World Joker

39話 LOVE DIARY




「んじゃ、コレにサインして。お前にはアンデット商会の顧問になってもらうから」と、メノウ。
「・・・・・・」

トパーズの手に握られたバッジはこれまで見たことがない色をしていた。

「お前のさ、ココが必要なワケ」

メノウは頭部を指差し、それから調子良く片目をつぶった。

「協力よろしく、神サマ」
「・・・・・・」

トパーズが応じずにいると、メノウは再び“あるモノ”を取り出した。

それは一冊の・・・日記だった。
トパーズを誘い込むためにメノウが用意した日記はもちろんヒスイのものだ。
ペラペラとページを捲り、声を出して読みあげる。

「○月×日。今日トパーズが・・・」

ぴくり、トパーズの眉が動き、しめしめとメノウの口元が歪んだ。

「ヒスイにどう思われてるか知りたいだろ?」

聞くまでもない。だから来たのだ。そして・・・

「いいか。非常勤だ。本業を優先させる」

本業、数学教師トパーズは社員契約書にサインをした。
ニヤニヤと、メノウはその様子を見守り。

「早速さ、聞きたい事があるんだけど」

日記を渡さず、まだ焦らす。

「何だ、さっさと言え」

『不老不死は可能?不可能?』

「・・・可能だ」
「それは“神の領域”で?」
「そうだ。不老不死の生き物を創ることはできる。ただし・・・」

トパーズの説明を聞いた後、落ち着いた口調でメノウは言った。

「それってさ、コハクが子供つくれる原理と一緒だろ?」
「・・・そういうことだ」
「なるほどね。よくわかった。んじゃ、コレ」

納得したところで、盗み出してきたヒスイの日記を手渡す。
日記は本来人に見せるものではなく、プライベートの侵害もいいところだが。
祖父が祖父なら、孫も孫で。トパーズは容赦なくヒスイの日記を開いた。

「・・・・・・」
(あの馬鹿・・・)

○月×日。今日トパーズが・・・確かにヒスイの字でそう書いてある、が。

先がない。どうやら途中で寝てしまったらしく、空白部分には涎の跡と思われるものが残されているだけ。
やっと手に入れた日記にまで焦らされ・・・今日も恋煩い。無性にヒスイを虐めたくなる。
しかも、日記は3日分しか書かれていない・・・いわば3日坊主で。
他のページは“お兄ちゃん”への愛が綴られており、むしろこの日記はトパーズよりコハクが喜ぶものだ。

「・・・・・・」

見事、メノウに嵌められた。
ヒスイの日記欲しさに、アンデット商会と契約し、不老不死の真理まで説いてしまった・・・神として、あるまじき失態だ。
メノウにも、自身にも、腹が立つ。

「ジジイ」

沸々と込み上げる怒り・・・睨んだ先のメノウはお腹を抱えて笑っている。

「お前ってホント、ヒスイのコト好きだよな」

図星すぎるその一言が益々トパーズの怒りを煽った。
一発お見舞いしてやろうと、トパーズが拳を鳴らした時だった。

 

 

「テメェのせいで休日出勤になったじゃねぇか!!どうしてくれんだよ!!」

 

 

荒々しい怒声が部屋の奥から聞こえた。ウィゼだ。

「0が一コ多いんだよ!!このバカ!!」

研究材料の発注伝票に問題があったらしく、その事後処理で出勤を余儀なくされたのだ。
上司として、部下の失敗の責任を取らなくてはならない。

「ふぅ・・・」

成り行きの部下であるテルルは、悩ましげに眉間を押さえ、言った。

「昼間は目がよく見えぬのじゃ。我は夜行性だからの」
「んだとぉ!?」

テルルの言い訳に、再びキレるウィゼ。

「お前なんか拾うんじゃなかった!!」と、大声で喚く。
「同じ人間界にいるというのに・・・ジストはなぜ呼んでくれぬ・・・神に力を奪われたせいで、友の呼びかけすら聞こえなくなってしまったというのか・・・」

仕事の失敗などどうでもいい・・・ウィゼを無視し、テルルは切なさに浸っていた。

「おのれ・・・神め・・・神めぇぇ!!」

呪いの言葉を吐き、顔を上げる・・・と、そこにアンデット商会新顧問の姿が。

 

「・・・見つけたぞよ!!神ぃぃぃ!!!」

 

「・・・寄るな、害虫」

迫り来るテルルに蹴りを入れる神、トパーズ。
テルルは、ジストに会わせろ!!と必死に訴えたが・・・

「貴様も魔界に棲む者なら、知ってるな」
「何をじゃ?」
「“マインドイータ”だ」

それは記憶を喰らう悪魔の名であり。
上手く使役すれば、術や薬を使うより確実に、狙った記憶だけを消し去ることができる。
よく育ったマインドイーターなら、偽の記憶を植えつけたりと記憶操作も可能だ。
聞いたテルルは震え上がった。

「まさか・・・ジストの記憶を・・・」
「害虫は徹底的に駆除する。記憶からもだ」

冷笑。ジストの実父トパーズは、ホモの友情を認めない方針らしい。

「ひ、酷いではないかぁぁぁ〜・・・初めての友だというのに・・・」

驚く事に、かつての大悪魔アスモデウスが、大泣きだ。

「なんと外道な神よ・・・」

両膝を折り、それはもう、さめざめと。

「干乾びるまで泣け、腐れ悪魔」

トパーズはテルルを足蹴にして、いびった。
 

「そんくらいにしときなよ、同じ職場の仲間なんだからさ」
 

ユルいノリで仲裁に入ったのはメノウだ。
その後ろで、ザマーミロとばかりにウィゼがニヤついていた。
視線は無論、ダメ社員テルルに向いている。

「息子が可愛くて仕方ないのはわかるけどさ、友達ぐらい自分で選ばせてやれば?」
「ホモは例外だ」

メノウの言葉を一蹴し、トパーズが吐き捨てる。

「男の友情を疑うか!!」

テルルが猛抗議するも、耳を貸さない。
メノウは笑いを堪えながらそれぞれの背中を叩き。

「ま、これから仲良くやろうぜ」

 

 

 

 

その頃、モルダバイト城では。

(シトリンが・・・怖い)

現王ジンカイト、心の声。

内心ハラハラしながら、妻シトリンと客人ジルコンのやりとりを見守っていた。
ジルは、双方に極力被害の出ない対応を望み、シトリンもそれに同意したため、話し合いはかなり腹を割ったものとなっていた。
が・・・当然シトリンの表情は険しく、全身が怒りのオーラに包まれていた。
現在グロッシュラーは情報が漏れないよう出入国を規制し、内密にゾンビ兵の調達をしているらしい。

「国中の墓を掘り起こして、死体を集めてる。あれが全部兵になったとしたら・・・」

骸骨兵も含め、相当な数となる。加えて生身の人間兵。
その上、アンデット商会の魔道具を使われる可能性もあるのだ。
対するモルダバイトは戦争のための軍隊を持たない国で、自衛を目的とする騎士団数百名、近年設立された魔法兵団百名。
合わせて五百・・・精鋭揃いだとしても、あまりに少ない戦力だ。

「悪い事は言わない、早く徴兵して戦力を・・・」

そうジルが進言すると。

「徴兵?何を言う。民は戦に出さん!!」

シトリンが声を荒げた。元々、冷静なタイプではない。

「騎士団はタンジェに、魔法兵団はサルファーに指揮を執らせる。二人を呼べ!!」
「たった五百やそこらの兵で、何千何万の軍隊を相手にするってのか!?」

シトリンの采配に驚愕するジル。

「心配無用だ」

シトリンは美しくも不敵な笑みを浮かべ、それから一言。

 

 

「我らが一族を舐めるなよ」

 

 

「どう・・・するんだ?」

王位を継承した時から覚悟はしていたものの、戦の気配に動揺するジン。

「念の為、こちらもできる限りの戦力を集める」
「念の為?」

二人きりになってから、シトリンは夫であるジンに考えを明かした。

「・・・戦が始まる前に、私が大将の首を取る」
「!?ジルくんの肉親を殺すのか!?」

「私とて辛い・・・しかし、大将同士で殺り合うのが一番被害が少ない。違うか?」

モルダバイトの民もグロッシュラーの民も、戦に巻き込みたくないのだと切に語る。

「確かにそうだけど・・・」
(危険を承知で内情を話してくれたジルくんを裏切る事になるんじゃないのか?)

シトリンの厳しい決断に、ジンは心から賛成できず・・・とはいえこれといった代替案がある訳でもなく、そのまま口を噤んだ。

「ジン、お前の気持ちはわかる。だが、グロッシュラー相手に甘い事は言っていられん」

 

 

『モルダバイトはオニキス殿から預かった国だ!!私の命に代えても守る!!』

 

 

 

 

緊迫するモルダバイトとは裏腹に・・・こちら精霊の森。

 

入れ替わりに翻弄されつつも、ヒスイはご機嫌な笑顔で。

「いつもお兄ちゃんに何かしてもらってばっかりだけど、今日は役に立てそう!」と、嬉しそうにしていた。

精霊の森には、よく修業に使われる広場があった。
だだっ広い土地だ。草木はほとんど生えておらず、地表が剥き出しになっている。

「お兄ちゃんの修業相手、作るね!」

やたらと張り切ったヒスイが専用ステッキを振り回し、呪文を唱えると、ボコボコ・・・地面が大きく盛り上がった。
それは土の造形品にモンスターの特徴を投影したもので、体慣らしには丁度良いが。

「・・・・・・」

不格好なモンスターがウジャウジャとコハクを取り囲む・・・明らかに作り過ぎだ。

「ヒスイ、無理しなくていいからね」
(一生懸命になってくれるのは嬉しいんだけど・・・この天気はマズイ)

朝、家を出た時は曇っていたのに。
森に到着した頃には、快晴。空を仰ぐと、太陽が熱く眩しい。
気温も上昇し、再び夏日に戻りそうな予感がする。
蒸し暑く、風もなく、吸血鬼が苦手とする気候だ。

(こんな時に魔力を大量消費したら・・・)

絶対に喉が渇く。
血を与える分には構わないが、その後が問題なのだ。

オニキスの体では吸血後の欲情に対応できない。

 

「えいっ!!んっ!」

 

コハクの心中知らず、ヒスイはバンバン魔法を使い、土製モンスターを山のように作り出す始末で。
正直、修業どころではなかった。
調子の出ないオニキスの体で、襲い来るモンスターを何とかやり過ごしながら。

「ヒスイ、そろそろ休憩にしない?」
「まだ始めたばっかりだよ?あれ???」

ヒスイの視界がグニャリと歪み、足元がふらつく。

(やっぱり遅かった・・・)

オニキスの体でヒスイの体を抱き留めるコハク。

「喉渇いたでしょ?とにかく飲んで・・・」
「いらないっ!」

後のことを考え、ヒスイは吸血を拒んだ。

「後先考えずに魔法使った私が悪いんだも・・・」

言いながら、懸命に自分の足で立とうとする。

「大丈夫・・・我慢・・・できるよ」
「・・・・・・」

コハクは携えていた剣で深く手首を切った。
傷口はすぐに塞がってしまう。
嫌がるヒスイの頭を押さえ、無理矢理口を付けさせ。

「んーっ!!」
「そう・・・舌で血管を探って。よし・・・いい子だ・・・」

理性で抗いながらも、本能でヒスイの舌が動く。

「後のことは心配しなくていいから」

コハクはヒスイの髪を撫でて、そう言い聞かせた。

「んむ・・・おに・・・ちゃ・・・」
「ヒスイ・・・」

 

 

ヒスイはいつも可愛い。
何をしてても可愛い。

欲情する姿も・・・すごく可愛い。

 

 

(だからって、オニキスの体でヤル気満々になってもね・・・)

キスを含め、昨日から我慢しっ放しだった。
どうしても、オニキスの体でヒスイと関係を持ちたくないのだ。

 

 

(さて、どうしようかな)

 

 

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