COUPLE WORLD

読切

魔石は恋人


天青×ほたる 月長×翠玉
気の強い♂×気の弱い♀。気の強い♀x気の弱い♂。
男女逆ながらそっくりな境遇。
そんな二組のカップルが織りなす四重奏恋愛。

[ 1 ]


「ほたる。さっさと服脱いでこっちこいよ」

古びた宿屋の一室。

ベットに腰かけた少年が少女の名を呼ぶ。

「うん・・・」

小さく返事をした少女は言われたとおり服を脱ぎ、少年の前に立った。

「・・・ったく、お前はトロイよな」
「・・・今日も・・・するの・・・?」

少女の声は細い。

「だって他にすることないだろ」

対照的に少年はよく通る声だ。

「うん・・・」

少女の声には覇気がない。

「お前って、何でもヒトの言いなりだな。まぁ、いいけどさ」
「そう・・・かなぁ・・・」
「そうだよ。ほらもっとこっちこいって」

意地悪っぽく笑いながら、少年は慣れた手つきで少女を抱いた。

  

ここはストーンセラーズと呼ばれる大陸。

少女の名前は、ほたる。職業、魔石使い。
そして少年の名前は天青。人間では、ない。
それ程目立ちはしないが、時折口元から牙がのぞく・・・。
魔石に封じられた魔物である。
ほたるは十五歳。子供ではないが大人でもない、曖昧な雰囲気を漂わせている。おっとりとした顔立ちで、細く長い三つ編みが印象的だ。
天青はほたるより若干年上に見える。とても気の強そうな顔立ちをしている。薄青く透ける髪が美しい。
魔石とはこの世界に棲む“ヒトならざる者”を石に封じ込めたもののことをいう。
もとはヒトの手に負えなくなった魔物を大人しくさせる為の手段だったが、いつしか魔の宿る石の力を利用しようとする者が現れた。それが魔石使いである。
魔石と契約を結ぶことによってヒトは魔の力を行使できるようになる。
しかし、魔石との相性があり、魔石に選ばれなければ魔石使いにはなれない。ほたるはその選ばれた魔石使いだった。

(・・・好きでなったわけじゃないんだけど・・・)

天青と肌を重ね合いながら、ほたるは契約が成された時のことを思い出していた。

(近所には男の子ばっかりで、よくいじめられて・・・)

小柄で気の弱いほたるはよくいじめられていた。
そしてある時、好きな子いじめの度が過ぎた男子が投げつけてきた石、それが天青だった。
石はほたるの額に直撃し、そこから血が流れた。

(まさかあれで契約成立なんて・・・)

少し騙された気分を味わいながら現在に至る。

(天青は・・・口は悪いし、見た目も怖いけど、あれ以来ずっと私を守ってくれてる。お父さんとお母さんが事故で亡くなって、ひとりぼっちになったあの日からずっと)
  

「・・・おいっ!ほたるっ!」
「あ・・・うん」
「服着ろ!さっさといくぞ」
「え・・・?今度は・・・なに?」

天青の行動はいつも素早い。
ほたるは毎回このスピードに乗り遅れてばかりいた。

「ギルド。いいエモノとってくるぞ。モタモタすんなよ」
「うん」

天青の提案にほたるは頷いてばかりだった。
そして気が付けば使役するはずの魔物に抱かれる魔石使いという、
奇妙かつ情けない関係が出来上がっていた。

「お前は意志が弱すぎんだよ。こうなったのも自業自得だからな」

と、キスの合間によく天青は言う。
ほたるは焦って服を着た。
扉の前で腕組みしながら待っている天青に追いつこうして、足を動かした矢先にべしゃっと転んだ。

「う・・・」
「・・・お前なぁ、同じとこで何回転べば気が済むんだよ。まったく・・・・鈍くせぇヤツ」

天青はほたるの手をとって立たせ、顔を覗き込み、にっと笑った。

「お前はホント、俺がいないとダメだなぁ。何もできねぇじゃん」

その通りだった。

(・・・天青の言うとおりだ・・・わたし・・・)

機嫌の良さそうな天青とは逆にほたるは暗い気持ちになった。

「しょうがねぇなぁ」

天青はほたるの手を強く握った。

「ごめんね」

ほたるは天青の手を握り返した。

  

ギルドは職業斡旋所のような場所で、腕に覚えのあるものは、護衛やトレジャーハント、賞金稼ぎなどの仕事にありつける。
二人はカウンターで分厚い冊子をぺらぺらとめくっていた。
その冊子には〈指名手配人物〉のモンタージュがランク付けされて並んでいる。上のページから捕獲ランクが設定されていて、下にいくほど捕獲困難とされている犯罪者だった。

「ほら、こいつにしろよ」

天青は下のほうのページを開いて、いかにも極悪そうな男の顔を指さした。

「この人はどうかな?」

ほたるが選んだのは上から2・3ページめくっただけの、一般人と見分けのつかないくらいの軽犯罪者だった。

「こんなんじゃ金になんないだろ」
「でも数をこなせば・・・」
「めんどくせぇじゃん。こいつ捕まえりゃ、今よりもっといい宿移れるぜ」
「だけど・・・」
「・・・お前なぁ、なんでいつもそんなに自信なさげなの?」
「なんで・・・って言われても・・・」

ほたるは黙り込んだ。天青はいつも痛いトコロをついてくる。

「魔石を使えるってことは、魔力があるってことだ」
「うん」
「なのになんで使おうとしない?」
「う〜ん・・・」

ほたるは唸った。天青の質問にことごとく答えられない。
天青はほたるから答えが返ってこないことをはじめからわかっていたように言葉を続けた。

「まぁ、お前は俺に着いてくりゃいいよ」
「・・・うん」
「追いかけてテキトーにボコりゃいいんだから、賞金稼ぎってのはいいもんだな」

天青は中ほどのページをめくって、ほたるが怯えないで済みそうな人相の相手に目星をつけた。

「よし。じゃ、こいつな」
「うん」

先程から「うん」としか言っていない自分をほとほと情けないと思いながら、ほたるは申し込みに向かった。
ほたると天青は賞金稼ぎを生業としていた。一年前、両親が他界し、ほたるが天涯孤独の身になってからというもの、天青とつるみっぱなしになっている。昼も夜も。
賞金稼ぎの仕事は人気があった。受付は腕っ節に自信のありそうな男たちで溢れかえっている。いかつい男性陣のなかで、うら若き乙女のほたるは否応なしに目立った。

「ホラ。アレ」
「本当だ・・・。まだ子供じゃないか」
「虫も殺さないような顔して」

ほたるが列に加わると前に並んでいたうちの数人がヒソヒソ話をはじめた。

「魔石使いらしいよ」
「そうなのか?めずらしいな」

ほたると天青はこの界隈では有名だった。
いかにも華奢で弱そうなほたるが、中級クラスの犯罪者を次から次へと捕まえてくる様は、男達にとって信じがたい光景だった。
今日もたちまちウワサの的になり、ほたるは居心地が悪そうに小さく身をすくめた。が、ほたるの後ろに控えていた天青がひと睨みすると列はしんとなった。ほたるは天青の影に隠れながら申し込みを済ませた。
同じフロアに酒場がある。そこは情報交換の場としていつも賑わっていた。

「一杯飲んでいこうぜ〜」
「いいけど・・・」

ほたるは酒を飲まない。食も細い。
一方、天青は人間の食べ物も酒も好んで食した。

(・・・ん?)

カウンター席に腰掛けようとしたほたるは、隣でジュースを飲んでいる少年に目を奪われた。

(気の弱そうな人だなぁ・・・。天青と同じくらいの歳に見えるけど・・・)

「ん?」

自分に視線が注がれていることに気付き、少年は顔を上げた。
持ち前の気弱な顔のまま二人は見つめ合った。
そしてどちらからともなく微笑んだ。
同じ種類の人間だと互いに確信したらしい。
普通なら人見知りして話せない場面だが、自分と同じだと思うととても話しやすそうな相手に思えた。

「月長といいます」
「ほたるです」

二人はまた笑った。

(この人・・・なんか優しい雰囲気・・・。安心して話せるカンジだなぁ・・・)

月長は紹介を続けた。

「あそこで浴びるように飲んでいるのが、翠玉。ぼくの魔石なんですけど・・・」

月長の示した先では、グラマラスな美人が両手にビールのジョッキを持ってケラケラと陽気に笑っている。
その先は聞かなくてもわかる気がした。

(このひと・・・もしかして私と同じパターンでは・・・)

「あなたも・・・ですよね?」

月長が話を振ってきた。

「あ、はい。あそこで豪快に食べたり飲んだりしているのが私の魔石、天青です」

ほたるは少し照れ臭そうに笑って、反対側を指さした。
そこでは天青が、ガツガツと肉を食べては、酒をひっかけていた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

二人ともあまりにも似た境遇だった。
ふつふつと親近感が込み上げてくる。

「ここで魔石使いに出会えるなんて・・・」
「しかも、なんかちょっと似てますね・・・」


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