World Joker

27話 オトコの事情×3



 

 
それから6日後。

一行は至って普通の航海でクリソプレーズ港へ到着し、そこから無事モルダバイトへと帰還した。

夏休みも残りあと僅かだ。

 

 

戻ってきた、日常。

 

 

「・・・・・・」

いつものように眠気覚ましのシャワーを浴びたトパーズ。

視線の先には・・・ヒスイ。

コハクのシャツ一枚で床に転がり、すぅすぅ寝息をたてている。

これが最も日常的な光景である。

トパーズは傍らに腰を下ろし、若草色のクッションに埋まっているヒスイをじっと見つめた。

 

ヒスイは本当にシャツ一枚で。

下着の類は全く身に付けていない。

胸元は大胆にはだけ、裾は捲れ、ヒスイが寝返りを打つ度に、常識では見えてはいけない場所がちらちら見える。

「・・・・・・」

愛あればこそ、そこに視線が囚われる。

今日もたっぷり使用された穴。

コハクの匂いもそのままに。

「・・・・・・」

片想いの相手と一緒に暮らすのはそれなりの苦痛を伴う。

この時間もそのひとつだ。

 

ヒスイは今、手の届く距離にいて。

 

簡単に触れることができるのに、そういう訳にもいかなくて。

変えたくても、変えられない関係・・・じりじりと胸を焦がす。

どういうつもりなのか、ヒスイはいつも悔しくなるほど無防備なのだ。

唯一身に纏っている薄手の白シャツは、5つあるボタンのうち、2つしかとまっていない。

「・・・そんな格好してる方が悪い」

からかってやるつもりで、ボタンのひとつに手をかけるが・・・ここはリビングで。

今のところ気配はないが、いつ誰が入ってきてもおかしくない。

こんなところを見られたら、また面倒な事になると思い留まり。

 

仰向けになったヒスイの手の平。

 

そこに手を重ねてみる。

「ん〜・・・」

触れた手をヒスイはすぐに握った。

寝惚けたまま、横向きになり、両手で包んで、ちゅっ!とキス。

その表情は何とも愛に溢れていて。

「・・・・・・」

コハクだと思っているのは、わかっていた。

わかっていたが・・・

「おにぃちゃぁ〜・・・」

案の定、ヒスイの口からコハクの名が出て、ムッ。

「・・・バカ」

トパーズはヒスイから手を離し、立ち上がった。

それから庭に出て、干してある洗濯物から一枚。

まだ目を覚まさないヒスイの顔の上に落とした。

「わぷっ!!な、何???」

「突っ込まれたくなかったら、穿け」

 

 

「え?パンツ?」

ここまでの流れを知らないヒスイはきょとん。

 

 

続けて、トパーズが言った。

「約束、覚えてるか」

「覚えてるよ?いつにする?」

「・・・明日、朝8時に理事長室へ来い」

「ん!わかった!」

 

 

 

同日。屋敷玄関にて。

ここにも苦悩する男がひとり。

「・・・・・・」

「あ、オニキス、いらっしゃい」

ヒスイの出迎えを受けたはいいが、ぶかぶかのシャツ一枚。

鎖骨から胸の谷間までよく見える。上からだと、尚更。

「・・・・・・」

「オニキス?」

見上げるヒスイ。無邪気な愛らしさは時に凶悪だ。

「オニキス?どこいくの??」

吸血をしにきたのだが、後回しにして、一路キッチンへ。

そこではコハクがケーキ作りに勤しんでいた。

「コハク」

「何ですか?」

「ヒスイの事だが・・・」

咳払い、ひとつ。オニキスは少々言いにくそうに。

「下着ぐらい身につけさせたらどうだ?」

するとコハクは。

「一日じゅうしてると、跡がついちゃうんで」

なにせヒスイは敏感肌だから〜と言って、爽やかに笑う。

オニキスの進言を聞き入れる気はないらしい。

「それに・・・」

コハクはオニキスに小声で耳打ちした。

「素肌にシャツって、ムラッときません?」

「・・・・・・」

同意を求められても困る。

ムラッときても手が出せない立場だ。

(ヒスイがああなったのはすべてこの男の責任だ。オレならもっと・・・)

 

今更ではあるが、ヒスイの今後を危惧するオニキスだった。

 

 

 

その日。被害は更に拡大し。

 

 

ここにもうひとり、苦悩する男がいた。

思春期少年ジストだ。

「今日もヒスイは可愛いっ!」と、寝顔を見てニコニコ。

当のヒスイは本日2度目のえっちをした後で、気持ち良さそうに眠っている。

「オレも一緒に昼寝しよっ!」

ジストの体はもうだいぶヒスイより大きくなっていた。

それでもまだ甘えたい盛り。ところが・・・

 

 

(え・・・)

寝返りを打ったヒスイの胸元にドキッ。

むにゃむにゃ・・・動く唇にもドキッ。

 

 

慌てて方向を変えるが、チラチラ・・・見慣れているはずのヒスイの白シャツ姿が気になってしょうがない。

悪魔の国スフェーンでフェラチオ体験してから、少し変なのだ。

えっちシーンを見た訳でもないのに、下半身が反応してしまい。

「っ・・・!!」

これまで脳内に撮り貯めたヒスイのえっち映像がもわわわ〜んと。

(わわわ!!何考えてんだ、オレっ!!)

前を押さえて丸くなる。その時。

「むにゃぁ〜・・・おにぃ〜ちゃ〜・・・」

ぴとっ。寝惚けたヒスイが背中にくっついた。

「わぁっ!!」大声をあげるジスト。

「な・・・なに??」ヒスイが目を覚ます。

「ヒスイっ!!」

「ん?」

 

 

洋服ちゃんと着て。

 

 

(なんて、言えないよっ!!)

それはそれで勿体ないと思ってしまう。

「ごめんっ!!」ジストは真っ赤な顔で出ていった。

「え!?ちょっ・・・ジストっ!?」

 

 

 

敷地内公園にて。

 

ジストは昔から何かあるとここに来る。

久しぶりのブランコに揺られて。

「オレ・・・ひょっとしてすげぇ性欲強いんじゃ・・・」

真剣な顔で呟く。

「将来、父ちゃんみたいになるのかな・・・それもカッコイイけど・・・」

自分にコハクのような独裁的プレイができるとは到底思えない。

「それにこんなんじゃ、ヒスイと一緒に昼寝できないよ・・・」

それが一番ショックだ。

学校へ行けば女子はたくさんいるというのに、家で母親にムラムラしてしまう、悲劇の体質。

スフェーンでのあの夜。

 

 

「オレまでそんな目で見たらヒスイが可哀想だ!」

 

 

と、啖呵を切ったのは自分だというのに。

「ヒスイ〜・・・ごめん」

大人になるのが楽しみだった。守れるものが増えてゆくのが嬉しかった。

下半身がまさかこんな事になるとは思わず。

「何でこうなっちゃうんだよ・・・」

俯いて、溜息。そこに。

「あ、いたいた。ジスト、どうしたの?」

「!!ヒスイっ!?」

屋外なので一応洋服は着ているが・・・

(オレのだしっ!!)

自分のおさがりを着てきたヒスイにまた赤くなる。

ジストはブランコから飛び降り・・・

「ちょっ・・・何で逃げるのよっ!!待ちなさいってば!!」

足はジストの方がずっと早いため、魔法を使わなければ、捕まえる事ができない。

ヒスイは、地表をぐにゃぐにゃにする魔法でジストを転ばせ、捕獲した。

「ジスト?」

ヒスイが触れようとすると、ジストは拒んで。

「だ・・・だめだよ。オレもうヒスイと一緒にいられない」

泣きそうな顔で菫色の瞳を伏せたまま、ヒスイの方を見ようとしない。

「はぁ?なんで?」

「理由は言えないけど、そういうカラダになっちゃったんだっ!!」

「そういうカラダ?」

「オレ・・・オレ・・・ごめんっ!!」

「あっ!ジスト!?」

ヒスイを振り切り、逃走するジスト。

全く意味がわからない。

「ホントにどうしちゃったのかな・・・」

 

 

 

公園から逃げ去ったジストは、噴水前で救世主と出会った。

祖父メノウだ。

 

 

「じいちゃん、オレ・・・ヒスイと昼寝してて、勃っちゃったんだ」

 

 

深刻な口調で打ち明けるジスト・・・

あははは!!聞いたメノウは大爆笑。

「ま、気にすんなって。お前だけじゃないから」

「えっ!?そうなのっ!?」

「トパーズもオニキスもヒスイをおかずにヌキまくってるし」

ジストを元気づけるため、メノウは適当に脚色して言った。

「じいちゃんも?」

「そうそう。俺も」

男とはそういう生き物である、と。ジストに言い聞かせる。

「平和的にヒスイと昼寝したいんならさ、先に1回ヌイとけばちょっとは違うかもよ?」

「そっか!でも・・・いいのかな」

メノウは面白がり、ジストの背中を叩いて言った。

「バレなきゃいいって」

 

 

 

「よしっ!」

祖父メノウのアドバイスを受け、ジストはすっかり立ち直った。

「ヒスイまだ公園にいるかな」

走ってきた道を引き返す。

すると、ジストに代わり、ヒスイがブランコに乗っていた。

ブランコにはたくさんの思い出があり、しばし浸っていたところだった。

「え?ジスト?」

「さっきはごめんっ!オレ、絶対ヒスイに変なことしたりしないから!!」

 

 

「だから・・・また一緒に昼寝してもいい?」

 

 

「?うん、いいよ」

わざわざ尋ねられる意味もわからない。

(ま、いっか)

本日のジストの言動は謎だらけだが、いつもの調子に戻ったようなので、良しとする。

ヒスイにとっては、やっぱり可愛い息子なのだ。

「家まで、手、繋ぐ?」

「えっ!?いいのっ!?」

ジストは飛び上がって喜び、ゴシゴシとズボンのお尻で手を拭いてから、大好きなヒスイと手を繋いだ。

(幸せ〜・・・)

ほんわか、顔が綻ぶ。

 

 

 

身勝手な男の事情で、この幸せを壊してなるものかと心に誓い。

 

 

 

ヒスイと共に家路を歩く。

「ねぇ、ジスト」

「なにっ?ヒスイ」

「夏休みの宿題、やった?」

「へっ・・・宿題?」見事忘却の彼方だった。

「スピネルは全部終わったって言ってたよ」

サルファーにしてもそうだ。

宿題の類は要領良くさっさと終わらせるタイプだ。

「オレ・・・全然やってない・・・」

思い出したジストは呆然。その量を考えると眩暈がした。

「手伝ってあげる」

「ホントっ!?」

「うん」

毎年恒例のパターン。

ヒスイは率先してジストの宿題の手伝いをするのだった。

 

親として、してやれることがまだある、それが嬉しいから。

 

 

 

「帰って、ご飯食べて、宿題やろ」

「うんっ!」

 

 

 
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