世界に愛があるかぎり

25話 殺戮の果てに

   

「絶対にだめ。前から言ってるよね?」

“悪魔狩り”との決戦の日が近づいていた。

しかし、ヒスイには出陣の日時が一切伏せられていた。

ある日、目が覚めたら本拠地にひとり取り残されているのだ。

留守番として。

ヒスイがどんなに頼んでもコハクは首を縦には振らない。

ヒスイには激甘のコハクもこの事に関してだけは別人のように厳しかった。

「聞き分けのない子は・・・“おしおき”だよ」

ビクッとする。子供の頃から“おしおき”は苦手なのだ。

「でも・・・」

ヒスイにとって絶対の存在であるコハクに抗う術がない。

「だけどっ!はいそうですかなんて納得できない!」

つかまらないように距離を取って反論・・・

「・・・・・・」

コハクは答えない。

「いいもん!お兄ちゃんには頼まないから!」

  

(私ってそんなに頼りないかな・・・。これでも人一倍魔法の勉強はしたつもりなんだけど・・・)

ヒスイは魔道書を抱えて外へ出た。
今日も隠れ家で魔法の練習だ。

「暴走・・・かぁ・・・」

モゾモゾと羽根を動かしてみる。

「私には大切なものを守る力もない・・・」

そこまで言って悔しくなり、ふん!と強がってみる。

「そんなのやってみなきゃわからないじゃない!」

「・・・迷惑だ」

建物を出てすぐオニキスと出会った。

オニキスはヒスイの呟きを苦々しい顔で否定した。

「ファントムのメンバーはそれなりに戦闘訓練を積んでいる。お前とは違う」

「・・・ラピスまで参加するっていうのに?」

「あいつは“召喚士”だ。メノウ殿の元で召喚術を学び、能力も安定してきている」

「・・・・・・」

(なによ・・・ラピスのくせに・・・)

ラピスにまで劣っていると思うと悔しさ倍増だ。

「お前がいれば、コハクは力の半分も出せない。お前のお守りで」

「・・・・・・」

この言葉は効いた。

ヒスイは口を真一文字にして黙り込んだ。

「・・・足手まといだ。絶対についてくるな。いいな?」

オニキスはコツンと軽くヒスイの頭を小突いてその場を去った。

(・・・コハクだけではない。ヒスイがいたらオレも集中できん)

何よりも大切なもの。

絶対に守りたい。

(まったくあの女は・・・ヒトの気も知らないで・・・)

オニキスの口から出るのは溜息ばかりだ。

(今回はコハクも同意見のようだ。心配はいらないと思うが・・・)

歩きながらまた溜息・・・

「・・・なによ。いつもバラバラなこと言ってるくせに・・・こんな時にかぎって結束しちゃって」

コハクとオニキスのことだ。

ヒスイは小声で文句を言って、建物の中に引き返した。

(お父さんのとこ・・・いこ)

  

「う〜ん・・・。やっぱり反対だな。俺も頑固親父だと思われるの嫌だけどさ。こればっかりはなぁ・・・」

娘のワガママに父メノウは困った顔をした。

「・・・・・・」

ヒスイは俯いて黙っている。

「別に意地悪で言ってる訳じゃないんだ。誰だって自分の女を戦場になんて連れて行きたくないよ」

「・・・・・・」

「あいつ・・・さぁ・・・」

ヒスイを近くの椅子に座らせて、メノウが語る。

あいつとはコハクのことだ。

「自分が散々殺ってるだろ。だから余計なんだよ。殺戮の果てに何があるか知っているから、ヒスイには絶対触れされたくないんだ」

「・・・・・・」

「あいつの為だと思ってさ、キレイなままでいてやりなよ」

「・・・それで私の分までお兄ちゃんが傷つくの?そんなのおかしいよ」

「おかしくないよ」

答えたのはコハクだった。メノウの部屋の戸口に立っている。

コハクが部屋に入ってくると、入れ替わりにメノウが出ていった。

「・・・そのために僕がいるんだ」

椅子の前で膝を折り、ヒスイの手にキスをする。

手の甲、指先、手の平に至るまで何度もコハクの唇が触れた。

「・・・わかって・・・くれるよね?」

コハクが念を押す・・・ヒスイは難しい顔で答えた。

「わからない」

「・・・僕を困らせて楽しい?」

「違う!そんなつもりじゃ・・・」

コハクがいつになく堅実なので、ヒスイは混乱してきた。

そして逃げの一手。

「・・・ちょっと厳しく言い過ぎたかな・・・」

逃げ際のヒスイ・・・涙ぐんでいた。

思い出すと毛の生えた心臓でもちくちく痛む。

コハクは溜息を洩らした。

「だけど・・・今回はちょっと相手が悪そうなんだ。ヒスイを連れて行く訳にはいかない。絶対に」

  

ヒスイはトボトボと歩いて隠れ家に向かった。

こうも誰も彼もに反対されては、さすがに挫けそうになる。

道なき道を力なく進む。

ガサッ。

(!?)

またコクヨウが殺しにきたのかとヒスイは身構えた。

カサガサ。

「・・・え?」

竹藪から現れた人影・・・

「ダ・・・ダイヤ!?」

[花嫁!?]

天界の学校に通っていた頃の男友達。

ツンツン頭のアークエンジェル、ダイヤ。

[ヒスイでいいわよ。ところでどうしてここに?]

ヒスイは隠れ家へダイヤを案内した。

天使語を使うのは久しぶりだが忘れてはいない。

[ヒスイこそ。どうしてここにいるんだ?ここ、ファントムのアジトだろ?セラフィムは・・・]

[お兄ちゃんがここのリーダーやってるの、今。]

[ええっ!?セラフィムが!?ファントムって悪の組織じゃないのかよ・・・]

[悪の組織?それ悪魔狩りのことでしょ?]

[その悪魔狩りから偵察に来たんだ、オレ。上の命令で。]

[はぁ〜っ??]

二人は小屋の裏で肩を並べ、苺を摘んでいる。

[悪魔狩りにトロウンズが捕まってて。]

[イズが!?]

[助け出そうと思って組織に入ったんだ。なんか胡散臭いトコだとは思ってたけど、やたら“天使”が多くてさ。突然地上に落ちて、途方に暮れてる奴等が集まってんだ。]

[まぁ、言葉も通じないし、無理もないわね。]

[悪魔狩りで一番のお偉いさんってのが天使語話せてさ。天使語で“ファントムという悪の組織に制裁を”なんて掲げるから、皆その気になっちゃって。]

[・・・本当に胡散臭いわ、それ。]

[トロウンズはぼ〜っとしてて自分から全然動かねぇし。]

[イズ・・・相変わらずなのね・・・]

しかし相手が天使となると、悪魔主体のファントムとは相性が悪い。

(カーネリアンも・・・天使にやられたのね・・・)

ヒスイの心配は更に増した。

(早くお兄ちゃんに伝えないと・・・)

[セラフィムと話してぇけど、帰りが遅くなると怪しまれるから一旦戻るわ、オレ。トロウンズもなんとかしなきゃだし。]

[うん。お兄ちゃんには私から話す。]

ダイヤと別れ、ヒスイはコハクの元へ急いだ。

  

「お兄ちゃん!あのね!」

「・・・だめだよ」

最近口を開けばそればかりだったので、コハクは先回りでヒスイの言葉を遮った。

「ヒスイはここで待ってなさい」

暴れるヒスイを押さえ込み、無理矢理唇を塞ぐ・・

「ん〜・・・っ!!!」

(ひどいよ・・・)

ヒスイの意識が遠くなる。

ここ2・3日はこれで眠らされてばかりだった。

(お兄ちゃんの・・・バカ・・・)

ヒスイはコハクの腕の中で眠りに落ちた。

「・・・ごめんね」

コハクがヒスイの体を抱き締める。

(・・・ヒスイ寝てるけど・・・したい・・・明日出陣だし)

とりあえず眠っているヒスイの服を脱がせてみる。

(魔法で眠らせてるから時間がくるまで起きないし)

揉んでも噛んでもヒスイは声をあげない。

どこをどういじっても聞こえるのは寝息だけだ。

(でもちゃんと体は応えてくれてるから・・・いいよね?)

ヒスイの動かない唇に愛情たっぷりのキス・・・それから足を開かせる。

いつもの場所はしっとりと濡れていて、コハクをちゃんと待っていた。

(ヒスイ・・・なんていい子なんだ・・・)

ヒスイの素直な反応に感動しつつ、コハクはズボンのチャックを降ろした。

「んっ」

奥まで一気に突き入れる・・・大好きな場所に到達し、思わず声を洩らしそうになる。
ヒスイの中はいつもと変わらず柔らかく温かい。

コハクは一人快感に酔いしれながらヒスイの耳元で囁いた。

「ちょっといってくるから・・・大人しく待ってるんだよ・・・」

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