World Joker

56話 お仕置き希望。



 

 

 
「父ちゃん・・・っと、あれっ?じい・・・ちゃん??」

 

 

「お、よくわかったじゃん」

いい子、いい子と大人メノウがジストの頭を撫でた。

「父ちゃんとじいちゃん・・・喧嘩してんの??」

コハクがメノウを追い詰めた場所は、公園のトイレからかなり離れた未開発地区で、多少暴れても問題はなさそうなところだったが・・・遠慮のない戦いの跡があちこちで見られた。

ジストはたまたま神の力でこの場に辿り着いたに過ぎない。

しかしそこには仲違いしている風の二人がいて。

ジストは「喧嘩はやめて!」と、二人の間に割って入った。

「喧嘩っていうか・・・ねぇ」コハクが言葉を濁す。

「ちょっと遊んでただけだって!」メノウも笑って誤魔化した。

 

こうして、“工場への地図”を巡る諍いは一時中断となり。

 

「どうしてここへ?」と、ジストに尋ねるコハク。

「オレ・・・父ちゃんに言わなくちゃいけないことがあるんだ」

ジストは俯き、それから。

 

 

「ヒスイに・・・キスしちゃったんだ」

 

 

唇に〜の意味であることは、聞いている側のコハク・メノウに伝わって。まず。

 

ゴキィッ!!

 

ケジメの一発。ジストの脳天目掛けて、コハクの拳が振り下ろされた。

足元がふらつくほどのゲンコツ力・・・だが、次はなく。

「父ちゃんっ!もっと殴って!!」

更なるお仕置きを希望し、ジストが詰め寄る。

マゾ的発言だが、想いは切実で。

許せないのだ。自分で、自分が。

「・・・なさい」

 

 

「ヒスイのこと、好きになって、ごめんなさい」

 

 

 

ジストの声が悲しく響く。

「・・・・・・」

(好きになっちゃいけないなんてことはないけど・・・)

当然、ヒスイは譲れない。

ヒスイの唇を奪うのは、万死に値する罪だが。

(僕、ひょっとして正直者に弱いのかも・・・)

どのみちニ発目はメノウが止めることもわかっていた。

 

案の定。

 

「ここまで素直に謝られたんじゃ、いくらお前でも殴りにくいよなぁ」

コハクの肩に腕を回し、笑うメノウ。

「・・・・・・」(調子狂うなぁ・・・)

一方、ジストは俯いたまま。

「オレ、ヒスイの近くにいるとムラムラしちゃうんだ。だから・・・家出てく」

ジストなりに懸命に親子の関係を守ろうとしているのだ。

深刻さMAXである。

ところが、メノウは笑い出し。

「ま、そう思い詰めんなって!」

隣のコハクも・・・笑っている。

「こうなったらもうアレしかないよな」と、メノウ。

「ははは、そうですね。アレですね」

 

「じいちゃん?父ちゃん?」

 

笑われてしまったジストは、困惑気味に二人を見上げ。

すると、今度はコハクが。

「ジスト、ヒスイと一緒にいたい?」

本当のことを言ってごらん?優しい声でジストの本音を誘発する。

「・・・・・・」

一緒にいたいに決まっている。しかしそれを本当に正直に言ってしまって良いものか、ジストが迷っていると。

「ねぇ、ジスト。もし君が、ヒスイと一緒にいたいと願うなら・・・」

 

 

・・・“去勢”する?

 

 

 

 

その頃、赤い屋根の屋敷では。

 

いずこかへ行ったはずのヒスイが戻ってきていた。

「なによ・・・ジストのばか・・・」

童顔をしかめて呟く。

「お兄ちゃん、まだ帰ってないのかな」

いつもの習性で真っ先にコハクを探すが、一階には誰もいなかった。

アクアは遊びに行ったきり、まだ帰ってきていないようだ。

(あ・・・トパーズは帰ってるみたい)

二階へ行くと、トパーズの部屋の扉が少し開いていて。

ヒスイは誘い込まれるように、中へと足を踏み入れた。

(寝てる・・・?)

トパーズはベッドにいた。

ヒスイが寝顔を覗き込むと、すぐに手が伸びてきて。

「ひぁ・・・!?」

ベッドに・・・引き摺り込まれる。

「ちょっ・・・やめ・・・」

ヒスイをうつ伏せにして、その上に体を重ねるトパーズ。

「トパーズ?」

「・・・・・・」

ここまでしておいて、寝たフリ。呼んでも答えない。

それから少しして、ヒスイが口を開いた。

「・・・あの、ジストね、しばらく家に帰ってこないって」

その理由については語らぬまま。

黙って聞いているトパーズに。

 

 

「・・・寂しい?」

 

 

「別に」と、トパーズはヒスイの肩にキスをして。

「あ・・・こら・・・」

それから、首筋。背中。

ベッドの中なので、かなり際どい状況・・・だが。

女性器には触れないので、親子のスキンシップでギリギリ許せる範囲・・・ヒスイは大人しくしていた。

(素直じゃないんだから)

トパーズが、激務の中、極力外泊せず家に帰ってくるのは無論ヒスイに会いたいからだが、それだけではないのだ。

実の息子であるジストの顔が見たいから。

本人はそんな素振りを一切見せないが、皆知っている。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

(背中、あったかい・・・)

ヒスイの口から欠伸が出る。

ジストをこのままにはしておけない。そう、思うが。

(たくさんえっちしたから・・・なんだかすごく・・・眠い・・・)

連続えっちの心地良い疲労感が、今になってどっとくる。

トパーズとベッドを共にしてわずか数分。

ZZZzzz・・・

「・・・・・・」(この女・・・寝やがった・・・)

男に上に乗られていても眠れる・・・それがヒスイだ。

「ヒトのベッドで暢気に寝てられるのも・・・あと4年だ」

ヒスイの鼻を摘むトパーズ。

「んがっ・・・ほにぃ・・・」

ヒスイは少し苦しそうな顔をしたが、よほど眠いらしく、起きる気配すらない。

「・・・・・・」

耳の後ろに顔を寄せ、ヒスイの匂いを嗅ぐ。

世界で最も恋しい匂い。欲情する匂い。

「・・・・・・」

この匂いがジストにとっても同じ効果があるのだとしたら。

(あの馬鹿・・・)

邪魔なコハクが帰宅するまで、このままずっとヒスイに触れていたい気持ちはあれど。

不肖の息子を放ってはおけず、ベッドから出るトパーズ。

爆睡するヒスイの頬にキスを残し、部屋を後にした。

階段を下り、廊下を歩き、玄関へ。

屋敷を出てから門までは少し距離がある。

門の前にはポストが設置されていて。

「・・・・・・」

トパーズはそこで足を止めた。

一通の封書が届いていることに気付いたのだ。

差出人は・・・アンデット商会代表取締役、カルセドニー。

封を開けると、中には立派なカードが入っていた。

 

 

“幹部社員及びご家族の皆様へ。”

 

 

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