World Joker

24話 想い人。



「オニキス」
「スピネルか」

町中で二人は出会った。
ウィゼから解放されたオニキスと、ヒスイ探索中のスピネル。
目指す場所は一緒だ。

「あれ」

と、スピネルが指差したのは先程崩壊した建物の辺りだった。

「パパだと思うんだけど」
「恐らくな」

オニキスが頷く。
迷路のような町で、途中行き止まりながらも、二人は目的地へと急いだ。
 


アンデット商会コランダム支部。

「そうはいかねぇぜ?お二人さんよぉ」

ナイフを抜く、営業部長ウィゼライト。
支部に多大な損害を受け、怒り心頭。
舌で唇を舐め、同時に地面を蹴った。
一瞬で距離が詰まる。

「!!ヒスイ離れて」
「え?おにい・・・」
「何もしないで、そこで見てて」

今度はちゃんと釘を刺す。
ヒュッ!!

「・・・っと」

喉元を狙い繰り出されたナイフをかわし、応戦。
しかし、鉄パイプは捨ててしまった。
攻撃を防ぐ武器がない。
自然界の元素、あるいは自分の血液などから即席の武器を創り出すのは可能だが、ここで一戦交える気はなかった。

「動きが鈍いぜ?」
「・・・・・・」
(さっきから急所だけを狙ってくる。見切れない程じゃないけど・・・)

腕がいい。狙いが正確だ。迷いもない。

(殺り慣れてるなぁ・・・それにこのナイフ・・・)

「どうした?昔はこんなんじゃなかっただろ?セラフィムさんよぉ」
「・・・・・・」

自分の事を知っている・・・だとすれば何かしらの因縁があるのだろう。

「アンタ、魔剣マジョラムの所有者だよな?」

そう話を振られ、悟る。

「本気出せよ」

続いてウィゼに煽られ。
チラ・・・ヒスイの様子を窺うコハク。
言い付けを守り、じっとこちらを見ている。可愛い。

(もうこれ以上ヒスイの前で残虐シーンは・・・えっちの約束だってしてるのに)

なかなか本気にならないコハクに痺れを切らし、ウィゼが言った。

「は〜ん。その女の前で手荒な事はしたくねぇと思ってんだろ」

「優しい男のフリをするのも大変だなぁ」

チラ・・・今度はウィゼがヒスイを盗み見た。

「ガキだが、綺麗な顔してやがる。あと十年もすりゃ、絶世の美女になるだろうよ」

そこでターゲット変更。
一本だったナイフが二本に分裂するという奇妙な技を使い、ヒスイを狙う。

「喰ってきな」
「いただきまぁ〜す」
「そうはさせない」

ウィゼのナイフを投げる動きに反応し、コハクが本気モードになった時だった。

ピロピロピロ!!

不可解な音が響く。
ウィゼは攻撃の手を止め、スーツの胸ポケットから小さな四角い物体を取り出した。
携帯電話・・・と、言っても魔道具の部類に入る。
世界のどこからでも、という訳にはいかないが、町中で連絡を取り合う事ぐらいはできる代物だ。

「チィッ!誰だよ!!もしもしっ!!・・・しゃ、社長!!?」

電話に出るなり、誰もいない空間へ向け、ウィゼは急にヘコヘコし始めた。

「え!?出港!?支部がやられたってのに!?」

ボソボソ・・・それから少しの間小声でやり取りし、話がまとまったらしく。

「今日のところは見逃してやるよ」

偉そうな口振りで、携帯電話をポケットに戻す。

「またな」

ウィゼは不敵な笑みで去った。

「何だったんだ?」

激突は避けられたが、何とも歯切れの悪い結末。
腑に落ちない顔でコハク&ヒスイが見送る。

「ママ」
「ん?」

呼ばれたヒスイが振り向くと、そこにはスピネルとオニキスが立っていた。
4人で居酒屋アーティチョークへ戻る。
フェンネルの件でスピネルとヒスイが話し込み、その後ろを歩くオニキスとコハク。

「派手にやったな」
「ええ、まあ」
「・・・あの女はまずい。魔剣使いだ」
「ですね」

コハクが軽く相槌を打った。

「ヒスイに近付けさせるな」

オニキスの忠告。

「当然です。またな、なんて言ってましたけど、そんなつもりは毛頭ないんで」

話はそこで一段落。二人はしばらく黙って歩いたが、オニキスが再び口を開いた。

「アンデット商会か・・・」
「気に食わないですか」
「死者を扱う商売というのはどうかと思うが」
「死者への冒涜とでも?」
「・・・オレも似たようなものだからな」

一度は死んだ身。腐っているかいないかの違いだけだ、と自嘲。

「ははは、ナイスジョークだ」

とコハクが笑う。そして言った。

「僕は正義の味方って訳じゃないですから。アンデット商会がどういう商売をしていようが関係ない。ただ、これ以上ヒスイに害をなすようであれば、潰す。それだけです」

 

居酒屋アーティチョーク。裏口。

「何で私なんだろ・・・」

指名を受けたヒスイが単独でフェンネルの元へ。
時は夕暮れ。哀愁漂う廃病院の一室で。
ヒスイはベッドに置かれた古い杖を覗き込んだ。
修理は無事済んだようだ。
後はメンタルケア・・・そう店主に言われた。
フェンネルの事は正直よく知らない。
話をするのもこれが初めてだった。
人見知りのヒスイは微妙に緊張・・・

「フェンネルは、お兄ちゃんがオニキスにプレゼントした杖なのよね」

店主の説明によると、フェンネルにはある悩みがあるらしい。
思い悩むあまり、魔力のバランスを崩し、一時的な弱体化に繋がったのだそうだ。

「ご子息をお守りできなかったこと、深くお詫び致します」
「え?別に。生きてるし」

いきなり謝罪され、ヒスイはきょとん。
フェンネル・・・冗談が通じない感じの、少々お堅い印象を受ける。
声のトーンも割と低めだ。
とにかく、悩み相談という雰囲気ではなかった。

「話にくいわね・・・擬人化できないの?」
「できますが・・・所有者の想い人の姿になってしまいます」

そういう性質の魔剣なのだ。

「想い人?いいんじゃない」

深く考えずにヒスイが許可、フェンネルは姿を変えた。

「それでは」
「え・・・」
(ええ〜っ!!?スピネルってそうだったの!?)

知った顔に後ずさるヒスイ。

(言ってくれれば協力するのに・・・でも)

本人が黙っている事だ。

「ん〜と、見なかった事にするね」
「そうしていただけると」
「それで?悩みって?」

・・・打ち明けられたヒスイが驚く。

「へ?学生になりたい?」

スピネルとフェンネルはいつも一緒。
だが、学校ではロッカーに入れられてしまう。
フェンネルは学生になりたい理由を語らなかったが、主の側に身を置きたがるのは当然の心理だろうと、ヒスイの勝手な解釈で話は進んだ。

「変身すれば?今みたいに」
「それが・・・」

変身能力と言えば聞こえはいいが、なれるものは限られている。
所有者の想いに反応し、どうしてもこの姿になってしまうと言うのだ。

「う〜ん。確かにその姿じゃ無理があるわね」

ヒスイが腕を組んで唸る。

「あ!そうだっ!いい考えがあるわ!」

我ながら名案と手を叩き。
続けて考えを述べた。

「そんなことが・・・」
「うん。できると思う。後でお兄ちゃんに頼んでみるね」

お願いします・・・深く頭を下げ、フェンネルは本来の姿へ戻った。

「ふぁ〜・・・っ」

ヒスイの口から特大の欠伸が出た。
忙しない一日だった。昼寝もしていない。正直かなり眠い。

「10分だけ・・・」

と、ベッドで横になる。
シーツが多少埃っぽくても、今は睡眠優先だ。

「戻るのが遅くなるとお兄ちゃんが心配する・・・から・・・すぐ起き・・・Zzz・・・」


それから間もなくして。

スピネルとオニキスが様子を見にやってきた。
部屋の外から何度か声をかけても返答がなかったので、入室する、と。
ベッドには、爆睡中のヒスイ。
右手にしっかりとフェンネルを握っていた。

「良かった」

復活したフェンネルを前に、スピネルの表情も和らぐ。
気持ちにも余裕が生まれた。
隣のオニキスに視線を移すと、愛に満ちた横顔でヒスイを見つめていた。

「好き?ママの寝顔」
「何だ、急に」
「そんな顔してたから」
「ああ、そうだ」

オニキスは潔く認め、指先でそっと眠るヒスイの頬に触れた。

「しちゃえば?キス」

見なかった事にするよ?と。スピネルの悪戯な笑い。
しないとわかっていて、言っているのだ。

「それとも・・・代わりにキスする?ここに」

スピネルは自ら唇を指して。

「ママだと思っていいよ」

更に挑発。
結んでいた髪を解く。ヒスイに・・・似ている。

「そうか・・・ならば」

オニキスがスピネルの肩に手を置いた。

「え・・・」

ゆっくりと顔が近付き、唇と唇の距離が縮まる。
予想外の展開にスピネルは動けず。
しかし、オニキスの唇は寸前のところで進路を変更し、スピネルの唇の隣にキスをした。

「・・・あまり大人をからかうと、痛い目をみるぞ?」

唇を離してから、優しい口調で諭すオニキス。

「うん。そうみたいだね」

からかうつもりが、逆にからかわれてしまい、肩を竦めるスピネル。

「行くぞ」

オニキスが言った。

「ママ達このままでいいの?」
「もうすぐコハクが迎えにくる」

さすがによくわかっている。

「そうだね」

と、スピネルも納得。
一足先にオニキスが部屋を出た。
残ったスピネルはもう一度ベッドを覗き込み。

「このキスはママに返すよ」

呟いて、ヒスイの寝顔に唇を寄せた。キスの仲介。
唇のすぐ近く・・・自分がキスを受けた場所と同じ場所にキスをして。

「・・・オニキスがキスをしたいと思うのは、ママだけだから」

 
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