World Joker

裏部屋T No.09

しあわせのしるし

World Joker108話まで読まれた方向け。


とある男子校の校長室に。

 

「あれ?セレ???」

 

学ランに身を包んだヒスイが姿を見せた。

「なんでここにいるの?」
「トパーズの影武者のようなものだよ」

教育機関の最高責任者であるトパーズの正体は、ごく一部の者しか知らない。
時間の遣り繰りが厳しい時など、たまに代理として呼び出されるのだという。
キングサイズの机と椅子に悠々と腰掛けている様は、司令室で見るものとそう変わらない。

「ところで、どうしたのかね、その格好は」

ヒスイの学ランについてセレが尋ねると。
ヒスイは、机の裏側へと回り、セレの脇に立って。

「スピネルに借りてきたの!これなら、ここの生徒に見えるでしょ?」

得意気に両腕を広げてみせた。

「なかなか面白い冗談だ」
「冗談じゃないんだけど」

入学許可を貰うつもりで、ここへ足を運んだのだと、ヒスイが語る。

「それは困ったね」セレは苦笑いだ。

本人は男装と言い張るが、そもそも体格が適さない。
学ランは見事にダボダボ。
残念ながら、女子にしか見えず。
しかも、とびきりの美少女だ。
目立ってしょうがない。

ヒスイがここまで必死になるのには、無論理由がある。
愛するトパーズが、この男子校に転任したのだ。
モルダバイトのオタク文化の影響から、最近のヒスイは同性愛妄想に陥りやすくなっていて。

「なんだか、トパーズが危ない気がするの!」
「近くで見守りたいという気持ちは、わからなくもないがね」

今日も見事なまでに暴走している。

「よく考えてみたまえ。危険なのは君の方ではないかね、ヒスイ」
「え?なんで???」
「世の男の大部分は、同性より異性を好むものだよ」

飢えたオオカミの群れにウサギを一匹放り込むようなものだ。
トパーズが認める筈がない。

「でも私は―」

と、その時。誰かの足音。

「わ・・・セレ!?」

セレがヒスイを抱き上げ、膝に乗せる。
そのまま、くるりと椅子を回転させ。背もたれを入口に向けて。
間もなく、トパーズが現れた。
代理のセレに特に挨拶もなく、窓際で煙草を吹かし始める・・・どうやらこの場を喫煙所にしているらしい。

(セレってば!!なにす・・・)

無謀にもトパーズの前に飛び出そうとするヒスイを腕に収め。
その口に大きな手を被せるセレ。

「・・・この部屋に“何か”いるようだが?」と、トパーズ。

「気のせいではないかね?」椅子の向きを変えず、セレが返答する。

「・・・・・・」

校長席にトパーズが一歩近づいた、そこでちょうど予鈴が鳴り。

「・・・後で迎えにくる。逃げるなよ」

トパーズはそう言って、一旦、校長室から去った。

 

 

 

「ヒスイ?どうかしたのかね?」

途中から急に大人しくなったかと思えば。
ヒスイはセレのネクタイを握り、結び目をじっと見ていた。
それから・・・

「ネクタイの結び方、教えて欲しいんだけど」と、申し出る。
「構わないよ」と、セレ。ヒスイを膝から下ろし。

(むしろここで遊んでいてくれた方が、校内が平和だろうからね)

こうして、セレがヒスイの練習に付き合うこと15分・・・

「意外と難しいわね、これ・・・」
「ヒスイ、それでは首が締まってしまうよ」
「あ、そっか、ここをこうして・・・」

・・・試行錯誤の末、何とか様にはなってきた。
ところがそこで、校長室の扉が開いた。トパーズだ。
早急な対応が必要と判断し、ヒスイを回収に来たのだ。
教室に、魔法で創りあげた自身の分身を残し、抜け出してきた。
当然、機嫌は悪い。

「わっ!?」

ヒスイは驚きのあまり、つい目の前のセレに抱きついた。
他意はない、が。

「・・・・・・」

問答無用で学ラン姿のヒスイを抱え上げるトパーズ。
ついでにセレを一瞥する・・・と。

「やれやれ」

何を言われた訳でもないが、セレは察し。

「見つかってしまっては仕方がない」と、校長室を明け渡した。
「お仕置きは程々に」

 

 

 

トパーズは、先程煙草を吸っていた窓際までヒスイを連れてゆき、そこに立たせた。

「どういうことだ?これは」
「え・・・だからあの・・・トパーズが、若い男の子の餌食になったら困ると思って・・・私が守るつもりで・・・」
「・・・・・・」(餌食になるのはお前だ、馬鹿)

ヒスイの学ランに手を伸ばし、金ボタンを外す・・・

「トパーズ?」(あれ?もしかして、怒ってる???)

ズボンもショーツも脱がされ。エッチの気配。



※性描写カット
 


「いいか、どんな格好をしていようが、お前は“女”だ。二度とここに来るな」

「わかったら―」



※性描写カット



「あ・・・ん・・・あぁ・・・」

ヒスイは全身から、狂おしいほど甘い香りを立ち上らせていた。

 

※性描写カット

 

壁際で改めて腰を下ろし、煙草を咥えるトパーズ。
ライターを出し、火をつけようとしたところで。
ヒスイが懐に飛び込んできた。これは ― 不意打ち。

「・・・何だ?」と、ヒスイの鼻を摘む。

「だのね」訳:あのね

構わず話し出したヒスイの言葉は、濁点だらけで、何を言っているかわからない。

「・・・・・・」

トパーズはヒスイの鼻から手を離し。

「もう一度言え」
「うん、あのね・・・」

ヒスイは、たどたどしい手つきで、トパーズの緩んだネクタイを直してみせた。
あまり上手とは言えないが・・・

「ネクタイ、結べるようになったよ」

せめてこれくらいはできるようになりたかったの、と、ヒスイ。

「これからは、私が結んであげるね、毎朝ずっと」

激しいセックスの余韻を残した顔で笑う。

「・・・・・・」

黙って、抱きしめて。
トパーズが頬に口づけた時にはもう、ヒスイは眠っていた。

 

 

 

 

 

「覗きか、趣味が悪いな」

校長室の扉に向け、トパーズが言い放つ。

「ヒスイが心配だったものでね」と、答え、入室するセレ。
「最近はこういうのが流行りかね?年寄りには些か刺激が強い」

「クク、タヌキめ」

口だけだとわかっている。要は、ヒスイを擁護しているのだ。

「こいつは、これくらいやらないとわからない。自称“男”で、校内をうろちょろされたら面倒だ」

睡眠中のヒスイを残し、校長室を出て行こうとするトパーズに。

「おや?ネクタイが曲がっているようだが?」

あえてそのままにしているのを知っていて、セレはわざとそう言った。

「・・・今日は、これでいい」
 


ところが。

“今日は”では済まず。
翌日も、翌々日も、トパーズのネクタイは不格好だった・・・。

「なかなか辛抱強いね、これも愛故かな」

練習相手になった時から、薄々気付いてはいたが。

(ヒスイは随分と不器用のようだ)

こっそりと、セレが笑う。
 


柄にもなく、曲がったネクタイ。
でもそれが・・・しあわせの、しるし。
 
 

+++END+++

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