World Joker

34話 もものてっぺん



 

 
赤い屋根の屋敷。門前。

 

ヒスイは、泣いてはいなかった。

「別に・・・わかってたことだし」

強がりか、励ましか、少々口を尖らせ、呟く。

親子の関係はこれまで数えきれないくらい否定されてきた。

ただ、自分が諦められずにいただけで。

(今更、落ち込んだってしょうがないもん)

 

「ただいまっ!」玄関で声をあげる。

いつもならコハクの「おかえり」、けれども今日は。

「おかえりっ!ヒスイっ!」

ジストがお迎え役だった。

「お兄ちゃん・・・まだ帰ってないの?」

ヒスイの表情が曇る。コハクによるおかえりのキスは必須なのだ。

「あっ!でもきっともうすぐ帰ってくるよっ!!」

ヒスイを元気づけようと明るく振る舞うジスト。

「そうだっ!ヒスイ、ホットケーキ食べる?」

「ホットケーキ?」

言われてみれば、キッチンの方から甘い香り。

「お兄ちゃんいないのに、なんで??」

「アクアが焼いたんだ」

「え?アクアが?」

 

 

 

キッチンにて。

 

(すごい・・・ちゃんと焼けてる・・・)

まんまるキツネ色の出来に、ヒスイも目を丸くする。

角切りバターとハチミツで「「「いただきます」」」

ヒスイ、ジスト、アクア、親子兄妹3人で、2時間遅れのおやつタイムだ。

「うん、おいしい」

ヒスイは5歳の娘が作ったホットケーキを頬張った。

それから、ジストに注がれた牛乳を飲んで一息・・・とはいかなかった。

アヒル柄のコップにヒスイが口を付けた瞬間、トパーズが帰ってきたのだ。

無言で出入りするのはトパーズだけなのですぐにわかった。

「あっ!兄ちゃんだっ!!」

迎えのため、早速ジストが立ち上がる、と。

ヒスイが続けて席を立った。

ホットケーキは食べかけ、牛乳はまだ飲んでもいなかったが。

「ヒスイっ!?」

ジストより先にキッチンを飛び出し、階段を駆け上り、バタンッ!!

コハクの部屋へ逃げ込んだ。

(私っ!何やってるの!?)

コハクのベッドに潜り込み、頭を抱える。

「絶対、不自然だわ」

体が勝手に・・・は言い訳で。

「これじゃ、まるでさっきのこと気にしてるみたいじゃない」

そんなつもりはなくても、どこか気まずく、トパーズにどう接していいかわからない。

今頃ジストが心配しているかもしれない・・・そう思っても、キッチンに戻る気にはなれなかった。

「お兄ちゃん・・・早く帰ってこないかな」

 

 

 

コハク&オニキスのスーツ組は。

 

新たに増設されたペンデローク支部で、午後から入社試験のようなものを受けた。

コハク、オニキス、それぞれ別の思惑はあれど、一日目は何事もなく終了した。

「ああ、もうこんな時間だ」

ヒスイがお腹を空かせている、と、腕時計を見たコハクは落ち着きなく。

「僕、会社勤めって向いてないと思うんですよね〜・・・家のことが気になって仕方がないから。
 さっさと上層部を潰すしか・・・」

飛んでも帰れるが、時間節約のため、オニキス宅にある魔法陣を使う。

これならば、屋敷まで一瞬で移動できる。

 

 

「ちょっと待って、パパ」

 

 

いそいそと帰路に就くコハクをスピネルが呼び止めた。

「ん?」

「ママの事なんだけど・・・」

スピネルは理事長室での出来事を簡略的に話した。

「なるほどね」

母親として奮闘しても、ほとんど空回り。

恋愛感情があるかぎり、トパーズがヒスイを母親と認めることはない。

「ひょっとしたら、家で兄貴と気まずくなってるかもしれないから」

スピネルが言うと、コハクは苦笑いを浮かべ。

「まあ、そうだろうね」

 

 

 

 

赤い屋根の屋敷。

 

「ヒスイ、ただいま」

裏口から走り込み、リビングへ直行するコハク。

リビングにはジストとアクア、ヒスイとトパーズの姿はない。

 

 

【ジストの証言】

「なんか、兄ちゃん帰ってきたら急に2階に行っちゃって」

 

【アクアの証言】

「トパ兄にいじめられたんだよ〜。だからにげたの〜」

 

 

日中はリビング、夜は夫婦のベッドルームにいるので個人の部屋はほとんど使っていないのだが、今夜ヒスイは珍しくコハクの部屋で枕を抱えていた。

「ヒスイ、遅くなってごめんね」

不貞腐れ気味のヒスイを覗き込み。

「お腹空いてない?何か作ろうか?」

「ううん、さっきアクアに作ってもらった」

「アクアに?」

(5歳の娘に作ってもらったって・・・今日も可愛いなぁ・・・)

早くも親子逆転現象・・・思わず笑いそうになるが、堪え。

「学校で何かあった?」

口下手なヒスイがうまく説明できないことは承知の上で、一応聞いてみる。

「大したことじゃ・・・」

コハクに嘘は通用しない。ヒスイは困った顔で俯いた。

 

 

「そうだ。ヒスイにお土産があるんだ」

「お土産?」

「はい、開けてごらん?」

受け取ったのは長方形の小箱。

プレゼント用のラッピングがしてある。

包みを開けると、コハクの瞳と同じ菫色の・・・

「蝋燭?」

「アロマキャンドル」と、コハクは言った。

3個入りのうち1個を取り出し、コハクが火を灯すと、ラベンダーの香りが室内に広がった。

その香りは、心を落ち着かせ、眠りを誘うものである。

「いい匂いだね」

ヒスイの表情が和む。期待していた効果を発揮しそうだ。

コハクは笑顔で頷きながら。

(今夜はしっかり眠ってもらわないと・・・でもその前に)

「お兄ちゃん?」

コハクの指がヒスイの制服のリボンを解いた。

「・・・忘れさせてあげる」

シャツのボタンを次々と外す・・・ヒスイは抵抗しなかった。

 

 

 

ベッドの上で膝立ちになるヒスイ。

床下には、制服やらYシャツやらネクタイやらが無造作に落ちていた。

「ヒスイ・・・」

背後からヒスイを抱きしめたコハクが、顔を傾け、唇を寄せる。

対するヒスイは精一杯の斜め上向きでキスに応えた。

「ん・・・」

そのまま、コハクの指が陰部に触れると。

「・・・んっ!」

びくっ・・・ヒスイは小さく震え、コハクから唇を離そうとした。

器用な方ではないので、快感が分散されると困惑してしまうのだ。が。

逃がしてはもらえず、再び唇が塞がれる。

「ん・・・ぅ」

続けてコハクの舌が口内に侵入した。

ヒスイの舌は抵抗する間もなく掴まり。

「はぁ、はぁっ・・・はぁ」

乱れる息。股間の暗がりを弄られながら、コハクと舌を絡め、上も下も快感を受け入れようと必死だ。

 

くちゅくちゅくちゅ・・・

 

どちらで鳴っているものなのか判別できないまま、股間に差し込まれたコハクの手のひらに愛液の雫を落とすヒスイ。

「んんッ!」

割れ目を優しく撫でられる度、腰が沈みそうになるが、それはコハクが許さず。

「ん・・・ッ!」

強く唇を重ねたまま、濡れた手のひらで何度も股間を持ち上げられた。

そしてついに。

コハクの指先が内部の肉に触れ。

膣壁への愛撫が始まった。

「んくッ!!」

一方で激しいキス・・・息を吸うこともままならない。

理性も希薄になり、追い詰められた興奮で、コハクの舌を噛んでしまいそうになる。

 

 

「んっ、んっ、ん・・・」

 

 

コハクの指の動きに合わせて、ヒスイが腰を揺らす・・・

より深い快感を求める淫らな腰使いだ。

唇を解放し、コハクが囁いた。

「そう、その調子だよ」

 

 

(今は何も考えずに、僕の愛を体で感じていればいい)

 

 

「あ・・・はぁ・・・おにいちゃ・・・ん」

引き続き、背後から両手で胸を掴まれ、左右の小さな膨らみを濡れた手のひらでたっぷりと揉まれる。

「あ・・・んッ」

これはこれで天にも昇る気持ちであるが・・・下は放置。

突然お役御免となり、寂しさが募る。

構って欲しいと訴える愛液が、太股から膝まで大量に伝っていくのが自分でもわかった。

「うっ・・・ぅ・・・」

偏った快感に涙目で呻く。

やっぱり今夜も焦らされてしまうのだ。

 

 

「何が欲しい?ヒスイ」

 

 

コハクが言った。

横からヒスイの乳首を舐めて。

「ヒスイの欲しいものをあげるよ」

拳銃で脅すように、ヒスイの小さな背中に硬化したペニスを突き付けた。

「えうっ・・・おにいちゃ・・・」

細いヒスイの手首を掴み、耳元に唇を寄せ。

「言って。何が欲しいのか」

口調は穏やか、しかし、内容は鬼畜。

「ちゃんと言えるまで、おあずけだよ」と。

ツンツン、尖った先でヒスイの入口を刺激する。

「あッ・・・あ・・・!!」

入りそうで、入らない。

ぷちゅっ、ぷちゅっ・・・ヒスイの股間で微かな粘着音が鳴り続いた。

「お・・・おにいちゃぁ〜・・・」

 

ヒスイはいつも以上に頬を紅潮させ、今一番欲しいものを告げた。

 

「あ・・・」

膝立ちも限界で。ヒスイはへたり込み、上半身をベッドに伏した。

それでも穴だけはしっかりとコハクに向けている可愛い雌だ。

コハクは、ヒスイの腰を抱きかかえた。

「7時間ぶり、だね」

優しく笑いながら、ペニスで膣肉を掻き分ける。

「あ・・・ぁあんッ!!」

本日2度目の交わりだ。

日夜頻繁に訪れる夫のペニスを悦んで、膣内が熱くざわめく。

「あぁ・・・ッ!!」

コハクの鉾先がほんの少し膣壁を擦っただけで、あまりの気持ち良さに身震いする。

このまま奥を突かれたら、一度でイッてしまう。

そんな状態のヒスイに。

「昼は無理矢理イカせちゃったから・・・夜はゆっくり・・・ね?」

コハクは慎重に腰を動かし、ヒスイが耐えられるギリギリの速度で、抜き差しを繰り返した。

「あうッ!あぁッ!!あッ!あ!」

ヒスイはシーツを掻き毟りながら、昼の何倍も長くコハクと繋がる悦びに浸った。

「あ・・・ぁ・・・おにい・・・ちゃ・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

裏庭で喫煙中の男がひとり・・・トパーズだ。

もうずいぶんと長いことそこにいる。

設置された灰皿には吸い殻が山になっており、苛立ちの程を窺わせた。

「おい、おい、ちょっと吸い過ぎだろ。悔しいのもわかるけどさ」

明るく声をかけたのは祖父メノウ。こういう場面に大抵現れる。

「ここからよく見えるもんなぁ〜・・・コハクの部屋」と、上を向き。

「お〜・・・今夜も見事なヤラレっぷりだ」

窓際で喘がされている娘を見て笑う。

 

 

「でも、ま、しばらく見納めかもしんないよ?」

 

 

悪戯な笑いで、意味深なセリフ。

メノウが背にした月は妙な赤味を帯びて見えた。

少し邪悪な感じさえして。

「・・・・・・」

何か企んでいるのかもしれないと思いながらも、巻き込まれるのは面倒なので、トパーズはあえて聞き流した。

「ジストが心配してる。ヒスイとケンカでもしたんじゃないかって」

「・・・あいつが勝手に逃げただけだ」

「ふぅ〜ん、そんでお前が追っかけてきたワケだ」

「・・・・・・」

「見つけたら見つけたで、コハクとヤってるし、やんなってくるよな」

「ジジイ、喋りが過ぎるぞ」トパーズが睨む。すると。

メノウはぴたりと話を止め、最後に一言。恋愛の極意を伝授した。

 

 

「押してもダメなら引いてみろ、じゃん?」

 

 

 

 

その頃、コハクの部屋では。

 

「うん、よく寝てる」

 コハクの精液はヒスイにとって快眠の作用もあるらしく、中出しセックスの後は本当によく眠る。

アロマキャンドルの相乗効果もあってか、ご機嫌な寝顔だ。

「さて、今後に備えてやっておかないと」と、コハクが手にしているのは・・・

黒い羽根ペン、一本。

「どこにしようかな」

うつ伏せで眠るヒスイの全身を眺める。

「・・・よし、ここにしよう」

 

 

もものてっぺん。

 

 

少女ちっくで可愛らしいお尻の右側・・・小高い場所にペン先をつける。

1時間以上かけて、コハクはそこに複雑な紋様を描き込んだ。

「秘技・・・っていうか、外法なんだけど。これなら確実にヒスイの身を守れる」

完成した“それ”は、ヒスイの肌に吸い込まれるように消え、後には何も残らなかった。

「効果は3ケ月。それだけあれば片が付く」

(“これ”の出番がないことを祈るけど)

「・・・愛してるよ、ヒスイ」

 

 

キミを傷つける者は許さない。

 

 

 
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