World Joker

22話 ちょっとだけ・・・

 

エクソシスト寮、司令室にて。

提出された報告書に目を通した、エクソシスト総帥セレナイトは感嘆の声を上げた。

「この短期間によくここまで調べたものだ」

賞賛の相手は無論サルファーだ。
短期アルバイトとしてアンデット商会に潜り込み、スパイ活動をほぼ完遂。
結局クビにはならずに済み、数多の情報を教会へと持ち帰った。

 

アンデット商会。

組織内はいくつか枝分かれしているものの、大きく分けると、研究開発部、営業部、資材調達部、人事総務部の4部門だ。
表向きは魔法アイテムの製造・販売。

『今日からあなたも魔法使い』という安っぽいキャッチフレーズで、魔力を持たない種族を相手に業績を伸ばし続けている。

設立10年にも満たない若い会社だが、今や大企業だ。
しかし裏では“不老不死の研究”の名の下、さまざまな生体実験が行われていた。
ヒスイもその被害に遭ったのだが、話が込み入って面倒なので割愛。
上層部は現場に顔を出さないため、正体を掴むに至らなかったが・・・

「ひとりだけ・・・営業部長ってのに会ったんだ」

サルファーが言い足した。
セレは書面から顔を上げ、興味深そうにサルファーを見た。

「野蛮な女でさ、金、金、金の合理主義でエゲツない商売してる。名前はウィゼ・・・ウィゼライト」

自分がアンデット商会のメンバーズカードを持っていて、そのエゲツない商売の世話になっている辺りも割愛。
報酬が目当てなのだ。アンデット商会が善だろうが悪だろうが自分には関係ないと割り切っていた。

「本当に良くやってくれた」

セレが机の引き出しを開け、取り出したのは、サルファーが喉から手が出るほど欲しかった人気漫画家ウォーターメロン・Tのサイン入り色紙。

「やったっ!!」

特別ボーナスも支給すると言われ、上機嫌のサルファーはもうひとつ重要な事を思い出した。

「あ、そういえば支部が・・・」
「ほう、支部かね」
「僕は聞いたことがない国名だったけど、確か・・・」

“コランダム”にあるって。

 

航海中の一行。

次の目的地はコランダムと。
フェンネルの修理に伴い決定した行き先が、コハクの口から発表された。
ジストはしゅんとして。

「スピネル、ごめん、オレ・・・」

スピネルが悪魔に襲われた瞬間は目撃したが、丁度死角になっており、フェンネルが折れた事は知らなかった。
元はと言えば、自分を救い出すため・・・だとしたらフェンネルが折れたのも自分に責任がある・・・と、落ち込むジスト。

「ジストのせいじゃないよ」

修理の目処は立っているから大丈夫、スピネルは努めて明るく言った。
ジストが知れば気にする事はわかっていたので、できれば内密に解決したかったのだが、旅の進路に関わる問題となれば隠し通せる筈もなく。
オニキス、コハクと相談し、皆に打ち明けると決めたのだ。

「ま、何かあったら言いなよ。全面的に協力するからさ」
「ありがとう、おじいちゃん」

頼もしいメノウの申し出を受け。
スピネルとフェンネル、以下7名はコランダムの地へ上陸した。

コランダム。コハクがヒスイに付きっきりだった数十年の間に急速に発展した国で、言うなればそこは機械大国。
人口の8割を占めるという“人間”の手により進歩した文明の坩堝だ。
そこに魔法は存在しない。スフェーンとはまた違った見所があった。
名刺の裏に書かれた地図に従って歩く。
しばらくして、先頭のスピネルが足を止めた。

「居酒屋アーティチョーク?」

到着した場所に鍛冶屋の看板などは一切なく、なんとそこは・・・居酒屋だった。
何度も確認したが、ここで間違いないようだ。

「とにかく行ってみるね」

大勢で尋ねると騒ぎになるかもしれないから、という話になり、オニキスとスピネルの二人だけが入店した。
店の前に残された6名。

「大丈夫だって!」

元気を欠くジストの背を叩き、メノウは町中を観光しようと言い出した。
早速、孫3人を引き連れ出発、コハク&ヒスイは別行動だ。
2時間後、居酒屋アーティチョークの前に集合と決め、解散した。
 

町の風景を仰ぎ見るコハク。

「・・・鉄鋼の町、か」

鉄と鋼で構成された町。そこは港町でもあった。交通の便は良いが、海風で金属の腐食が早く、錆の匂いが鼻につく。
けほっ・・・隣のヒスイが軽く咽て。

(ここは空気が悪いな)

町中は細い路地が入り組み、ゴチャゴチャと迷路のようだ。
先に見える工場の煙突から得体の知れない煙がもうもうと立ち上っていた。
その上、緑が極端に少ない。ここでも季節は真夏で。草木がないため太陽の照り返しも強かった。
コハクはヒスイを連れ、郊外を目指す事にした。
先程、町の人間から郊外に図書館があると聞いたのだ。
ヒスイが喜ぶのは間違いないし、日光も防げる。
吸血鬼のヒスイを炎天下で連れ回すのは気が進まなかったが。

「ヒスイ、動ける?」
「ん!平気だよ」

真っ白なワンピースを着たヒスイに麦わら帽を被せ、手を繋いで歩く。
町の中心から離れるにつれ、人の手が行き届かず、放置された建物が目立ようになった。

「あ・・・」
「ヒスイ!?」

暑さに弱いヒスイが立ち眩みを起こしたので、慌てて日陰を探す。
今は使われていない格納庫・・・シャッターが開きっ放しになっていた。
コンクリートの建物で、中は涼しそうだ。そこで休憩。

「喉乾いたでしょ?飲んで」

シャツのボタンを二つ外し、コハクが首元を見せる、と。ゴクリ。
紅潮した顔でヒスイが喉を鳴らした。

「じゃあ、ちょっとだけ・・・」

蝶が蜜に誘われるように。
美しく、自然な動作でヒスイはコハクの喉元に噛み付いた。

「好きなだけ飲んでいいよ」

と、甘やかすコハク。
勿論、次の展開を期待している。

「はぁ・・・ふぅ・・・」

ヒスイの体にはもうその兆候が表れていた。

「してく?」
「ん・・・ちょっとだけ」
 

“ちょっとだけえっち”の注文を受け、笑うコハク。
寝転べる場所ではないので、立ったまま、ちょっとだけえっち。
壁に寄り掛かるヒスイに対し、腰を低く落とし。
片手でヒスイの右脚を持ち上げ、もう一方の手で割れ目を覆う純白の布をずらした。

「どれどれ・・・」
「んっ・・・!!」

ペニスの先端でヒスイの入口を擽り、様子を窺う。
ヌルヌルと滑る・・・早くも挿入OKの返事が返ってきた。

「じゃあ、ちょっとだけ・・・」
「はっ・・・はぁっ・・・んくっ!」

ヒスイは両腕を伸ばし、コハクの肩を掴んで、その太く硬いペニスを受け入れた。

「ん・・・ん・・・」

小さな穴がペニスで埋まる・・・

「ふっ・・・ぅ・・・はぁ」

野外では人目を気にしてか、声を殺す事が多いヒスイ。
代わりに淫らな息遣いでコハクを興奮させるのだ。

「はっ・・・はっ・・・あ、んっ・・・はぁ・・・は・・・」

途中堪らず喘ぎが混じる、それがまた可愛い。
くちゅっ、くちゅっ、くちゃくちゃ・・・
カラッとした夏の空気の中、やたらと湿っぽく、本日も繋がり合う音を響かせ。

「んっ・・・う!あ、おにい・・・」

間近にあるヒスイの顔にキスをしたり、首筋を舐めたり。

「うっ・・・あぁ」

コハクの腰が何度も突き上げているうちに、ヒスイの脚は地面から離れ。
結合部に快感の重力が加わり、汗と愛液がどっと噴き出した。

「あ・・・はぁ!!」

コハクと壁の間でヒスイが髪を振り乱す。
ぽたっ・・・ぽたっ・・・
ヒスイの股間から愛液の雫が落ち始め、いよいよ。
イカせる体位へ移行しようと、両手でヒスイの体を抱き上げた・・・途端。

「「え!?」」

いつの間にか足元に流れ込んできていた機械オイルで滑り、主軸のコハクが背面からひっくり返った。

「きゃんっ!!」

勢いよく騎乗位になり、驚いたヒスイは子犬の様な声を出した。

「ヒスイ、大丈夫!?」
「おにいちゃんこそ、だいじょうぶ?」

ヒスイが上からコハクを覗き込む。

ぷっ・・・くすくす・・・

二人は失敗を笑い合い、それからじっくりと唇を重ねた。が。
甘い時間はそこまでで。やはりただでは済まなかった。
ピシッ・・・今の衝撃で老朽化した床にヒビが入り、そして、崩れた。
・・・二人が愛し合っていた場所には“下”があったのだ。

「ひぁ・・・っ!?」

一体化したまま、二人は落下。
瓦礫と共に到着した先で手荒な歓迎を受ける事になるのだった。

「動くな!」

十数名の人間に一斉に取り囲まれ、向けられるは銃口。

「ど・・・うしよう、お兄ちゃん」

 

居酒屋アーティチョーク前。

「父ちゃんとヒスイ来ないね」

集合時間を過ぎてもコハクとヒスイは現れず、ジストはキョロキョロ。

「どうせその辺でヤッてんだろ」

メノウが言った。
新しい土地で一発ヤラないと気が済まないんだからさ、と続けてケラケラ。
この展開はお決まりと言えばお決まりで。

「放っとけ」

トパーズもあっさり切り捨てた。

「ま、そのうち戻ってくんだろ」
「おじ〜ちゃん、アクアお腹へったぁ〜」
「よしっ!んじゃ、食うトコ探そうぜ」

飲食店を求め、移動する4人。
誰一人、バカップルの安否を気遣う者はいなかった・・・。

 

居酒屋アーティチョーク。

程良く薄暗い店内。蓄音器からはブルースが流れ。
客の数は多いが、一人で、というのが大半で、それぞれ静かに酒を楽しむ・・・そんな感じの渋い居酒屋だ。

「驚いたぜ、とんでもない大物だ」

呟いたのは、アンデット商会営業部長、ウィゼライト。

「モルダバイトの前王っていやぁよ、アレだろ。不老不死伝説の」

視線はカウンター越しにマスターと会話をしているオニキスに釘付けだ。

「どうするの?」

少年とも少女ともつかぬ声が答えた。が、姿はどこにも見えない。

「決まってんだろ、ヘッドハンティングってやつさ」

モルダバイト王オニキス。現役引退後、行方不明の王妃を探す旅に出た・・・各国で噂になっていた。

「色仕掛けか、力尽くか」

ニタニタと妖しく笑い、ベロリ。手にしたナイフの刃を舐める。すると。

「うへぇ・・・気持ちわる〜・・・舐めないでって言ってるのに〜」

「テメェ、あたしを誰だと思ってる?ご・主・人・様だろぉ」

ベロベロ・・・意地悪に舐め回す、29歳、独身。

「やめてよ〜!!ウィゼ〜!!」

 
ページのトップへ戻る