べないの?」
「いや・・・」

ヒスイの好意を断れる筈もなく、仕方なしに屈んで齧る。
それからまたヒスイが齧った。
仲良く(?)三人で回し食い・・・夏の一幕だ。



グループ、弐。

「りんご飴、旨いよ。食う?」
「・・・・・・」

メノウが熱心にりんご飴を舐めている。
話し相手はトパーズだ。

「なぁ、お前さ、何でまだその眼鏡かけてんの?」

度が入っている訳ではないのだ。
つまり・・・伊達眼鏡。
かける必要がないと言えば、ない。
だが、今夜も浴衣に眼鏡というスタイルで。

瞳が紅かった頃はレンズを通して翠色に見えていた瞳。
現在では逆に、翠色の瞳が紅く見える。

「・・・単なる習慣だ」
「ふぅ〜ん」

亡き妻と同じ紅い瞳は不吉の証。

(なのに、好きだったんだよな)

じっ・・・と、下から一途にトパーズの瞳を覗き込む。

「うん。やっぱ綺麗な色だ」

手にしているりんご飴にも負けない艶やかな紅。

「いちいち見るな。気色悪い」

トパーズが目を逸らす。

「いいじゃん。もっと見せて〜・・・」

何気に連む、おじいちゃんと孫コンビ。



グループ、参。
モルダバイトの若夫婦。シトリン&ジン。
シトリンはハッピを着用。御輿を担いだり、昼間から大忙しだ。
揃いのハッピを着たジンもハイテンションだった。
今日ばかりは公務も身分も忘れ、祭りに没頭・・・
日頃よっぽどストレスが溜まっているのか、異様なまでのハジケ具合が・・・イタイ。



グループ、四。
種違いの三つ子。

「決めたっ!この出目金、オレの“ヒスイ”にするっ!!」

金魚すくいの露店から動かないジスト。
黒出目金の稚魚に一目惚れしていた。

「目がでっかくてヒスイみたいだろ!可愛いっ!!」
「・・・・・・」

クールに見守るサルファーはジストの美的センスに首を傾げていた。

(出目金?これのどこが“可愛い”んだよ・・・気持ち悪いだけだ)

「やめとけよ。どうせすぐ死んじゃうぜ?」
「死ぬもんか!!こんなに元気なのにっ!!」

ビリッ!バリッ!ビリビリ!
ジストの“ヒスイ”は迫り来る掬い棒の中心を突破し続けていた。

「“ヒスイ”ぃ〜・・・何で逃げるんだよ。オレの事嫌い?」

金魚にいくら話しかけたところでスィーッとかわされ、プラスチックの輪に張られた薄紙は破れてばかり。

「くそぉ〜・・・なんで獲れないんだろ。おじさんっ!もう一本っ!!」
(世界の神なのに・・・金魚一匹ままならないなんて)

ジストを不憫に思いつつ、笑ってしまうスピネル。
おしとやかに浴衣を着こなして。

 (それにしても・・・)

サルファーの頭から生えているモノが気になる。
ヘアバンドから二本の触覚。先端が蛍光になっていた。

(サルファーのセンスも時々よくわからない・・・ボクは変だと思うけど・・・)

本人はとても気に入っているらしかった。
金魚すくいで破産しそうなジストに比べ、光る玩具やブロマイドなど、手堅い買い物をしているサルファー。

「次はお面だ!」

と、意気込んでいる。
趣味趣向が全く合わない、ジストとサルファー。

(この二人・・・見てて飽きないな)


それから1時間。
大人グループ壱と弐が合流した。

「お〜い!」
「あ!お父さん!トパーズ!」

射的の前でメノウが手を振っている。
傍らには景品が山のように積んであった。

「俺こういうの得意だからさ!」

天才は何をやっても天才なのだ。

「ほらっ!ヒスイも選べよ。何でも好きなの獲ってやるから」
「ん〜とね・・・」

棚に陳列された景品をヒスイが吟味する。
その時。

カチャッ。

弾を充填する音。
ヒスイに銃口を向け、笑うはトパーズ。

「・・・倒せば貰えるんだったな?」
「・・・え?」

パンッ!

ヒスイの足元へ向け、トパーズが発砲した。
直撃はしながったが、驚いたヒスイは体勢を崩し・・・

ドサッ!

派手に尻もちをついた。

「何やってるの!?」

当然、コハクは激怒し、トパーズに食ってかかった。

「打たれて倒れた。コレはオレのものだ」

あからさまなこじつけでヒスイを連れ去ろうとするトパーズに、手が出る寸前のコハク。

「ヒスイは景品じゃないでしょ!!ふざけるのも大概にしないと・・・」
「おいおい、こんなトコで喧嘩はやめとけって」
「こんな時ぐらい仲良くしたらどうだ」

メノウとオニキスが仲裁に入る。
二人いるだけに火消しが早い。
険悪ムードは掻き消され、その場は一旦収まった。

「そうそう。みんなでアレやろうと思ってさ」

夏祭りのメインだ!と、メノウが語る。
境内で催されている“肝試し”。

「結構怖いってんで評判なんだよ」

ジン達と待ち合わせをしているという。
境内の階段下には背の高い夫婦が先に到着していた。

「じいちゃ〜ん!!」

ジストとサルファーも駆けてくる。
そのすいぶん後をスピネルがのんびり歩いて。

「よしっ!全員揃ったな」

メノウは一族の長らしく前に立ち、顔触れを確認した。

「んじゃ、くじ引きでメンバー決めようか」


結果メンバー。

1番手。コハク&メノウ
2番手。ヒスイ&ジスト
3番手。オニキス&シトリン
4番手。サルファー&スピネル
5番手。トパーズ&ジン


「・・・メノウ様かぁ・・・」

ヒスイとの組み合わせを熱望していたコハクにしてみれば、思わず舌打ちしたくなる状況だ。

「そんな露骨に嫌そうな顔するなよ。たまには付き合えって」
「あぁ〜・・・ヒスイぃ〜・・・」
(ん?待てよ。いいこと思いついた)

転んでもタダでは起きない男、コハク。
しょうもない閃きで急に表情が明るくなった。

「いいじゃん!何たって俺達1番手だし?」
「くす・・・そうですね」

恐らく同じ事を考えているであろうメノウと顔を見合わせ、ニヤリ。


「や・・・ったぁぁっ!!ヒスイと一緒だっ!!」

ジストは大はしゃぎ。
黒出目金の“ヒスイ”にはこっぴどくフラれてしまったが、今日はツイてると思う。

「ちょ・・・ちょっと待ってくれ」

と、シトリン。
近くの木の裏へ姿を消し、次に出てきた時には、ハッピから浴衣姿へ華麗なる変貌を遂げていた。
変身能力、フル活用だ。
シトリンがお洒落をする事はあまりない。
・・・にも関わらず、今夜は妙に気合いが入っているように見える。

 (王と歩くからか・・・)

ジン、仄かにジェラシー。
加えて、ツイてない事態が続く。

「トパーズ!?どこ行くんだ?まだ順番じゃ・・・」

この組み合わせも縁あってのこと。
肝試しがてら、久しぶりに男同士の話でも・・・と、思っていたのだが、トパーズは断りもなく境内を取り囲む森の中へと入っていってしまった。

「つれないな〜・・・相変わらず」



1番手の悪友コンビ。

 「んじゃ、俺達からな」
 「ヒスイ、またね」

ちゅ〜っ・・・。
ヒスイの両肩を掴んで、しばしお別れのキス。
コハクとメノウが出発した。

 「それじゃ、やりますか。メノウ様」
 「徹底的に驚かせてやろうぜ」

悪巧みの好きな二人が揃えば・・・驚く側より、驚かせる側。


そして、最初の被害者となるヒスイ&ジスト親子コンビ。

 (こういうの苦手なのに・・・)

悪魔は平気でも心霊分野は苦手なヒスイ。
コハクと一緒なら何も怖くはないが、よりによってパートナーは息子のジストだ。

 「ヒスイはオレが守るよっ!」

ヒスイとの組み合わせで大喜びだったジストも、いざ肝試しとなるとビビる。
自分に言い聞かせる意味で、そんな宣言をしてみた・・・が。

 「別にいい」

スタスタと早足でヒスイが歩き出す。
“怖くない”素振りで、実は手にびっしょり汗を掻いていた。

 (こ・・・怖いよぉ〜・・・お兄ちゃぁん)

心臓も嫌な感じに高鳴っている。

 「待ってよ!ヒスイっ!」
 「ヒッ・・・」

いきなりお墓の前に出て、ギックリ、ドッキリの二人。

 「やっぱり、こういう時は歌だよねっ!」

場を少しでも明るく保とうと、ジストが調子外れに歌い出した。
ゴトッ。ガタガタ。

 「・・・ね、ヒスイ、今墓石動かなかった?」

ジストが歌を中断し、青い顔で言った。

 「な、何言ってるのよっ!!」

ヒスイは怒りで恐怖を紛らわせようとしていた。

 「そんな事あるわけないでしょっ!!」

ジストの目撃証言を完全否定。
更に歩調を早めた。

(ええと・・・本堂の賽銭箱の上にあるノートに名前を書けばいいのよね)

係の人間から始めに説明を受けていた。
ノートを発見し、開いてみると、これまで肝試しに挑戦した人々の名前がたくさん記されていた。
早く終わらせたい一心で、ヒスイはサインペンのキャップを開けた。

「ヒ」

名前はそこで途切れた。

 (!!仏像が笑っ・・・)

賽銭箱の奥にある仏像に異常事態発生。
ぽろっと・・・ヒスイの手からペンが落ちる。

ポク、ポク、ポク、ポク・・・

誰もいない筈なのに、木魚のリズム。
しかも流暢なお経のオマケ付きだ。

 (ここ!何かいる!!)

「ジストっ!!逃げるよっ!!」
「わっ・・・ヒスイ!?」

よく聞けばコハクの声なのだが、恐怖で完全に前後不覚となり、ヒスイもジストも気付かない。
ヒスイは力任せにジストの手首を握り、全速力で走り出した。
数十秒息もせず、猛ダッシュ。
すると見慣れた背中が視界に入った。
月明かりで輝く銀髪、煙草の匂い・・・トパーズだ。

「トパーズ!!」
「兄ちゃん!!助け・・・」

ヒスイとジストは半泣き状態でトパーズの背中に縋り付いた。

「・・・なんだ?」

トパーズが振り向き、衝撃の戦慄。
目も、鼻も、口もないのだ。

「「ぎやぁぁぁ!!!」」

ジストともヒスイとも言えぬ悲鳴が、森に響いた。


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