World Joker

86話 日曜日のラブエッチU


 

 

 

「オニキス、いる?」

 

国境の家に現れた白衣のナース。ヒスイだ。

「ママ、いらっしゃい」

朗らかな笑顔で迎えるスピネル。ナース化したヒスイにも動じない。

聞かなくとも、理由がわかるからだ。

「オニキスはおじいちゃんと一緒にエルフの里に行ったよ」

「エルフの里?」

「うん」

例の魔石により、魔力を抽出され続けているエルフ族。

悪影響が出ていないか調査に向かったのだ。

結果、個体から採取される魔力はごく微量で、健康面も問題なく、当面このまま様子を見ることにした。

実は・・・オニキスはもう帰宅していて。シャワーを浴びているのだが。

スピネルがそこまで話をする前に。

「ちょっとシャワー貸して」と、ヒスイ。

いそいそと浴室へと向かう。

「あ、ママ・・・まあ、いっか」

 

 

 

脱衣所にて。

 

「何なのよ、あのヒト・・・夜も眠れなかったとか言って、お兄ちゃんにちょっかい出して・・・」

プンプン怒りながら、ナース服を脱ぐ。
パンツは・・・穿いてくるのを忘れてしまった。

と、そこで。

浴室の扉が内側から開いた。

「あれ?オニキス、帰ってたの」

「・・・ああ」

裸ではち合わせ。きょとんとした顔のヒスイ。オニキスは努めて冷静に。

「・・・使うか?」

「うん」

何をどう隠すでもなく。裸のまますれ違う二人。

パタン。浴室の扉が閉まった。

「はぁ・・・」

壁に手をつき、同時に溜息のオニキス。

よく堪えた、と思う。

セックス直後のヒスイからは、女の生々しい匂いがして。
ペニスが敏感にそれを感じとっていた。
視線を落とせば、見事な勃起。

ヒスイに見られずに済んだのが、せめてもの救い・・・と、思いきや。

 

 

「オニキス、あとで相談が・・・あ」

 

 

「・・・・・・」

浴室に引っ込んだ筈のヒスイが再び扉を開けた。不意打ちもいいところだ。

オニキスの勃起を目にしたヒスイは一言。

「なんか・・・ごめん」

オニキスもバツが悪いことこの上なく。

「いや・・・すまん」

互いに謝り、その場を収めた。

 

 

 

シャワーを済ませたヒスイは、オープンキッチンのカウンターテーブルに突っ伏した。
壁も家具も白を基調としているため、室内はとても明るい。
窓から爽やかな風が吹き込み、乾きかけた銀髪の間を抜けてゆく。
隣にはオニキスが座っているが、何を話すでもなく。
静かで、穏やかな空間。

「ふぁ・・・気持ちいい風〜・・・」

真昼の静寂にヒスイが浸っていると・・・

「はい、ママ」

スピネルが、ミントティーを振る舞った。

(スピネルもなかなかいいお茶淹れるのよね。お兄ちゃんには敵わないけど)

暢気にそんなことを考えるヒスイ。男二人を前に、ノーパンでもへっちゃらだ。

「相談とは何だ、ヒスイ」と、ここでオニキスが口を開いた。

「うん、あのね・・・」

ヒスイは、一口ミントティーを喉に流し込んでから。

 

 

「お兄ちゃんって、男のヒトにモテると思わない?」

 

 

「・・・・・・」(この女は、人を笑わせに来ているのか?)

クスクス!すでにスピネルは笑っている。

「それはちょっと大袈裟だよ、ママ。でも、モテそうだよね。パパ、顔だけは綺麗だから」

「でしょっ!?」

スピネルの言葉に煽られ、席を立つヒスイ。モテモテ疑惑に拍車がかかる。

「確かに一理あるかもしれんが・・・」

オニキスは笑いを堪えながら言った。
天使信仰の厚い地域では、熾天使を崇拝していて。
コハクが修道士に絶大な人気を誇っていることを知っているのだ。
※番外編『深爪の男』参照。

「やっぱりそうよね」

ヒスイが両手で頭を抱え、しゃがみ込んだ。

「今、お兄ちゃんに付き纏ってるヒトを追い払いたいんだけど、何かいい方法ないかな」
と、いつになく真剣に悩んでいる。

その時。
 

「ヒスイぃぃぃ〜!!ごめんね!!」
 

国境の家に、コハクが乱入してきた。
診察室からヒスイの姿が消えたことに気付き、追いかけてきたのだ。

「お兄ちゃんっ!!」

コハクの迎えに、ヒスイは喜んだ・・・が。

「お兄ちゃん・・・うしろ」
「ん?」

ヒスイに促され、後ろを見るコハク。

「・・・君、まだ生きてたの?」

なんとコハクは、ファーデンまで引き連れてきていた。

「クハハ!」

ファーデンは血だるま状態で・・・パッと見、瀕死だが、なぜか本人は笑っている。

「どこだ?ここは?」と、白亜の室内を見回し。

「モルダバイト前王!!こんな処に隠れていたとはな・・・いいぞ・・・クハハ!!」

そう言って笑うファーデンは、王違いをしてから、モルダバイトについて少なからず学習したらしく、オニキスをオニキスとひと目で見抜いた。
血しぶきをあげながら、愉快!愉快!と、大笑い。
その姿は、かなりアブナイ。
そのうえ、興味がコハクからオニキスに移ったらしく。

「不老不死の王よ・・・貴様に焦がれて幾星霜・・・」

グロッシュラー第1王子ファーデン。
口上がいちいち紛らわしい男だ。

「オニキスに焦がれ・・・!?ちょっ・・・二股かける気!?」

ヒスイがまたトンチンカンな解釈をして、叫ぶ。
国境の家は、一気に騒がしくなった。

「はぁ・・・」額に手をあて、溜息。
 

こうしてオニキスは、平和とは程遠い日曜日を送る羽目になるのだった。
 

その頃。
アンデット商会の一味はというと。
代表取締役カルセドニー、営業部長ウィゼライト、ダメ平社員テルリウム。
上記3名が飲み屋から出てきたところだった。
ヒスイと別れて以来、どこか落ち込んだ様子のカルセドニーを励まそうと、飲みに誘ったウィゼ。
カルセドニーの実年齢を知らず、酒を勧め・・・カルセドニーはあっさり潰れてしまった。
仕方がないので、居候のテルルを呼び出し、カルセドニーの介抱にあたらせたのだった。

「テメェは壊滅的に使えねぇ奴なんだから、こんな時ぐらい役に立ちやがれ!!」
「まったく・・・うるさい女だのう」

ウィゼに怒鳴り散らされながら、テルルはカルセドニーを背負って歩いた。

「丁重に運べよ!ウチの大事な社長だ!」

と、テルルを〜〜咤する一方で。無意識に唇を舐めるウィゼ。

(社長・・・寝顔もソソるぜ)

淫欲を司る悪魔であるテルルはさすがに目ざとく。

「お主、欲情しておるな。そんなにこの男と寝たいか」
「はっ!バカなこと言ってんじゃねぇよ」

カルセドニーに雇われるまで、ウィゼは傭兵業をしていた。

(傭兵仲間のムサイ男としか寝たことねぇし)

「・・・こんな育ちの良さそうな坊ちゃんに、セックスしようぜ、なんて言えるわけねぇだろが」
 

『私と一緒に来ませんか?楽な仕事ではないと思いますが、少なくとも命の心配をする必要はなくなる筈です』
 

カルセドニーにそう声をかけられ、入社を決めた。

「バリバリの傭兵だったあたしが、スーツ着て、毎日決まった時間に出社して、部下の面倒みて・・・笑っちまうぜ」

しかし今は、それも悪くないと思っている。

「地獄の底までついてくぜ」

泥酔しているカルセドニーに、ウィゼが囁く。
するとテルルが得意顔で言った。

「地獄か、よいのぉ・・・我が案内してやろうぞ」

(特)魔テルルにしてみれば、地獄こそ故郷だ。

「いけすかぬ女と思っておったが、忠義に厚いところは認めてやってもよい」
「テメェ、なんで毎回そんなに偉そうなんだよ・・・」

それは、テルルが悪魔軍団の長だからだが、ウィゼは頑として信じようとしないのだ。

「ジストとの逢瀬は叶わんだが・・・まあよい。人間と共に生きる時間など、我ら悪魔にとっては、泡沫の夢のようなもの。付き合ってやるわ、地獄まで」
「頼んでねぇよ。テメェはそのへんで死んどけ」

ウィゼはげんなりした顔で、そう吐き捨てた。
テルルと話をしていると、疲れる。
馬鹿馬鹿しくて、怒る気も失せてくるのだ。
 

「へっ・・・眩しいったらねぇな」

徹夜明けの体に、真昼の日差しがこたえる。
そこで、自社製栄養ドリンクを一本。

「かー・・・効く!!いい商売してんじゃねぇか、社長」

その副作用はさておき、すっかり元気回復だ。

「うぉし!!」
 

明日もしっかり働くぜ!


第1章<終>

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