World Joker

18話 くちびるに、傷痕。


 
アスモデウスが“(特)魔”とされる由縁は、有能な部下を多数率いているところにある。
スピネルに攻撃を仕掛けたのはその中の一体だった。

「え・・・?」

ベキベキ・・・ボキッ!!

その悪魔は梟やら狼やらが融合した強靭な肉体でスピネルに襲いかかった。
力押しの攻撃を受け止めた勢いで、愛杖フェンネルは真っ二つに折れ、スピネルと悪魔は縺れ合ったまま屋敷の外へ・・・一瞬の出来事だった。

「スピネルに何すんだよっ!!」
「女に用はない」
「スピネルはおと・・・」

言い掛けたが、今はそれどころではなかった。
ヒスイの姿をしたアスモデウスに押し倒され、再びペニスを掴まれる。

一度興奮してしまったペニスはなかなか元には戻らず、アスモデウスの口の中。

ペニスとセットになっている袋の皮を指で摘ままれたりして。

その度に、ぴくぴくと反応してしまう。

「んっ・・・や、やめ・・・!!」

「先が濡れておるぞ?我慢ぜすとも良い」

ホレホレ・・・ペニスを揺らされる。

「っ・・・!!」

ジストは歯を食いしばり、快感の波に耐え、それから言った。

「ヒスイの口に出したりなんかするもんかっ!!」

そもそもヒスイではないのだが、どうにも割り切れないジスト・・・

「ジスト、お主に究極の快楽を与えよう。我は“色欲”を司る魔人なり」
「我に新たな名を」

悪魔に名前を授けるという事は契約を意味する。
“気に入った”とはつまり、ジストとの契約を望むという事だ。

「うまいのぉ・・・」

恍惚としたヒスイの顔がジストの股間を漁り、先端を強く吸う。

「本能のまま、母を穢すが良い」
「い・・・やだっ!!」

 

ホテルにて。コハク、アクア、トパーズ。

ついにアクアの口から真実が語られた。
低くしゃがみ込み、アクアと目線の高さを揃えるコハク。

「いけないなぁ、嘘ついちゃ」

自分を棚に上げ、我が子を諌める。

「じゃあ、誰のアレも入ってないの?」
「ん〜。指はいっぱい入ってたけど〜」

アクアはヴィーナスの林檎を手にしれっとしている。

「ぐちゃぐちゃいってたのはホントだよ〜。ママ泣いてたしぃ」
「・・・・・・」「・・・・・・」
(それはそれでマズイ)

複雑そうな顔をした男が二人。
最悪のケースは免れたものの、それなりの事はしてしまった訳で。

(とにかく謝る!!)

コハクが決意を固めたところで、トパーズと目が合う。
いつもの如く“早いもの勝ち”のムード・・・そこに。

「よっ!」
「メノウ様!」「ジジイ」

湯上りのメノウが現れた。

「ヒスイから聞いたよ。お前等も災難だよなぁ」

疑って悪かった、とケラケラ・・・余裕の笑いだ。
しばらくだんまりを決め込んでいたヒスイから事の真相を聞き出した後、二人は別れたという。

「お前等に謝るって言ってさ、ホテル内をうろついてたみたいだけど、さっきオニキスと出てったよ」

露天風呂から見えたのだ。

「オニキスと!?」

即座にコハクが切り返した。

(しまった・・・先を越された・・・)


 
歩行中のオニキス、ヒスイ、黒カラス。

う〜ん・・・

ヒスイが唸る。

「(特)魔については新人研修で習うんだけど・・・」

ジストの場合、居眠りで説明を聞き逃している可能性が高い。

(ついてっちゃったって事は、やっぱり知らないのよね・・・)

「そこォォ!!まっすぐウゥゥ〜!!」

ヒスイの頭上でカラスの声が響いた。
道なき道を歩く二人と一羽。

「ちょっとっ!いつまでヒトの頭に乗ってるのよっ!」

黒カラスはヒスイの頭部を陣取ったまま動かない。
かなりの重さだ。

「・・・絶対ウ○コとかしないでよ」

美少女の口から出てはいけない単語が飛び出した。

「アンタ結構過激なオンナだなァァァ!!」
「何がよ」

ヒスイと黒カラスのやりとりに苦笑するオニキス。
その時。

「っ・・・」

唇に微かな痛みを感じた。
これまで気付かなかったが、薄く血が滲んでいる。

「あ、ごめん。そこ私が噛んだの」

唇をなぞるオニキスの仕草を見てヒスイが言った。

「・・・いや。すまん」

それはヒスイの唇を無理矢理奪った証拠で。
傷口よりも心が痛む。
日頃我慢に我慢を重ねているだけに、相当しつこく迫ったのではないかと思う。

(何という有り様だ。たかが酒一杯で理性をなくすとは・・・弛んでいるな)

オニキスは自身に腹を立てながら歩いた。

「オニキス?」
「・・・・・・」

強引に奪うことしかできない唇。
理性を欠く度、不埒なキスを何度繰り返してきたことか。

(気を引き締めねば・・・)

「アソコだぜェェ!!」

黒カラスの声で二人は視線を前方に向けた。
そこはアスモデウスの館。
オニキスとヒスイは明かりの灯ったアトリエに潜入・・・奥は思わぬ濡れ場だった。

「え〜と・・・彼女?」

真面目な顔でヒスイが上から覗き込んだ。

「違うよっ!!!」

ジスト、完全否定。
ペニスに被さったものを、ぐいぐいと必死に押し戻す。

チュルッ・・・

フェラチオを中断し、アスモデウスが顔を上げた。
ヒスイと同じ顔を。

「え・・・あれ?」

ヒスイが瞬きすればアスモデウスも瞬き。
ヒスイが手を挙げれば、アスモデウスも手を挙げる。
あかんべーも変な顔も全く同じで。

「へ〜・・・鏡みたい」

オリジナルヒスイの呑気なコメント。

「感心している場合か」

オニキスは溜息を洩らし、両者の間に割って立った。

「下がっていろ。ジスト、ヒスイを頼む」
「うんっ!」
「え?私もたたか・・・」
「ヒスイっ!こっち!」

首を突っ込みたがるヒスイをジストに託し。

オニキスVSアスモデウス

アスモデウスにより、巨大な蜘蛛の姿をした悪魔が召喚された。
突然の戦闘に於いて、武器を手にする方法はいくつかある。
別の形・・・例えばアクセサリーの類に変化させ、常に持ち歩くか。
己の体内に封じ、必要な場面で取り出すか。

いつでも喚べるよう武器と召喚契約を結ぶか。
また、魔術に優れた者ならば、その場で創り出す事も可能だ。
オニキスは馴染みの剣を喚び出し、蜘蛛の糸を断ち切った。

勝ち抜き戦方式で、一体倒せば次が現れる。
数倍大きな悪魔が相手でも、オニキスが力負けする事はなかった。
しばらくそれが続き・・・

「これほど闘れるとはの」

オニキスの戦いぶりを見ていたアスモデウスの視線がヒスイへと流れた。

「・・・成程、銀の眷属か。ならば・・・」

アスモデウスは知っていた。
眷属の生命の在り処を。

「・・・女は好かぬ」

元の姿に戻り、右手を槍に変化させる。
猛毒を含有する悪魔の槍だ。
それでヒスイを狙う。

「ヒスイ!!」

オニキスが動く。
すべての戦闘を放棄し、ヒスイの盾となるべく。しかし。
ヒスイを戦いから遠ざける為の距離が逆に遅れを生じさせ・・・

「グングニルっ!!」

悪魔の槍を止めたのは、神の槍だった。

「ヒスイに触るなぁぁ!!」

叫んだジストが光を放つ。
それは一本の太い柱となり、スフェーンの闇を貫いた。
アスモデウスは愕然と立ち尽くし。

「何故神の力を・・・今世の神は母親との間に子を成したというが・・・それがお主か・・・ジスト」

「ヒスイっ!大丈夫っ!?」
「あ、うん」
「ね!ね!今のカッコ良かったっ!?」
「うん。カッコ良かったけど・・・丸見えだよ」

姫を守る騎士には違いないが、すっぽんぽん。
全裸の騎士。ヌード・ナイトだ。

「あっ!」

慌てて前を隠すジスト。
ヒスイは笑って。

「ありがと」

天空へと伸びた光の柱を目印に、援軍が到着した。

「何やってんだ、お前等」トパーズ。

「おっ!(特)魔じゃん!」メノウ。

「ヒスイぃぃ!!」
「お兄ちゃんっ!!」

言わずと知れたコハクは、脇目も振らずヒスイと抱き合った。
神、エクソシスト、熾天使。
悪魔の天敵が揃いも揃い。

「・・・退けい」

アスモデウスは手下の悪魔を撤退させた。

「へ〜・・・引き際いいじゃん」と、メノウ。

「同胞の命、これ以上無駄にはできぬ。お主らと闘れば全滅じゃ」

相手が悪すぎると笑い、我が命運も尽きた、と。
大悪魔アスモデウスは降参の意を示した。

「我を殺すが良い」

館の数十メートル先、月下の原っぱにて。
スピネル。
何とか悪魔を魔界へと強制返還する事に成功した。
結果、動けない程ではないが、体中傷だらけになっていた。
スピネルは人間に近く、肉体強度もそれなりのものしか持ち合わせていないのだ。

「本気になればジストの方がボクよりずっと強いし、あっちは大丈夫だと思うけど・・・」

(これはボクの落ち度だ)

痛ましい二等分。
拾い上げ、両手で抱きしめる。

「フェンネル・・・ごめん」
 
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