World Joker

40話 本日のえっち。


 

 

 

欲情の度合いは、月の満ち欠けや、その日の体調、精神状態によって異なる。

(えっちしちゃだめっ!!)と、ヒスイは心にブレーキをかけていた。

かえってそれが反動となり、淫らな症状が体に現れていた。

「ん・・・はぁ・・・」

「ヒスイ・・・」

とくん、とくん、ヒスイの興奮に伴って心臓が高鳴る。

いつもは外側から感じる鼓動が、内側から響いてくる。

ヒスイと心臓を共有するオニキスの体だからこその特権だった。

(ああ・・・ヒスイ)

今日も愛しくて愛しくてしょうがない・・・のだが。

(ここは冷静に・・・ヒスイだけが気持ち良くなるように・・・)

日陰のない広場から急いで離れ、近くの木陰へと避難する。

そこは緑が生い茂った場所で、先には泉がある。

広場に比べれば、幾分か涼しかった。

「う・・・うぅん・・・」

昨夜同様、欲情の熱にうなされるヒスイ。

(学校、休みたくないだろうなぁ)

コハクは月曜日のことを考えた。

このまま何もしなければ、熱を出して寝込む可能性が高い。

無理をせず、いっそそれでもと思いもしたが・・・

(トパーズと約束したっていうし)

ヒスイは約束を破らない。

(約束したんなら、ヒスイは熱が出たって学校に行くだろう)

それはそれで可哀想だと思う。

(でも、他の男の手でイカされるのも可哀想だ・・・う〜ん)

「・・・これしかないか」

 

 

本日のえっち、決定。

 

 

息が乱れているヒスイの体を倒し、両脚を開かせる。

「だめ・・・だよ・・・おにいちゃん・・・オニキスだも・・・ん」

夕べと同じように女性器を診察しようと下着に手を伸ばすが、ヒスイは見せるのを嫌がり、頭を左右に振った。

「濡れてるよ・・・とにかく脱いで」

と、言いながら、コハクが脱がせる。

「・・・・・・」

ヒスイの朱色に濡れ輝く淫裂はいつ見ても愛らしく、強烈に男を刺激する。

(我慢だ!我慢するんだ!!)

平静を保つため、コハクも何度か頭を振り、それから。

「やっ・・・!!」

ヒスイの手首を掴んで、股間の窪みまで誘導した。

レコード盤に針を置くように、そこから奏でられる音を待つ・・・が。

ぺちょっ、指先に愛液がくっつく音がしたきり、ヒスイの指は動かなかった。

「っ・・・!!」

両目をつぶり、顔を真っ赤にしている。

「ヒスイ、聞いて」

コハクが優しく頬を撫で、言った。

「ひとりえっちだと思うと、抵抗があるかもしれないけど」

 

 

「ひとりじゃないよ、僕に見せて」

 

 

「う・・・うぅ・・・っ」

いつもなら、両脚を開いているだけで、コハクの指や舌が気持ち良くしてくれる。

今日は違うのだとわかっていても、自慰プレイはほとんどしたことがなく、ヒスイは自分で自分のものに触れることに慣れていなかった。

「はぁっ・・・はぁ、はぁ・・・」

期待の眼差しに応えようと、懸命に指を動かすも、なかなか自力でイクことができない。

「あっ・・・はぁ・・・はぁ・・・っ」

美しく磨かれた桜色の爪に、淡く濁った愛液が絡み付き、何本もの糸を引く。

「・・・水飴みたいだね」

ヒスイの指先が練った愛液はとても美味しそうで。

口に含みたくなる。が、今日は見ていることしかできないのだ。

「・・・・・・」

我慢の汗が伝う。愛しいヒスイを目の前にして、これほど焦らされたことはないような気がする。

 

 

「お・・・おにいちゃ・・・」

 

 

正面から両脚を押し開かれたまま、中心を弄り始めて大分経つ。

「はぁっ、はぁっ、あ・・・」

指先にたっぷりと愛液を纏いながらも、ひとりではどうしても一線を越えられず、半端な快感に疲弊していくヒスイ。

「・・・・・・」

(何だかすごく可哀想になってきた・・・)

見兼ねたコハクはついに。

オニキスの手でヒスイの手を包み込み、言った。

「人差し指を出してごらん」

「ん・・・」

ヒスイは素直に従った。

「大丈夫だよ。ヒスイの体は、ちゃんとイキ方を知ってるから」

「おにぃ・・・ちゃん・・・」

潤んだ瞳でヒスイが見上げる。コハクは笑顔で頷き。

「目をつぶって、僕のこと考えてくれる?」

「うん・・・」

「ゆっくり、ゆっくり・・・」

ヒスイの手を動かし、皮膚と粘膜の境界線をなぞらせる。

そこは見るからにヌルヌルとして、愛しい男を欲しがり続けていた。

「あ・・・っ・・・」

「必要なのは強い刺激じゃなくて、怖がらずに快感を受け入れること、ね?」

オニキスの声ではあるが、コハクはヒスイに優しくそう言い聞かせた。

「悪いことをしてるわけじゃないんだ。イッていいんだよ」

「あ・・・あんっ・・・」

重なった手から、コハクの熱が伝わってくる。

その熱はヒスイの膣奥まで届き、真の快感を呼び起こす・・・

 

 

「んっ・・・あぁっ・・・ん!」

 

 

やっとヒスイの口から本気の喘ぎが漏れた。

「ジンジンして、中をツンとしたくなったら、少し指に力を入れて」

「ん・・・おにいちゃ・・・」

自分の指ではあるが、コハクに導かれるまま。

「・・・入れるよ?」

「あっ・・・」

柔らかな肉筒に細い指が入ってくる。

「ああっ・・・」

草の上でヒスイの腰が浮き、喉が反った。

「綺麗だよ・・・ヒスイ。体が元に戻ったら、僕にも中をいっぱい触らせてね」

嬉し恥ずかしいコハクの言葉に後押しされ、一気に中が締まる。

「・・・・・・んっ!あ!!」

ヒスイに待望の絶頂が訪れたのだ。

「よく頑張ったね」

根元まで埋まった指を引き抜いてやり、コハクが褒めると、ヒスイはすぐに起き上がった。

「おにいちゃぁん・・・」

ぎゅっ・・・コハクに抱きつく。そして。

「うぇっ・・・」

(ああ、泣いちゃった・・・)

昨夜に次ぐ失敗・・・ちくちく心が痛む。

「ごめんね、ヒスイ・・・」

ヒスイは完全に欲情していた。

(快感は確かにあっただろう。でも、心がついてきていたかどうか・・・)

わかってはいたことだが。

ひとりえっちはヒスイに不向きなのだ。

(後ろの穴に入れられるより、嫌なのかもしれないなぁ)

罪悪感に襲われるコハク。同時に怒りも込み上げてきた。

(僕が僕なら、こんな思いさせるもんか!!)

 

 

「ここで休んでて、ヒスイ」

 

 

にこやかにそう言い残し、泉へ向かう。

ヒスイのパンツを洗うためだった。

今秋の新作、茶色とピンクのレースをあしらったロマンチックデザインで、ヒスイがとても気に入っているのだ。

(この天気ならすぐに乾くな)

日差しは一段と強くなっていた。

もはや悠長に修業などと言ってはいられない。

ヒスイにパンツを穿かせ、家まで送ったら、アンデット商会へ殴り込みに行くつもりだった。

(回りくどいオニキスのやり方に付き合ってられるか!!)

泉の縁でひとり、憤慨。その時。

「!!?」

刃が空を斬る。

背後からの襲撃を、コハクは紙一重でかわした。

 

 

「会いたかったぜ、セラフィムさんよぉ」

 

 

「君は・・・」

アンデット商会営業部長、ウィゼライト。

「ちょっくら遊んでくれよ・・・なぁ」

べろり。愛用のナイフを大胆に舐め、動く。

「っ・・・!!」

ウィゼの攻撃をコハクは持参していた剣で受けた。

その一撃はナイフとは思えないほど重く。

(まあ・・・魔剣だからね)

女の身軽さを生かし、武器を使った攻撃と足技を組み合わせて使ってくるウィゼ。

反撃のタイミングを掴みにくい動きだった。

(だけど・・・今日は殺気がない。時間稼ぎか・・・)

「・・・ひょっとして、メノウ様も来てる?」

外見はオニキスである自分に対し、ウィゼが“セラフィム”と呼称した時点である程度内情を知っていると判断した。

試しにメノウの名を出してみる。

「ご名答」と、ウィゼはニヤリ。

「・・・・・・」

(来ているとすれば、ヒスイのところだ)

メノウが娘のヒスイに危害を加えることはないだろう、が。

(変なこと吹き込まれてなきゃいいけど・・・ヒスイは思考が極端だからなぁ・・・)

「・・・っと」

僅かな隙に、ウィゼのナイフが腕を掠めた。

「行かせねえよ」

休日にも関わらず、ウィゼは足止め役としての職務を全うするつもりらしい。

 

(まずはこっちを何とかしないと)

 

 

 

 

木漏れ日の下。

ふぁぁぁっ・・・ひと泣きしたヒスイは大欠伸で。

(今度は魔法使い過ぎないように気をつけよ)

懲りずに修業を続ける気でいた。

ひとりえっちのショックからはすでに立ち直っている。

「でも・・・」

(何だかすごく・・・眠い・・・)

草の上に膝を抱えて座り、うつらうつら・・・すると間もなく。

「よっ!ヒスイ」

「お、お父さんっ!?」

急に声をかけられ、驚く。

しかもその相手がメノウだったので眠気も吹き飛んだ。

「ど・・・」

どうしてここに?昨晩の件も含め、質問したいことが色々あったのだが。

「ちょっとさ、頼まれてくんない?」

いきなりメノウにそう切り出され。

「うん、いいよ」

質問の前に、快諾。

「じゃあさ、この呪文使えるようにしといてくれる?」

ヒスイはメノウから一枚のレポート用紙を受け取った。

そこには術の構成や性質、使用条件、発動言語、他魔法理論がびっちりと書かれていた。

目を通したヒスイは「難しい呪文だね。途中で間違えそう」と、コメントしたが・・・

「できるよ。俺の娘だもん」

天才魔道士である父親にそう言われ、照れ笑い・・・ノーパンなのは忘れている。

「あれ?トパーズも一緒なの?」

「へぇ、何でそう思うの?」

「だってこれ、途中からトパーズの字になってるよ?」

ヒスイはレポート用紙の文字からトパーズの存在を察したのだ。

天然ボケで年中騙されているヒスイ。

(たまに冴えるトコはサンゴ譲りかもな)

娘に妻の姿を重ね、自然と笑顔になるメノウ。

「な、ヒスイ」

「ん〜?」

「コレやるわ」

「?なにコレ」

 

 

「コハクとオニキスの入れ替わりを解く鍵」

 

 

「・・・え?」

ヒスイの表情が強張る。

(お父さんが犯人だったの!?)

コハクからもオニキスからもそんな話は一切聞いていない。

「コハクでもオニキスでもいいから、ここに差し込んでさ・・・」

メノウは自身の体で鍵穴の位置を示してから。

「あいつらもっと利用してやるつもりだったんだけど」

男達の“入れ替わり”で一番被害を受けているのは愛娘のヒスイだった。

野菜を挿入されたり、自慰をさせられたり。

吸血する度、特異プレイではいたたまれない。

「娘には甘いんだよね、俺」

「おとうさ・・・」

ますます質問が増え、ヒスイが口を開くも。

「んじゃ、またな」

メノウは一方的に別れを告げ、近くにあらかじめ用意していた魔法陣の上に乗り、軽く手を振った。その時だった。

「!!」

ヒスイの視線が一点に集中する。

「お父さん・・・何でアンデット商会のバッジ・・・」

無回答のまま、メノウはパッと姿を消し。

「ちょ・・・お父さんっ!!?」

 

 

 

 

「ヒスイっ!」

コハクが戻ると、ヒスイはすっかり熱が冷めた顔で立ち尽くしていた。

 

 

「お父さん・・・アンデット商会のバッジしてた。なんでだろ」

 

 

「この前ね・・・」沈んだ口調でヒスイが話を続けた。

「お父さんに、うんと長生きしてね、って言ったの」

「・・・うん」

「お母さんの生まれ変わりに出会えるくらい、って」

「・・・・・・」

「“人間”は100年くらいしか生きられないってわかってるのに・・・お父さんだけは違うんじゃないかって・・・そう思いたくて」

「・・・メノウ様は何て?」

「無理に決まってるって笑ってたけど、お父さん・・・どんな気持ちだったのかな」

唇を噛み、ヒスイが深く俯いた。

不老不死の研究をメインとしているアンデット商会。

そこにメノウが在籍する理由。

「もしかして・・・」

「大丈夫、それはないよ」コハクは即座に否定し、高々とヒスイを抱き上げた。

「わ・・・お兄ちゃんっ!?」

「それじゃあ、昔話をしよう」

「昔話?」

「うん、聞いてくれる?」

 

 

メノウ様と僕がエクソシストになった時の話。

 

 

 
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