世界に春がやってくる

18話 青空恋模様

 

んくっ。んくっ。ぷはぁ〜。

 

吸血を済ませたヒスイの頬はバラ色に染まっていた。

糧は勿論コハク。

「おいしかった?」

「うんっ!」

恍惚とした表情で「ごちそうさま」とヒスイが言って。

「はい、じゃあ、あ〜んして」

「あ〜ん」

恒例の健康チェック。

大きく開けたヒスイの口元にコハクが顔を近づける。

(ふむ。牙の状態は良好。肌の調子も良さそうだ)

「今日も綺麗だよ、ヒスイ」

 

ちゅっ。

 

サルファーとジストはエクソシストの初任務へ出向いた。

トパーズも出勤し、穏やかな平日。

 

 

嵐の前の静けさであっても、満喫したい。

 

 

「久しぶりに二人きりだね。子供達の引率はメノウ様に頼んだから心配ないし」

コハクは上機嫌だった。

「うん〜・・・えへへ・・・」

ヒスイは朝からコハクにベッタリ。

二人きりが嬉しくて、甘えまくっている。

「お兄ちゃんっ!これから何するっ!?」

「そうだねぇ・・・ピクニック行こうか」

「うんっ!行くっ!!」

 

 

(そろそろ話しておかないとなぁ・・・)

今日、二人だけの時間を作った理由。

黙示録と羊。ヒスイに納得して貰わなければならないのだ。

(とりあえず、やることはやってからにしよう。うん)

都合の悪いことを先送りする癖は相変わらずだった。

 

 

 

花見にはまだ早い季節。

お菓子の詰まった籠とポットを持って裏庭へ出た。

そこから森へと抜け、小高い丘まで手を繋いで歩いた。

見上げれば、青空快晴。

春を思わせるうららかな日だった。

 

見晴らしの良い丘の上には目印とばかりに一本の大木がある。

その根元にシートを広げ、空見。

「いい天気だねぇ〜・・・お兄ちゃん」

「うん。洗濯物が良く乾きそうだ」

ヒスイを抱え込むようにして座り、ほのぼの。

「今日のおやつはシュークリームだよ」

オリジナルトッピングが施され、見た目からして美味しそうだ。

「わぁ〜い!」

ヒスイは早速齧りつき、中から飛び出す甘いクリームに舌鼓・・・

 

「ん?どうしたの?」

いくつか平らげたところで、ヒスイの手が止まった。

「全部食べちゃうと、サルファーに文句言われそうだし。ジストが泣くかも」

「くすっ。全部食べていいよ。それはヒスイのために作ったものだから」

大丈夫だよ、とコハクはヒスイの頭を撫でた。

 

 

 

「・・・クリームついてるよ」

口の周りのカスタードクリームを拭って、キス。

「・・・そろそろする?」

「うん・・・」

頷くとすぐ背中のファスナーが下ろされ、コハクの手が滑り込んできた。

慣れた手つきでブラのホックが外される・・・

 

 

 

「ふにゃぁ〜」

「いい子だね〜・・・」

背後からヒスイのちょこんと尖りだした乳首を摘むと、同時に下の溝が愛液を染み出させた。

右手は乳首、左手は溝に沿って忍ばせ、ヒスイの性器の反応をたっぷりと堪能する。

「・・・すごく・・・温かいよ」

左手の指先をとろっとヒスイの蜜が濡らして。嬉しく、愛しい。

外気との温度差で、いつもより更に温かく感じる。

外なので、服は脱がせない。が、ワンピースの乱れた様子にもそそられてしまう。

ズボンの中ではもう痛いほどに勃起していた。

 

「んっ!!あ・・・あっ・・・ああっ!!」

 

ヌルッ。チュプチュプ・・・

 

「んふ・・・っ!あふん・・・っ!」

 

中でコハクの指が動く度、ヒスイは狂ったように激しく悶えて。

 

 

吸血後からすでに欲情していた。

 

 

この時を待っていたのだ。

どくん・・・っ!と奥から溢れ出した大量の愛液。

いつ挿入しても構わないとカラダが告げる。

 

「ん?もう欲しいのかな?」

優しく微笑んで、コハクはズボンからリクエストの品を引っ張り出した。

 

 

「ふっ・・・んあっ!!」

 

 

根元まで埋めた瞬間に得る、征服感。

その快感に酔いしれ、精液を思いっきり吐き出したくなる。

「あ、あ、あ、お・・・おにぃ・・・ちゃ」

シートの上で四つん這いになったヒスイを後ろから深く突き上げ、耳を舐める。

それから、硬く尖らせた舌先を耳の奥まで差し入れた。

 

 

「ひぁ・・・っ!あんっ!」

 

耳も性感帯。それぞれの穴に嵌められ、快感に溺れるヒスイ。

コハクの舌の粘膜と唾液が立てる湿っぽい音に、興奮は更に増して。

 

 

 

コハクが励めば励むほど、飛び散る愛液。

 

 

 

「・・・・・・」

揺れるコハクの腰と視界。

季節はまだ冬で、景色は味気なく、枯れ枝が目立つ。

(だけど・・・)

 

「あっ!あぁんっ!!あっ!あっ!」

 

 

僕の花はいつだって色鮮やかに咲いている。

 

 

決して乾くことのないように。

 

 

惜しみなく注ぎ続けるよ。

 

 

「ヒスイ・・・愛してる」

「うっ・・・ぅ!!おにいちゃんっ!!んんっ・・・あっ」

途切れる喘ぎ声。

ヒスイがイク瞬間を逃さず、自分もタイミングを合わせる。

 

「んっ・・・」「あっ・・・」

 

いつもより少し早めに射精して。

 

「はぁっ。はぁ。ふぅ〜・・・っ」乱れた息を整えるヒスイに。

 

 

 

「・・・あのね、ヒスイ。話したいことがあるんだ」

 

 

 

肝心な事はいつも、えっちの後。

 

 

 

その頃、マーキーズでは。

 

 

「まさかマーキーズの神学隊が所有してたなんてね」

宗教の国と称されるだけあって、“神”の研究は他国とは比べものにならないくらい進んでいた。
神の遺産を所有しているのも納得がいく、が。

「・・・遅かった」

マーキーズの軍人を装い潜入してはみたものの、黙示録は持ち出された後で。

(マーキーズの神学隊・・・タンジェ・・・)

モルダバイトの家系図では孫にあたる。

元々明るくないオニキスの表情が更に曇った。

「タンジェ・・・お前が黙示録の“使者”なのか・・・?」

思わずそう呟く。

「黙示録の“使者”?」

また妙な単語が出てきた、と不思議顔でスピネルが繰り返し。

「“黙示録”には“羊”が必要だ」

「うん。でも“黙示録”は動けないよね?書物だもん。例え意志があったとしても・・・あ、そっか」

賢しいスピネルは自ら答えを導き出した。

「“黙示録”を“羊”の元まで運ぶ。それが“使者”だね?」

「・・・そうだ」

オニキスもダテに毎月コハクと顔を合わせている訳ではない。

その辺りの事情にはかなり詳しくなっていた。

「黙示録はその身に触れた者を自由に操ることができるという。“使者”は黙示録の意志そのものだ。“黙示録”の手となり足となり、“羊”を求める」

(タンジェは今、城へ帰ってきていると・・・)

 

オニキスが身を翻す。

 

「モルダバイトへ戻るぞ」

 

 

 

 

そして、「風林火山」御一行。

 

 

メノウとサルファー。ジストとタンジェ。

青空の下、隣国クリソプレーズの道を二組に分かれて歩いていた。

 

 

先を歩くメノウとサルファーの会話は今回の任務について。

「皮肉な話だね」

サルファーが切り出した。

「悪魔祓いが悪魔を守るなんてさ」

 

反悪魔主義の天使集団。

 

悪魔に対する制裁の度が過ぎ、教会とは対立する立場にあった。

「連れ去られた幻獣カトブレパスの子供を取り返し、親元へ帰す。それが僕等の任務」

カトブレパスは石化ガスを吐く牛型の幻獣だ。

息を浴びるだけで体を石にされてしまうため注意が必要だが、獰猛な種族ではなく、現在はヒトの棲んでいない荒れ地の果てでひっそりと暮らしていた。

 

「お前等まだ戦いに慣れてないだろ」

メノウ推奨の作戦はアジト近くに潜伏し、夜になってから忍び込む・・・つまり戦わずして盗み出すものだった。

「別に僕は正面突破でも・・・」

戦いを好むサルファーはコソコソする作戦にイマイチ乗り気でなかったが、引率のメノウは別として、自分達だけの力でアジトを潰すことなど到底できないこともわかっていた。

「今度コハクにみっちり稽古つけてもらいなよ。お前は熾天使の血が濃いから、たぶん強くなる」

「そうかな?」

サルファーは嬉しそうに、頬を指で掻いた。

「父さん、教えてくれるかな?」

これまでコハクから武術指南を受けた事はない。

「ここまできたらあいつだって教えない訳にはいかないだろ。俺からも頼んでやるよ」

「うんっ!!」

家に帰る楽しみができた。

まずは任務成功をコハクに報告したい。

きっと喜んでくれると思う。

「よしっ!!やるぞ!!」

 

 

 

一方ジスト&タンジェは・・・

 

 

「なっ!タンジェ!」

「何ですか?か・・・ジスト様」

「その耳ってどうなってんの?」

ジストは半猫娘に興味津々だった。

「こういう耳、ないの?」と、自分の耳を引っ張って。

深く考えもせず、タンジェの髪に触れた。

「見せてっ!」

無邪気な好奇心。

10歳の現時点では身長も殆ど変わらない。

1cmくらいはタンジェのほうが大きいかもしれなかった。

「きゃ・・・っ!」

「えっ!?」

タンジェが真っ赤な顔で軍人らしからぬ乙女声を出したので、ジストは驚いて手を引いた。

「ごめん・・・」

(馴れ馴れしく女の子に触っちゃダメなんだっけ)

以前ヒスイに怒られたことを思い出す。

(ヒスイどうしてるかな)

早くもホームシック。今夜は家に帰れそうもない任務なのだ。

(今頃父ちゃんとえっちしてるかも・・・)

覗くことができないのが、少々残念ではあるが。

(任務成功したらお祝いのキスしてくれるって言ってたし!頑張ろっ!)

それはコハクが勝手に言った事で、ヒスイの口から出た言葉ではなくても。

ムフッ!と、ハッピースマイル。

 

 

「ねえ、タンジェ」

「何ですか?ジスト様」

「それそれ!何でオレの事“様”なの?」

「えっ!?そ、それは・・・」

(しまったですわっ!!)

確かに不自然・・・やっと今、気付いた。

「ジストでいいよ。友達だろ!オレ達!」

かぁぁ〜っ!!

ジストの友達宣言に、再び赤面のタンジェ。

(ああ・・・なんと心優しい・・・さすがは神の名を継ぐお方・・・)

「ジッ・・・ジ、ジス・・・」

 

“ジスト”

 

ただ名前を呼び捨てればいいだけなのに、うまく口が動かない。

(ああ、でもわたくしっ!どこまでもついてゆきますわ!!)

 

 

「おいっ!ジストっ!早く来いよ!!」

サルファーとメノウは随分先を歩いていて、ジスト達とは10m以上離れていた。

「待ってよっ!サルファー!!じいちゃん!!」

慌てて駆け出すジスト。

「ほらっ!タンジェも早くっ!」

急かしながらもジストは途中で足を止め、タンジェが追いつくのを待った。

ジストの何気ない優しさが嬉しくて、タンジェも自然と笑顔になる。

「はいっ!只今!!」

 

 

 

わたくし、恋をしてしまったみたいですわ。

もとより身も心も捧げる覚悟ではおりましたけれども。

ジスト様の“アマデウス”になりたいと思ってしまいました。

 

 

 

(な、なんと図々しい!!こんな事では神に仕える身として失格ですわ!!滝に打たれ、煩悩を払わなければ!!)

 

 

 

「タンジェ?それ持とうか?」

激しく自分を叱咤するあまり、大幅に遅れをとってしまったタンジェをジストが迎えに来た。
サルファー達はもう目的地に到着している。

「結構ですわっ!!」

煩悩の素に覗き込まれ動揺しながらも、タンジェはジストの申し出を断った。

左手に持っている四角い鞄。

アタッシュケースに似たデザインで10歳の女の子が持つ物としてはゴツイようにも思われたが、軍服には違和感がなかった。

「命より大切なものが入っておりますの!!」

「命より大切なもの?何入ってんの?」

 

 

ところが・・・

 

 

「わかりませんわ」

それがタンジェの回答だった。

気が付けばいつも手に持っているのだという。

今、咄嗟に口をついて出た言葉の意味さえ、わからないと。

鞄には鍵が掛かっているのだが、その鍵の在処も不明なのだ。

「鍵開けの呪文ってこういうのにも使えるのかな」

「鍵開けの呪文?」

「よしっ!サルファーに頼んでみようぜっ!!」

「え!?あの・・・」

「中身もわからないのに“命より大切”だなんて変だよ」

ジストの言葉にまたもやドキッ。

 

 

鞄を両手で抱え、サルファーの元へ。

 

 

「おいっ!サルファー!これなんだけどさ!お前の呪文でパカッと・・・」

 

 

鍵も、鍵開けの呪文も必要なかった。

 

 

タンジェの持っていた鞄は、サルファーの手が触れたと同時に、目映い光と共に開いた。

「わっ!?なんだこれ!?光っ・・・」

サルファーの言葉はそこで途切れた。

次の瞬間、周囲に風が巻き起こり・・・

 

「サ・・・サルファー!!?」

10歳にしては老けて見えたサルファーだが、更に老けて。

一足先に成人男子。両親譲りの綺麗な顔をしているが、かなりの長身。
天然パーマはそのまま、襟足が少し伸びて。

手には黙示録がしっかりと握られていた。

 

 

「・・・いくぞ」

 

 

茫然と立ち尽くすジストを無視して、大人サルファーの低い声が響いた。

 

その声が向けられた先は・・・

「タンジェっ!?」

ジストがタンジェを振り返ると、ぼんやり虚ろな目をして。

コクリと頷き、歩み出て、サルファーの手をとった。

ブワッと、先程と同じように風が巻き起こり、タンジェも成人化。

瞳に光が戻ったが、これまでとは違う輝きを放っていた。

魅惑的な微笑み。

「ああ・・・やっとお会いできましたわ・・・“羊”」

離れるまいと、サルファーの胸に顔を寄せ。

すでにただならぬ雰囲気の二人。

 

コハクがヒスイを連れて飛ぶ時のように。

 

サルファーはタンジェを腕に抱き、大きく羽根を広げた。


 

「あ〜・・・マジかよ」

「じいちゃんっ!!」

ヤボ用と称して姿を消していたメノウが戻ってきた時には、二人はもう上空へと舞い上がっていた。

「まさかタンジェが“使者”とはなぁ〜・・・」

頭を掻いてメノウが溜息をつく。

「早速“ヤボ用”の出番か」

メノウはいつもそうだが、飄々と、取り乱す事などなく。

 

 

 

「じいちゃん・・・何が起こってんの??」

「ついてきて」

状況がわからなすぎて呆けているジストを連れ、移動する。

「・・・まさかっ!!駆け落ち!?」

ジストの解釈は毎度方向性がおかしい。

「あはは!どうだろうなぁ〜」

笑っている場合ではないのだが、孫のボケっぷりがツボに入る。

 

「あれっ?これ・・・」

 

メノウが足を止めたのは移動用魔法陣の前だった。

「屋敷からこっちに繋がる魔法陣を描いてたんだ」

サルファーにもし“変化”が現れた時、すぐ対応できるように。

場所が落ち着いたら、直結魔法陣を開通させておいて欲しいとコハクに頼まれていた。

勿論こちらから屋敷へ移動することもできる。

 

 

「ちょっとコハク呼んでくるから、ここで待ってて。説明はその時な」

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