World Joker

74話 バスルームにて。



 

 

 
新月前日。モルダバイト城。

 

そこには戦いに参加する主要メンバーが集合していた。

シトリン、ジン、オニキス、ヒスイ、コハク、ジスト、サルファー、タンジェ、スピネル、ジル、フェンネル、カーネリアン、セレナイト他・・・

これが最後の打ち合わせとなる。

決戦の場所はモルダバイト未開発地区。そこで無数の転送魔法陣が発見された。

事前に潰すことも可能だが、グロッシュラー側に身を置くメノウが“魔女の遺言”に従っているのだとしたら、これは避けられない戦いなのだと、皆が理解していた。

「ジンと二人で話し合ったんだが・・・」と、オニキス。

現王、前王である二人は、国民を想うがゆえの大胆な提案をした。

 

 

「国民を眠らせる・・・だと?」

 

 

驚嘆する、シトリン。

パニックを防ぐというのが主な目的であるが、新月の戦いを国民に悟らせない・・・前代未聞の隠蔽戦争にしようというのだ。

オニキスは冷静な口調で話を続けた。

「ああ、戦いの場となる未開発地区周辺一帯に限るが・・・」

「それでもかなりの範囲だろ?」と、サルファー。隣でスピネルも頷く。

「魔法で眠らせるつもりなら、相当な魔力を消費することになるよね?」

一族で一、二を争う魔力を持つ、メノウとトパーズが不在の今、誰がそんな大魔法を行使するのかという話になる。

「そのことなんだけどね」と、ジン。

「植物性の睡眠誘発成分を粉末状にしたものを使おうと思うんだ。それだったら魔力を消費することもないし・・・」

“眠りの粉”の準備はできている。

「上空から撒くのが、最も効率がいい」

オニキスはジンから話を引き継ぎ言った。

 

 

「コハク、お前に頼みたい」

 

 

「でもそんじゃ、戦力が・・・」口を挟んだのはカーネリアンだ。

総合的な戦闘力でいったら、コハクの右に出る者はいない。

主戦力が抜ける穴は大きかった。

そこで総帥セレナイトが。

「空を飛べる者は他にもいる。うちから何名か出そう」

「いや、気持ちは有り難いが・・・敵が裏をかいてくるとも限らん」

他の場所に敵が送り込まれた場合を考えると、一か所に戦力を集めるのは得策ではない。かといって、グロッシュラー軍に対し、圧倒的に人数が劣っている状態・・・ある程度戦力をまとめるのも必須で。そう分散させられないのが現状だ。

「コハクをフリーにすれば、どんな状況にも対応できる」

仮に他から攻め込まれても、単独で撃破可能。それだけの能力を備えている、と、コハクを見るオニキスだったが・・・

 

 

「・・・おい、話を聞け」

 

 

当のコハクは、ヒスイをしっかりと腕に抱き、イチャイチャ・・・

「猫耳フードなんてどうかな?」

新月の戦いで着る服や髪型について、ヒスイにお伺いをたてている。

「おい・・・」

「色は白。下着と揃えて・・・」

「おい、話を・・・」

「聞いてますよ?僕は構いませんけど?」

「ったく、しょうがない奴だねぇ」と、笑うのはカーネリアンだ。

「アンタはさ、その気になりゃ世界だってひっくり返せるだろうから、国同士の小競り合いなんかに興味ないかもしれないけど、しっかり頼むよ?」

するとコハクは苦笑いで、興味がないなんてことはない、と答え。

 

「僕等もモルダバイトの住人ですからね」

 

 

 

 

その頃・・・

 

メノウは理事長室にいた。

「よっ!」「ジジイか」

トパーズの短い休憩時間に合わせてやってきたのだ。

こちらも最後の打ち合わせとなる。

「グロッシュラー側の首尾は万全」と、トパーズに報告するメノウ。

明日の夜が待ち遠しいと語る。その姿はどこか楽しげで。

“魔女の遺言”など気にも留めていないように見える。

「お前にさ、頼みたいことあるんだよな」

メノウはトパーズの返答を待たずに話を続けた。

「モルダバイト側の動きを予測すると、だ。シトリンが単独で突っ込んでくる」

戦の被害が広がる前に、総指揮官を潰しにくるだろ、と。

メノウの推理は、おおよそ当たっている。

シトリンは、グロッシュラーの王を標的としているのだ。

「止められる?」

シトリンの相手として、メノウはトパーズを指名した。

「容易い」と、トパーズは答えた。が、無論ただでは動かない。

「条件がある」

「ん、言ってみ?次は何が欲しい?」

度々、ヒスイグッズが取引に使われてきたのだ。

メノウもそれなりの準備はしていた。

ところが、トパーズが出した条件は・・・

 

 

「今夜、帰ってくるな」

 

 

「あー・・・それって、ヒスイと二人きりで一晩過ごすってことだよな」

トパーズが何もしない訳がない。それはわかっているが・・・

「んー・・・ま、いっか。やりすぎんなよ?」

 

 

 

それから8時間後・・・

 

こちら、眼鏡スーツ姿のトパーズ。

相変わらず仕事の山で。予定より帰りが遅れてしまった。

今夜はヒスイと二人きりの夜だというのに。途中から雨が降り出して。

散々・・・かと思いきや。

「クク・・・丁度いい」

トパーズは企みあり気に笑い、雨の中、傘も差さずに歩いた。

アンデット商会の社宅に到着する頃には、水も滴るイイ男の一丁上がりである。

「あ、おかえり〜。わ!すごい濡れてるよ!?」

取引された“今夜”を知らないヒスイが駆け寄る。

「早くお風呂はいっ・・・え!?ちょっ・・・」

ただいまも言わずに、濡れた体でヒスイを抱きしめるトパーズ・・・ヒスイにも同じように雨水を滲み込ませ、「お前もだ」と、道連れにしてバスルームへと向かう。

「何言ってるの!?一緒に入れるわけないじゃない」

羽交い締めで引き摺られながら、ヒスイが言うと。

トパーズはこう切り返した。

 

 

「“親子”でフロに入って何が悪い?」

 

 

「え・・・?」(親・・・子?)

トパーズの口から出た言葉は、ヒスイにとっては不意打ちで。

「あ・・・うん」嬉しくも、困惑。

いつも親子関係を否定されてばかりだというのに、今夜に限ってそう言うのだ。

無論、トパーズの手段を選ばない作戦なのだが。

その歪んだ口元に、ヒスイは気付ぬまま、洗面所兼脱衣所に連れ込まれてしまった。

「そ・・・うよね。親子だし」と、ヒスイ。

確かに父親のメノウとは、何度も入浴している。

娘のシトリンとも、先日一緒に入浴したばかりだ。

(シトリンが良くて、トパーズがダメっていうのは不公平よね??双子なんだし・・・)

段々と、断る方が不自然に思えてくる。

 

 

「いいよ。一緒に入ろ」



 

そう言って、ヒスイは潔く湿った服を脱いだ・・・が。

全裸になってからも、トパーズに背を向けていた。

「・・・・・・」

自分が脱ぐ分にはいいが、背後でトパーズも脱いでいると思うとなぜか落ち着かない。

過去の苦い思い出を忘れた訳ではないのだ。

(理論的には間違ってないと思うんだけど・・・変ね)

イケナイ事をしているような気がする。

バサッ!バサッ!ランドリーボックスに迷いなく投げ込まれる服。

その度に、ビクッとするヒスイ。

(やっぱりなんか・・・おかしいような・・・)

妙なプレッシャーを感じる・・・と、そこに浮かぶ名案。

(そうよっ!こんな時こそ水着じゃない!?)

トパーズに背を向けたまま、カニ歩きするヒスイ。しかし。

「どこへ行く」

トパーズに呼び止められ、またビクッとする。

「みっ・・・水着きてこようと思って・・・あっ!トパーズの分もちゃんと用意するから・・・」

ヒスイはあさっての方向を見て言った。

「水着でフロに入れ、と?今日も馬鹿だな、お前は」

ヒスイ的には名案だったのだが、トパーズに一蹴されてしまった。

 そして・・・

 

 

「こっちを見ろ」

 

 

トパーズの声が鋭く響く。

「・・・・・・」

ヒスイは相変わらずトパーズに背を向けたままじっとしていた。

その様子を見て、意地悪な笑みを浮かべるトパーズ。

「見るのが怖いか?理由はなんだ?」と、背後からヒスイを追い詰める。

「言えないなら、かわりに言ってやる。お前は、オレの体が今どうなってるか、わかってる」

振り向いて、勃起したペニスを目にするのが怖いのだろうと指摘した。

「べつにそんな・・・」

とは言ったものの。図星だった。

勃起ペニス・・・つまり体を求められているということで。

それを見るということは、愛の告白を受けるに等しいのだ。

「オレは父上のように甘くはない」

「やっ・・・なに・・・」

来い、と。トパーズはヒスイの腕を引き、バスルームへ押し込んだ。

そこで、正面から向き合う。

「っ・・・!!」

トパーズのペニスは反り返っていて。

ヒスイはすぐに顔を背けた。が、トパーズに顎を掴まれ、無理矢理前を向かされる・・・

「お前にしか勃たないと言った筈だ。しっかり見とけ」

「ひぁ・・・」

そのまま、バスルームの壁に背中を押しつけられるヒスイ。

両手で頬を包まれ・・・というより挟まれ。

そこに、ちゅっ。とキス。

ちゅっ。ちゅっ。角度を変えたキスが続く。

「ト・・・トパ・・・ちょ・・・」

頬に始まり、鼻先、額、瞼・・・意図的に唇を避けてキスをしてくるのだ。

ヒスイは怒るに怒れず。

「ねぇ・・・なんか・・・お風呂でこういうことするの・・・変じゃない???」と、空気の読めない発言をした。

 

 

「・・・大人しくしてろ。今夜はこれで勘弁してやる」

 

 

トパーズはそう言いながら、ヒスイの目元にキスをして。

「・・・が、いつか挿れるぞ」

「え?挿れ・・・?」

一時、何を言われたのか理解できなかったが、この状況ではさすがにヒスイも気付き、慌てて言った。

「だめっ!!」

「だめじゃない。挿れる」

何度諌めても、トパーズは引かず。

「だめだってばぁ・・・っ!!」

牙を剥いて怒り出したヒスイの頬に、再び唇を寄せた。

「ん・・・ッ!!」

ちゅっ。ちゅっ。と、キスをしては。

ヒスイに言い聞かせるように、耳元で挿入を囁くトパーズ。

「挿れて・・・擦って・・・オレのをたっぷり中に出してやる。覚悟しとけ」と。

強気な囁きと、熱のこもったキスを繰り返した。

 

 

「・・・っぁ・・・!!」

 

 

言葉で犯される、体。

触れられてもいないのに、膣口がチクンと痛む。

「やだ・・・やめ・・・」

“お兄ちゃん”と、コハクを呼ぶ寸前だ。

「・・・・・・」

一方トパーズも苦しかった。

どんなことがあっても、一線を越えない理性を保ち続けなければならないのだ。

(あと4年だ・・・)

そうやって自身を宥めても、キスの合間に、度々ヒスイの陰部へ視線が落ちる。

 

 

ヒスイの粘膜に、触れたい。

グチャグチャになるまで指でいじって。

喘がせて。腰を振らせて。

ペニスを欲しがらせたい。

 

 

けれど、現実はそうもいかず。

今は・・・諦めるしかない。

粘膜の代わりに、ヒスイの髪に指を絡ませ、首筋に口付けて。

「あとは・・・本番にとっておく」

 

 

 
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