World Joker

53話 恋しい匂いU



 

 

 
グロッシュラー、コロシアムにて。

 

(これじゃあ、誰が敵だか味方だがわからないな)コハク、心の声。

決闘に割り込んだことで、コハク対ジン&ファーデンという構図になった。

ファーデンを剣で牽制しつつ、増殖した植物に挑む・・・ジンは多くの草木に守られていて、近付くこともできないのだ。

しかもそこから矢を放ってくるのだからタチが悪い。

神の力で作り出された大弓と矢。

自我を失っても、ジンの狙いは正確で。

片目がほとんど見えない状態では、死角から放たれているのと同じ・・・避けにくい。

矢をかわしたところで、今度はファーデンが拳を打ち込んでくるのだ。

カウンター攻撃を仕掛けようとすると、ジンの援護射撃に邪魔される。

思うように戦えない状態だ。

地面にはコハクを射抜こうとしたジンの矢が何本も刺さっていた。

 

「ジンく〜ん?これでも僕、君のお義父さんなんだけど?」

 

少しは気を遣って・・・くれないのはわかっているが、言ってみる。

ジンはほぼ全身が鎧に覆われ、立派な甲冑の騎士となっていた。つまり、自我は0に等しい。

(勝つためとはいえ、トパーズも義弟に酷いことするなぁ)

トパーズの外道っぷりを非難するが、たぶんそれは・・・遺伝だ。

「・・・それじゃあ、こっちも本気でやらせてもらおうかな」

コハクの目つきが変わる寸前。

 

 

「すまん!遅くなった!」

「・・・え?シトリン?」

 

 

熾天使シトリンの登場だ。

改造などしなくてもジンは強い!という抗議にはじまり、改造を解除する方法をトパーズから聞き出すのに一晩かかったという。

「ジンは私に任せろ!!」

シトリンは愛用の大鎌を構え。

「まずは草刈りだな」

 

 

シトリンの参戦により、ようやく1対1の戦いになった。

コハクは大剣を地面に突き立て待機させ。

トパーズと喧嘩をする時のように、ゴキゴキ・・・拳を鳴らした。

コハクの拳はすぐにファーデンの動きを捕らえたが・・・

(打たれ強いな)

何度殴り倒しても立ち上がってくるタフさに戦闘狂の真髄を見る。

「痛くないの?」と、コハクが聞くと。

「これぞ快感」と、ファーデン。

痛みを感じた時ほど、戦っていることを実感できる。そしてまた、他者に与える痛みも快感なのだと語る。

「貴様も同じ、殺し屋の目だ。わかるだろう?戦いこそが至上の快感なのだ」

それを聞いたコハクは苦笑しながら言った。

 

 

「僕はもう、戦いで得る快感は卒業したんだ」

 

 

そこで決着はついた。

 

コハクが、待機させていた剣を手に取ったのだ。

抜刀し、ファーデンを斬るまで一瞬だった。

・・・と言っても、斬ったのはファーデンの前髪だ。

きっちり眉の上で揃えてある。

今まで隠れていた両目がぱっちりと白昼の下に晒されていた。

それは“力”を誇示するのと同時にファーデンの戦意を喪失させる意図があった。

「・・・・・・」

断髪。戦場でこんな目に遭ったのは初めてで、ファーデンは言葉を失い。

「君の前髪が元の長さに戻ったらまたお相手するよ」

コハクにそう言われ、今回は潔く負けを認めた。

巻物状になった工場への地図を投げ渡すファーデン。

「何者だ・・・貴様」

「君が“狂戦士”なら、僕は“愛妻家”かな」

愛しい妻のことしか考えてないから、と、胸を張るコハク。

クハハ!!なぜかそれがファーデンにウケる。

 

次会うのを楽しみにしていると言い残し、ファーデンは去っていった。

 

 

 

(さて、シトリン達はどうしてるかな)

一段落したコハクは、神の使徒との戦いを買って出たシトリンの応援に向かった。

「やってる、やってる」

シトリンの“草刈り”は見事なものだった。

余計な緑を刈り取り、道を作り、ジンの真正面を確保し。

「ジン、覚悟!!」

至近距離で一度名前を呼んだ後、大鎌を捨て、ジンの顔を両手で挟み込み。

なんと、キスをした。大胆かつ濃厚なキスを。

「ん・・・シト・・・リン?」

愛する者のキスは、どういう場面でも効力を持っている。

シトリンのキスは、ジンの鎧を消し飛ばし、無秩序な植物の繁殖を止めた。

それから・・・

「ヌクぞ!ジン!!」

「は?シトリン!?」

お前を救うにはこれしかない!と。押し倒したジンに馬乗りになり、いきなりズボンを下ろすシトリン。

解除の方法として、トパーズに妙なことを吹き込まれたようだ。

勿論それはトパーズの嘘だが、シトリンは信じ込んでいて。

ジンのペニスを掴んで舐め上げた。

「んっ・・・!!シト・・・リ・・・」

 

 

「戦いのご褒美、か」苦笑いで眺めるコハク。

(トパーズにも義弟を思いやる気持ちはあるらしい)

 

 

 

「まあ、こっちはこっちでハッピーエンドかな」

 

 

 

一方、留守番組は・・・

 

ジストの逃げ場所は敷地内の公園と決まっている。

今も昔も変わらず大好きなブランコに腰掛け。

「オレ・・・ホントにもうダメだ」

思い詰めた顔で頭を抱えるジスト。

母親の体を求めた・・・未遂でも罪は重い。

「ヒスイは母ちゃんなのに・・・なんであんなに小さくて、可愛くて、いい匂いがするんだよぉ・・・」

苦しい。性の欲望とはこんなにも身を焦がすものなのか。

(スピネルが止めてくれなかったら・・・あのままヒスイを・・・)

「う・・・」

考えると自己嫌悪で吐きそうになる。その時。

 

「ジストっ!!」

 

シンプルなミニのワンピースを着たヒスイが現れた。

「!?ヒスイっ!!」

まさかヒスイが追ってくるとは思っていなかったので、ジストは驚き、ブランコから立ち上がった。

「来ちゃだめだ!!」

声を張り上げ、ヒスイを止める。

ヒスイを前に、また何をしでかすかわからない。

・・・というのに。

ジストの言葉を無視して、ヒスイが近付いてくる。

逃げようにも、足が動かない。

体はまだヒスイを欲しているのだ。

「だめ・・・オレに触らないで・・・」

必死にそうお願いしているにも関わらず。

ヒスイはジストに手を伸ばし、その火照った頬に触れた。

「っ・・・やめ・・・オレ、ちんちん勃っちゃうよ・・・ぅ言っているそばから勃起・・・恥ずかしくて泣きたくなる。

そんなジストを。

ヒスイは両手でぎゅっと抱きしめた。

「ヒ・・・スイ?何やって・・・」

「さよならなんていうから・・・いなくなっちゃうんじゃないかって、心配したよ」

「・・・・・・」

ジストが黙ったままでいると。ヒスイが見上げて。

「怒ってないよ?だから一緒に帰ろ?」

「オレのこと・・・怖くないの?無理矢理しちゃうかもしれないのに」

「怖くないよ。だってジストは私の子供だもん」

ジストよりずっと背が低いので、抱きしめるというより抱きついているようにしか見えないが。

ヒスイはジストの胸に顔を埋め、小さな声で言った。

 

 

「・・・トパーズにはこうやってしてあげられなかったから」

 

 

「ヒスイ・・・」

ふわっ・・・風に乗って香るヒスイ。

(いい匂いだ・・・)

嗅ぐとエッチしたくなる匂い。

(だけどこれは・・・)

 

 

 

オレを産んで育ててくれた、母ちゃんの匂い。

 

 

 

(だから・・・だめなんだ。オレ、頭悪いけど、そんくらいはわかる。ちゃんと我慢できなきゃ、ヒスイの傍にはいられない)

「帰ろ」と、ヒスイ。

「・・・あっ!オレっ!もうちょい落ち着いてから帰る!」

「そう?」

「うんっ!ほらっ!もうすぐ父ちゃん帰ってくるし!ヒスイは先に戻ってて!」

 

こうしてヒスイと別れ、ジストは公園に残った。

 

ふぅ。溜息ひとつ。

それから、屋敷と反対の方向に歩き出す・・・と。

「どこいくの?」

スピネルに声を掛けられた。

「オレ・・・家には帰らない」

 

 

離れることが、守ること。

 

 

それがジストの結論だった。

「・・・じゃあ、ボクん家くる?」と、スピネル。

我慢の達人がいるよ、と笑う。

「なんか悪ぃ・・・」バツが悪そうに頭を掻くジスト。

産まれてこのかた、スピネルにはお世話になりっぱなしの気がする。

「気にすることないよ」スピネルが言った。

 

ボク達、兄弟なんだから。

 

 

 
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