世界に咲く花

32話 不謹慎な夜




モルダバイト。エクソシスト正員寮。

 

「そろそろマーキーズに入る頃かな」

部屋一面の書物に埋もれて身動きが取れないメノウ。

その場から窓の外に広がる青空を見た。

「調査かぁ・・・気休めだな。コハクもわかってるくせに」

どこまでも繋がっている空に想いを馳せる。

「二人を危険から遠ざけるのが目的なんだろうけど」

(シトリンはシトリンで何か隠してるし)

メノウが訊ねてもシトリンは猫になった理由を語らなかった。

「誰も手の内を明かさない・・・身内で騙し合いしてどうすんだよ・・・」

自分もヒトのことは言えない。

大きな秘密を隠し持ったままここまできてしまったのだ。

責める者は誰もいなかったが、その罪の重さに胸が押し潰されそうになる。

“心配をかけたくない”

秘密の心理は単純だ。

(たぶん・・・みんながそう思ってる。大切なものを守ろうとするあまり、ひとりで抱え込んで秘密が増えていくんだ)

それぞれが胸に抱えているもの。

想い合ってはいても、なかなかわかり合えない。

「俺達・・・バラバラだなぁ〜・・・」

  

魔界。“銀”の古城。

「ここにトパーズと来たの?」

「うん。五千年前の・・・だけどあんまり変わってないみたい」

コハク、ヒスイ、オニキス、奪還組の3人はこの場所を拠点に腰を据えてサファイヤの所在を探すことにした。

「最近まで“銀”の一族が住んでいたからね。それほど老朽化はしていないはずだよ。しばらくここで寝泊まりを・・・いいですか?オニキス」

「・・・ああ」

オニキスはずっと黙ったままだった。

もともと口数が多い方ではなかったが、更に輪をかけて無口になっている。

(・・・無理もない。トパーズと過ごした時間はオニキスが一番長いんだから)

コハクは横目でオニキスの様子を窺った。

(何かと引きずるタイプだしな〜・・・)

「僕は追跡を開始します。こういうのは早いほうがいいんで」

「じゃあ、私も一緒に・・・」

「ヒスイはオニキスに付いてて。あれじゃ、万が一の時戦力にならない」

コハクはそうヒスイに耳打ちすると、額にキスをした。

「ちょっと行ってくるね。すぐ戻るから」

「・・・うん。気をつけて」

不安顔のヒスイにもう一度キスをして、コハクは城を発った。

「・・・あいつが・・・」

沈んだ声。
浮かない顔でオニキスが口を開いた。

「眼鏡をかけたのは2年前だ。オレには、視力が落ちたと言った」

「・・・うん」

「なぜあの時、もっとよく話を聞かなかったのか。そればかり考える。オレには“知る”機会がいくらでもあったはずだ」

「そんなこと今更考えたってしょうがないじゃない」

実にあっさりとヒスイが言った。

「これから何をすべきかのほうがずっと大事だわ」

オニキスを覗き込んで気丈に笑う。

「まぁ・・・私はもうちょっと反省したほうがいいかもしれないけど」

と、言って自ら頭をコツン。

「オニキスはもう充分だよ」

「ヒスイ・・・」

「さ!探しにいこ!」

「・・・そうだな。行くか」

淡い暗闇の中、ヒスイが少し先を歩く。

揺れる銀の髪。

後ろ姿は見慣れている。

コハクの元へ帰るヒスイを嫌というほど見送った。

ヒスイには置いてゆかれるばかりで。

寂しさだけが募るのに、愛しい背中。

不謹慎な夜。

(だが、今回は遅れをとるわけにはいかん)

トパーズを想い、オニキスは心に誓った。

  

「見つからない・・・」

コハクは一人呟いた。

サファイヤの居所がどうしても掴めない。

一週間以上も探したが手がかりすらなかった。

「気配を完全に絶たれた。厄介だな」

溜息。はぁ〜っ・・・。

「・・・戻るか」

(もうひとつ大きな問題が残ってることだし)

  

「おかえり。お兄ちゃん」

窓から帰宅したコハクをヒスイが迎える。

小綺麗な部屋だ。城だけあって広い。
家具も立派なものばかりだった。

「オニキスは?」

「まだ帰ってきてないよ」

コハクとオニキスは手分けして捜索を続けていた。

ヒスイは留守番。
“銀”の生態を探るべく城内を調べ回っていた。

「・・・あのね、ヒスイ。話しておきたいことがあるんだ」

「ん?」

コハクをじっと見上げるヒスイ。

「おにいちゃ・・・何を・・・」

手を握り、睫毛を伏せて軽くキス。

それから顎を持ち上げ、ディープなキスをする。

二人は大きく口を開け、舌を絡ませ合った。

「ん・・・」

延々とキスが続く。

「はぁっ。ん?あれ??」

ヒスイはいつの間にか服をすべて脱がされ壁際に立っていた。

「もうっ!おにいちゃんはっ!こんな時になにやってるのよ!」

我に返ったヒスイが背を向けると、コハクが後ろから強く抱き締めた。

「・・・こんな時だから・・・だよ」

「やっ・・・もぅ・・・不謹慎・・・」

コハクが割れ目に滑り込ませた指が抗うほどに食い込んで、愛液を引き出す。

指先はすぐに濡れた音を立てはじめた。
ぬるぬると絡みつくヒスイの愛液。

「あ・・・だめだってば・・・っ・・・んぅ」

時も場合も選ばず、コハクには無条件で濡れてしまう自分が許せない。

ヒスイは頭を振って必死に抵抗した。

しかし胸を愛撫され、背中にキスをされ、同時に下で指が蠢いていては立っているのもやっとだった。

「わかってるけど・・・今夜は大目にみて」

ヒスイの耳元でコハクが囁く。

「しばらくおあずけになりそうだし」

「・・・え?な・・・」

何で?と聞く前にコハクが中に入ってきた。

鍵穴に鍵を差し込む。そんな風にして体も開かれる。

内側からコハクに支配される時間・・・

「あ・・・ぅ・・・」

「・・・ここに、新しい命が」

体をゆっくりと擦りつけて、コハクは後ろからヒスイの腹部を手で覆った。

「!!!」

途端にヒスイの体が強張り、締め付けが強くなる。

「・・・いいよ。どっちの子供でも。血は繋がってる」

「おにいちゃぁ〜・・・」

ヒスイの頬を涙が伝う。
突き抜かれた場所がキュンと痛んだ。

「大丈夫だよ・・・力抜いて」

「あぅぅ〜・・・」

快感と罪悪感の狭間でヒスイが唸る。

よしよしと頭を撫でてコハクは腰を動かした。

「このまま・・・何も考えなくていいから」

「あんっ!んぐぅ・・・んっ、んぅ・・・」

優しい言葉と裏腹に激しい摩擦。

「お・・・にいちゃ・・・あ、あ、あ、んっ!」

どうすることもできずにヒスイは切なく咽び泣いた。

「ん・・・ふぅ・・・あぁ・・・おにいちゃ・・・ん。中でいっぱい・・・出して」

「うん」

「いっぱい・・・いっぱい」

「うん」

「はぅ・・・んっ」

コハクが放出する度に一滴も受け洩らすまいと懸命になるヒスイ。

部屋中の至る所で、上になり、下になり、何もかも忘れて貪欲に腰を振る。

「あっ!あっ!はぁ・・・ん。おにい・・・ちゃぁんっ!」

コハクの背中に爪をたてるほど激しく乱れて。

「うん・・・っ・・・ヒスイっ!」

同じようにコハクもヒスイの体を何度も吸った。

  

「今度はちゃんと二人で育てようね」

  

明けない夜の国でも、時刻は存在する。

深夜と呼ばれる時刻にオニキスが帰還した。

「どうでした?収穫ありました?」

コハクが問いかける。オニキスは首を横に振った。

「これだけ探しても見つからないということは・・・人間界だ」

「そうですねぇ・・・」

「後は人海戦術でいくしかない」

「ええ。それで今後の話なんですけど・・・」

コハクは少し間をおいてから言った。

「ヒスイに子供ができました」

「!!!」

「父親は・・・わかりません」

「・・・・・・」

とてつもなく気まずい空気が流れる。

「・・・まぁ、そういう訳で、ヒスイは連れていけません。戦線から離脱させます」

「・・・そうだな」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

お互い言葉が出てこない。

「今度は女の子がいいなぁ・・・ははは」

しばらくして、コハクが冗談混じりに肩を竦めて笑った。

   

「どうやらお目覚めのようですネ」

「・・・・・・」

「驚きましタ?あまりに早い蘇生デ。気分はどうでショウ?」

「・・・・・・悪くない」

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