World Joker

58話 愛があるから



 

 

 
緑の迷路を進む三人。

 

「・・・・・・」

アクアのガードが固く、トパーズは今だヒスイと接触できずにいた。

(・・・間違いない)

アクアは、コハクに買収されている。

つまり、現時点では敵ということだ。

「2倍でどうだ」

逆に買収してやるつもりで、アクアを呼び付け、直接交渉を始めるトパーズ。

懲りずに、ヒスイと二人きりになりたいと思っていた。

何としてもアクアを追い返したいのが本音だ。

「だ〜め。だって、パパがぁ〜“トパーズが提示してきた額の倍”くれるって言ったも〜ん」

「・・・・・・」(先手を打たれたか)

「アクアぁ〜、欲しいものいっぱいあるしぃ」

物欲に忠実なアクア。それならば、と、トパーズの口元が歪む。

「・・・アイツを裏切れという訳じゃない」

ほんの少し目をつぶる・・・そう、“昼寝”をするだけでいい。

「妥協案だが、報酬は弾む」と、妹アクアを唆す兄トパーズ・・・

「アイツには黙っていればいい。無論、口裏は合わせる」

「トパ兄〜、マジ〜?」

「悪くない話だろう」

「かもね〜」

双方から報酬を得る・・・確かに儲け話だ。

ニヤリ。ニヤリ。互いの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。

腹黒兄妹の交渉成立。

 

 

・・・かと、思いきや。

 

 

「ひぁ・・・っ!?」ヒスイの声だ。

生垣から突如飛び出した、小型の魔獣。

野兎のようで見た目は可愛いが、鋭い爪と牙を隠し持っていた。

それがヒスイに襲いかかったのだ。

「こっち来い、馬鹿」

寸前のところでトパーズがヒスイを抱き寄せ、魔獣を蹴り飛ばした。すると。

パアンッ!!蹴られた魔獣は破裂し。

「・・・・・・」

(何だコイツ、気配が全くない)

しかも一匹では済まず、わらわらと出現・・・更に空からは小鳥が弾丸のごときスピードで一行を狙ってくる。

もはやこれはレジャーとは言えず。

 

 

「予定変更だ」

 

 

トパーズがアクアの頭上に手を翳した。

途端にムクムク・・・アクアが成長する。

身長はあっという間にヒスイを超え、シトリンに勝らずとも劣らずの立派なボディと化した。

「わぁ〜、アクアおっきくなったぁ〜・・・」

そして額には神の隷属を示す紋。

一時的にではあるが、アクアに“力”を貸し与え、神の戦士として仕立て上げたのだ。

「守れ」と、アクアにヒスイを託し。

「できるな?」トパーズが念を押す。

「もち」

アクアは片手をくびれた腰に当て、自信満々に笑った。

それから、一流の格闘家をも凌ぐ動きでヒスイに近付く敵を撃破していった・・・のだが。

 

 

「ねぇ、これ・・・おいしいよ」

「ママ・・・何してんのぉ〜・・・」

 

 

なんとヒスイが、破裂し散った魔獣の破片を食べている。

「砂糖菓子だよ、これ」と、口をもぐもぐさせながら言った。

拾い食いの新発見。気配のない魔獣は、砂糖で出来ていたのだ。

「・・・・・・」

ほどなくして・・・ぐわしっ!トパーズがヒスイの頭を掴んだ。

「ちょっ・・・なにす・・・」

じたばた、ヒスイが暴れる。

「この馬鹿、何でも口に入れるな。赤ん坊じゃあるまいし」と、トパーズ。

叱りながらも楽しそうにしているのは、愛があるから、だ。

「・・・ホラ、行くぞ」

「あ、うん」

トパーズの後に続くヒスイ。

(もしかしたらこれも・・・)

道すがら。こっそり、生垣の葉を食べてみる。

もしゃ、もしゃ・・・

「・・・・・・」

残念ながら、それは砂糖菓子ではなく本物の葉だった。

(うへっ・・・にがぁ〜・・・)

 

 

 

同じ頃。

 

ジストにより“工場への地図”が、オニキスにより“招待状”がもたらされ。

モルダバイトに集まったメンバーは、それぞれ行動を開始していた。

コハク、ジストは四神狩りへ。

スピネル、フェンネル、ジル、カーネリアンは工場へ。

オニキス、シトリン、サルファー、タンジェはシュガーランドへ向かっていた。

 

「サルファー?どうかされましたの?」

 

巨大迷路を進みながら、婚約者に声をかけるタンジェ。

「・・・・・・」

サルファーは、見るからに機嫌が悪そうだった。

「ジストが・・・」

「ジスト様が?」

 

 

「あそこまでバカだと思わなかった」

 

 

 

以下、回想。

 

モルダバイト城。離宮バルコニー・・・そこにはジストとサルファーがいた。

「あ!お前、エロ本いる?」唐突にそんなことを言い出すジスト。

「何だよ、急に」と、サルファー。正直エロ本に興味はない。

「オレさ、去勢することにしたんだっ!だからもう必要ないし!」

ジストは、宝物だったエロ関連グッズをサルファーに託そうと考えたのだった。

「ハァ?去勢?何言ってんだよ、お前」

サルファーに訝しげな視線を向けられる中、ジストは言った。

 

 

「オレ・・・ヒスイのこと好きなんだ」

 

 

「って、驚かないの?」

ジストの方が驚いた顔でサルファーを見た。

「いつかそうなると思ってた」

サルファーは両腕を組み、吐き捨てるように言った。

「あんな女のどこがいいんだよ」

実の母親に恋愛感情を抱くこと自体が理解不能だ。

「全部」

ジストは明るい口調でそう答えてから・・・

「ヒスイと一緒にいるとさ、えっちしたくなっちゃうんだ」

だから去勢、と。

「去勢なんかしなくたっていいだろ!?男として終わりだぞ!?あの女のためになんでお前がそんな・・・」

「ヒスイは悪くないっ!オレが勝手に好きになっただけだっ!!」

ジストはムキになって否定した。

対するサルファーはジストの胸ぐらを掴んで。

 

 

「お前は昔からそうだ!!」

 

 

ヒスイを庇ってばかり。その割に、報われない。

「いい加減、目、覚ませ!!」

「!!!」

ガッ!!久々にサルファーのパンチを食らうジスト。

「・・・ってぇ!!何すんだよっ!!」

「去勢なんかしなくても、お前があの女に手出しそうになったら、僕がブン殴って止めてやるよ!!」

「・・・っ!!止められるもんなら止めてみろよっ!!」

売り言葉に買い言葉で、ジストが言い返す。

「止めてやるさ!」

 

 

兄弟だからな!!

 

 

 

 

・・・そして現在。四神狩りチーム、コハク&ジスト。

 

「どうしたの?その傷」

口の端が少し切れていることをコハクに指摘され、ジストは慌てた。

「えっ!?えっと・・・これはそのっ・・・」

去勢の件で兄弟喧嘩したとは言いにくく、言葉に詰まる。すると。

「サルファーと喧嘩した?」

「なんでわかんのっ!?」

「これでも君達の親だからね」

と、コハクは言ったが、自分を含め、ジストを殴るのはトパーズかサルファーぐらいだ。
モルダバイトに集まったメンバーを考えれば、簡単に見抜ける。

「・・・去勢するって言ったら殴られた」

観念したジストは正直に話した。

「ははは!サルファーらしいね」

そう言って、コハクは笑い。

「それでも、決心は揺るがない?」と、ジストに尋ねた。

ジストが深く頷くと、コハクはジストの頭を撫で。

 

 

「心配しなくていいよ。悪いようにはしない」

 

 

 
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