World Joker

短編(No.35)

ジン×シトリンとトパーズ×ヒスイ


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 World Joker36話まで読破された方向け。
 毎度お馴染み(笑)メノウの“入れ替わり”魔法を使ったお話です。
リンスinシャンプー=リンスの入ったシャンプーの要領で。
ヒスイinシトリン=ヒスイの入ったシトリン。心はヒスイ、体はシトリンの状態。
シトリンinヒスイ=シトリンの入ったヒスイ。心はシトリン、体はヒスイの状態。
 紛らわしいことになっておりますが(汗)ご容赦ください・・・。
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赤い屋根の屋敷、リビングにて。

 「母上、頼む!この通りだ!!」
ヒスイに両手を合わせるシトリン。
 「母上なら、モルダバイトの法律を全部覚えているだろう!」
 「うん、まあ・・・」
モルダバイトの王妃時代、オニキスに叩き込まれたのだ。
それは今でも忘れていない。


 「頼む!1日でいい!!私と入れ替わってくれ!!」


シトリンがなぜこんなことを言い出したかというと・・・
この度、公務として新しく追加された行事・・・4年に一度の式典なのだが、平和維持主張の為、王妃自ら国民の前に立ち、国の法律を説くことになったのだという。
 「大臣どもが余計な仕事を・・・」
シトリンは両手で頭を抱え、しゃがみ込んだ。
いつになく切迫した顔をしている。
 「書物を開くとすぐ眠くなってしまって・・・どうしても覚えられんのだ」
勉強の苦手なシトリンらしい。
 「隣に立つジンに恥をかかせたくない・・・母上、助けてくれ・・・」
 「う〜ん」
愛するコハク似の娘に助けを求められては、無下にもできず。
 (こんなことぐらいしか、してあげられないもんね)
と、ヒスイは考え、そして言った。


 「いいよ」


 「・・・面白い」
廊下で聞き耳をたてているのは、トパーズだ。
両腕を組み、口元を歪ませる・・・美しくも邪悪な笑みで、一言。
 「便乗するか」



それから3日後の式典当日。モルダバイト城にて。

 「この巻物を一緒に開くと、入れ替われるんだって」と、ヒスイ。
 入れ替わりの魔法を使えるのは、現在メノウとコハクだけだ。
“この巻物”は、父メノウに事情を説明し、特別に授けてもらったもので、1/4日・・・つまり6時間限定で入れ替わる呪文が込められている。
この巻物を使っての入れ替わりは無事成功し。
 「では頼んだぞ!母上!!」
ヒスイになったシトリン※以後シトリンinヒスイは、シトリンになったヒスイ※以後ヒスイinシトリンの手を握り、激励した。
ヒスイinシトリンが壇上に上がるのを見届けてから、シトリンinヒスイは、“ヒスイ”としての役目を果たすべく屋敷に戻った。

まずは洗面所で、鏡の前に立ち。
 「ぷっ・・・本当に子供のような体だな」
 小さく薄っぺらいヒスイの体を見て笑う。無論、悪気はない。
 「オニキス殿も兄上もこの体に欲情するのか・・・」
そんなことを言いながら、しげしげと眺める。
 「どこかに男を虜にする秘密があるのか???」
スカートを捲ると、コハク手編みの毛糸のパンツ。
 (色気はどこだ???)
 探しても、見つからない。
 「いや、見た目で判断してはいかん!この中がすごいのかもしれん・・・」
パンツの中を覗くシトリンinヒスイ。
 (名器なのか???)
 「いやいや、それはやってみなければわからん・・・やって・・・」
 心の声と独り言を交互に繰り返す。
 (オニキス殿はともかくとして、兄上は知っているではないか・・・)
 「母上のアソコの具合・・・」
 (兄上・・・)ふと、兄トパーズを想う。
 「この体なら・・・兄上の願いを叶えてやれるのではないか?」
そんな考えが浮かんで。
 「・・・・・・」
 生活を共にしながら、ヒスイとはキスもセックスもままならない関係が続いている。
 仕方がないとわかっていても、気の毒でならなかった。
 (この体を・・・何度抱きたいと思ったことだろう)
 「したいだろうな・・・母上と」
 今なら、ヒスイの体を自由にできる。
 (兄上に、いい思い出のひとつも作ってやりたい)そう、思う。
 「ここはひとつ、母上になりきって・・・」
チャンスは今しかないのだ。
 「よぅし!!」
 思ったら、即行動。シトリンinヒスイは洗面所から飛び出した。
 「今行くぞ!!兄上!!」




 屋敷2階。トパーズの部屋。

 「どうなってるんだよ・・・これ・・・聞いてないぞ」
 窓に映った顔を見て、愕然とするジン。
 「トパーズになるなんて・・・」
 一体何が起こったのか・・・
「そういえば、式典直前にトパーズが来て・・・それで・・・」
あとは思い出せない。
とにかく、ジンがトパーズになっているということは、トパーズがジンになっているということで。
ここでも“入れ替わり”が発生していた。
 神であるトパーズに使えない魔法はない。
 何の狙いか・・・ジンは巻き込まれたのだ。
 (式典は・・・問題ないか。法律にも詳しいしな)
なにせモルダバイトの王子なのだ。
公務に関しては、引けを取らない。
 「でも何でこんなこと・・・」

その時だった。

 「ト・・・トパーズ?」
 心なしか上ずった声のヒスイが部屋に入ってきた。
 (ヒスイさん!?)
この事態をどう説明するか、ジンinトパーズが迷っていると。
 「え?」
いそいそと服を脱ぎ、ヒスイは裸になって。
 「!!」
それは“絶対に見てはいけないもの”と、本能が警告する。
 (コハクさんに殺される・・・)
ジンinトパーズは、ヒスイから視線を逸らした。が。
ヒスイは、ジンinトパーズに擦り寄った。
ほんのりと赤い顔。濡れた唇。更には上目遣いで。
 (明らかに誘ってる・・・トパーズとヒスイさんて、もうこういう関係になってたのか)
トパーズは自身のプライベートを話さないので、この状況から、ジンが誤解するのも無理はないのだが。

 「トパーズ・・・」

セックスを甘くせがむ声。
 (いいのか?これ・・・)
トパーズには幸せになって貰いたいと思う。
 (でも、コハクさんの目を盗んでセックスするなんて・・・バレたらどうするつもりなんだ?)
 家庭崩壊・・・それ以上の大惨事になることは、目に見えている。
 「・・・・・・」
この情事がトパーズにとって良いものとは思えない。
ジンinトパーズは何かを決意したようにきゅっと唇を噛み、それからヒスイの肩を両手で掴んで体から引き離した。
 「ヒスイさん、オレ、こういうの良くないと思います。トパーズのこと本当に好きなら、もっとちゃんとして・・・」
 「あ・・・兄上???何を言って・・・」
トパーズの言動があまりに不可解で、つい地が出るシトリンinヒスイ。
 「・・・え?兄上?」(兄上って言ったよな、今・・・)
 声こそ違えど、聞きなれたイントネーション・・・互いにそう感じ。
 「・・・・・・」ジンinトパーズ。 (もしかして・・・)
 「・・・・・・」シトリンinヒスイ。(もしかして・・・)


 「シトリン!?」「ジンか!?」


 「・・・ジン、すまん。ああすれば、兄上が喜ぶと思ったんだ」
シトリンinヒスイは深く頭を下げた。
ジンinトパーズに止められるまで、それが悪いことだという認識がなかったのだ。
 関係を持ったあとのことも全く考えていなかった。
 「シトリン・・・」
 「すぐに周りが見えなくなるのは、私の悪い癖だな」
そう言って、うなだれる。
 「・・・でも、それがシトリンだろ」
相手のことを想うが故の失態。
そういうところも全部含めて、好きなのだ。
 「ジン・・・」
 「シトリン・・・」
見つめ合い、いいムード・・・だが。
気になることがひとつ。
ウホン!シトリンinヒスイは咳払いをして言った。


母上と兄上・・・今頃どうしているだろうな。




モルダバイト城。
こちら、式典終了後のヒスイinシトリン。

 「ふぅ」王妃の仕事を何とかやり遂げ、緊張でかいた汗を拭う。
 (あとは体が戻るのを待つだけね)
ヒスイinシトリンは、ジンから逃げるように離宮へと身を隠した。
かつて住んでいた場所だけあって、落ち着く。
ベッドに腰掛け、ホッと一息・・・と、思いきや。
 「シトリン」と、不意に名前を呼ばれビクッとする。
 (ジンくん!?)
ジンが追って部屋へと入ってきた。
 穏やかな笑顔でヒスイの隣に腰掛ける。
 「・・・・・・」
ヒスイinシトリンに再び緊張の時間が訪れた。
 「ジンには内緒にして欲しい」
と、シトリンに釘を刺されているので、バレやしないか、内心ドキドキだ。
 「・・・・・・」
 何も言わないもの不自然かと思い、ヒスイinシトリンは
「お疲れ」
の一言で ジンを労った。
すると、次の瞬間。
 「え?」
ジンの手に、肩を抱かれ。
 「ん・・・っ!!」
 抵抗する間もなく、唇に唇が重ねられた。
 驚いたヒスイinシトリンは体を強張らせたが・・・


「・・・トパーズ?」


キスを終えてすぐ、そう言った。
 「・・・何でわかった」
 「何でって、キスの仕方がトパーズだったから」
 「・・・・・・」
ヒスイが唇へのキスを拒むようになってから、もうだいぶ経つ。
あれから、数えきれない程コハクとキスをしただろう。
 「・・・・・・」
それでも覚えているものなのか・・・信じ難いが、事実ヒスイはキスであっさり正体を見破った。
嬉しくないと言えば、嘘になる。
 「?トパ・・・ん・・・っ!!」
トパーズinジンは、ヒスイinシトリンの唇を、二度三度と続けて吸って。
 「んー・・・・!!!」
 抵抗を受けながらも、ベッドへ押し倒した。
 「ちょ・・・なにす・・・」
ヒスイinシトリンの両手首を掴み、動きを封じて。
 「・・・あいつ等の体だ。いいか、これは罪じゃない」
両想いの肉体同士。
むしろあるべき姿なのだと主張する。
 「か、体の問題じゃないでしょ・・・!!」
ヒスイinシトリンが抗議すると。


 「黙れ。こうでもしなきゃ、お前とヤれない」


 「ヤる!?」
ヒスイinシトリンの声が驚きで裏返る。
 「だ・・・だめだよ。ジンくんとシトリンの体なんだから・・・っ!!」
 「ついでにもうひとりガキでも作ってやるか」
せせら笑う、トパーズinジン。
その表情はもはやジンのものには見えない。
 「な・・・なに言って・・・」
 説得は無理だと思ったのか、ヒスイinシトリンは逃げに転じた。
 「はなし・・・て・・・っ!!」
 足をジタバタさせると、手首の拘束が弛み、その隙をついて逃走。
シトリンの体なので、逃げ足は一層速くなっていた。
 「・・・バカな女」


キスは見抜くのに、この嘘は見抜けない。


ジンとシトリンの体を使ってセックスする気など、初めからなかった。
ヒスイを困らせたくて、言ってみただけなのだ。
トパーズinジンは腕時計を見た。
もうすぐ6時間が経とうとしていた。
 「・・・時間切れ、だ」




その日の夜。

 「こんなところで何してるんだ?」と、ジン。
トパーズと話がしたくて屋敷を訪れたのだ。
 煙草の匂いを辿って裏手に回ると、そこにトパーズがいた。
 「見ればわかるだろう、喫煙だ」
トパーズの冷たい横顔。
ジンの方を見向きもしない。
 「・・・・・・」
(聞きたいのはそういうことじゃないんだけど・・・)
 現在、時刻は午後10時。
わざわざ屋外で煙草を吸っている理由を尋ねたのだ。
今にも雪が降り出しそうな冬空だというのに、スタンド式灰皿は吸い殻の山。
もうずいぶんと長いことこの場にいることを物語っていた。

 「ヒスイさんのこと、苛めただろ?」
今日の“入れ替わり”の話だ。
トパーズの趣味はヒスイ苛めで。
ヒスイとシトリンの計画に便乗した訳は、ジンにもわかった。
 「・・・いつものことだ。もう忘れてる」
と、トパーズ。
その視線は屋敷2階の夫婦の寝室に向いていた。
そこにはランプの明かりが灯っていて。
カーテン越しにコハクとヒスイの姿が見えた。
 何をしているかは・・・言うまでもない。
 (ああ・・・なんだかなぁ・・・)ジンは思わず、同情。
 (好きな女性が他の男に抱かれてるって、嫌だろうなぁ・・・)
そして思わず、口にする。
 「・・・なあ。片想いって、楽しいか?」
 「楽しそうに見えるか?これが」
 「あ・・・ごめん」
 無粋なことを聞いたと、我ながらに思うジン。
 「・・・捨てられるものなら、とっくに捨ててる」
トパーズは煙草の煙を吐いて、そう呟いた。
愛しいと思う気持ちは、簡単に捨てられるものではないのだ。
たとえそれが・・・痛みを伴うものだとしても。


 「・・・手に入れる。いつか、必ずな」


 明かりの消えた窓を見据え、トパーズが言った。
 「“いつか”?いつかって、いつだ?」と、ジンが切り返す。
 「“いつか”なんて曖昧な言葉に想いを託すしかないのに、それでも諦め・・・」
 語調を強めた、その時。


 「トパーズ?」


ヒスイが裏口から顔を覗かせた。
 赤いガウンを羽織っている。ちなみにその下は・・・裸だ。
 「ずっとそんなトコにいたら風邪ひいちゃうよ?」と言って、向かってくる。
 「あれ?ジンくん?」
 「こ・・・こんばんは。すいません、こんな遅くに」
ジンにとっては義理の母であり、コハクやオニキスの手前かなり気を遣う相手だ。
 「寄ってく?お兄ちゃんが今紅茶入れて・・・」
 「いえっ!もう帰ります!」
 (あのまま話を続けても、トパーズと気まずくなるだけだし。ムキになって余計なこと言いそうだったしな)
トパーズに幸せになって貰いたいと思う気持ちは、シトリンと一緒なのだ。
 故に、柄にもなく感情的になってしまった。
 「おやすみなさい」
ジンは別れの挨拶をして、その場を離れた。



 「あ、そうか・・・」
 (ヒスイさんが迎えにくるの、待ってたんだな)
 今になって、トパーズがあの場で粘っていた理由に気付く。
 「・・・可愛いとこあるじゃないか」
やっと年下と思える面を見つけて、ジンは笑った。
 「“いつか”って、あるような、ないような、曖昧な言葉だと思ってたけど。 口にした奴の意志次第だもんな」
トパーズは“いつか必ず”と、言った。
 「トパーズが“いつか”を信じてるなら。オレも・・・」



その“いつか”を信じよう。



+++END+++

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