World Joker

66話 主従愛?


 

 

 

それより少し前・・・

 

グロッシュラーで使命を果たせなかったカーネリアン一行は、スファレライトに向かっていた。

王立図書博物館・・・目的地はそこだ。

「手ぶらじゃ戻れない〜」と発言したスピネルは、「事前に防げないのなら、万全の準備をしよう」と、アンデット兵に有効な戦術を持ち帰るべく行動を起こしたのだ。

王立図書博物館は、和平の証として各国の国宝が納められているだけでなく、他ではお目にかかれない珍しい書物や禁書を集めた場所でもある。

「いい案だとは思うけどさ、どうすんのさ」と、腕組みするカーネリアン。

「王立図書博物館には王族しか入れないんだよ?」

「俺、王族だぜ?」

名乗りをあげたのはグロッシュラーの第5王子、ジルコンだ。

「スピネルだってそうだろ」

現在国を治める王と王妃以外は、特殊な遺伝子検査によって王族かどうか判断されるのだという。

「世間的に公表されてない王族って、結構いるんだぜ。理由は様々だけどな」

正統なモルダバイトの血を継ぐスピネルは全く問題ない・・・ジルはそう説明しながら、相変わらず慣れ慣れしくスピネルの肩を抱いた。

「・・・・・・」

その様を、フェンネルが睨む。毎度の光景だ。

 

王立図書博物館では、王族一名につき、臣下一名の同行が許されている。

スピネル、ジル、それぞれに臣下一名。人数的には丁度良かった。

 

王立図書博物館、第二待合室にて。

 

「気ぃ遣ってんのかよ?」

フェンネルの背後に立ち、耳打ちするジル。

グロッシュラーとモルダバイトでは通される部屋も違うのだ。

フェンネル自らジルの臣下役を申し出て、今に至っていた。

「・・・・・・」

フェンネルはジルを一瞥。その視線はどこまでも冷たい・・・が。

「もしかして、嫉妬してるとか?」

ジルは気にも留めずに喋り続けた。

「男同士だと、セックスはケツの穴だろ。ソレ感じんのかよ。俺、男とはヤッたことねーんだよな」と、真面目顔だ。

「・・・・・・」

フェンネルにしてみれば、耳触りで仕方ない。

「・・・丁度良い機会なので言っておきますが、私は貴方が嫌いです」

「いいぜ?それでも」臆面もなくジルか答える。

「なんつーか、俺、マゾっ気ない筈なんだけど、お前になじられると、こーゾクゾクくるっていうかさー」

「意味がわかりません」

魔剣の化身であるフェンネルに、ジルの性癖など理解できるはずもなく。

ツンと横を向く、と。

「結構美人なのに、もったいねーよな。お前が女だったらスピネルだってさぁー」

「・・・・・・」

女、女、とうるさくジルに言われ、口を噤むフェンネル。

男としてスピネルの傍にいることを選んだのには、理由があった。

(わたしは・・・逃げた)

 

 

女として、あの方と同じ土俵に立つのが怖かった。

男になれば、煩わしい感情に振り回されることもないと思ったのに。

どんな姿になろうとも、抱く想いは変わらない。

 

 

(スピネル様・・・)

 

 

 

 

先に入館の許されたスピネルとカーネリアン。

「かー・・・こりゃ何だい。アタシゃ眩暈がするよ」

人間界に存在する魔道書・・・その数は決して多くはないが、各国の王家が運営するだけあり、貴重な文献が揃っている。

難解な文字の羅列にカーネリアンは早くもギブアップ。

閲覧用の机に分厚い本をどっさり積み、読み耽っているスピネルを見て、「アンタやっぱりヒスイとオニキスの子だよ」と、笑う。

「何やってんだい?」

そう問われれば、読書に決まっているが。

「アンデット兵を一掃できる呪文を構成するんだ。それぞれの魔道書から、アンデットに有効とされる呪文を拾ってね」

簡単に言うが、かなりの高等技術だ。

「アンタ凄いねぇ・・・」

「おじいちゃんに習ったんだ」

「その呪文をアンタが使うってのかい?」

「ううん。これだけの大呪文だと、誰でも使いこなせる訳じゃないから、ボクより基礎魔法力の高い誰かに頼むつもり」

「アンタじゃだめなのかい?」

「フェンネルの力を借りれば、できないことはないけど」

あまりフェンネルに無理をさせたくないから、とスピネル。

「兄貴とおじいちゃんは完全に向こう側だし。頼むとしたら、パパか、サルファーか・・・ママだね」

「ヒスイ・・・ねぇ」

「うん。ママは潜在的な魔力があるんだ。記憶力もいいしね。パパは主戦力として最前線に出ることになると思うし。サルファーは魔法兵団を率いることになってる。頼むとしたらやっぱりママかな」

そんな話をしながら、ノートに呪文を書きつけてゆくスピネル・・・2時間ほどかけてページの半分を埋めたところで。

「・・・スピネル、あんたさ、国を継ぐ気はないのかい?」と、カーネリアン。

「ボクが?」手を止め、スピネルが顔を上げた。

「余計なことかもしれないけどさ、オニキスの息子なら・・・」

「そうだね」

スピネルは瞳を伏せ、静かに微笑んだ。

 

 

『オニキスが、それを望むなら』

 

 

 

 

そして・・・再びこちら。

 

「大丈夫か?母上」

ぺしゃんと潰れたままのヒスイをシトリンが抱き起こす、が。

「・・・・・・」(うぬぅ・・・)

愛液でびっしょり濡れたヒスイの内腿・・・同性とはいえ目のやり場に困る。

(いくら愛しているからといって、やりすぎではないか?)

 

ここで、シトリンの堪忍袋の緒が切れた。

 

「母上はしばらく返さんぞ!!」

突然そう言い放ち、ヒスイを担ぎ上げる・・・その姿は勇ましく、男顔負けだ。

「ヒスイ!」

連れていかれてなるものかと、コハクが手を伸ばす。

「お兄ちゃん!」

ヒスイもコハクへ向け、手を伸ばした。

「うぬっ?」

(これでは私が悪人のようではないか・・・?)

愛し合う二人を引き裂く構図・・・しかし、引くに引けず。

 

 

「わ・・・ちょ・・・シトリン!?」

 

 

シトリンはヒスイを連れ、白い森の奥へと走った。

後を追おうとするコハクを引き留めるオニキスの声も、もう聞こえない。

シトリンの腕力をもってすれば、ヒスイの体は軽く、いくらでも担いでいられた。

ヒスイを担いだまま、勢いに任せて走り。

「降ろして〜」と、ヒスイが足をじたばたさせたところで、シトリンは動きを止めた。

「母上は怒っていないのか?」

「何を?」

「あ、あんなことをされたのに」思い出し、言葉を濁すシトリン。

「あ・・・うん。すごく恥ずかしかったけど、お兄ちゃん、いつもあんな感じだし」

トパーズにしてもそうだと、暢気に話すヒスイ。

「・・・・・・」(ヤられ慣れているのか・・・)

本人に自覚がないのが怖い。

「・・・なあ、母上。しばらく城で一緒に暮さないか?」

ヒスイのためを思っての誘い、だが。

 

 

「いい。お兄ちゃんのごはんが一番美味しいし」

 

 

「・・・・・・」(いくら誘っても無駄か・・・)

コハクにしっかりと餌付けされているのだ。

「・・・無理矢理連れてきて済まなかったな」

ヒスイを地面に立たせ、シトリンは謝罪した。

「ん?何だ?」

ヒスイがじっと見上げている。

その口から、「さっきはありがと」という言葉が出て。

「あの時シトリンが止めてくれなかったら、もっと恥ずかしいことになってたかも」と、照れた顔で笑う。

「いや!当然のことをしたまでだ!」と、シトリン。

こんな時、デレッとしてしまうのは、父方の遺伝だ。

ウホン!咳払いで誤魔化し。

「では戻るか」

「ん・・・って、ここどこ??」

 

 

 

 

雪は降り続いていた。

 

「おおっ!母上!!アレを見ろ!!」

視界は悪いが、少し先に巨大かき氷の山が見える。抹茶練乳白玉添えだ。

「行ってみよう!母上!!」

テンションの上がったシトリンは、ヒスイの手を取り更に前進・・・すると。

「ね、シトリン。あそこにいるのサルファーとタンジェじゃない?」

そこはまだ白い森の中。

確かに、金髪美少年と猫耳メガネっ子の姿があった。

 

 

「あれ?でもなんか様子が・・・」

 

 

 
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