World Joker

52話 恋しい匂い



 

 


狂戦士と噂される男、ファーデン。

 

その風貌は意外だった。

(思ったより全然ゴツくない)ジン、心の声。

筋肉モリモリのマッチョな男かと思いきや、弟のジルと雰囲気が似ている。

ジルに+10歳したような外見・・・髪の色も同じだ。

ただ・・・前髪が異様に長く、こちらからは両目とも見えない状態だった。

何とも得体の知れない感じだ。

戦闘狂と言われるだけあり、決闘を前にして、口元には笑みが浮かんでいた。

その男に対し、いきなりではあるがジンが発言した。

「なんでオレを指名したのか教えて欲しい」

すると。

「不老不死と呼ばれる男をこの手で殺してみたかっただけのことよ」

「・・・・・・」

(やっぱりそういうオチなのか・・・)

第1王子ファーデンは戦いに明け暮れていて、王政に無関心のため、他国の情勢に疎い・・・そう第5王子のジルから聞き、もしやと思ったのだ。

「それって前王なんだけど・・・」ジンは言った。

自分は民間からの婿養子で、何の変哲もない人間云々・・・

これで闘いが回避できるならと、恥も外聞も捨てて素性を明かすジン。

「だから、はっきり言うと王違いで・・・」

「・・・・・・」

露骨に興味を削がれた顔のファーデン・・・両目が隠れているとはいえ、全身からガッカリ感が漂っていた。

ファーデンはしばしの沈黙の後、「それでもモルダバイトの王には違いない」と言い。

ついでに殺しておく・・・そんなムードだった。

そう都合良く、戦闘回避とはいかないようだ。

(はぁ・・・)

全く乗り気ではないが。

(ここまできたらやるしかないよな・・・)

 

かくして二人の闘いが始まった。

 

 

 

「ジン君と狂戦士、か」

呟くのは、観戦者のコハクだ。

「・・・命を奪ったことがない者と、命を奪うことに躊躇いのない者が戦えばどうなるかは大体わかる」

圧倒的な実力差がない限り、前者は後者に勝てない。

(つまり・・・ジン君は勝てない)

「・・・と思ってたんだけどね」

上空で苦笑い。

(トパーズが力を貸してるな。ちょっとありえないことになってる)

 

 

ヤケクソ気味にジンが蒔いた種が、次々に発芽し、異常繁殖していた。

精霊の力量を超えた・・・明らかに神の力が作用している。

荒廃したコロシアムは瞬く間に緑に飲まれ、植物を武器として戦うジンに有利な地形と化した。

方々から伸びた蔦が蛇のように動き、ファーデンを狙う。

対するファーデンは上着を脱ぎ捨て、拳を構えた。

(拳闘士?)

「へぇ・・・面白いな」

己の肉体を極限まで鍛え上げ、武器とする。

ファーデンの武器は手刀だった。

それで物が切れるのだから驚きだ。

向かってくる蔦を鮮やかに斬り捨てる姿は、もはや人間を軽く超えるレベルで。

類稀なる怪力なのだろう。

妙な進化を遂げ肥大した植物をいとも簡単に引きちぎる・・・それも、楽しそうに。

「あれなら、ひとひねりで人間を殺せる」

(狂戦士の名は伊達じゃないな)と、感心するコハク。

だが、それどころではなかった。

 

ジンが・・・ジンでなくなってきたのだ。

 

いつの間にか身に纏っていた木製の鎧は、金属に匹敵する硬度で。

攻撃を受ける度、守備範囲が広がり、自動的に防御力が上がるシステムになっていた。

ただし。体が鎧で覆われれば覆われるほど、自我を失うという副作用があった。

目の前の敵を滅するためだけに戦う、心なき神の使徒として徐々に変化してゆくのだ。

ジンは、その症状がかなり進行していた。

植物の常軌を逸した成長速度・・・それぞれが獰猛な獣さながらに、意志を持って動き出していた。

(この調子だと、勝つのはジン君だろうけど・・・)

「殺しちゃうだろうなぁ・・・」

もはやそこにジンの意志はないのだ。

加減などできるはずもない。

(一般人のジン君に、殺しはちょっとキツそうだし)

と、すれば。

 

ジンの暴走を止め、ファーデンを倒す。

 

「片目がよく見えないから、同時に二人は相手にしたくないけど・・・仕方ないか」

(何があろうと3時までに帰るぞ!!)

さもなくば、可愛いヒスイがスイーツに飢えてしまう。

(待っててね!!ヒスイ!!)

 

 

 

 

一方その頃、赤い屋根の屋敷では。

 

「はぁーっ・・・」

 

柄にもない溜息・・・ジストのものだ。

なんとかしなきゃ!と、思っても、ヒスイを避けることぐらいしか手立てがなく。

(じいちゃんに相談したいけど・・・)

生憎、メノウは家にいない。

「とにかくヒスイに近付かないようにして・・・」

 

・・・と、言った傍から。

 

「うわっ!!」

キッチンで牛乳を飲んだ帰り、リビングでヒスイに遭遇してしまった。

(さっきまでいなかったのに・・・)

ちゃっかり、いる。

しかも、コハクを送り出したヒスイは今日もシャツ一枚で。

恐ろしいことに、下着未着用。

ジストにとってかなり酷な格好で絨毯に寝転がっていた。

「っ・・・やばっ・・・」

早くも下半身が辛い。性欲をコントロールできないのだ。

これ以上ヒスイを見ないよう目をつぶり、リビングを走り抜けようとするが・・・

ソファーに激突し、転ぶ。

 

 

そこでジストの意識は途切れ。

起き上った時には・・・別のジストになっていた。

 

 

恍惚とヒスイを見つめるジスト。

「ホントに小さいや・・・すげー可愛い・・・」

息子らしからぬ言葉を、自覚がないまま口にする。

ジストは、仰向けで熟睡しているヒスイの上で四つん這いになり。

ヒスイの耳の後ろあたりに顔を寄せ、匂いを深く吸い込んだ。

「いい匂い・・・」

クンクン・・・犬のように嗅いで。それから。

「ヒスイは・・・意地悪だ」

瞳を伏せ、ジストが呟く。

「こんなに美味しそうな匂いさせといて、知らんぷりしてる」

本格的にヒスイの上へと乗り掛かり、首筋を舐めて。

 

 

「誘ってるのは・・・そっちだろ」

 

 

「!?」(ジスト!?)

耳元の囁きに、ヒスイが目を覚ます・・・と同時に。

「え・・・ちょっ・・・」

両手で脚を広げられ。

(な・・・なに??)

事態がイマイチ把握できないヒスイ。

(何なの・・・この襲われてるっぽい体勢・・・)

襲われているのだ。

(夢???)

夢ではない。

(からかってるとか??)

ジストは超本気だ。

(あ!もしかして、えっちの練習!?)

それはそれで問題である。

 

この状況を何とか前向きに解釈しようとするヒスイだったが・・・

 

「あっ・・・ちょっ・・・!!」

素股にジーンズ越しの勃起を押し付けられ。

「んんっ・・・!!」

中に入れてと言わんばかりに、グリグリ、乱暴に擦りつけられる。

「いっ・・・いた・・・」

「は・・・ぁ・・・ヒス・・・」

欲情の息を吐き、ヒスイの両脚を掴んだまま、首筋にキスを重ねるジスト。

(あれ?ジストって、息子よね??)

今まで一度もこんな雰囲気になったことはない。※ジストの妄想除く。

息子の求愛行為に、ヒスイは混乱したまま。抵抗することさえ忘れ。

(なんでこうなるの?)

 

・・・と、その時だった。

 

 

「ジスト!」

 

 

リビングに響くスピネルの声。

「!?あ・・・」

ジストは我に返り、ヒスイから両手を離した。

「ごめ・・・ん・・・オレ・・・っ・・・」

ぽろぽろ・・・言ったと同時に大粒の涙をこぼす。

それを見られまいと顔を背け。

 

 

「さよならっ・・・!!」

 

 

ヒスイに別れを告げ、ジストはリビングを飛び出した。

「ジスト!?まっ・・・」

「ママ」

後を追おうとするヒスイをスピネルが呼び止める。

「大丈夫?」

するとヒスイは強く頷き。

「ジスト・・・泣いてた。こんなことしたかったわけじゃないと思う」と、言った。

スピネルは、それを聞いて安心したという風に笑って。

「後を追うなら・・・」

 

 

ちゃんと服を着てからじゃないと、またジストを困らせちゃうよ?

 

 

 
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