世界に春がやってくる

2話 秘密クラス


 

「お前のせいだぞ!恥かいちゃったじゃないかっ!!どうしてくれんだよ!」

「なによっ!サルファーが言い忘れてたのがイケナイんでしょ!!」

ジストの予想通り、リビングではサルファーとヒスイが言い争いをしていた。

仲裁役のコハクはルチル接待の為、もうここにはいない。

二人の口喧嘩は激化する一方だった。

「どうせお前が足開いて父さんを誘惑したんだろ」

「そんな訳ないでしょっ!!」

サルファーはとことんコハクを美化するのだ。

悪いのは全部ヒスイ。いつもそう思っている。

「童顔年増っ!!トシ考えろ!」

「自分がフケ顔だからってひがまないでよ!天パー男!」

産みの母とは思えぬ酷い言い草である。

サルファーは王子様的巻き毛・・・祖母からの隔世遺伝と思われる。

チリチリとまではいかないが、ウネウネであり、本人もそれを気にしていた。

悪口を言われれば、当然怒る。

「なんだとぉ〜!!」

「なによっ!やる気?」

「やってやるっ!!」

 

 

「先生は・・・ここかな?」

ジストとルチルが待機している部屋を覗き込むコハク。

「あっ!父ちゃんっ!」

嬉しそうに駆け寄るジストの頭をでかしたとばかりに撫でて。

「先生、こちらへどうぞ〜」

ルチルを隣の客間へ案内し、淹れたてのお茶を用意したテーブルへと。

「お待たせしてしまってすみません」

見られてしまったことを気にする風でもなく、愛想良く微笑む。

「あっ!いえっ!!」

(ダメだわっ!教育者たるものこれしきで狼狽えては・・・)

担任になって初めての家庭訪問。後が控えているのだ。

ここで躓いてはいられない。

しかしルチルの脳内では、直視した夫婦の結合部がチラついていた。

ルチル19歳。年頃の乙女だ。

必死にモザイク処理をしながら、教師の面目を保とうとしていた。

(それにしても・・・こんなに綺麗な人なのにあんなモノが・・・)

サルファーとジストの両親は物凄い美形だと、子供達の噂で聞いていた。

それはサルファーとジストの一際整った顔立ちを見れば、誰しも納得する事柄で、実際見た子供がいるかは謎だったが、今、目の前にいるのは本当に息を飲む程の美形だ。

「先生?大丈夫ですか?」

「あっ!はいっ!それであのっ、サルファーくんとお母様は・・・」

「あ、そうですね、今・・・」

リビングに残してきたヒスイとサルファー。

喧嘩をしているに違いない。

コハクもそう思っていた。

「ヒスイ〜!サルファー!おいで〜!」

 

 

「いっそ丸刈りにでもすればっ!!」

「まな板胸が偉そうな事言うな!!」

「吸ってたくせに!!」

「すっ・・・!?何て汚らわしいことを!!」

「ちょっと!失礼なこと言わないで!お兄ちゃんは美味しいって言ったもん!!」

「父さんが“美味しい”?どういう意味だよっ!!ソレっ!!」

ど突き合い。

家庭訪問中であることなど二人とも忘れ去っている。

「こらこら。二人とも一時休戦して、こっちへおいで。先生が待ってるよ」

“ヒスイちゃん”“サルファーくん”

そう呼ばれて、両者ビクッ。

二人を迎えにきたコハクが、身内にしかわからない裏のある笑顔で手招き。

従わなければ“おしおき”が待っている。

二人の喧嘩を止める為にコハクが新たに考え出した“おしおき”。

一度体験し、懲りていた。

「・・・後で覚えてなさいよ」

「・・・それはこっちのセリフだ」

威勢のいい事を言っている割には、身を竦めコソコソとコハクの傍へ寄る二人。

「ヒスイは挨拶するだけでいいから、ね?」

「何て言えばいいの?」

極度の人見知りであるヒスイ。初対面の相手は苦手だ。正直気が重い。

「軽く会釈して、“子供達がいつもお世話になっています”でいいよ」

「ん、わかった」

「上手くできたら後でご褒美あげる」

「うんっ!」

ちゅっ!

子供達の前でも、ヒスイは特別扱いなのだ。

サルファーは、それが非常に気にくわない。

しかもコハクではなく、愛情を注がれているヒスイに憎しみを覚える。

「僕はお前が嫌いだ」

「別にいいよ。お互い様だし」

ツンと横を向いたままヒスイが答える。

「兄さんみたいに、愛情の裏返しとかじゃないから。ホント嫌いだから」

「あっ、そ。勝手に言ってれば?」

「・・・“愛されて当然”みたいな女見てると虫酸が走る」

「男の嫉妬は見苦しいわよ?」

家庭内でも恒例のコハクとトパーズの親子喧嘩。

ヒスイとサルファーもそれに並ぶほど険悪だった。

「でも・・・“おしおき”はちょっと・・・」

「・・・右に同じだ」

揃って咳払い。

「お兄ちゃんのいうことはきかないと」

「父さんのいうことはきかないと」

 

 

 

“教育者たるもの、これしきで・・・”

 

それは、ルチル流、自分を励ます呪文だった。

評判の美形が4人ズラリ。

中央にコハク。その右隣にヒスイ。

テーブルの上に置かれた小さなヒスイの手に、さりげなくコハクが手を重ねて。

夫婦を挟むように子供達が座っている。

サルファーがコハクの左側。ジストがヒスイの右側。

夫婦が子供達を挟んで座るのが普通だろうと思っていたルチルは、まずこのフォーメーションに驚き、更に4人が異様なほど詰めて座っていることに気後れ。

横に長いテーブルだというのに、なぜそこまでくっつく必要があるのか。

(この人達・・・わからない・・・)

コハクとジストはニコニコ顔で。

ヒスイとサルファーは仏頂面で。

2×4の瞳がじっとルチルを見つめているのだ。

 

 

サルファーは、クラスで一番勉強ができるが、協調性が足りない。

ジストは、クラスで一番の人気者だが、集中力が足りない。

 

 

そう報告するつもりで来たのに言い出せない。

逆に自分のほうが面接を受けている気分になってしまった。

(教育者たるもの・・・教育者たるもの・・・)

「・・・いくつ?」

先に動いたのはヒスイの口だった。

「え?」

「歳」

「じゅ・・・19です」

「19・・・」

女同士で年齢の話は気まずい。

ヒスイのほうが幼く見えても、間違いなく年上なのだ。

ルチルは完全に言葉に詰まってしまった。

「モルダバイトは年齢関係なく優秀な人材を採るからね」

「そうそう!先生すごいんだぜっ!」

話題を変えようと、コハクとジストが慌てて割り込む。

「大変なお仕事ですね。どうですか“特殊クラス”は」

 

 

“特殊クラス”

人ならざる者、及びその混血児のみで構成された学級で、異種族同士の学園生活は可能か、試験的に立ち上げられた教育プランだった。

人外の存在は日に日に認識を深めているが、他国ではまだ圧倒的に人間の割合が多く、何かと反発の声もあがる。

モルダバイトだけの問題ではなく、他国への証明として取り組まれていることだった。
ジストとサルファーが所属しているのは、公にされていない“秘密クラス”なのだ。
無論内容は一般クラスと変わらない。

ルチルは自ら志願して、この“秘密クラス”の担任となったのだった。

 

 

十数分後。玄関にて。

 

「すみません。何のお構いもできなくて」

事前に知っていればお土産を用意できたのに、と残念そうなコハク。

「いえっ!そういうんじゃないですからっ!!」

「先生、頑張ってくださいね。うちのコ、よろしく」

「はい。ありがとうございます」

深々と頭を下げてルチルが去った。その物腰は柔らかく。

(あれ?天使の匂い・・・?)

「彼女は人間の筈だけど・・・ま、いっか」

濃厚な同族の残り香。

それよりも今は。

 

「さ〜て。ヒスイと続きをしよっと」

コハクは軽く伸びをして向きを変えた。

「ヒスイ〜。おいで〜」

 

 

「ん・・・おにいちゃん・・・」

騎上位。ヒスイが体を起こして結合の度合いを深める。

コハクの肉棒の中程を基点に、腰を小刻みに上下。

「あっ!あぅんっ!あ、あぁっ!」

サオの部分で入口を擦り、快感を得て、喘ぐ。

「いい音がするね」

くちっ。くちゅ。ぺちゃっ。

湿った音を聞けば聞くほどお互いの興奮が増してくる。

「んっ・・・はぁ」

「もっと奥まで突いてごらん」

腰を大きく動かすようにコハクが指示して、ヒスイが頷く。

言われた通りに腰を深く落とすと、同時に前も圧迫されて、甘美な刺激に溺れてしまう。

「んあっ・・・んぅ・・・ふぅ、はぁっ」

肉欲に従い、ひたすら擦り続けて、噴き出す愛液。

 

 

「あ、おにいちゃ・・・」

「・・・そろそろイきたい?」

「ん・・・」

ヒスイがコハクの胸にぺたりと伏すと、小さなお尻に両手を添えて、コハクが下から突き上げた。

「うく・・・っ!!」

それが絶頂に向けての合図で。

「は・・・おに・・・ちゃ・・・」

ヒスイが腰を沈める。

同時にコハクが突き上げる。

ヒスイが腰を引くと、コハクも腰を引いて。

恥骨をぶつけ合う要領で、繰り返し、繰り返し、交わる。

「あっ!あぁ!はっ・・・!は・・・ん・・・んんっ!!んふ・・・」

乱れて、割れる、声。すぐに弾けて。

 

 

「は〜・・・っ。ふぅ〜・・・」

コハクに精液をたっぷり注入された後、官能の息と共に洩らす。

「ね・・・おに・・・ちゃん・・・最近スピネル大人しいね」

「スピネル?あ、うん。そうだね」

気分屋のスピネル。

話しかけても無視されることが多く、それこそ一、二週間話さないことはざらにあったが・・・

「えっちの邪魔だけはしっかりしてたのに」

いつからかぱったりと止んだ。

騎上位でなくても、吹き飛ばされないコハク。

(あれ?いつからだろ・・・)

「スピネルは、もう僕等の邪魔をしないと思うよ」

「え?なん・・・」

コハクお得意の口封じ。

キスで唇を塞ぎながら、脚を絡ませ、強引に股間を開かせる。

浸けた指で内側を撫で、右の乳首を吸って、左の乳首を摘んでいじれば、快感に思考能力が奪われたヒスイは、されるがままだ。

 

 

「けふっ・・・はぁ・・・ぁ・・・ふぅ・・・ねむ・・・」

くたくたになるまで強いられ、ヒスイの体から力が抜ける。

頭に浮かんだ疑問を何一つ言葉にできずに、眠りへ落ちた。

すぅ〜・・・っ。

「おやすみ。ヒスイ」

キスをして、ヒスイの臍を指先でなぞる。

「これからは思う存分愛し合えるよ」

 

 

「スピネルはもう、ここにはいないんだ」



ページのトップへ戻る