World Joker

87話 HONEY POISON



10年経った。

もう・・・この指先は無効だ。

トパーズがそうヒスイに宣告したのは、三つ子の成人パーティが行われた夜のことだった。
「だめだよ」と、キスを止める指先が嫌いではなかったが・・・トパーズはそれを放棄したのだ。
理由は至極単純。
唇唇に唇を重ねたいと思う気持ちの方が強かっただけのこと。
とは言っても、宣告されたヒスイの何が変わる訳でもなく。翌日もいつも通りで。
考えあってのことなのか・・・トパーズもまたこれまでと変わらぬ生活を続けていた。
 


7年ほど経った、ある日。

モルダバイトのアンダーグラウンドともいうべき賭博場にて。
「久しぶりだねぇ・・・元気だったかい」
トパーズを慈愛に満ちた目で見つめ、母性を覗かせるカーネリアン。
その呼び出しに応じたトパーズ。
賑やかな賭博場のスタンドバーで、密会が行われようとしていた。

「さっさと用件を言え」

と、煙草を咥えるトパーズの相変わらず素っ気ない態度に、カーネリアンは肩を竦め。

「まずは飲みなよ。アタシの奢りだからさ」と、グラスに酒を注いだ。
「セレから聞いたよ。アンタ・・・本気なのかい?」
「そのつもりだ」
「アンタまさか・・・ヒスイを試そうってんじゃ・・・」
「・・・・・・」

しばしの沈黙・・・トパーズはグラスを空にした後、言った。

「あの女が欲しい」

強い意志を宿した目で、カーネリアンを見据える。

「わかってんのかい?」

ヒスイを手に入れるということは、今の生活を失うということ。
その覚悟はできているのかと、親心で念を押すカーネリアン。

「それでもだ」と、トパーズは即答した。

カーネリアンは苦笑いを浮かべ。

「しょうがないコだねぇ・・・」

ヒスイを取り巻く男達の均衡が崩れるのは、決して良いこととは言えないが、トパーズの気性を知っているだけに、止めたりはしない。
協力してやりたいとさえ思う。

(ヒスイだって、息子が可愛いだろうしね)

もし、トパーズに本気で求められたら・・・突き離すことができるのか疑問だ。
いずれにしろ、争奪戦になるのは必至で。

「今度は、誰が泣くことになるのかねぇ・・・」

 

赤い屋根の屋敷。リビング。

トパーズが帰宅すると、ヒスイは昼寝の真っ最中だった。
お腹にタオルケットをのせ、大の字で、スヤスヤと眠っている。
その無防備な寝姿はまるで子供だ。

「・・・・・・」

幸運なことに、天敵コハクの気配はなかった。どうやら出掛けているようだ。
寝入ったヒスイは、ちょっとやそっとでは目を覚まさないので、悪戯のし甲斐がある。

早速・・・むぎゅ!

片手でヒスイの顔を掴み、アヒルのように口を尖らせ。

「クク・・・間抜け面」と、笑うトパーズ。

美人は台無しだが、愛嬌があって、なかなか可愛い。
ヒスイは引き続き熟睡中で、アヒル口からひゅーひゅー寝息を立てている。

「・・・いつ見ても短い足だ」

白く細く・・・短いヒスイの足。
爪先にはサーモンピンクのマニキュアが綺麗に塗られている。
トパーズに片足を持ち上げられても、ヒスイはまだ眠っていた。

「・・・足ぐらい食わせろ」

呟くように言って、ヒスイの踝に口づけるトパーズ・・・それから、ふくらはぎに舌を這わせた。

ぴく。瞼を閉じたまま、微かにヒスイが反応する。

「ん・・・ふ・・・」

ほんのり、頬に赤味がさして。

足に捧げられるキスを嫌がっているようには見えない。

「・・・・・・」

煽られたトパーズが、爪先を噛むと。

「あふぅん・・・」

ヒスイは甘ったるい声で喘ぎ。

 

 

「おにいちゅわ〜ん」
「・・・・・・」

この一言で、燃え上がった情熱が一気に冷める。
トパーズは、掴んでいたヒスイの足を離した。すると。
ガツン!結構な高さからの踵落としが決まり。

「いたぁっ!!」

さすがのヒスイも飛び起きる。

「な・・・なにっ!?」(なんで踵がこんなに痛いの???)

「え?トパ?ちょっ・・・」

トパーズはさっさとヒスイから離れ。
ヒスイは、怒ったトパーズの背中を見送ることしかできなかった。

(何なの???)

 

「よっ!今日も玉砕御苦労さん!」

リビングを出てすぐの廊下で。
不機嫌なトパーズに臆することなく声をかけるメノウ。
ニヤニヤと・・・リビングでの出来事を見物していたのだ。

「・・・・・・」

無言で通り過ぎようとするトパーズだったが・・・

「食えば美味いけど、体に悪いモンってあるじゃん?」

すれ違い様に発せられたメノウの言葉に足を止めた。

「・・・返せ、ジジイ」

一体いつスッたのか・・・メノウは、トパーズの煙草の箱を手にしていた。

「これもそうだけどさ」と、煙草を弄りながら話を続ける。

「ヒスイも同じ。コハクにとっちゃ蜜だけど、お前等にとっちゃ毒」

その味が、どんなに蜜に似ていようとも。毒は毒。と、説く。

「オニキスはもう手遅れっていうかさ、毒に慣れてるから死ぬことはないけど。お前はまだ若いし、毒の回りも早い。このままじゃ・・・」


いつか死ぬよ?
 

「・・・・・・」
「そろそろやめとけば?」と、メノウは冗談っぽく笑って言った。
「ま、俺は基本的に自由恋愛主義だから。これ以上、とやかく言うつもりはないけどさ。どっちも中毒には気をつけろってコト」

と、トパーズに煙草を投げ返す。

「んじゃな」

「・・・笑わせるな」(あの女のどこにそんな毒があるっていうんだ?)

それを確かめたくなって、リビングに戻るトパーズだったが・・・

「・・・・・・」

一足先に、裏口からコハクが帰宅していた。
ヒスイと・・・キスをしている。
この先の展開を考えると、立ち去るべき場面であるが、今日は違う。
これも“毒”を知るためと、トパーズはその場に留まった。

 

 

 

「いい子にしてた?」
「うんっ!」※ただ寝てただけ
「それじゃあ、ご褒美あげようね」

こうして何十年もヒスイを甘やかし続けているコハク。
留守番をしていたヒスイへのお土産は、棒状のプレッツェル菓子。
うち4/5はチョコレートでコーティングされている。
一本を二人で食べようね。と、コハク。
一方の端を口に咥え、反対の端から食べるようヒスイに言った。

ぽりぽりぽり・・・端から食べていって、ちゅっ。

ヒスイの唇が、コハクの唇に到着する。

(あ・・・お兄ちゃんにキスしちゃった)

何だか少し恥ずかしい。ヒスイは頬を染めた。

(よしっ!うまくいった!!)

コハクは心の中でガッツポーズ。
こうなることは計算済み・・・ヒスイからキスをさせる裏技が成功したのだ。

ぽりぽりぽり・・・ちゅっ。
ほりぽりぽり・・・ちゅっ。

そうやって何本か食し、キスを重ね。
ちゅっ。ちゅっ。
いつしか本気のキスへ。
おやつからセックスになだれ込む。

 

「ん・・・んむ・・・」

深く舌を絡ませながら、ヒスイを絨毯に寝かせ。

「ヒスイのおっぱいにもキスしていい?」

レースアップのキャミソールを捲り上げ、乳首に唇を寄せるコハク。

「ん・・・」

ヒスイの返事と同時に、ちゅうっ。強く吸いついた。
舌先を乳輪に這わせ。尖った乳首を巻き取るように舐め回す。

「は・・・ぁん・・・おにい・・・」

一方で、ズボンのチャックを下ろし、早々に勃起ペニスを披露した。

「あ・・・」

コハクのペニスを見るなり、ヒスイはうっとりとした顔で、性の条件反射。
恥じらいながらも、自ら両脚を開き、ペニスに膣口を向けた。ところが。

「まだだよ」と、コハク。

ペニスは見せるだけ。まだ使う気はない。

「触って、ヒスイ」
「ん・・・」

命じられるがままに、慣れない手つきで、コハクの竿をそっと撫でる。

(おにいちゃんの・・・)

逞しく、愛しい肉棒を手にして、心も体もキュンとなり。

「ん・・・ッ・・・」

膣がどうにも落ちつかない。
早く味わいたくて、その口からじゅるじゅると愛涎を垂らし始めた。

「はぁ・・・あ・・・」

見て、触って、興奮するヒスイに。

「コレはヒスイのものだよ」と、コハクが言い聞かせる。
「ふぁ・・・おにいちゃ・・・」

手のひらにペニスの持つ熱が伝わってくる。

(すごく・・・あつい・・・)

血液がそこに集中しているのがわかる。
ごく・・・吸血鬼の喉が鳴った。
二重の意味で美味しそうだ。
下の口でも上の口でもいいから、与えて欲しい。
そう切望した矢先。


「そんなにおいしそうに見える?」
 

コハクに見抜かれ、かぁぁっ・・・赤面するヒスイ。

「こっちの口からたくさん涎が出てる」

コハクはヒスイの両脚を掴んで広げ、中心を覗き込んだ。

「みちゃ・・・や・・・ぁ・・・」

触って確かめるまでもなく、かなり卑猥な濡れ具合。

「僕もだけど」

コハクもまた、亀頭が濡れていた。
互いに求め合っている証拠・・・だが。

「コレはね、こんな使い方もできるんだよ?」と、コハクは自身のペニスを掴み、濡れた亀頭でヒスイの乳首をつついた。

「あ・・・ッ!!ん、んん・・・」

その度に先走り汁が付着して。ヒスイの乳首は次第にぬるぬるしてきた。

「うッ・・・んッ!!おにいちゃ・・・あッ」

つんつん、にゅるにゅる、亀頭に乳繰られる様は何ともいやらしく。

「おにいちゃんの・・・えっち」思わず口走る。すると。
 

「くす・・・えっちな僕は嫌い?」
「っ・・・!!」

真っ赤な顔でプルプルと頭を振るヒスイ。

「きらいじゃ・・・ない」(えっちじゃなきゃ・・・おにいちゃんじゃないもん)

「それは良かった」と、コハクは笑いながら腰を引き。

ヒスイの股間にペニスを戻した。そして・・・
 

「んぅ・・・ッ!!おにいちゃ・・・!!ふはぁ・・・んッ!!」
 

くぷ・・・ぬぷぷぷぷ・・・っ。

濡れた膣肉にゆっくりと潜り込んでくるペニス。

「あ・・・あぁぁぁんッ!!」

膣奥に亀頭の存在を感じる・・・ついに結合を果たしたのだ。

「うッ・・・んあッ・・・!!あッ・・・!ああッ!!」

コハクがほんの少しペニスを動かしただけで、膣口がきちゅきちゅと鳴って。
僅かな隙間から、どろっ・・・愛液が出た。

「っは・・・!!おにいちゃ・・・!!あぁぁ・・・ッ!!」

両脚をコハクの腰に巻き付け、ぺちょぺちょ、愛液まみれの性器をヒスイの方から擦り寄せ。

「おにいちゃ・・・おにいちゃぁ・・・」
「よしよし」

ヒスイが何を欲しているかなど、考えなくてもわかる。

「すぐにイかせてあげるからね〜・・・」と。

コハクは、ヒスイの額にキスをして。
ズンッ・・・膣奥に重い一打を決めた。

「あう・・・ッ!!」ヒスイが仰け反る。

それから、絶頂を呼ぶ連打を受け・・・

「あッ!ああッ!!!ひぅ・・・んッ!!」

悲鳴にも似た喘ぎ。

「あッあ!!!あッ!あッあッ・・・!!」

激しくペニスを挿し込まれ、腰骨が砕けそうになる。
それこそが、快感で。

「あ・・・あぁぁ・・・おにい・・・ちゃ・・・」

つつがなく達するヒスイ。

(あ・・・)

じわぁ・・・精液が滲み込んでくると。
じわぁ・・・安心の涙が出て。

(なんか・・・えっちすればするほど、お兄ちゃんのこと好きになってる気がする)

きっと、まだまだ好きになる。好きに・・・

「・・・・・・」
(こんな恥ずかしいこと、お兄ちゃんに言えるわけないけど・・・っ!!)

ボンッ!顔面で照れ爆発。
赤味が耳まで広がる。

「ヒスイ?大丈夫?」

「ひぁ・・・っ!!」

コハクに頬を撫でられて、ますます赤くなる。と、その時。

「あれ・・・?」
(煙草の匂い・・・トパーズ?)

 

 

 

「・・・・・・」こちら、トパーズ。

(あいつはとっくに気付いてるだろうが)

コハクのことはどうでもいい。
“見た”ことをヒスイに知らせるために、わざと煙草に火を付けた。

「・・・・・・」

想像を遥かに上回る不快感。
あらゆる負の感情が混ざり合う。
コハクに抱かれているヒスイの、幸せそうな顔といったら。
イラッとして、ムラッとする。

(ジジイの言うように・・・)

この想いが毒だとしたら。
毒に慣れるのと、毒で死ぬのと、どっちが先だ?

 
ページのトップへ戻る