31話 恋愛予告。
新学期前日。赤い屋根の屋敷。
“客人”の到着まで、あと55分。
トパーズの手伝いから解放されたヒスイは、ここ数日の睡眠不足を補うが如く、リビングで大爆睡していた。
いつもと変わらぬシャツ一枚で、無防備に。
そこへやってきたコハク。家事が一段落したのだ。
エプロンを外し、近くの椅子の背もたれに掛けてから、ヒスイの寝顔を覗き込む。
「もっと気持ち良く眠れるように、魔法のお薬飲もうね〜、ヒスイ」
返事はない・・・が、ヒスイの体を抱き起こし、ポケットから取り出した小瓶に口をつけさせ、中味を一気に流し込んだ。
それは・・・
(僕の血100%!!)
眠っているヒスイを欲情させるためのものだ。
愛する者の血液・・・ヒスイにとっては、媚薬と同じ効果がある。
ごくん・・・飲み込むと、たちまちヒスイの白肌が上気した。
全身から甘い誘惑の香りを漂わせ。
「はぁ、はぁ、ん・・・」
瞳を閉じたまま、ヒスイはモゾモゾと脚を動かし始めた。
途轍もなく眠い。しかし女性器は活動を余議なくされ、性的欲求に快眠が邪魔される。
「ん・・・・・・はぁっ・・・」
下半身が疼く。夢の世界では手に負えないほどに。
「んぅ・・・」
早くも欲求不満でヒスイが眉をしかめた。
「そろそろかな?」
コハクはタイミングを見計らい、ヒスイの陰部に指を入れ、そこから滲み出した愛液に触れた。
粘着力のある手触りを楽しみ、愛しむ。
くちゅっ、くちゅくちゅくちゅくっ・・・
指先が糸引く様を眺めるのが好きで、夢現のヒスイが大人しく脚を広げているのをいいことに、その中心を弄りまくるコハク。
血を飲ませたため、ヒスイの肉の合せ目からはいつにも増して愛液が溢れていた。
「くすっ・・・えっちなお人形さんだ」
コハクのエロ笑い。
そうしたくてわざわざヒスイが死ぬほど眠い時間帯を狙ったのだ。
「ん・・・ん・・・ぁ・・・」
何をされているのかよくわからない・・・でもなんとなく股の間が気持ちいい。
ヒスイは、快感に引き戻されてはまた夢に戻りを繰り返していた。
随分と長い時間コハクの指に身を任せ。
「ぁ・・・はぁ・・・ん」
時折ひどく艶めかしい息を吐いた。
コハクは、ヒスイの口から少しこぼれた血液を舐め取り、唇にキスをして。
「・・・もっといい夢をみせてあげる」
今日は焦らさず、早々にズボンを下ろし、ヒスイ専用のペニスを出した。
「はぁ・・・ふぅ・・・」
片脚を持ち上げられたヒスイがうっすらと目を開ける。
「ん〜・・・ぅ」
寝惚けた視界。
いつもの場所にいつものモノが差し込まれてゆくのがぼんやりと見えた。
「お・・・にぃ・・・ちゃん?」
「そう・・・僕だよ」
屹立したペニスをまるごとヒスイに飲み込ませ、耳元で囁く。
「今、ヒスイの中にいるよ」
「あ、ぁ、ぁ・・・」
自分の中に在る、熱く大きな塊を意識し、喘ぐヒスイ。
「あ・・・おにぃ・・・ちゃ・・・」
「うん。僕が動いてるの、わかる?」
眠っていたヒスイの感覚を言葉とペニスで少しずつ呼び覚ます・・・あくまで夢見心地を持続させるため、摩擦を加減しながら。
「んっ・・・」
恥骨で恥骨を撫でるように、ゆっくりと前後する腰。
結合部で鳴る音もいつもよりずっと控え目だった。
たまにくちゃりと聞こえるぐらい・・・だが。
「ん〜・・・っ、んっ!」
ビクンッ!ヒスイの体が強い反応を示した。
「よしよし、気持ちいいんだね」
と、優しくあやすコハク。
そこに、第三者の影。覗き魔ジストだ。
「うわ・・・二人ともすげぇ気持ち良さそう・・・」
ヒスイは勿論のこと、ジストと目が合ったコハクも色気のある表情をしていた。
大人達の欲情の熱にあてられ、恍惚とするジスト。
昼下がりの静かな官能。まったりと絡みあう両親に視線は釘付けだ。
「ふぁ・・・んっ・・・おにぃちゃぁ・・・」
ヒスイは頬を薔薇色に染め、幸せそうに擦られている。
突き抜けるような激しい快感とは違い、じわじわと根強く、後引く快感。
眠気と快感の狭間・・・今のヒスイには、それが堪らなく気持ち良く。
「はふっ・・・あ・・・ん」
自分も腰を揺らしながら、悩ましげに爪を噛んだり。
ノーマルなセックスでは絶対に見せない姿が、コハクとジストを興奮させた。
「このまま中に出すからね〜・・・」コハクが言って。
「んっ・・・はぁ・・・っ!!」ヒスイが悦びの声をあげた。
そこで、55分経過。チャイムが鳴った。
(オレが出るよっ!)
ジストがコハクにジェスチャーで合図を送り、玄関へ向かった。
「えと・・・誰??」
髪も瞳も蒼く印象的で、顔立ちはすっきり、背は高い。
「やあ、きたね」
ジストの背後からコハクが言った。
ベルトを締めながら、客人を迎える。
無論、中出ししてきた。それはもう大量に。
精を受けたヒスイはまたすぐに眠ってしまったが。
客人に向けるコハクの笑顔はやたらと清々しいものになった。
「父ちゃんの知り合い?」
「うん、まあ」
「ジスト、ヒスイを起こしてきてくれるかな」
「うんっ!わかったっ!」
コハクは客人を客間に通し、ソファーに座るよう勧めた。
「ジストには席を外して貰ったよ」
「恐れ入ります」
頭を下げ、着席する客人。そこに。
「ふあぁぁ〜・・・」
大欠伸。いまだ夢から覚めない顔でヒスイが現れた。
「ヒスイにお客さん、だよ」
「・・・・・・」
じっ・・・見憶えのない人物を凝視する。依然、瞼が重い。
「・・・誰だっけ」
「フェンネルだよ」
「あ・・・!!」
コハクに言われ、蘇る記憶・・・やっと目が覚めてきた。
(すっかり忘れてたわ)
結局、ファンネルをイメージの基礎となる絵と対にしてスピネルに返却した。
ファンネルは地道にトレーニングを続け、見事スペックを上げてきた。
努力家であることは間違いない。
「でも何で・・・男の子なの?」
詳しいことはわからないが、魔剣に性別があるとすれば、フェンネルは女の子だろうと思っていたのだ。
(女子校に通うなら、女の子の方がいいに決まってるのに)
「わざわざ女装していくってこと?」
「はい」
ヒスイが解せないという顔をしていると。
「スピネルと同じ性別がいいっていうから」
と、コハクが追って説明した。
「非力な女性の体では、いざという時スピネル様をお守りできませんから・・・失礼」
抑揚のない口調ながらも、女性であるヒスイに対し謝罪する・・・紳士だ。
するとコハクが・・・
「いざって時、があるの?学校って、そんなに危険なところかな?」
フェンネルの発言からキーワードを聞き逃さず、白々しい笑顔で尋ねた。
キッ、フェンネルの視線が厳しくなる。
「君が学生になりたい理由・・・無理に訊くつもりはないけど」
と、コハクが話を切り上げようとしたところで、フェンネルが口を開いた。
「・・・スピネル様と同じクラスに、不審人物が」
「不審人物?」
聞き返したのはヒスイだ。
「はい。スピネル様のご友人のひとりなのですが・・・必要以上に親しいのです」
「それが気になるの?」
と、またヒスイ。
「はい」
「ん〜と・・・」
(必要以上に親しいのが気になる・・・ってことは)
「それって、やきもち?」
ズバリ、ヒスイの口から。
「・・・・・・・・・いえ。ちがいます」
長い沈黙の後、フェンネルは否定。しかし。
ヒスイは妙な含み笑いを浮かべ、色恋沙汰歓迎のムード。
「そういう理由からではなく・・・」
いくらフェンネルが否定したところで、聞く耳持たずで。
「編入は決まってるの?」
今度はコハクが問いかけた。
「いえ」
保護者もいなければ、編入テストも受けていないというのが現状だった。
「保護者はオニキスに頼むとして」
ヒスイが言った。
入学を新学期に間に合わせ、なおかつスピネルと同じクラスにするには・・・
「私、トパーズに頼んでくるね!」
ここ数日、トパーズは学校に泊まり込んでいる。
ヒスイは慌てて着替え、屋敷を出ていった。
「君はなかなか頭がいいね。ヒスイを相談役に選んだのは、こういうこと?」
「・・・・・・」
客間に残ったコハクとフェンネルで続行される会話。
「ヒスイなら、オニキスも、トパーズも、僕も、意のままに動かせる。ヒスイの“お願い”は誰にでも通用するからね」
「・・・申し訳ありません」
フェンネルはヒスイを利用した事を認めた。
「“正”の魔剣である君がそこまでするってことは、よっぽどの理由があるんだろう」
コハクに言われ、打ち明けるフェンネル。
「・・・確証はないのですが」
話は先程の不審人物についてだった。
「その人物は・・・男性ではないかと思われます」
「男?へぇ・・・」
顎に手をかけ、コハクは興味深そうに。
「その話、もう少し詳しく聞かせてくれる?」
学園内。理事長室にて。
「でね、フェンネルをスピネルと同じクラスに編入・・・」
「ほう」
トパーズは両腕を組み、これでもかとヒスイを見くだした。
「オレにタダでモノを頼めるとでも思ってるのか?」
本日も愛故の意地悪に精を出す。
「お、思ってないけど・・・」
たじろくヒスイの頭を掴み、トパーズが言った。
「・・・ちょうどいい。もうひと働きしろ」
翌日、同場所。
そこにはトパーズと・・・巨乳美人カーネリアンの姿があった。
「まさかあんたに雇われる日がくるとはねぇ」
義賊ファントムは、盗賊業もさることながらよろず屋稼業もこなしている。
「3ヶ月の臨時教員だ」
書類から目を上げず、クールに言い放つトパーズ。
机越し、カーネリアンはトパーズをまじまじと見つめ。
「あんた・・・いい男になったねぇ」
対してトパーズは表情ひとつ変えず。
「間に合ってるぞ」
「バッ・・・そこまで飢えてないよ!嫌だね、このコは!!」
トパーズの切り返しに慌てるカーネリアン。それから急に真面目な顔になり。
「・・・息子同然のあんたがさ、こんだけ立派になってりゃさ」
目頭が熱くなる、と言って軽く目の縁を押さえた。
「・・・・・・」
「それにしたってさ、アタシは勉強なんて教えられるタマじゃないよ」
早くに両親を亡くし、貧しい孤児院で育ったカーネリアン。
「自慢じゃないけど、勉強なんてのはしたことないし」
「心配ない。とっておきのブレーンを用意してある」
「ブレーンだって?」
「教室に入ったらまず、教壇の下を見ろ」
「・・・ってねぇ」
カーネリアンが教室に入った。
新顔教師の入場にざわめく生徒達。
赴任の挨拶もそこそこに、教壇の下を覗いて、びっくり。
なんとそこには・・・
(ヒスイ!?)
教壇の下、僅かな空間で丸くなり、手にはスケッチブック。
1枚めくり、カキカキ・・・筆談だ。
“質問の答え、全部ここに書くから”
トパーズから支給されたマニュアル通りに授業を進め、不測の事態・・・生徒からの質問などには教壇下のヒスイが対応する。
人前で話すことには慣れているが教養のないカーネリアンと、教養はあるが人前に出るのが苦手なヒスイ。2人で1教師という訳だ。
「・・・ったくあいつは・・・」
トパーズの機転に笑いが込み上げる。
“よろしくね”
紙に書かれたヒスイのメッセージ。
カーネリアンは片目をつぶり、小さな声で答えた。
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
昼休み。
理事長室の扉を叩いたのはスピネルだった。
「気に入ったか、新しい教師は」
弟を招き入れ、トパーズが言った。
「兄貴、もしかして・・・知ってる?」
無回答のまま・・・トパーズの口元が歪む。
「偶然が重なっただけのことだ」
「ありがとう、兄貴」
スピネルは素直に礼を述べた。
お互いに、言わんとすることは理解できた。
オニキスの元で育った者同士、より近い兄弟でもあるのだ。
「・・・3ケ月だ。さっさと落とせ」
押しの強いトパーズらしい言葉。
スピネルは肩を竦め。
「全然相手にされてないんだけど、頑張ってみるよ」