World Joker/Side-B

短編(No.40)

ヒスイ×その他多数

World Joker/side-B 74話まで読破された方向けです。



季節は春―

赤い屋根の屋敷、裏庭にオニキスが顔を出した。
お花見に招待されたのだ。
咲き誇る桜の花の下、いくつかのテーブルが用意されていて。
すでにそれぞれ楽しんでいる様子…だが。

「?」

若干の違和感を覚える。
そんなオニキスをよそに。

「「ようこそ!お花見BARへ!」」

コハクとヒスイが声を揃えて迎えた。

「……」
(何事だ?)

ヒスイはなぜかバーテン姿で。
シャカシャカ、熱心にシェイカーを振っている。

「実はですね…」

夜のデート中、たまたま見かけたバーテンダー。

「ヒスイが気に入っちゃったみたいで」

 自分もやってみたいと言い出した。

「それでこのお花見パーティを開催した訳なんです」

すべてはヒスイのために。
コハクの行動には一点のブレもない。

「バーテン姿のヒスイも可愛いでしょう?」

と、今日もまたデレデレだ。

「しかし大丈夫なのか?アイボリーとマーキュリーはまだ未成年だろう」
「大丈夫ですよ。揃えているのは、ジュースと水だけですから」

コハクが小声で耳打ちする。
ヒスイがカクテルと思っているものは、泡立っているだけの薄味ジュースなのだ。

「まあ、飲んでみてください」

コハクに勧められ、一口。次の瞬間、オニキスは表情を曇らせ。

「…飲んでみろ」
「どうかしたんですか?」

オニキスからカクテルグラスを受け取り、コハクも一口。

「…ん?」

味に明らかな異変を感じ、ヒスイの様子を見に戻る…と。
何やら白い錠剤を、ボチャボチャ、グラスに入れている。

「ヒスイ?それは…」
「あ、これ?アクアがくれたの!入れたらすごく美味しくなるから、って!」
「……」「……」

コハクとオニキスが、さりげなく、その錠剤を検査すると。
“酔わせる”ために作られた魔法薬であることが判明した。

「…アクアは?」

と、コハク。

「カクテル、みんなに配ってるよ」

時、すでに遅し…だ。
テーブルを設置した会場に、アクアの姿はなく。
泥酔した者達の狂宴が始まっていた。

「僕はアクアを探してきます。酔いさましの薬を持っている筈ですから。ひとまず、会場の方をお願いできますか?」
「ああ、わかった」

カクテル作りに勤しんでいるヒスイに悟られないよう、コハクとオニキスは、こっそり二手に分かれた。



会場の一画で。

「ヒスイぃぃぃ〜…」

 甘えた声を出しながら、トパーズを押し倒すジスト。
なぜかトパーズがヒスイに見えているようだ。
トパーズは怒りに顔を引き攣らせ。

「…どけ、クソガキ」

とは言ったものの。
今や、体格はほぼ同じ。
本気全開で迫ってくるジストを、昔のように簡単にはあしらえなかった。
舌打ちもそこそこに、顎を掴み上げられ…キスの態勢。

「逃げないで…優しくするから…」
「……」
(馬鹿すぎる…)

トパーズは父親の意地でジストを蹴り飛ばし。
伸びているところ、襟首を掴み、引き摺って。
向かった先は、噴水だ。
そこにジストを放り込み。

「しばらくそこで頭を冷やせ。この酔っ払いが」



ちょうどその頃。
シトリンとジンが会場に到着し、酔っ払いと化した双子兄弟の介抱にあたっていた。
ジンはマーキュリーに付き添い。
シトリンはオニキスと共にアイボリーに付き添っている。

「いつかあのひとを、僕専用の肉○器にしてやりますよ」

遠くでシェイカーを振っているヒスイを見つめ、マーキュリーが笑う。
一見、酔っているようには見えないが、いつものマーキュリーなら、絶対口にしない。
…例え、心の中で思っていたとしても。

「マーキュリーくん、言ってること結構酷いけど、意味わかってる?」

と、焦って宥めるジン。

(まだ若いのに…心にエライもの抱えちゃってるよ…)



一方、こちら。アイボリーは。
遠くでシェイカーを振っているヒスイに向け。

「ヒスイー!!俺と結婚して!!」

大声でプロポーズ、しかし。

「やだ」

ヒスイ、即答。

「へっ…ヒスイの冷たさが、いつにも増して身に染みるぜ。なんで だろうな…」
※酔ってるからです。

アイボリーはオニキスが止めるのも聞かず、二杯目のカクテルを自棄飲みし。

「ちくしょぉぉぉ!パンツ盗んでやる!!」

と、立ち上がった。

「!!待て、アイボリー」

オニキスが腕を掴んだところで。

「なーんて、もう盗んであったりして!ほらこれ、オニキスにも分けてやる!」

なんと、頭にヒスイのパンツを被せられる。

「……」
(厄介な酔い方だ…)

「オニキス殿!!」

悲惨なオニキスの姿を見たシトリンが、声を張り上げる。
ところが…

ヒック!

怪しいしゃっくり。
目も据わっている。

「!!シトリン、お前まさか…」
「あ〜…美味そうだったんで、つい、な。一杯だけ…」

そこまで話して、再び
「オニキス殿ぉぉぉ!!」

と、叫ぶシトリン。

「そんなに母上の下着が欲しいのならば、私が取ってきてやろう!脱ぎたてホヤホヤのやつをな!!」
「いや、違う。これは…」

酔っ払いが相手では、何をどう説明しても無駄だった。

「待っていろ!!うぉぉぉ!!!」

物凄い勢いで、ヒスイの元へと突進してゆくシトリン…
酔う者がいれば、介抱する者がいる。
それが、飲み会の常ではあるが。

「……」
(全く収拾がつかん)

オニキスは最大級の溜息を漏らした。


「母上ぇぇぇ!!!」
「んっ?」

シトリンの接近。
そして、足元に春風が吹き抜ける。

「???」

この一瞬で、愛用の紐パンを盗まれたのだが。
ヒスイは気付かず。

「やったぞ!!オニキス殿!!」

それを高々と掲げるシトリンの隣で、あどけなく笑って言った。

「みんな、どんどん飲んでね!」


+++END+++


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