World Joker

短編(No.33)

ジスト×ヒスイ

World Joker39話まで読破された方向けです。


 「怖がんなくていいよ、オレん家肉食べないから」


 銀の吸血鬼一族は揃って菜食主義、肉は食べない。(一部除く)
 特にヒスイが肉も魚も苦手なので、その類のものは食卓に並ばないのだ。
“食べない”を強調し、ナンパに勤しむジスト。

 相手は・・・ブタだ。

 白銀の薄い体毛、瞳が翡翠色という珍しい子ブタに一目惚れ。
 家に連れ帰ろうと懸命に口説いていた。
 「今日からお前は“ヒスイ”だよ!」
 子ブタの返事(?)は待たずに抱き上げる。
 気に入った動物に“ヒスイ”と名付けるのはマザコンジストの癖だった。



 赤い屋根の屋敷、リビング。

 「兄ちゃん!見て見てっ!!」
 「・・・なんだそのブタ」と、トパーズ。
ジストは抱えた子ブタを
「オレの“ヒスイ”っ!!」と紹介し・・・
「あれっ?ヒスイは?」
いつもリビングで本を読んでいるヒスイの姿がない。
 「兄ちゃん、ヒスイ知らない?」
 「・・・・・・」
 (・・・バカめ、そこにいるだろうが)

ブヒッ・・・

子ブタの“ヒスイ”と目が合う。
 何かを訴えるように、トパーズを見上げる子ブタ。
 (そうよっ!!私なのっ!!)


→→→ヒスイ完全ブタ化までの経緯。


 萌飴。それは体の一部を動物化させる不思議なキャンディである。
コハクが管理しているものだ。
ネコ耳、ウサ耳、クマ耳、キツネ耳・・・これまで色々な飴を舐めては、萌え動物化し、エッチをしてきたが。
その余りモノ・・・コハクが別にしておいたブタ飴をそうとは知らず大量摂取。
 結果・・・
(嘘でしょ・・・全身ブタになっちゃった・・・)
 人知れず、ブタ化。欲張って何個も飴を口に入れたのが間違いだった。
この日、コハクは総帥セレナイト直々の依頼で、料理教室の臨時講師として出掛けていた。


 (お兄ちゃぁんっ!!)
ブヒブヒーー!!


コハクを頼りに家を飛び出し、4本足でトコトコ歩いていたところ、ジストに遭遇したという訳だ。


 「ねぇねぇ、兄ちゃん、ブタって何食うの?」
 「豚は雑食だ。何でも食う」
ニヤニヤと、傍観するトパーズ。
 「ホラ食え、メス豚」
と、リンゴをヒスイの鼻先に突き付けた。

ブヒッ!!

 (絶対気付いてる!!)
けれども、知らないフリ。
 明らかにこの状況を楽しんでいる。
 (トパーズの意地悪っ!!)
ブーブー言っても相手にされず。

そのままジストの部屋へ連れ込まれる、子ブタのヒスイ。

メノウの部屋に比べれば随分とマシだが、あまり片付いているとは言えない部屋だ。
・・・と言っても悪い意味ではなく。
 学校の女の子から貰ったであろうプレゼント・・・包装紙やらリボンやらで散らかっているのだ。
 (ジストってモテるんだ)感心するヒスイ。
 (うん、可愛いもんね)そして、親バカ。
 一方ジストは、その中から一本、ピンクのリボンを拾い上げ。
 「今度ちゃんとしたの買ってやるからな!」と。
ヒスイの首にリボンを結んだ。
 「可愛いっ!ヒスイみたいだ!!」
 「・・・・・・」
 (だから、私だってば!!)
 「ヒスイってさ、オレの母ちゃんなんだけど」
 本人相手に語りが入るジスト・・・
「あれ見て」と、向かいの壁を指す。

 愛するヒトは一生にひとり。
はじめてえっちしたコと結婚すること。

ヒスイ直筆の教訓がポスターのように貼ってあった。



 『一生にひとりなら・・・オレ、ヒスイがいいな〜・・・』



 「大好きなんだもん・・・あっ!これ誰にも内緒な!」
 「・・・・・・」
 (そんなコト言われても)
 本人である。
 (・・・っていうか、いい加減気付きなさいよ!!!)
ブゥブゥ!!怒るヒスイ・・・
対するジストはニコニコ顔で、一向に気付く気配がない。
 (も・・・いいわ)
 萌飴の効果はそんなに長く続かない。
 一定時間経過すれば元の姿に戻れるのだ。
 困った時は、ひと眠り。ヒスイは昼寝をすることに決めた。
 一人と一匹はちょうど今ベッドの上だ。
 (じゃ、おやすみ・・・)
こうしてヒスイは夢の世界へ逃走・・・
「“ヒスイ”?寝ちゃったの?」
 「・・・・・・」
もはやジストの声も耳に届かない。
 「んじゃ、オレも寝よっ!後で一緒にフロ入ろ〜・・・」
横になり、すぐ寝入る。
親子共通の特技だ。



それから数時間・・・さすがに寝飽きたジストが目を覚ますと。


 「・・・え?ヒスイ!?なんでヒスイがオレのベッドで寝てんの???」
しばらく状況を飲みこめずにいたが・・・ジストの顔が真っ赤になる。
ヒスイは服を着ていなかったのだ。
そして首には子ブタに巻いたはずのリボン。



 「もしかして・・・」
 (“ヒスイみたい”じゃなくて、ヒスイだったんじゃ・・・)
 今になって気付いても遅い。
 (うわ・・・オレ告白しちゃった・・・)
 猛烈に恥ずかしく、両手で頭を抱える。
チラッ・・・ヒスイを見ると、まだぐっすり眠っていた。
 「・・・・・・」
 (可愛いな・・・)
 子ブタの“ヒスイ”に結んだはずのリボンを解く。



とくん。とくん。



ヒスイに触れると、鼓動が少し早くなるのが・・・怖い。
“銀の男は身内の女を愛す性”
どこかで聞いた言葉をふと思い出して。呟く。



 「オレもいつか兄ちゃんみたいに・・・ヒスイのこと“母ちゃん”って思えなくなる日が来るのかな」



 (そんなの嫌だっ!!)ぶんぶん、頭を振るジスト。
 「ヒスイはオレの母ちゃんなんだ!!」大声で叫ぶ、と。
 「うん、そうだよ」
むくり、ヒスイが起き上った。
目を擦りながら、ふぁぁぁ〜・・・大欠伸。
 「わあっ!!」
 驚いたジストはベッドから転がり落ちた。
 「ジスト!?」
 落ちたついでに、ヒスイに着せる服を探す。
 (あったっ!!)
ベッドの下、買ったばかりでまだ一度も着ていないTシャツを発見し。
 「とにかくこれ着て!!」
 顔を背けたまま、ヒスイに手渡した。
 「うん、ありがと」
ヒスイは受け取ったTシャツを頭から被り。
 「お父さん、よく言ってるよ」


 親にとって、子供はいつまでも子供なんだって。


 「だから、ジストはず〜っと私の子供」
 一度そう言ってから。
 「お兄ちゃんと私と・・・トパーズの子供だよ」
と、言い直し、ジストを見上げる。
ジストは大きく息を吸ってから、笑顔で頷いた。

 「・・・うんっ!!」





“私の子供”
ヒスイの言葉が、とても嬉しく心に響くから。


まだ・・・大丈夫。


きっと、大丈夫。


+++END+++

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