世界に春がやってくる

22話 Thank you Day

 

ふ〜・・・っ。

 

 

悶々と煙草を吸うトパーズ。

人生最大の窮地かもしれないと思う。

 

愛を伝えるために。何をすべきか。

 

 

愛された記憶は親から子へ、順繰り受け継がれてゆくもので。

幼い頃の記憶を辿り、オニキスがくれた言葉を思い出す。

「・・・・・・」

 

 

これから、死ぬほど恥ずかしい気持ちをジストに伝えなければならない。

 

ふ〜・・・

 

「よっ!元気?」

追いつめられたトパーズの様子が可笑しいらしく、笑いを堪えながらメノウ登場。

「丸くなったなぁ〜・・・お前も」

「うるさい、ジジイ」

ここぞという時には必ず現れる少年祖父メノウ。

「子供ってさ、愛を欲しがる生き物だろ」

「・・・・・・」

そう言われてしまうと、自分にも心当たりがあった。

乱暴に愛を欲しがった結果が、今なのだ。

「別に恥ずかしがるコトないじゃん。必要不可欠なものなんだから、これでもか!ってほど愛してやんなよ」

 

 

(兄ちゃんのほうが・・・苦しい??)

スピネルの言うことは、昔からちょっと難しくて。

ジストなりに考えてみたがわからない。

(可哀想なのはヒスイだ・・・)

うんうん唸っているジストの隣でくすくすと笑い、スピネルが言った。

 

 

「今夜、パパとママの部屋を覗いてみるといいよ、そしたらわかる」

 

 

「・・・ジスト」

究極の仏頂面でトパーズが現れた。

意を決してきたものの、その表情は固い。

「お前の頭でも理解できるように、要点のみ順を追って話す、よく聞け」

その口ぶりはまさに教師だった。

「う、うん・・・」

「・・・愛されたかった」

「誰に?」

「ヒスイに」

「ヒスイに?それって・・・」

愛の種類を追及されると話が複雑になってしまう。

トパーズはジストの言葉を遮り、強引に話を続けた。

「だが、どうすれば愛されるのか、わからなかった」

言い方を変え、トパーズが再び繰り返す。

 

 

「・・・犯らなければ、わからなかった」

 

 

“何で兄ちゃんが父ちゃんなんだよ!”

 

 

「・・・これが、質問の答えだ」

ジストは反論の余地もなく。

「どうしても・・・必要だった・・・の?ヒスイや父ちゃんを悲しませても?」

「・・・・・・」

無意識なのだろうが、ジストは毎回痛い所を突いてくる。

「・・・何をどう言ったところで、お前の生い立ちは変わらない」

直接その疑問には答えず、トパーズは真実のみを述べた。

 

 

「いいか、ひとつだけ頭に叩き込め」

上からジストの頭を掴んで。

「オレは嬉しかった」

「え?」

「ヒスイがお前を産んで、嬉しかった」

以上。と締め括り。

「あとは開き直って生きろ」と、突き放す。

 

 

“嬉しい”と口にしたのは初めてだった。

そもそも自分の口から“愛”という単語が出ること自体、鳥肌だ。

内心冷や汗が出るほど恥ずかしいが、それをジストに悟られる訳にはいかない。

「待ってよっ!!」

言い逃げしようとするトパーズに背後から抱きついて。

「嬉しかったって、ホント?オレ、ここにいていいの?」

「当然だ。馬鹿」

照れ隠しで末尾に馬鹿。

いてくれなくては困るのだ。

 

 

 

「それともうひとつ。オレを“父”と呼ぶ必要はない」

自分がコハクを父と呼ばないように。

産みの親より育ての親であることは、身をもって知っている。

「・・・わかったな?」

「・・・うん」

どうしていいか、ジストはまだ迷っている風だったが、とりあえず頷いて。

「えっ?兄ちゃん・・・っ!?」

トパーズがジストの手を引き、歩き出す。

「・・・次はアイツの番だ」

 

 

 

ダイオプテースの森で家族はみんなバラバラになっていたが、メノウの描いた移動用魔法陣の前が暗黙の集合場所となっていた。

 

 

「ヒスイ、おいで」

「お兄ちゃん・・・」

 

 

ヒスイは少し躊躇いながら、コハクの腕の中へ。

定位置とも呼べる場所に収まった。

「ごめんね、ジストに言っちゃったんだ」

「ううん」

いつも通りの抱擁に安心したヒスイはそのままコハクに身を預けた。

お互いそれ以上は何も語らず、宵闇の空を見上げていた。

 

 

 

「・・・行け」

「わっ!?」

 

 

木々の間から。

トパーズに勢いよく背中を押され、コハクの前に飛び出したジスト。

「「ジスト!?」」

コハクとヒスイが声を揃えて迎える。

「私、向こう行ってるね」

気を遣ったヒスイがコハクの腕から抜けて離れると・・・

 

ジストは恐る恐るコハクのシャツを握り、見上げた。

 

 

 

「また・・・父ちゃんって呼んでいい?」

 

 

 

「君さえ良ければ、ぜひ」

コハクはとても嬉しそうに笑い、答えた。

 

 

「トパーズから話聞いた?」

「・・・うん」

「なら、今度は僕の番だね」

屈んでジストと目線の高さを揃えて。

「・・・あんなことがあって・・・僕にとっては散々な事態だったけど」

「ごめ・・・」

謝罪の言葉を口にしかけたジストを制止。

「それでもやっぱり、“産まれてきてくれてありがとう”って思うんだ」

くしゃくしゃとジストの頭を撫でて、惜しげもなく抱きしめる。

「おかげで毎日が楽しい」

「と・・・ちゃん」

「うん」

「とうちゃんっ!」

「うん」

「とうちゃぁん〜・・・うわぁぁ〜んっ!!」

 

 

 

「・・・・・・」

少し離れた場所で、ヒスイはボロボロ泣いていた。

背後に控えていたトパーズも黙っている。

 

 

「・・・ありがと。ジストを授けてくれて」

 

 

ヒスイはトパーズに背を向けたまま、ズズッと鼻水を啜った。

過去を全肯定した、優しい響き。見慣れた銀髪が夜風に舞う。

 

 

「こちらこそ、ジストを産んでくれてありがとう」

 

 

・・・とは言えずに。

ペシッ!と、小さく丸い頭を叩く。

「・・・犯られて“ありがとう”?馬鹿か、お前」

 

 

 

“羊”の完全覚醒はまだ先であること、黙示録がサルファーやタンジェに危害を加えることはないということをコハクが説明し、全員魔法陣で屋敷へ帰還した。

 

 

 

その夜、夫婦の部屋に戻ってすぐ。

 

 

 

“産まれてきてくれてありがとう”

 

(よく言った!自分!)

勿論、その気持ちに嘘はない。だが・・・

(ジストが自分の子供だったらいいのにと思ったことがないわけじゃない)

 

「って事で。ほんの少しだけ、ご褒美ちょうだいね」

自分へのご褒美は当然ヒスイとのセックス。

無理矢理こじつけて、こぎつける、懲りない男。

都合の良いことに今日のヒスイは紐パンだ。

それを剥ぎ取り、指先を性器の溝へ送り込む。

「ん・・・」

ヒスイが抵抗する事はなく。

ヌルッと、そこには期待していた通りの愛液がたっぷり溜まっていた。

 

 

「お・・・にいちゃん・・・」

 

 

「ん?」

 

 

「・・・今まで、ありがとね」

 

 

「・・・変わらないよ、これからも」

 

 

「・・・ね?」

キスをしながら、割れ目を指で撫で上げる。

「うん・・・うっ・・・」

ゾクゾクとした性感に見舞われ、震えるヒスイ。

「あっ・・・おにぃ・・・」

二本の指をペニスと同じリズムでスボスボと抜き差し。

「あっ、あ・・・」

根元まで入れた指を中で開くと・・・ぷちゅっ。

とても愛らしい音がした。

 

 

 

(あ!やっぱ父ちゃんとヒスイえっちしてるっ!)

『今夜、パパとママの部屋を覗いてみるといいよ、そしたらわかる』

スピネルに言われた通り、夫婦の寝室を覗きにやって来たジスト。

 

 

 

(くすっ・・・早速来た)

即座にジストの気配を察したコハク。

寝室にはわざと鍵をかけずにおいた。

(君の見たいものを見せてあげるよ)

 

 

 

指でたっぷり愛撫を加えた後、立ったまま、両手でヒスイのお尻を持ち上げる体位で一旦挿入。

「んぁ・・・っ!!」

ペニスを激しく往復し、突き捏ねるが、そのままイカせず、抜く。

ヒスイがどこまで我慢できるのか、ちゃんとわかっているのだ。

 

(今日は鏡を使おう。ジストもいることだし)

 

ヒスイを脱がせて、自分も脱いで。

「ヒスイ・・・おいで」

ベッドの上。鏡はセット済み。

あぐらを組んだコハクの勃起ペニス。

「後ろ向きでね」

コハクが指示したのは後座位だった。

「ん・・・」

ヒスイは恥じらいながら、コハクに背を向け、濡れた性器を寄せて。

コハクのペニスを掴み、カラダの入口に当てた。

「そう・・・いい子だ」

コハクに導かれ、腰を沈める・・・

「んっ、ふぅ・・・ぁ・・・は・・・」

ニュルツと入った瞬間こそが最高の快感で、ヒスイが顔を歪ませる。

「あん・・・っ」

割れ目にペニスが埋まった状態で、背後からコハクに胸を掴まれ、ヒスイの顔や胸に汗が滲む。喘ぎ声も高くなった。

「うっ!あっ!あんっ!はっ!ああんっ!」

軽く腰を浮かせたヒスイをコハクのペニスが突き上げ、その気にさせてから主導権を移す。

「好きなように擦ってごらん。こっちは僕が気持ちよくしてあげるから」

「んぅ・・・おにいちゃ・・・ん」

コハクにクリトリスを擦られながら、ヒスイが腰を動かす。

過激な上下運動・・・熱くて硬い勃起ペニスで割れ目を擦り快感を得る。

 

(おおっ!今夜はヒスイがえっちだ!!)

ジストは大喜び。

もうすっかり元気になって。なんとなく、内股。

 

「ヒスイ・・・愛してるよ」

顔が見えない分、言葉で愛情を伝える。

背中に舌を這わせ、同時に乳首とクリトリスの愛撫をしっかりと。

 

 

結合時、愛情よりも欲望重視と言われる体位が多いが、日頃から愛情は十二分に伝えているし、長年培った信頼感があるので問題はない。と、コハクは思っている。

今夜も遠慮せず、容赦なく、ヒスイを乱す。

 

「はぁ・・・はっ・・・は、はぁ、はぁ・・・んっ」

ヒスイが上半身を前に傾け、ベッドに両手をついて、上下、前後、更に円を描くように腰を動かす。

その腰使いも興奮する眺めで。

自分も腰を振りたくなってくる。

コハクはあぐらから正座へと足を組み替え、ベッドの上で両膝をついて、ヒスイの腰を掴んだ。

コハクが乱暴に腰をぶつければぶつけるほど、ヒスイの股間の潤みが増してゆく。

「うっ!はぁ!はぁ・・・っ!!」

 

 

 

ヒスイの下半身を膝の上に抱えたまま、上半身をうつ伏せにさせて、あとはもっぱらコハクが突き上げる。

粘膜を擦る、グチャグチャ、ネチャネチャという音が洩れ続け、部屋にはセックスの匂いが充満した。

 

(オレ、この匂いも好き・・・)

欲情の香りを吸い込んで、うっとりするジスト。

昼間の涙は見る影もなく、恍惚とした表情はかなり変態ちっくだ。

 

 

「ほら、ヒスイ、前を見てごらん」

結合したまま二人とも大股開きで鏡へ向かう。

秘技鏡映し。

視覚を刺激するコハク好みのセックスだ。

(あ・・・ジスト・・・)

鏡に映ってはまずいと姿を隠したつもりらしいが、銀の毛先が見えている。

しかも“見たい”気持ちに負けて、ちょこちょこ顔を覗かせる始末で。

(面白いなぁ・・・)

 

行為に没頭しているヒスイはまだ気付いていない。

ヒスイの視線は開いたカラダの中心部に釘付けなのだ。

ペニスが膣に出入りする様は猛烈にいやらしく、鏡の前で結合部を全開にしている自分がとても淫らに見えて。

「うっ・・・う・・・あっ・・・おにいちゃぁん・・・っ」

助けを斯うようにコハクを呼んで、股間をヒクヒクさせている。

(そろそろ限界かな)

「あっ・・・やっ・・・」

肝心なところでまた抜かれてしまい、イキそびれる。

「あっ・・・あ・・・」

泣き出しそうな顔でコハクのペニスを追うヒスイ。

よしよし、と頭を撫でて、キス。

「今日は正常位でイこうね〜」

 

 

 

「・・・僕等の愛は“絶対”だ」

 

 

三度目の挿入直前。ペニスを構えたコハクが麗しく微笑む。

「絶対は何があっても絶対だから、大丈夫だよ」

改めて夫婦の愛を誓い、先端からゆっくりとヒスイの胎内へ沈めていく。

 

 

『ママにはパパの絶対的な愛があるし・・・』

 

 

(スピネルの言った通りだ)

スピネルとコハクが打ち合わせをしていたのではないかと思うくらいだ。

(ヒスイはすごく幸せそうだし。父ちゃんも笑ってる)

「じゃあ、苦しいのは・・・」

急にトパーズのことが心配になり、夫婦の部屋を去るジスト。

両親のフィニッシュの瞬間を見るのが好きだが、今はそれよりも。

「兄ちゃんとこ、いこっ!」

 

 

 

「んっ・・・うぅっ!!」

ヒスイの両脚を開いて突き上げ、お互い深い結合で絶頂を貪る。

「ああんっ!おに・・・」

ヒスイは、両手をコハクの背中に回し、両脚を腰に絡めた。

コハクは、膨張したペニスをヒスイの奥深くへ押し込み、恥骨を擦りつけ、射精。

正常位基本形。

最後の一滴まで吐き出す体位で、精液をヒスイの胎内へ染み渡らせる・・・

 

「はぁっ・・・はぁ・・・おにいちゃん」

「ん・・・ヒスイ・・・」

 

 

 

性器同士で繋がって。精神的に結ばれて。

 

 

 

『今日もありがとう』

 

 

 

 

翌朝。孤島の城では。

 

 

 

「・・・・・・」

ココロもカラダも10歳に戻ったサルファーが目を覚ました。

「・・・・・・」

本来の姿に戻ったタンジェが、同じベッドの上で眠っている。

両者、全裸。

サルファーの下半身には微かな違和感。

「な、なんですのっ!!!?これはっ!!」

悲鳴混じりの叫びと共にタンジェが飛び起きた。

ベッド脇には服と下着が脱ぎ捨ててあった。

「まさか・・・」

下半身の違和感はタンジェにも残っていたようで、みるみる青ざめる。

「わたくし達は一体何を・・・」

「見ればわかるだろ」

サルファーは別段変わらない態度で、タンジェに対し、労りの言葉もない。

「こんな・・・好きでもない相手と・・・ああ・・・神よ!神の子よ!!」

ジストとの甘い恋を夢見ていたのに。タンジェの目に涙が浮かぶ。

 

 

 

『君は黙示録に操られてる』

 

 

 

確かにコハクの声だった。

空白の十数時間。覚えているのはそれだけだ。

「・・・・・・」

喚くタンジェを無視して、制服を拾い上げるサルファー。

 

 

 

「何メソメソしてんだよ、これだから女は・・・」

サルファーの無神経な発言が炸裂する。

「ひどい男ですわね!!」

タンジェは益々感情を乱し、叫んだ。

「夕べのことなんかどうせ覚えてないだろ」

「そ、そうですけど・・・」

「覚えてないことをグダグダ言うだけ時間の無駄だ」

「な・・・」

「軍人のくせに案外だらしないのな」

「そう言う貴方は何様ですの!!?」

「僕?僕は漫画家志望だ。文句あるか」

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