World Joker

93話 雨がやむまで

 

 

 


翌日。ヒスイは・・・

 

(ね・・・ねむい・・・)

エッチで夜更かしすると、決まってこうなる。

午後の授業は尚更。瞼がくっついて開かない。

(今日こそ・・・頑張らなくちゃ・・・なのに・・・)

もともと授業などロクに聞いていないが、いつも以上に耳に入らない。

悪魔リストを作ろうにも、文字が思うように書けなかった。

(ねむくて・・・しにそう・・・たすけて・・・おにいちゃん・・・)

昨夜は二人でたっぷり汗をかいて。そのあと一緒にお風呂。

イチャイチヤしているうちに、夜が明けてしまったのだ。

昨夜が天国なら、今はまさに地獄だ。

(ヒスイやばいよっ!!先生が睨んでる・・・っ!!)と、隣の席でハラハラしているジスト。

本格的にヒスイが眠り出しそうだったので、見兼ねて席を立ち。

ヒスイの腕を掴んで言った。

 

 

「先生っ!すいませんっ!具合悪そうなんで、保健室に連れていきますっ!!」

 

 

「んぁ・・・ジスト?わっ!?」

ヒスイを教室の外に連れ出し、軽々とお姫様だっこ。で、走り出す。

「ちょっ・・・ジス・・・」

自分で歩ける!と、ヒスイが主張するも・・・

「いいから!いいから!ほらっ!もうすぐ保健室だよ」

1階の保健室まで、本当にあっという間だった。

保健医を説き伏せ、ジストはヒスイをベッドに寝かせた。

「ここで寝ててっ!放課後迎えにくるか・・・ら?ヒスイ?」

ジストのシャツを掴むヒスイ。

「ジスト、昨日帰ってこなかったけど、どうしてたの?」

27歳の男が一晩外泊したところで、騒ぎにはならないが。

今朝は別々に登校・・・ヒスイはそれを気にかけていたらしく、ベッドからじっとジストを見上げた。

「あ・・・サルファーんとこ行ってて」と、ジスト。

それは本当だった。トパーズに放置され、どうしようか迷った挙句、だが。

「そっか。あ!あのね、りんの玉使ってみたよ!」

ヒスイは無邪気な笑顔で、大人のオモチャ使用の報告をした。

「そっ・・・かぁ・・・」

(父ちゃんとエッチしたんだ・・・昨日も・・・)

チクリとした心の痛みを奥底へと押し込め。

「どうだったっ!?」と、明るい口調で尋ねる。

「まだちょっと慣れないけど・・・気持ち良かったよ。ありがと、ジスト」

「うんっ!また買いに行こっ!」ジストは元気いっぱいに言った。すると。

「でも買って貰ってばっかりじゃ・・・」と、ヒスイ。

これもまた、親のプライド・・・というものかもしれない。珍しく、遠慮する。

「へーき!へーき!オレ、ヒスイのこと養えるくらい稼いでるからっ!」

「え???」(養える??なんで??)

「あ・・・」

願望が思わず口に出てしまい、赤面するジスト。

「じゃ、またっ!!」と、走って逃げる。

 

 

 

渡り廊下から空を見ると、どんより、曇っていた。

「さっきまで晴れてたのに・・・なんか、雨降りそう」

額の汗を拭いながら呟くジスト。その時。

 

 

「ジスト様・・・っ!!」

 

 

「わっ・・・タンジェ!?」

猫耳メガネ娘がジストの視界に飛び込んできた。

「サルファーに会いませんでしたこと!?」

「えっ!?サルファーが来てんの!?なんで?」

体力に自信のあるタンジェにしては珍しく、息を切らして。

「アマデウスに・・・言ってやる・・・と・・・」

「へ?言ってやる?何を??」

 

 

『あいつが言えないなら、代わりに僕が言ってやるよ』

 

 

「・・・と。わたくし、よくわかりませんけれど」

サルファーのセリフを復唱し、難しい顔をするタンジェ。更に・・・

 

 

『あいつは一度こっぴどくフラれた方がいいんだよ』

 

 

サルファーが玄関で不吉なことを言い残したため、心配になり、後を追いかけてきたのだという。

「フラれ?え?それってオレのこと・・・?」

ジストは・・・ポカンとしている。

とにかくサルファーが校内にいることは間違いないのだ。

「ジスト様・・・わたくし・・・」

ジストよりタンジェの方が気を揉んでいる様子で。

「サルファーを探して参りますわ!!!」

 

 

 

場面は変わり。こちら、ヒスイ。

 

保健室のベッドで眠っていた筈なのだが・・・

(ここ・・・どこ?)

場所は、体育倉庫。

体操マットの上で、ヒスイは目を覚ました。

「なにこれ・・・」

知らぬ間に、拉致されたようだ。

学ランの集団に囲まれ、逃げ道はない。

学ラン・・・といえば、応援団で。そのリーダーはコッパーだ。

「目が覚めた?おチビちゃん」と、コッパー。

「やっぱり、君って人間じゃないと思うんだよね」

一歩前に出て、ヒスイの顔を覗き込む。

「な・・・なに言って・・・私は人間・・・」

そう言ったヒスイの目が露骨に泳ぐ・・・誰が見ても嘘と見抜くのは容易かった。

それでも認めようとしないヒスイだったが。

団員数名に取り押さえられ。

ひとりにベストを脱がされたかと思うと、別の手でリボンを解かれ。

ブラウスのボタンを外され・・・そして、羽交い締め。

「ちょ・・・やめ・・・!!」

本日のブラジャーの色は黒。赤い薔薇の刺繍が施された、ゴージャスかつセクシーなデザインだ。

それを、その場にいた全員にお披露目した瞬間に、パシャリ!カメラのシャッターが切られた。

「え・・・?」(何・・・今の・・・)

集団の中には新聞部もいるらしく、一台のカメラをヒスイに向けている。

「エッチな撮影会なんていいんじゃない?」と、再びコッパー。

完全に脅しだ。昨日とは随分印象が違う。

「・・・・・・」

(そういえば、人間じゃないんだっけ・・・)

「なんで・・・こんなことするの?」

「“仲間”を増やしたいの。だから、おチビちゃんも、口を割ってくれない?」

「・・・・・・」

ヒスイが黙ると、次はスカートのホックが外され、チャックが下ろされた。

スカートは落下し、パンツ丸見えだ。

「・・・・・・」

今回の任務に危険はないと聞いていたが。

(なんかちょっと・・・変なことになってきたような・・・)

パシャ!パシャ!連続でシャッターが切られる。下着姿を撮られているのだ。

「早く認めた方が身のためだと思うけど?」

ヒスイを取り押さえている仲間に、コッパーが視線を送る・・・フォーメーションチェンジだ。

「!!なにす・・・やめ・・・!!!」

今度はハチマキで手首を縛られ。数名がかりで、無理矢理両脚を開かれるヒスイ。

「意地悪したい訳じゃないんだよ?友達になりたいと言ったのは本当」

コッパーは、手にばちを持っていた。

太鼓を叩く、太いばち。その先端で、フニフニとヒスイの陰部を弄る。

「あ・・・っ!!やぁ・・・っ!!」

パシャ!パシャ!パシャ!その間も、フラッシュを浴びて。

「・・・っ!!」

貞操の危機、だ。そのうえ、写真を焼き増しされ、学校でバラ撒かれたら。ますます居づらくなる。

観念したヒスイは・・・

「わ・・・たしも・・・きゅ・・・」

カミングアウトしようとした、その時。バンッ!!

体育倉庫の扉を蹴破ったのは・・・サルファーだった。

 

 

「・・・その女に用あんだけど」

 

 

相変わらず横柄な態度だ。

「見てわからない?こっちも取り込み中」

コッパーも負けじと言い返す。すると。

「ふ〜ん。お前等全員、半吸血鬼だろ」

サルファーは自身が1級のエクソシストであることを告げ、その証明ともいえる十字架を翳して見せた。

「まとめて本国に送り返してやったっていいんだぜ?」

 

 

 

こうしてサルファーは、コッパー率いる学ラン集団を追い払った。

あとには、下着姿のヒスイが残され。

結果的に助かったので、とりあえずお礼を・・・と、ヒスイが口を開く。

「サルファー、ありが・・・」

「お前、バッカじゃね〜の。父さんもいないのに股開いて」

いきなり罵倒され。感謝の気持ちは消滅。

ヒスイは制服を着直し、言った。

「何しにきたのよ」

久々に、睨み合う。と、そこに。

「ヒスイ・・・っ!!」

ジストが駆け込み、事態は急転する。

「・・・ちょうどいいや」

サルファーは睨みを利かせたまま、親指でジストを指し。

 

 

「こいつ、お前のこと“好き”なんだってさ」

 

 

「え・・・?」

ピカッ・・・雷光に照らされる3人。

ポツポツポツ・・・ザァァァァーッ!!強い雨が降り出した。

まるでサルファーが引き連れてきたような夕立ちだ。

そのサルファーは「用はこれだけ」と、雨の中に消え。

「・・・・・・」「・・・・・・」

雨音と沈黙。

耐え兼ねたジストは、考えがまとまらないまま口を開いた。

「あのさっ・・・今の・・・」

「あ・・・うん」

「サルファーが・・・なんか・・・変なこと言って・・・」

間接的に告白という事態に陥り、心臓がバクバク鳴っている。

一方ヒスイは・・・

「?別に変じゃないと思うけど・・・」

息子に好きと言われれば、嬉しくない訳はない。

(私もちゃんと言った方がいいのかな???)と、いうことで。

「わたしも・・・その・・・好きだし」

「っ!!違うんだ・・・っ!!」

ヒスイの受け答えに、一度は反論したジストだったが。

「あっ!!違わない・・・っ!!」

ヒスイを困らせてはなるまいと、すぐに本心を引っ込めた。

「・・・・・・」(そうだよな・・・)

親子の間で交わされる“好き”は通常ひとつの意味しかない。

この“好き”が、違う意味の“好き”であることを、理解しない、しようとしないヒスイを責められるかと言えば・・・責められないと思う。

 

 

「うん、オレ・・・ヒスイのことが好き」

 

 

そう、言葉にしたところで。

(この“好き”はヒスイに伝わらない。だったら・・・)

「ヒスイ・・・好き」

「うん」

「ぎゅってしてもいい?」

「うん、まぁ・・・」

ヒスイにOKを貰ってから、その体を両腕で包み込む。

それから、自分と同じ銀髪に顔を埋め・・・

「好き・・・好き・・・大好き・・・」

ずっと我慢していた分、何度も何度も口にして。

「これからも・・・ずっと好き・・・好きだよ」

「あ・・・うん」

母親のヒスイにしてみれば、“好き”なのは、当たり前。

(でも、こういうのって・・・なんかちょっと・・・照れるわね・・・)

 

 

「・・・ごめんっ」

 

 

散々、実にならない告白をしたあと、ジストはヒスイを突き離した。

「えっ!?ちょっ・・・」

サルファーが壊した扉を神魔法で修復し、ヒスイを中に残したまま、扉を閉める。

「ちょっ・・・ジスト!?」

内側からヒスイが開けようとするが、外側からジストが押さえ。

「お願いっ!!ヒスイ」

 

 

「雨がやむまで、開けないで」

 

 

ジストが切羽詰まった声で訴える・・・と。

「・・・うん。わかった」

ヒスイはそう言って、扉から離れた。どのみち、外は雨だ。

(どうしたんだろ・・・急に)

この展開に首を傾げながらも、マットの上に座り。

「雨がやむまで、ここにいるよ」

「ありがと・・・ヒスイ」

一言礼を述べ、ジストは振りしきる雨の中へと駆け出していった。

 

 

 
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